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第十六話 皆が勝手に勘違いをしたんだし、私も最初は気づかなかっただけよ

第十六話のタイトルは桜花が夢の中で泣きながら言ってたセリフです。そう、あれも伏線だったのだ!



 私が笑いながら手放しで褒めると、ヒナは眉間に皺を寄せたまま、少しだけ顔を赤くした。


「……いいから!! さっさと浄化しろよ! 何回言わせんだよ!!」

「うん。……エメリン、来て」


 結界の隅に居て様子を見ていたエメリン姫が私の近くに歩み寄る。その小さな可愛い顔はまだ青ざめて震えていた。うーん、多分出血したせいじゃなくて、これから彼女にお願いすることを理解して震えているんだろうなぁ。


「やり方はわかるよね?」

「……はい……」


 エメリン姫は王子の横に跪いて、手ひどい傷を負った実兄の手に口づける。ヒナが叫んだ。


「何やってんだよ!! 傷を治すより浄化が先……」

「ぐっ、うっ、げほっ」

「!?」

「姫様!?」


 その叫びが終わらない内にエメリン姫が顔をしかめて咳き込んだのでヒナは口をつぐみ、結界の向こうの皆は驚く。彼女は口を抑え私を見上げた。空色の瞳が涙目でウルウルしている。


「オーカお姉様、今までこんなものを口になさって……」

「あ、説明しなくてごめん。瘴気ってすっごく不味(マズ)いよねー!」

「「「瘴気!?!?」」」


 私とエメリン姫以外の、その場の全員がぶっ飛んだ。


「ままま待ってください! どういう事ですか!?」

「詳しい事は省くけどエメリンは今から【浄化の聖女】になったから、今クライヴ王子の浄化をして貰ってるの」

「ええ!? それは」

「まあいいから、見てなさいよ」


 私は口調だけは余裕たっぷりに言っていたけど、実は内心ヒヤヒヤドキドキだった。ホントにエメリン姫に【浄化の聖女】の力を与えることができたのか自信が無かったから。だけど姫は最初こそしかめっ面で瘴気を吸っていたけれど徐々に落ち着いてきているし、クライヴ王子の身体もそれに応じて縮み、皮膚の紫色も薄くなってきた。


「う……」


 王子がほぼ元の姿を取り戻したところで小さく呻く。あ、良かった。やっぱり生きてる。あとはエメリン姫が【癒しの聖女】の力を使ってクライヴ王子の怪我も治してくれるだろう。私は皆がエメリン姫に注目している間に結界の外へコッソリと出る。すると私の身体に何かが当たり、柔らかなモフみが肌をくすぐった。


「ワン」

「チャッピー!? 逃げなかったの!?」


 いつの間にかチャッピーが結界の外を回りこみ、私の側にいたのだ。しまった。思わず声を上げてしまった。エメリン姫が、ヒナが、グリーンさんやアイルさんやカーンさんや騎士達が、一斉にこっちを見る。


「お姉様? どこに行くつもりですの!?」


 やべっ。私は大広間のバルコニーに向かって走りながら笑顔で誤魔化す。


「さっき言ったでしょ。賢くて優しいエメリンが【浄化の聖女】になったから後を託すって!」

「誰か! お姉様を止めて!」


 エメリン姫の命令を受け騎士達が動き出すが、私が張った結界を回り込む必要があるからこちらはその間に余裕でバルコニーに達する事が出来る。私がいなくてもエメリン姫とヒナがいればこの国の人達は守られる筈だ。私はもうさっさと逃げさせて貰うわね……って、あれ?


「ワウッ」


 私を追ってチャッピーがバルコニーに飛び込んできた。窓際の豪奢なカーテンの端を口に咥えて。ちょ、ちょっと!

 私は慌ててバルコニー入口に結界を張り直し、他に人が入ってこれないようにした。チャッピーがカーテンを大きく引くとふわりと空気をはらんだそれは窓際からの目隠しになる。


 その向こうから「オーカ様!」という声と共に結界の近くまで走って来たであろうグリーンさんやアイルさんの必死な声が聞こえてくる。私は張った結界に手を当て、【力の聖女】の能力で結界の防御力が上がるようパワーアップし、ついでに防音もできないか試してみた。あ、ラッキー、上手く行ったみたい。結界の向こうからの音はくぐもり、かなり聞こえなくなった。

 マクミラン王やクライヴ王子は地獄に落ちろと思うけど、他の良い人達まで嫌いになったわけじゃない。彼らに戻るように説得や懇願されたら、弱い私は心が揺れちゃうかもしれないからね。


「……オーカ、ごめん。俺のせいだ」


 気が付くと、美しく背の高い男が裸身にカーテンを巻き付け、困った顔をして私を見つめていた。私はため息をふーっと吐く。


「俺のせいって?」


 バルコニーに二人で閉じ込められている今の状況はチャッピーのせいだけど、多分そういう事じゃないんだろうなぁ。


「だって、俺がヒト型になったのを見られたから浮気を疑われたんだろ?」

「……ああ、そうね」


 彼が今にも泣きそうな顔になったので私は慌てて続ける。


「でもチャッピーが気にする事じゃないわよ。私、どっちみち王子とは婚約を解消するつもりだったし。きっと他の理由で難癖をつけられて、結局こういう事になってたと思う。……それより」

「それより?」

「謝るんなら、今のこの状況について謝ってほしいわ! なんで逃げなかったの?」


 今はバルコニーにふたり。一つ下のバルコニーまで7~8メートルはありそう。そこを目指して飛び降りてもケガをする可能性が高いし、もしバルコニーに上手く降りられなければ15メートル以上の高さから地面に叩きつけられる。

 結界は防御力を上げているけれどいつかは破られるからぐずぐずしているヒマはない。……というかヒナがその気になれば一発で解除されるでしょうね。


「惚れた女が戦ってるのに逃げるなんて獣人族の名折れだろ。ホントは一緒に戦いたいぐらいだったんだぞ。なんで俺を連れて行かなかった!!」

「だって、別にチャッピーを危険に晒さなくても私だけで何とかなるんだもの」


 あの時、ヒナが張れた結界は最大4枚。ヒナ自身を守る為に2枚。私とエメリン姫に1枚ずつ必要。今後魔物を倒す為にヒナと連携して戦う方法をエメリン姫に引き継ぐためには、彼女を戦いの場に居させて見て貰う――――元の世界で言うOJT研修みたいなもんね――――しかなかった。それだとチャッピーを守る結界はどうやっても都合できない。


「……お前が【創造の聖女】だからか」


 しかめっ面のチャッピーから意外な言葉が出たので私は吃驚した。聖女に詳しくない獣人族の民でもその知識はあったのか……というか。


「バレてたの!?」

「そりゃバレるだろ。俺の爪を【癒しの聖女】の力で()()()して、【力の聖女】で()()()()()()()()()した手で俺の顎を殴り、そのあと【守りの聖女】の結界で()()したのを忘れたのか?」

「あ~……」


 そうだった……まさかチャッピーが獣人だとは思わなくて、秘密にしていた力をうっかり使っちゃったんだ……。


 【原初の聖女】と同じ4種の力を持ち、それらを組み合わせ自由に使う【創造の聖女】。そんなものは今のこの世には現存せず、文献資料の中の伝説だった。

 私も自分が【創造の聖女】だなんて最初はわからなかったのよ。周りが私を【浄化の聖女】だと認定して祀り上げたから、自分はそうなんだと思い込んでいた。気がついたのは2か月ちょっと前。ヒナがつけまつげに結界をこっそり施したのを見つけたのがきっかけ。

 それまで【守りの聖女】には王妃や他の人にも会っていたけど、彼女たちは誰も結界を隠匿して使う人なんていなかったからわからなかったのよ。でも他の誰もヒナの結界が見えていないことで、自分に【守りの聖女】の力があると初めて気づいたの。後は残りの聖女の力もあるのか確認するだけだった。


 私もはじめはこの事を公表するつもりだった。もっとマクミラン王国の役に立てるだろうって。だけどクライヴ王子が冷たくなった事でなんだかバカらしくなっちゃったんだよね。ハッキリ嘘を吐いたわけじゃない……黙ってればいいかって。クライヴ王子が私を捨てることが万一あるなら、その時に本当の事を言えば悔しがるだろう。ざまぁみろぐらいのつもりで秘密にしていたの。

 まさかこんな事になるなんて、ね。


次回で第一部最終話です。

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