第52話 初夢は悲しい……
それは、夢路への介入だったかどうか怪しい場所だった。
僕はたったひとりで歩いていて、その先にはマリアーノちゃんが戦闘服で誘導してくれているはずなのに、こちらを一度も振り返ろうとしない。
声を出そうにも出せない。
なにか怒らせてしまったのだろうか?
昨日の約束は守ったし、ふたりの時間もちゃんと作ったはずなのに……なんで?
手を伸ばしても、距離が意外に遠いのか届かない。
僕に呆れてしまったのだろうか?
僕には飽きてしまったのだろうか?
やめてくれ、そんな悲しいことは!! 僕にはもう、君しか隣に立っていてほしくないのに!!
「……主さま?」
ふいに、聞こえたのはマリアーノちゃんの声だけど……上からだった。
目をまたたけば、僕はいつもの自分の部屋で寝ていたようだ。そうだ。昨日ははつもうでとやらにアツシたちと行ったので疲れたから……早めに寝て。今まさに、『初夢』というものを見ていたのかもしれない。
なんて、不吉な。
僕は先に起きていたマリアーノちゃんが驚くのも構わずに抱き着いた。
「……怖い夢でも見られたのですか?」
背を叩くあたたかい手は、間違いなく本物。ホムンクルス化している異形であれ、彼は間違いなく僕だけの『マリアーノちゃん』なんだって安心出来たら……嗚咽は我慢したが、泣くのは止められなかった。
「……君、が……いなく、なるような夢……を」
「わたくしがですか? そんな夢はありえません。ユーディアス様のおそばに、わたくしは永久にいますわ」
「……ありがとう。でも、あれは幸先の悪い……夢だったよ」
「……でしたら、もっと確かめ合いましょう」
口づけを顔に降らしたあとは、お互いので擦り付け合うのから絡めるのまで。温かさとかちゃんとマリアーノちゃんが目の前にいることは……わかっているのに、まだ不安は拭えない。僕もだんだんと人間じゃない異形に変わっていることへの冒涜かなにかを神に与えられたからだろうか?
それか、マリアーノちゃんの核になっている精霊がなにかをしたのか?
調べる気力も出ず、ただただマリアーノちゃんと口づけを交わすことでしばらく不安を無くすのをがんばってみたが……結局は、朝から彼を貪るまでに至った。マリアーノちゃんは怒ることもなく、まるで母か姉のように僕の荒い所業を受け止めてくれるだけだったが。
「……ごめん。荒っぽくて」
「まあ、そんなことは。わたくしも善くしていただきましたもの?」
とはいえ、噛み痕と内出血の痕が少々酷かったのでそこは魔法でちゃんと治癒したけど……あの夢は本当になんだったのだろうか。
初夢は正夢になる可能性があるって、昨日アツシは言ってたけど……いつかの僕が、マリアーノちゃんを置いていってしまうのだろうか? むしろ、その逆だとしたら怖くて堪らない。ここにいる彼が、絶対ないと言い切っても。まだ不安が大きくて抱き着くのは仕方がなかった。
それから、ナルディアが召喚扉を叩くまで僕らはベッドの中で抱き合い、食事をする頃にはなんとか気持ちが落ち着いたかのように見せておくことにした。あの夢は偽りだと、僕とマリアーノちゃんで思っておくしかないんだ。
次回は月曜日〜




