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死神辺境伯と死にたがり殿下


「なりません、殿下!」

 侍女が慌てて止めようと駆けつけたが、ラインハルトはもう決めていた。

「どうせ、この子を引き取る者はいないのだろう?ならば、俺がこの子を立派な貴族に育ててみせるよ。それに、俺にぴったりじゃないか、この子の魔力は、『死を呼ぶ』だなんてさ…。」

 彼はそう言い微笑むと、その腕に抱いた赤ん坊をあやした。






 

 

「クソッ、どうして俺を置いていきやがったんだ、あいつらっ。」

 王国の東に位置するその森で、冒険者の身なりをした男は静かに怒り震えていた。それもそのはず、パーティを組んでいた他の5人が少し目を放した隙にいなくなっていたからだ。特にとがめられるような行動をしていたわけじゃない、ただ少し寒さを感じ、鞄から上着を取り出していただけだった。

「いちいち報告しなくちゃ置いていかれるのか?まったく、こんなことになるなら、あんな田舎のギルドでパーティなんか組むんじゃなかった。」

 だからと文句をぶつぶつ言ったところで、この状況から抜け出せるわけではない。それに、魔狼狩りの依頼を一人でこなせる自信もなかった。男は大人しく村へ引き返すことに決めた。だが、既に手遅れだったらしい。青白い毛を持つ魔狼の群れが目に入った。

「まじかよ。ついてなさすぎだろ…。」

 幸い、向こうはこちらに気付いていないようだったが、警戒を解かず、男はその危険から離れるように森の奥へと逃げることにした。そのとき、男は思い出した。この森が最近意思を持ち、人を食う『死の森』となったと噂されていたことを。ポツリと冷たい滴が落ちてきて、薄暗かった辺りに霧がかかる。自分は大丈夫だと心に言い聞かせながらも男は焦り、更に森の奥へと闇雲に進んでしまっていた。


「なんだ…、あれは…。」

 雨が止み、視界が少しずつ鮮明になって、男の目に赤い巨木が入った。葉が赤いのではない。木全体が鮮やかな赤色だった。不気味で近寄りがたかった。しかし、その横に真っ黒な屋敷があるのに気がついた。こんなところに人が住んでいるのかと疑問はあったが、男は濡れた身体でこれ以上森の中を歩きたくはなかった。精神的にも疲れていたからか、思考能力が著しく低下していた男は屋敷へと歩いていた。




「あんれまー、こんなところに何しに来たんだ?お兄さん。」

 屋敷の門の前までたどり着くと、少し間の抜けた話し方をする若い男が庭で草むしりをしていた。その地味な身なりの使用人らしき青年は男に気付くとそう声をかけてきた。男は仲間とはぐれ、青い魔狼から逃げてここまで来たことを伝えた。

「それはそれは災難だったなぁ。お兄さんがよければ、うちで休んでくれ。少し個性的な屋敷だから嫌なら…」

 男は食いぎみで招待を受け入れた。


「自己紹介がまだだったなぁ。俺はヨハネっていうんだ。一応こんなんでも、この屋敷の管理人をしている。あともう一人…、あ、いたいた!ユーリ、お客様だ。」

 まさかこんなところで湯浴びが出来るとは思っておらず、着替えまで貸してもらっていた。今日はもう危ないからと泊まる部屋へと案内の途中、仕事中だったメイドを紹介された。男は一目で心を奪われた。ショートの黒髪に大きな翡翠の瞳、透き通るような白い肌、そして、その触れたら消えてしまいそうな素肌を覆い隠す真っ黒なメイド服からは少し色気を感じた。小柄で、少し幼さの残る顔ではあったが、男のタイプど真ん中だった。メイドは、特に何も言わずペコリとお辞儀だけするとすぐにその場から離れていってしまった。

「すみません。あの子、ユーリっていうんですがね、ちょっと色々ありまして、声を出すんができなくて、それだからか、あんな対応で…。」

 情けない顔でヨハネはそう言っていたが、男は見逃さなかった。ユーリと呼ばれたメイドがヨハネを鋭い目付きで睨み付けていたのを。


「この屋敷は辺境伯様の別邸でして、普段は俺とユーリの二人で管理をして、いつでも万全な状態にしているんですよ。あぁ、食事は少し質素なもので申し訳ないんですが、召し上がってください。」

 広い食堂に用意された食事は確かに地味ではあったが、味は一流だった。ヨハネはずっと側にいたので、あの子が作ったものだろう。男は一口一口じっくり味わった。それよりもこの屋敷がハンデリー辺境伯の別邸とは思っていなかった。しかし、趣味の悪い外観やこんな辺鄙な所に別邸を建てたと考えると納得がいった。今日はゆっくり身体を休められそうだと男は安心しきっていた。


 夜も更け、男はメイドによって寝室へと案内された。そして、あの使用人がいないことで、男は魔が差した。声を発せられないのを良いことに、男は部屋を出ようとしたメイドの細腕を掴み引き寄せると、口付けをした。メイドの甘い香りに溺れた男は、本当の身分を明かした。王国に見初められている爵位持ちの冒険者だと。自分ならハンデリー辺境伯に直接掛け合うことができる、あのヨハネという男に酷いことをされているだろうから助けてあげると。メイドは最初は驚いた顔をしていたが、少しづつ明るくなる表情に男は調子に乗った。そう、男は調子に乗っていた。


 メイドはとうとうその男の滑稽な姿に耐えきれず、笑った。その笑い声は愛らしい見た目とは反し、魔王の如く野太いものだった。


「あぁ、笑った。お前みたいな名前すらつけてもらえねぇモブ野郎が辺境伯に直接掛け合うことが出来るだぁ?爵位持ってるったって下流だろ?無理だろ。ってか、いきなりキスはねぇんじゃねぇの?気持ち悪いぜ、お前。口臭きっついし、ほんとマジ勘弁してほしいわ。」

 儚げな美しさからかけ離れた声に男は理解ができず、口をパクパクさせて驚いていた。

「あぁん?トラウマを抱えた可憐な悲劇のヒロインだと思ったか?残念でした。ヨハネとの賭けに負けて、罰ゲーム中だったんだよ。俺は男だ。何、欲情してんだ、変態。」

 端からみればメイドの格好をしたユーリも何か言われそうだが、この部屋には男とユーリしかいない。やっと男は騙されていたことに気付き、顔を真っ赤にさせ、勢いに任せて殴りかかろうとした。しかし、ユーリが殴られることはなかった。男の手がポロリと落ちた。そして、落ちた部分が塵となり、何が起きているのか理解できないうちに男自身もはらはらと崩れていく。

「そうだ。もう聞こえてねぇと思うが、訂正しておく。ここはブラウラン帝国の最西端に位置するレイン辺境伯の別邸だ。勝手にトグラ王国領内だと勘違いしてんじゃねぇよ、バカが。」




「今回は俺の勝ちだ、ラインハルト殿下。」

「そうかぁ、俺の負けかー。今回の男は弱そうだったしな、俺に対して殺意も感じなかったし。こう、胸を刺されて死にたかったのになぁ。っていうか、今、殿下って呼んだ?もう、ユーリちゃんったら、俺のことはヨハネって呼んでって言ってるじゃないかぁ!君と一緒にここに来たときにその名前は捨てたんだ。」

「ホントよくしゃべるな、殿下。」

「殿下もやめて!ヨハネって呼んで!」

 ラインハルト、いや、ヨハネはそういうと男の遺品を漁り始めた。

「そいつ、爵位持ちだって言ってが、帝国で保護対象であるレインウルフの討伐依頼受けちゃってるってことは冒険者としても貴族としてもダメダメだ。」

「んー、確かに装備は金がかかってる感じはするけど、あまり使われた形跡がないし、何よりもあの男の能力に合ってない。宝の持ち腐れだねー。あ、ギルドガードあった、ランクCで、爵位は…、ん?男爵位の息子…。ちょっとー、ランクCなら隣国のことも勉強しといてよ。それに息子じゃまだ爵位引き継いでなくない?これじゃ殺し屋送られてくる可能性低いし…、招き損だよ…。」

「いや、そもそも呪いがかかってる以上、殿下死ねねぇじゃんか。」

 ヨハネはガックシと項垂れた。



「ってか、トグラの国王変わってから数年しか経ってないけど、すっかりダメ国からクズ国になったな。上がクズなら下もクズになるんか?やっぱり潰すべきじゃねぇか?」

 ユーリは普段着に着替えてくると、ヨハネにそう提案した。

「もう着替えてきちゃったの?折角ユーリちゃんのためにオーダーメイドで発注したヴィクトリアンのメイド服だったのに。」

「おい、殿下。」

「すまない、ユーリ。でも、個人的に気に入っていたんだ。また、何かあったとき着て欲しいな。…さて、次はどんなゲームをしようか?」

 ヨハネはそういうと真顔でカードを取り出した。しかし、ユーリはそのカードを仕舞うようにと顎で指示した。

「ゲームの前に行かなくてはいけないところがあるだろ。そろそろ社交会のシーズンが終わる。帝都に行くチャンスだと思うが?」

「帝都に行くのか!この間行っただろう!」

 顔を真っ青にしてヨハネは拒否しようとしたが、ユーリはきつく睨み付け反論した。

「いつのこと言ってんだ。前回行ったのは一年前だ。毎年一回は報告に来るよう王から言われていんだろ?そうじゃなきゃ強引にでも城に閉じ込めるって言っていたの忘れたのか?それにここ最近のトグラのことも報告すべきだと思うが?」

「いや、だって、今代の王、小言が多いし、ユーリも色々チクるしさぁ。」

「殿下が死ぬことに躍起にならず、真面目に仕事してれば何も言わねーよ、俺も陛下も。明日から帝都に行く準備すっから今日はそろそろ寝るぞ。」

 ヨハネは膨れ面をしつつも、寝室へ向かう。

「じゃあな、おやすみ、ヨハネ父さん。」

「あぁ、おやすみ、ユーリ。」


 

 翌日、封魔の仮面をしたユーリ・レイン伯とラインハルト・ブラウラン殿下は青髪の従者を何人かつけて、帝都へと向かった。


 このとき、二人は帝都で待ち受ける事件に巻き込まれるとは微塵も思っていなかった。

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