第54話 恩人への労わり
「ぬい活しようぜ」
と、アツシが大学から帰ってくるなり、うれしい御誘いを言い出してくれた。
だけど、今回は写真撮影じゃなくて『自分で』一から作りあげるものらしい。顔の部分をどれくらいのゆるさで整え、印刷したあと。
布地に刺繍していくところから始まった。これをマリアーノちゃんたちもいっしょに作ることになったから、全員黙々と針作業を進めていくのもしかたがない。
「手本があると、少し助かるね~」
「型紙とかのパターン作成が、昔より楽になったからな? 俺はまるっきりオリジナルなんて最近だし」
一番得意なのはアツシなので、ささっと顔の表面をつくっては次に移るから早すぎて追いつけない!!
「縫い付けはともかく、整える意味なのはむずいなあ……」
「わたくしは楽しいですわー」
マリアーノちゃんたちもそれなりに楽しんでいるようなので、よかったよかった。僕は最近あのときの夢で、少し塞ぎがちだったから元気ないとこを見せていたし……アツシも気にして、こういう推し活を薦めてくれたのかもしれない。おかげで、少しは気がまぎれたかな?
「よし。戦闘衣裳は俺が作ったのいくつかあるし……合わせる? それとも、私服みたいなの自作する?」
「そうだね。今回は自作がんばろうかな?」
あえて聞いてこないあたり、器用な彼なりの気遣いだと逆にわかってしまうし、アツシもわかってて言わないのかもね。
服の方はブラウスとキュロットの服装にしただけでも、我ながら可愛く出来たと思う!! 髪型はちょっとだけぶきっちょになったけど……まあ、それも初心者醍醐味ということになって、その日はそれで終わったんだけど。
別の日に、『ぬい活用のバック』を見に行くことになったんだ。たしかに、魔法で汚れ防止をかけただけでも落とさないか心配だしね!!
「ぬいを入れるのに、こういう透けたのとかあるんだよ」
女の子向けはフリルとかの可愛らしいのだけど、おじさんには少し恥ずかしいので……赤と黒のポーチ風にしました。これも半分女の子が扱うように見えるけど!! 僕のお手製マリアーノちゃんが落ちたら大変で済まないからちゃんと選びました!!
「ユディ様? 似合いまして?」
さらに、それを『本物』のマリアーノちゃんがお出かけバック風にかけるから可愛さが倍増した気がしたよ!! アツシ、素敵な場所に連れてきてくれてありがとう!!
「おっし。買うもの買ったし、コラボのレストラン行こうぜ? ちょい腹減った」
「おっれもー」
「ユディ様、行きましょう?」
「そうだね」
あの夢の悲しみがいきなり現実になるわけじゃないのはわかっているけど。今ある現実を楽しみたいのも本当だから、その日は夢のことを忘れて思いっ切り楽しんだ。
そのせいか、夢を見ても『覚えて』いないくらいぐっすり寝てしまい……マリアーノちゃんが先に起きていたのか、軽く口づけをしてくれたんだ。
「怖く、ありませんわ。主さま」
「……うん」
終活を止めたことの罰当たりなんじゃって、正反対のことも考えたりしたけど。この子との今後を捨てたくないが本音だから……それはもういいんだって、思うことにした。もしかしたら、この子を呼んだ『精霊』の仕業なら……混ざっている間に悔しい思いをしたのかもしれない。マリアーノちゃんを利用してまで自分を愛してほしい感情がズレたのか。
申し訳ないけど、僕は『マリアーノちゃん』が愛おしいんだ。だったら、君もここに溶け込んでおいでとしか言えない。それくらいしか、罪滅ぼしに近いことは出来ないんだ。
次回は土曜日〜




