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第五話 狼の背に乗るチャンスを逃す奴がいるか? いや、いない!


「ほんとぉ? クライヴ様ぁ」

「ああ、これでオーカを追放して、お前と結婚できる」


 ――――そう。そうなのね。私との婚約を解消するのはいいけれど。追放ときたか。


「あはっ、嬉しいっ。ね、早くお城に帰りましょぉ? 私、あのベリーのケーキがまた食べたいなぁ♪」

「ああそうだな。いくらでも食わせてやる」


 私の身体を固めていた目に見えない何かがふっと解ける。私は音もなく馬車の乗り口に足をかけるとふわりと上がり一気に中へ乗りこんだ。中の二人ともが私に気づいてビクリと肩を揺らす。

 馬車の中は上座である奥の席にクライヴ王子が座っていた。それは良いとしてその横にヒナが陣取っている。つーか腕までも絡め密着している。ほー。そこまでするか!? 仲がおよろしい事で!!


 チラリと御者や後ろの兵に向かって目線を送ると、皆気まずそうに何とも言えない顔をしていた。そうだよね。婚約者のいる王子が他の女と馬車で隣に座りイチャイチャしているなんて、厳格な一夫一妻制を敷いているこの国では……っていうか日本にいた私の感覚でも明らかにオカシイ。でもそんなオカシイ状況だとしても、権力を握っているマクミラン王の長男サマと、この国で二番目に強い聖女サマに物申せる人なんてそうそう居ない。


 ……というか。多分打算もあるんだよね……。表向きは何も言わないけれど「王子が私に捨てられてしまえばイイ」って密かに思っていて、わざと彼の暴走を見逃してる人達も絶対いるのよ。

 つまり、王子を咎める役割の人間は私しかいないという事。あああ、めんどくさっ!!


「二人とも、何、やってるの?」


 もう恋心メーターなんて最下層まで下がってマイナスだ。それでもやっぱり彼らに訊いた時の私の声は怒りで少し震えていたと思う。王子は悪い事をしているのが見つかった子供のように一瞬ビクリとしてヒナと距離を取ったけれど、すぐキッとなって言う。


「……別に何も? オーカ、お前がグズグズしているのが悪いんだろ」


 開き直り&こっちのせいにして誤魔化すつもりってマジで子供なのか。私の口から思わず呆れの溜め息が漏れた。

 クライヴ王子は23歳。私よりかなり年下だから子供っぽい所があるのもわかる。でもこの世界では立派な成人どころか王を継いでもおかしくない年なんだよ。人の上に立つつもりなら筋だけは通せよ!

 ……いや、こいつは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のよね……。


「ヒナ、あなたは後ろの馬車に乗って」

「えぇ~っ」

「じゃあお前も後ろに乗るんだな、オーカ」

「……は!?」


 一瞬、更に空気がビリビリとした気がするけれど、もう私はこれ以上くだらない言い合いに時間を費やしたくなかった。形をつけるならここじゃなくて国王の前できちんとやりたかったし、正直魔物との戦いで疲れていたのもある。


「……わかったわ。じゃあヒナ、行くわよ」


 ヒナは不満気にチラチラとクライヴ王子の方を見たけど、流石に私の目の前でこれ以上イチャつくのはまずいと思ったのか素直に馬車を降りた。私はもう一度呆れの溜め息をつきながらヒナに続く。と。


「オォン!」

「オーカ様! 面倒を見るって約束したじゃないですか。いきなり放り出さないで下さいよ!」


 私を待っていたのはお行儀よくお座りをしているチャッピーとその隣でおろおろするカーンさん。


「違うわよ! チャッピーにも一緒に馬車に乗って貰うつもりで……」


 私の言葉をヒナが大声で遮った。


「えぇっ!? やだぁ! 魔獣と一緒に馬車に乗るなんてありえなぁい!!」

「うっ……もう魔獣じゃないわよ……ないけど」


 これは私が考え無しだった。そもそもヒナが拒否しなくたって、人間ふたりと一緒に馬車に乗るにはチャッピーは大きすぎる。どうしてもチャッピーを連れて帰るなら、私とチャッピーが後ろの馬車、王子とヒナが同じ前の馬車に乗るしかない。でもそうなったらあの二人は何をしでかすかわからな……いや、わかりすぎるほどわかるわ。

 あー、もういっそのこと私とチャッピーが歩いて帰るか。


「ワォン!」


 チャッピーが何か言いたげにでも吠えるのでそちらを向くと、彼は伏せの状態でしっぽを振っていた。そして自分の背の方を何度も振り返って見る。え、まさか。


「乗れってこと……?」

「ワフ!」


 いや、それどうなんだ。チャッピーは大きいから確かに私が乗っても平気そう。だけど元魔獣の狼の背に乗る聖女サマってアリなの? ……あああ、でもでも。

 既に私の頭の中には、あのカウンターテノール歌手が高く美しい声で歌う超有名アニメ映画の主題歌が流れている。小さい頃にめちゃくちゃ憧れた、あの映画のカッコイイ主人公(ヒロイン)。彼女のように狼の背に乗れる。こんなチャンス有るだろうか。いや、ないッ!!


「……お願い」


 気が付いたら小さく呟いて彼の背に跨がっていた。と、次の瞬間チャッピーは凄いスピードで白亜の王宮に向かい走り出し、みるみる内に周りの景色が飛ぶように流れていく。チャッピーのモフモフの背中の温かい感触と、夜の空気が顔にあたる温度差がとっても気持ち良い……あ。


「ーッ! だめだめ! ストップ!!」


 少し田園風景を進んだところで、事情を知らない農民の人が大きな狼の姿に怯えて逃げ惑う姿を見て、私はチャッピーを止めた。後ろを見ると護衛の騎士の一人が慌てて追いかけてきてる。……色々ごめんなさい。

 結局、馬車のスピードに併せてゆっくりと歩むようにチャッピーにお願いして、私は皆と一緒に王宮に戻ったのだった。


 ◆


「オーカお姉様! おかえりなさいませ!」

「エメリン姫!」


 王城に戻った私を広い廊下でいの一番に出迎えたのは、クライヴ王子によく似た金髪碧眼の可愛らしいエメリン第一王女。彼女は王族でありながら生まれつき【癒しの聖女】でもある。

 エメリン姫はポフッと抱きついてきた。私を見上げる目はアクアマリンのようにキラキラしているし、いい匂いもするし、ちっちゃいし、ホントに可愛い。最近荒んでる私には酒以外ではマジで一番の癒し。違う意味で癒しの聖女。


「先触れの兵から聞きましたわ! 城壁よりも大きな魔物を浄化したのですって!? 流石はお姉様ですわ! わたくし達の憧れです!」


 鈴を転がすような声で私を誉めるエメリン姫。可愛い。笑顔が1億点。

 以前この世界の聖女達を集めて、聖女の力を強くするために私が指導と訓練を行った時にエメリン姫もその中に居た。それ以来彼女は実の兄よりも私の方に懐いてしまったようだ。

 クライヴ王子はそれも気に入らないんだろうな。あ~後ろからズモモモモ……って効果音が聞こえてきた気がする。


「何が憧れだ! エメリン、その汚らわしい女から離れろ!!」

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