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竜達の愛娘  作者: ao
第五章 ―終章―
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羊皮紙の束

/シュベル


 久しぶりにベルンが屋敷へと戻る。

 といっても、2日に1度の頻度でリュークに報告がてら彼にかわりが無いかを見てもらっていたが、本人が姿を見せたことで少なからず私は安心を覚えた。

 

「シュベル様、皆さん戻りました」


「あぁ。元気そうで何よりだ」


「そんな顔をしなくても、死ぬつもりはありませんよ?」


 相変らず無表情であるが、この顔を見るとほっとするのだと思った。

 気持ちを踏みにじるようなことを言うのは相変らずだが……。


「今日は、休みなのだろう? 折角戻ったのだ、カシリアと少しでも一緒にいてやるといい」


「ありがとうございます。後で皆を集めてください。見せたい物があります」


「わかった」


 カシリアと共に過ごす時間を与えようと伝えれば、礼をいいつつも仕事を優先しようとするベルンに笑ってしまった。

 彼女の元へ向うベルンをリビングで見送り、ウィリアを周囲を監視するため学園に行くため空魔法を使った。


 教員用準備室内には、アルミスとカシが鏡を覗き込み会話を聞いている。

 私の姿を見ると視線を鏡から此方へ向け、会釈程度に頭を下げると鏡へと視線を戻した。

 鏡の中で、講師が何かの説明をしている。

 声を聞き取っているものの、途中からと聞いている私には何のことか良く判らなかった。


 後ほど、2人に聞いておくとする。

 説明のようなものは、未だに続いているが、授業終わりの鐘がなると教師が、次の時間にと言い残し教室を後にした。それと同時に生徒達がざわめき出す。


「それで、先ほどは何の話だったのだ?」


 2人が顔をあげたのを確認して、先ほどのことを聞いた。

 

「どうやら、学園の授業で課外学習があるようです」


「課外学習?」


「そうですわ。学園の外に移動して冒険者のようなことをする。旅行のようなものなのだそうですわ」


「……っ、何故この時期に!」


「なんでも、高学年になったら必ず行われる行事だそうです」


 私の問いに、カシとアルミスが聞いていた内容を話してくれる。

 課外授業というのは、30日もの間自宅には戻らず生徒だけで、指定された場所へと向かい戻るというものだ。

 ありえない……。ウィリアたちだけで、行動させるなど!!


 急ぎ学長の元へ行こうとする私の腕を掴み、アルミスとカシが止める。

 何故だ! と怒りを露に問えば鏡を指差した。


「ウィスユリアさん、宜しければ一緒の班になりませんか?」


「嬉しい。誘ってくれてありがとう。ジェシカ」


「ふふ。私もご一緒できて嬉しいですわ」


「私も、ご一緒したいのですが?」


「あら、リリアナ様もご一緒いたしましょう」


「うん。リリアナも一緒に」


 覗き込み会話を耳に入れれば、楽しそうに課外授業について友人と話すウィリアの姿があった。


「これは……」


「ダメとは、言い難いですね……」


 あんなに楽しそうに友人と話す姿を見てしまっては、ダメだとは言い難い……それにだ、学園の行事には出来る限り参加させてやりたい、だがそれにはまず、グリンヒルデとの決着をつける必要があると考える……も、現状、打開策と呼べるほどのものが無いことが腹立たしい。

 

「いっそ、潰すか?」


「はっ?」


「それは、聊か早急すぎですわ」


 グリンヒルデと言う国を潰してしまえば良いのではないか? と伝えれば、カシは腑抜けた顔で固まり、駄々を捏ねる子供をあやすような顔するアルミスに諌められた。

 別に構わないと思うのだが……。どうやら、それはダメらしい。

 腑に落ちないまま、悶々と思考する私に思念が届いた。


《シュベル様》


《ベルンか? どうした?》


《はい。ウィリア様がいらっしゃらない内にお見せしておきたいものがあります》


《わかった。戻るとしよう》


《お願いします》


 ベルンとの思念を終えて、アルミスとカシに戻ることを伝える。

 頷いた2人に、頷き返し空魔法を使い屋敷へと戻った。

 リビングへ足を踏み入れれば、ベルンの腕に絡み付くような体勢を取るカシリアと目が合ってしまう。見てはいけないだろうと、気を使い視線を逸らしたのだが……何故か逆に、睨まれてしまった。

 どうしたらいいのだ……? そう内心思いつつベルンへと声をかける。


「待たせたか?」


「いえ。シュベル様にご覧頂きたいのはこちらです」


 そう言ってベルンが差し出したのは、ひとかかえはありそうな羊皮紙の束だった。

 訝しげな視線を向ければ、察したように説明してくれる。


「ゴードヴィズの店主の部屋に置かれていた、取引関係の書類と顧客名簿です」


「なるほどな。しっかり見せてもらおう」


「それとこちらも」


 もうひとかかえありそうな束が更に追加される……。

 引き攣る顔をなんとか、元に戻しベルンを労う。


「そっ、そうか……ご苦労だったな。検分はしておく、カシリアと今日はゆっくり過ごすといい」


「ありがとうございます」


 出された束を、魔法:個人箱に入れ込み自室へと移動した。

 ウィリアの課外学習の件も気になるが、アルミスとカシが見守り、他にも竜たちが見つからないように周囲を監視している。学園の授業が終わる頃、迎えに行けば大丈夫だろう。そう考え、まずは今抱える問題を優先する。


 ベルンの渡した束を、机に広げ1枚ずつ読み漁っていく。

 内容は、取引の詳細なのだが、その中に幾つか気になる項目があった。商品名の記載はないもののその値段がかなり高い。

 その部分に、インクで印をつけた。


 そして、内容は訪問客に変わる。

 私が印をつけた時間訪れていた客の名前は、全て同じだった。

 

「ビュリンデか……。何者だ?」


 記憶を漁ろうと思うも、1度会っただけの者を覚えているはずも無いと、首を振り断念したところで、扉を叩く音が耳に届く。

 入室の許可を出せば、ウィリアがぷぅと頬を膨らませ顔を出した。


「どうした?」


 何か気に障ることをしただろうか? そう考えながら彼女の行動の意味を聞いた。

 答えることなく、視線を逸らし、扉から顔を隠す彼女。

 

 テーブルから立ち上がり、扉へと歩み寄る。

 扉を開けば、制服のまま膝を抱え背を向け俯いて座っている。

 本当に何があった?


 以前、女性は身体を冷やすとあまり良くないとデイハが言っていたことがあるのを思い出し、慌てて膝を付きウィリアを横抱きに抱え立ち上がる。


「キャ……」


「すまない」


 私の首に腕を回し掴む彼女を出来る限り、揺らさないよう気をつけ時間にして1分程度しかかからない位置まで倍の時間をかけて運んだ。

 ソファーに彼女を降ろし、離れようとするも、首に回した腕を離そうとしない。

 中腰の体勢のまま、彼女が何を思っているのか必死に頭を使い考える……。


「……して、きょ……にき……なかったの?」


「どうした?」


 聞き取れないほどの声で、何かを伝えるも聞き取れず、再度問いかければ、首に回した手で私のシャツを握りその瞳を潤ませる。


「どうして、今日学園にこなかったの? 約束したのに……」


 その言葉に、失念していた事を思い出す。ウィリアが学園に入る際約束をした。毎日行きかえりは共にと……約束を守るため、1日も欠かさず、例え用事があろうと彼女の授業が終わるまでには、学園に迎に行き共に帰ってきていた。

 それなのに今日は羊皮紙の処理を優先するあまり、忘れてしまっていた。

 

「すまない。授業中に少し顔をだしたんだが、ベルンに呼ばれて……」


 約束を破ったいい訳しているように感じ、言葉を途中で止めるとウィリアを抱きあげ直す。

 自分がソファーに座るよう向きを変えると腰を降ろし、抱き上げた彼女を膝に抱かかえられるように座る。

 ぎゅっとしがみつく彼女の背を撫でつつ落ち着くまで、こうして抱きしめていようと思った――。

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