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馴れ初め編完結

ボーイズラブ要素を含みますので苦手な方はお気を付け下さいませ

 誰にでも優しく、皆んなから慕われている学園の生徒会長兼この国の第二王子。一見完璧なアルバートと同じクラスのレイドは黒髪黒目の無表情で綺麗な顔をアルバートへ向けていた。


ーーー読めない奴


 それが完璧王子アルバートの第一印象だった。


他人と関わることが嫌いなレイドは上流階級同士の腹の探り合いとか、親のための友達作りに嫌気が刺していた。


 いつも一人で寝るかぼーっとしてるかのレイドに、アルバートの行動は単に愛想の良い完璧王子で終わらせなかった。

 誰からも好かれていて誰にでも同じように接する。誰とも一定の距離を保ち続けるアルバートに、レイドはほんの好奇心で目で追うようになって行く。


 しかし、生徒会室で静かに涙を流すアルバートを見て、放っておけなくなってしまった。


「アルバート………王子」


 声を掛けたのは泣いていることに動揺したせいだろう。レイド自身も驚いた。

 目を丸くしたアルバートは軽く左手で目を擦ると柔らかく微笑む。


「王子なんてやめてよ、どうしたんだよ?こんなところで」


 少し眠そうに欠伸(あくび)をする振りをしたアルバートに、レイドは心に(もや)が掛かったような気持ちに苛立ちを感じた。


「…別に、忘れ物をしただけだ。アルバートが泣いている風に見えたから、つい」

「はは、忘れ物って。レイドは面倒くさがりだと思ってたけど、結構真面目なんだね」


ーーーはぐらかされた。


「なんだよ真面目って」

「ごめんごめん、もうそろそろ下校時刻だろ?早く取りに行かないと」


 乾いた笑顔は早く立ち去って欲しいと告げていた。そうだ、別に此処に留まる理由なんてない。


「そうだな」

「うん、それじゃあまた明日」


 レイドが見えなくなるまで手を振ると、その手をゆっくりと降ろし自身の胸元を掴むアルバート。


「はぁ。嫌なところを見られた」


 溜息交じりに脱力して、生徒会室のソファに座り込むと収まったはずの涙がポロポロと溢れ出てくる。


 最近視線が合うメイデリック公爵の子息であるレイドは少し苦手意識を持っていた。

 無表情で何を考えているのかさっぱり分からないし、時々見透かしたような漆黒の瞳でアルバートを見てくるからだ。


 苦手な理由はそれだけではない。レイドは、あの人の雰囲気に少し似ている。

 アルバートと腹違いの兄でありながら、最も尊敬する最愛の人。



「兄さん……」


 (うずくま)って啜り泣くアルバートの姿に、レイドは扉に隠れて口を押さえた。

 自らの胸の高鳴りをどう対処すればいいのか、ただただ切ない声と泣き顔に興奮を覚えただけだ。



「最低、だな」


 クラスメートの、はたまた王子の泣き顔で興奮するなんて。

 次の日からレイドはアルバートに引っ付いて回った。


 周りの子息令嬢たちは無表情公爵子息のレイドが動いて興味津々である。


「何で付いて来るんだよ」

「俺の勝手だろ。王子さま」


 何日も何日も飽きずにアルバートに付いて行ってはしょうもない話をしてくるレイド。突き放したいのに、無表情なレイドの時折緩む笑顔がアルバートにとって幸福で堪らなく感じていた。


「アルバート、大切な人っている?」


 しょうもない話の中に紛れ込んだ単なる話題。アルバートの頭の中には最愛だった兄の顔が浮かび上がった。


「……それを君に言う必要がある?」



 アルバートの青く澄んだ瞳に映ったのは、悲しく傷付いたようなレイドの姿。


「…知ったら、駄目なのかよ」


 グッと堪えるとアルバートはレイドの手を引き生徒会室の扉を荒々しく閉めた。


「そんなに気になるなら教えてやろうか!?」


 アルバートのサラサラな金髪がレイドの頬に掛かると、ソファに押し倒されたのだと理解する。

 半ばやけくそそうにアルバートは力強く腕を固定すると、レイドの困惑しきった顔に見向きもせずに口付けた。


「な、に…するッん…」


 驚きの余り開いた唇には、アルバートの舌がレイドの舌を絡め取り息苦しそうに涙を浮かべるレイドの姿。


「け、ほっ…ごほ」

「俺は腹違いの兄が好きなんだよ!お前には理解出来ないかもしれないけど、此処でヤったことだってある」


ーーーただ、好きだと思ってたのは俺だけだった。



 兄さんにとってはストレスの捌け口として俺を利用していただけ。

 ‘‘ 誰がお前なんか本気にするか ”と言って時期国王になるべく一切俺と音沙汰無しになったのは入学して直ぐの頃。


 思い出しただけでも涙が溢れ出て視界をぐちょぐちょにした。



「好きだっただけだろ?」

「何が言いたいんだよ!可笑しいのは分かってる!」


 食い気味で強く言い放つアルバートに対して、レイドはアルバートの腕を振り払い壁へと押し当てた。


「あぁ、なら俺も可笑しいな!俺はお前が好きなんだから!」

「は!?ちょっ……」


 零れた涙を舐めとり、強引に口付けするレイドの漆黒の瞳には火照ったアルバートが映っていた。


「本当に君は、何なんだよ」


 レイドに身体を預けるアルバートがボソリと言うと、レイドは優しく金の髪を撫でつけこう言った……



「少なくともお前を大事に想っている一人だよ。と、沢山泣き腫らした顔には微笑みが浮かべられて、安心しきったように眠るアルバートの姿があった。完璧王子と無表情公爵子息の馴れ初め編完結…痛っ!!」




 何やら重たい空気を感じる!とシミジミ語っていた公爵令嬢のミーナの後頭部へ負のオーラが降り注ぐ。

 顔を上げるとそこにはミーナの妄想のダブル主人公が様々な顔立ちをして立っていた。


「ミーナ、妄想も大概にしようね。あといつも思うけど大体俺がヤられてるよね王子なのに」


 ニコニコ笑顔の王子様は私の書いた本を手にパンパンと音を立てて怒っている。

 対して欠伸をしているレイドは、目を擦りながらパラパラと本を捲って無表情に閉じた。


「俺は大体攻めだから良しとしよう。」

「そういう問題じゃあないよね、レイド。兄さんが視察に行っただけでこれ程の妄想が出来るなんて……それを少しでも勉強に活かせたらいいのに」



 はあ、と溜息をつくアルバートにキョトンと可愛らしく首を傾げるミーナ・ルッズベルト公爵令嬢。アルバートやレイドたちと幼馴染みでありその美貌は振り返って見てしまうほど美しく、しかし妄想と男同士の色恋ごとが大好きという残念な性格の持ち主の彼女は、今日も元気に幼馴染みたちを妄想で犯したのだった。




ご愛読ありがとうございました!また会いましょう!

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