第50話 正月前にトレーニング
基本的な体力をつける必要があるということで、散歩ではなく『ジョギング』をはじめることになった。向こうの街路樹を走るのもいいらしいけど、マリアーノちゃんが言うには少し凸凹道を走るのもいいらしい。
「主さまのタブレットで少し調べましたの。体幹を整えるには、と」
「……なるほど」
服はマリアーノちゃんだけは戦闘服で、僕はローブじゃない魔法使いが使ってるシャツとズボン。ローブだと足引っ掻けたりで転ぶ可能性があるから、この服装がいいらしい。たしかに、走りやすい!
「……あれ、師匠?」
そろそろ一旦屋敷に引き返そうとしたら、弟子のひとりニムアが大きな荷物を抱えてこっちに歩いてきていた。今回はギルではなく、彼が代わりに資金を届けに来てくれたようだ。
「やあ、ニムア」
「……本当に、師匠?ですよね? 変に若い??」
「ま、まあ。ギルから聞いているかもだけど……色々」
「そっすか。……そっちの可愛いお嬢ちゃんは護衛ですか?」
「ふふ。こう見えて男ですわよ?」
「嘘~?」
「見ます?」
「やめておきます! 本気、こっわ!!」
歩きながらもなんだろと、屋敷まで歩くことにした。ニムアは賢者になったギルのことをいくつか教えてくれたが……仕事量が多くてだいぶ参っていることを教えてくれたよ。
「あ~……僕が虚弱と勘違いして、引退しちゃったから」
「めっちゃ元気っすよね? なんか強化でもしたんすか?」
「いや。清潔面と健康向きの食事変えたら……あとは、こんな感じで」
「戻ってきてくれませんか!!?」
「え。誓約書書いたから、基本ダメだよ。僕に呪詛返しみたいな魔法が発動されちゃうから、ギルが大変だ」
「そうだった!!」
賢者を引退した者に、書くことを余儀なくされる誓約書。二度と『賢者』と名乗れば、現役賢者への報復とみなして魔術が発動して最悪死ぬ。物騒だけど、引退側が昔やらかしたことだから僕が悪いわけじゃない。
「まあ、それはそれは物騒ですわね」
「僕のせいというより、過去の先輩たちのせいだけど」
「あ~、じゃ仕方ないっすね。んじゃ、資金は届けたんで自分はこれで!!」
「え? ニムアお茶くらい」
「大丈夫っす! ちょっと急ぎの仕事もあるんで!!」
じゃあ!!と、言いながらさっさと帰ってしまうニムアは『何かから逃げたい』雰囲気が背中からでもよくわかった。多分だけど、マリアーノちゃんと会話するのが怖かったのかな? 可愛い男の娘だけど、中身はそんじょそこらの暗殺者なんてねじ伏せてしまいそうな武力の持ち主だしね? ここに刺客は来ないけど、代わりに野生の魔物とかをマリアーノちゃんは苦無一本で仕留めちゃうくらい強いからさ?
「……家でトレーニングし直す?」
「そうですわね。体も温まってきましたし、素振りではなくスクワットから始めましょうか」
「うん」
あと数日で、向こうは新年とやらになるらしいけど。なんか、ご馳走の予約とかしといたから太るの覚悟してって言われた行事があるらしい。
『しょーがつ』なんだってさ。
次回は水曜日〜




