第44話 ちょちょいと魔法で
「ちょっとだけ、いいかな?」
「……ユディさんが無理しない程度なら」
「騒音は出さないし」
「いや、そういうことじゃなくて」
いかがわしいことじゃない、断じて。アツシには本当にお世話になっているから、魔法を『どこまで』使えるか試したいのもあり……掃除に特化した魔法をこの部屋でやってみようと思ったんだ。
そろそろ、こっちでも『年末』とやらで大掃除が大変だとぼやいていたのを聞いたので。であれば、普段から好き勝手過ごしているしかない僕がそれを肩代わりしようと言い出した。
音を出さない。
汚れた箇所だけを対象に。
その汚れは『消滅』する意味で消すだけ。それ以上溜まるのは使用する範囲もあるから、仕方がない。
などをイメージしつつ、魔法の構築を頭の中で組み立てていく。この方法は、こっちの世界に行き来するようになってから調子がいい。やっぱり、体調がおろそかになると考え方もマイナスになるとマリアーノちゃんにも言われたからね。
ナルディアのホムンクルス体への研究も始めているし、それならこっちで魔法を使わないわけにもいかないから。
『さざれ、石の波うち。我が名を届けよ』
右から左に片手をスライドさせただけなんだけど、詠唱が短いのと魔力の行き渡りが順調だったこともあってか。一動作のそれだけで、部屋がぴかぴかになってしまった。元賢者だからって、もう一度自分の凄さを目の当たりにした気分になり、僕も皆と同じように開いた口が塞がらない。マリアーノちゃんも珍しく口に手を当てていなかったからね。
「……やり過ぎた?」
「……有難い以上に、多分」
「向こうの部屋でも一応してきたけど。同じ方法で」
「物が多いから、余計にきれいに見えんのか?」
「……のかなあ?」
一瞬の出来事で終わったが、頑張ったご褒美とやらで今回は外食しに行こうとアツシが言ってくれた。だけど、推し活する僕らがただの外食に行くわけがない。コラボカフェじゃなく、コラボをしている食堂もとい、レストランに向かうことにしたんだ。
「ランダムクリアファイル……今回のは、ナルディアとマリアーノもいるぜ」
全メニューとかじゃなく、対象のメニューを頼むとひとつだけ付いてくるらしい。ランダムは前も体験したけど、ここは数が限定されているから必ずしも『目当て』が来るとは限らない。『スカベンジャー・クロニクル』はユーザー登録数が30万人を突破したくらい、人気がさらに向上しているため……こういうコラボ期間は油断できないとアツシが言っていた。
「飲み物、デザート……あ、普通の食事も美味しそう」
「ここはコラボカフェよりも、チープな味付けだから食いやすいと思うな」
「お金は出すから」
「……大掃除まるごと引き受けてくれたのに」
「だめ。貯金くらいちゃんとしなさい」
「……そういや、ユディさんはおっさんだったもんな」
「おじさん関係なく。お金のやりくりはちゃんとした方がいいよ」
使いすぎの僕が言うのもなんだけど、僕は僕でちゃんと貯蓄ある範囲での推し活をしているからね?
ちなみに、ファイルはちゃんとマリアーノちゃんのを無事にゲットできたけど……皆食べ過ぎでデザートはしばらくいらないと言い出すくらいだった。
次回はまた明日〜




