リング
/シュベル
思いを告げ口付けを交した。
その後、ウィリアをベットへと運び寝かしつけてから部屋を後にした。番の契りを交すのは、せめて彼女が16を過ぎてからだと思っているからだ。
ウィリアにもそのことを、はっきりと言葉で伝えておいた。
頬を上気させ、恥ずかしそうに俯いていたが、頷いてくれたことから理解してくれたのだろうと思う。
興奮しているのか、寝付けない。1時間ほどベットで寝返りを打ち寝ることを諦めて、誰も居ないであろうリビングへと向った。
ソファーでゴロゴロしつつ、コーヒーでも飲もうと考えたからだ。
だが、リビングには既に先客が居たようだ。いくつもの酒瓶が転がり未だその手に酒瓶を持つカシとそれに付き合うデイハ、ジオール、リュークが語らっている。
私に気付いた、デイハが片手をあげたかと思えば、チョイチョイと手招きする。
「シュベル様もカシ殿が心配になったのですね」
「ぐふぅ。しゅべりゅしゃま。りあぐぉぁ、わたしゅのりぐぁぁ」
「どれぐらい飲ませたのだ?」
カシの呂律が既に回っていない……。カシが飲んでいるところを見たことがなかった私は、自分基準でかなりの量を飲んだと思い、叱る意味も込めて周りの者に量を聞けば。
横に座るジオールが、親指と人さし指で5センチ程の隙間を作って見せた。
「ん?」
「ですから、これだけですじゃ」
「まさか……」
そう言葉にして、他の参加者に視線で確認すれば、皆一様に頷いている。
どうやら、カシは相当に酒に弱いたちのようだ……。
「なんというか、弱かったのだな……」
「まさか、ここまで弱いとは思わず。酒に誘ってしまいましたが……ハハハハハ」
デイハの乾いた笑い声が、リビング越しにダイニングへと響いた。
ソファーに腰を降ろせば、リュークにコップを手渡され酒が注がれる。どうせ寝れないのだからと考え、酒を一気に煽ればアルコールの香りと共に果汁の爽やかな香りが漂う、度数の強い酒だったのか身体が火照るのを感じた。
「シュベル様と言えば、ついに、公言なさいましたがどうです?」
突然デイハに話しを振られ何のことだと聞いていれば、ウィリアとの仲を皇王たちへ話したことについての感想を求められているようだった。
「ふむ。特段何もないな」
「ウィリア様は、何もおっしゃらなかったのですか?」
ウィリアはそのことについて何も……。そこで、先ほど告げた告白を思い出し急速に顔が熱を持ったのを自覚する。
「おぉ? その顔は何かありましたかのぅ?」
私の表情の変化を見咎めたジオールが、ニヤニヤと笑いつつ聞いてくる。
こういうときばかり気付きおって、くそじじぃがっ……!
「まぁ、あれだ。番の誓いをしただけだ」
「なっ! それでウィリア様は?」
「受け入れてくれた。契りについてはウィリアが16を過ぎてからと伝えてある」
デイハとジオールが、嬉しそうに頬笑み手を叩き祝福してくれる。
リュークは、私たちのことに関して知らなかったのか、驚き目を見開いていた。
そこへ、瓶を叩きつけるような音が鳴りそちらへ視線を向ければ、目の据わったカシが私を指差し叫んだ。
「だいじぇじゅにしゅてあげでぐださいね」
「あぁ。そうしよう」
なんとなくだが、カシの伝えたいことが理解できた。
カシリアとウィリアを重ねたであろう彼は、涙ながらに願いを伝えた。
そう言えば、とジオールが思い出したような言葉を紡ぎ考え込むと話してくれた。
「昔じゃったが、ウィリア様が番になった者たちへ指輪を送るものだといっておったのを覚えておられますかのぅ? あの時、ウィリア様もいつか好きな男に送られたいと言っておりましたのぅ」
グラスを傾けチラリと私へ視線を流してくるジオールに、口角だけあげ返事をした。
そうか、ウィリアが指輪が欲しいのか……。どんなものが良いだろうか? 彼女の指に嵌めるのならば、金? いや、銀の方が似合うだろう。形はどうすればいい……?
そう考える私の頭の中に、ある形の指輪の映像が映る。
思い出したわけではない、ただ見えたというべきだろう。神々のどなたかが教えてくれたのかもしれない。そう思いその指輪のイメージを脳内に焼付けつつカシの愚痴に付き合う。
朝日が差し込み、その眩しさに瞼を開き起き上がれば、いつの間にか掛け布団がかけられていた。凝り固まった身体を伸ばし状況を確認すれば、私、ジオール、デイハ、リューク、カシの全員が昨夜ここで眠ってしまったのだと判った。
首を鳴らし、ソファーへと座りなおす。
それと同時に、コーヒーの入ったカップを差し出されその手を辿り見れば、いつも通りの無表情の顔がそこにはあった。
「おはようございます。シュベル様」
「ありがとう。おはよう」
「シュベル様、本日昼間に皇王のところを訪ね、昨日決定したことを伝えてまいりますが、何かご伝言等ありますか?」
あくまでも事務的な様子を崩そうとしないベルンに、つい、悪戯してやろうと同心に帰った気持ちで、どう誓いを立てたのか質問してみる。
「ベルン」
「なんでしょうか? 何か伝言が?」
「いや。それは特にないが。カシリアになんと伝えたのだ?」
質問を聞いた瞬間、ベルンの目がすぅーと細くなる。
ニヤリと口角をあげて笑い、周りを見回せば皆も興味津々と注目しつつ聞き耳を立てていた。
「そんなことよりも、伝言があるのではないのですか?」
「ウィリアへの参考にしたい。教えてくれないか?」
ワザとらしく、眉尻を下げ訴えかけてみればはぁ~。と溜息を吐き視線を窓の方へ向けると照れ臭そうな顔で、教えてくれた。
「その、死してもなお、私の心はカシリアと共にあると……いいましたが? それよりも、早く伝言をお願いします」
「そうか……。良い言葉だな。私も昨日ウィリアへ誓いの言葉を伝えたのだがな」
「なっ!!」
自分が嵌められていることに気付いたベルンは、無表情の顔を真っ赤に染めあげキッと私を睨み付けると、舌打ちをしてダイニングへと行ってしまった。
寝起きから、良い表情が見れたとダイニングへと向う。
既に朝食の時間は過ぎているようで、狩りから戻った竜たちは各々好きなように過ごしている。
朝食を取り終え、少し出かけてくると伝え終わると、急ぎ宰相へと思念を飛ばした。
《すまん。聞きたいことがあるのだが》
《いかがされましたか?》
《実は、指輪を造りたいと思っているのだが……どこか腕の良い店を紹介してほしい》
《なるほど……。それでしたら――》
宰相の紹介してくれた店は、貴族御用達という話だった。そのため一見お断りなのだそうだ。そこで、宰相が直に紹介状を書いてくれることになり取りに向う。
宰相の仕事場は、流石に知らないのでどこがいいかと聞けば、皇王の執務室で待ってほしいと伝えられた。さっそく、皇王の執務室へと空魔法で移動する。
突然訪問した私に気付いた皇王は、仕事の手を止め立ち上がると、どうしたのかと聞ききながら、ソファーを勧めてくれる。
事情を説明すれば、頷いてくれた。
紅茶を運んだ侍従が下がると、ほぼ同時に宰相が姿をみせた。
さっそく手紙を受け取り、軽く昨日決まった件を話すと何度も感謝の言葉を陳べてくれた。
後ほど、ベルンが訪ねることを伝え、皇王の執務室を後にした。
デュセイの街の貴族街にその店はあるそうだ。
指輪を渡してやれば、喜ぶであろうウィリアの姿を思い描きつつ街の上空を鳥の大きさで飛行する。貴族街へと入り、下方の街中を見ながら目的の店を探した。
その店は大通りから二本程中にはいったところにある、こじんまりとした雰囲気の良い店だった。
店の近くに人通りがないことを確認し舞い降り、魔法:擬人化を使い人の姿となった。
身だしなみに乱れが無いかを、窓ガラスに映し問題ないと判断し店の扉を開いた。
銅で出来たらしい音が鳴り、入店を知らせれば店の奥から職人気質を感じさせる男が、姿を見せる。
「ようこそ」
「邪魔をしてすまない。ここは紹介状が必要だと聞いた」
彼に歩み寄り、宰相からの手紙を渡した。
受け取った彼は、その手紙を読むと奥に置かれたテーブルへと案内してくれる。
「どうぞ、おかけください」
「あぁ」
「それで、どういったデザインの物をお探しですか?」
「それなのだが、私には絵を書くという才能が無いのでな……その、魔法を使って伝えてもいいだろうか?」
突然の申し出に驚いた様子を見せるが、頷いてくれたのでホッと息を吐くと彼へ魔法:記憶譲渡を使った。
光の線が、額から彼へと延びる。目を閉じ昨夜見えた指輪のイメージを伝える。
色は青銀、形は細く二本に別れ、螺旋を書くように蔦が描かれ、その所々に、花の模様が入っている。台座にはウィリアの髪の色をした紫苑色の石が付いた物。
どうやら上手くイメージが伝わったようで、店主は即座に立ち上がり羊皮紙を持ってくると私のイメージのままに書いてくれた。
直に持ち帰りたいと伝えたのだが、流石に1から作るためそれは無理だと断れてしまう。
細工の行程で時間がかかると最短でも4日は欲しいと言われ、渋々了承するしかなかった。
折角なのでと、数点指輪を見せて貰う。
金の台座に、カシリアの髪色に良く似た色の青石を見つけそれを購入し、4日後に取りに来ると伝え店を後にした。
金の台座の指輪は、今朝、怒らせてしまったベルンへの土産とするためのものだ。




