第55話 そうであってほしい
『マリアーノ』であって、『マリアーノ』じゃない『私』。
ユーディアスの召喚の儀に応じ、彼の終わりを少しでも引き延ばすために……あの夢を見せたりもしたのは本当。
だけど、ちょっとどころでない刺激を押し付けてしまったみたい。
(『私』が知っても、『私』はもうすぐ切り離しが出来てしまう。『マリアーノ』はあの子そのものとして存在していくだけ)
男の娘とよく言うくらい、愛らしい外見の中身は獣そのもの。ユーディアスのために、自分の存在意義はちゃんとしているようだから……あとは、任せておくだけでいいだろう。
『精霊』とは永遠に対象者と契約しているわけではない。
永遠は望めない。
どの生き物であれ、魂の休み処がきちんと存在している。
『私』もそのひとつでしかない。今回の『マリアーノ』がそのひとつ。休むだけ休んだら、次の契約に向かうまで。
あの扉はあくまで副産物だから、いつかは消えてしまうかもしれないけれど。『私』の力がそれなりに馴染んでしまっているから……しばらくは大丈夫のはず。
契約者だったユーディアスがいつかいつかの命を終えるそのときまでは残しておきましょう。
だって、あまりにも哀しくて可哀想な彼を繋ぎ止めているのは『マリアーノ』だけではない。異世界の向こうの存在たちだってそうだ。お互いにお互いを大事にしあっているからこそ、この関係はなんとか成り立っている。
だから、『マリアーノ』……ここで、さようなら。
*・*・*
夢のようなものを、見ましたの。
わたくしの中から、何かが抜き取られるような……ぽっかり穴の開いた感じがしましたわ。
でも、よいのですと『何か』に言われたきがしましたから……気にしないでおきますわ。
わたくしが『マリアーノ』でいていいという了承を得たきがしますの。
でしたら、主さまとご一緒できる時間が許される間まで……異世界を行き来しつつ、推し活とやらにも参戦しますわ。最近の主さまは、あの夢とやらを忘れたかのように意欲的ですもの?
ときどき、わたくしが拗ねてお叱りもいたしますが……それくらいは、お許しを。
『わたくし』と『わたくし』の間にいた……精霊様へ。
次回は火曜日〜




