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竜達の愛娘  作者: ao
第四章 ―グリンヒルデ王国編―
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伝えるべき言葉

いつもありがとうございます。


ものおきの方に、小ネタをかいてみました。よろしければお読み下さい。

/シュベル


 渋々と頷いたカシの条件と言う言葉に、顔を引き攣らせたベルンだったが、直に元の無表情に戻ると頷いた。それを見ていたカシは、ふと表情を緩めベルンへ条件を伝える。


「カシリアと番の契りを交して下さい。できれば、子孫を残して欲しいと言いたいところですが……。

 時間の猶予はあまりないでしょう? 

 もし、恋仲であるあなたが危険な目に合い死んだとなれば……。

 娘は、あなたへの情から死ぬまで独り身を貫きかねません。ですから、今から契りを交してください。

 それが、私があなたへ出す条件です」


「なっ!!」


 カシの条件を聞き、今度はベルンが言葉に詰まった。

 娘に対し溺愛気味のカシが、娘を妻に迎えろと言ったのだ。驚かない方がおかしいだろう。

 私も、驚愕に目を見開いたその一人なのだが……。


「娘をよろしくお願いしますよ。ベルン殿」


 真剣な顔で、頭を直角に下げたカシを、慌ててベルンが手を添え起した。


「ありがとうございます。カシ殿」


 カシの気持ちを汲んだ彼は、真摯な視線を向け礼を言った。

 会議が終わり屋敷へと戻った私は、寝物語にとカシリアとベルンのことを思念を使いウィリアに話して聞かせた。

 ふたりへの贈り物についても相談したいところなのだが……それについては、明日でもいいかと考える。

 

《素敵なお話ですね》


《あぁ、そうだな……。まさか、カシがあんなことを言い出すとは私も想像していなかった》


《ふふっ。カシ叔父様に一杯食わされた。と言うところですか?》


《そうかもしれんな》


《シュベル様。ベルンお兄様のこと……本当に大丈夫なのでしょうか?》


 楽しげな声を思念に乗せていたウィリアの声が曇った。心底心配しているのだろうと分るほどの声音だ。

 心配を取り除くため抱きしめてやりたいと思った。それと同時に、ベルンに対してなんとも言えぬ感情を抱いた。


《……心配しなくていい。ベルンはあれで要領が良い。きっと無事に戻ってくる》


《……はい》


 あまりにも元気のない返事に、部屋を飛び出しウィリアの部屋の前までやってきてしまった。

 だが、そこで余計な事に気づいてしまう。

 心配するだけ気持ちだけで側にいられるのだろうか。こんな醜い気持ちを持っていると知られれば、幻滅されてしまうのではないだろうか? と自身の中で考えてしまい。あげた手を空中に留めたまま、どうしてもノック出来なくなってしまった。


《シュベル様、私に何かできることはありませんか?》


《ベルンにか?》


 その間も、ウィリアとの思念は続く。

 己の不甲斐なさに独り溜息を漏らし、自嘲気味に笑みを浮かべドア横の壁へ凭れかかると、そのままずるずると座り込んだ。

 ウィリアは、本気で心配しているのにな……。


《……みっ、みんなのために》


《そうだな、ウィリアが笑っていてくれること、じゃないだろうか》


《そうですか……》


 返事が気に入らなかったらしいウィリアの思念に、天井を見上げ笑う。


《ウィリア》


《はい?》


《ただ、無事で側にいてくてるだけでいいんだ。本当にそれだけで、私も皆も心穏やかにいられるのだから》


《そっ、それは……そうですが……。シュベル様こそ――》


 本心からの願いを伝えれば、彼女は言葉を飲み込むように何かを言いかけやめてしまう。

 ベルンや皆のことはもちろん、怪我や命を失うなどの危険がなければいいと思う。だが、それ以上に、ウィリアを誰かに傷つけられることが嫌なのだ。

 それが例え仲間だったとしても、己の番が他を気遣うことや奪われることを厭う、竜の習性? 否、己の自信のなさなのだろう……。


《ウィリア……》


 自信の無さを自覚した途端にウィリアを失うのでは無いか? と不安を覚え、声が聞きたくなる。思い切って、思念を送るも返事はなく、その代わりに軽く急ぐような足音が室内から耳へ届いた。カチャっと音を立てノブが下へと降りた。

 この状態を考え、急ぎ立ち上がろうとする刹那、ドアはゆっくりと開きウィリアと視線が交差する。

 

「ぁ……」


「――ぇ?」


 視線を合わせたまま、二人して硬直してしまう。

 こんな夜遅くに、ウィリアが廊下へ出てくるとは思っていなかった……。

 ウィリアもまさか、私がここにいるとは思っていなかった。そんな感じなのだろう。 


 何か、何か言葉を出さねば……! 焦りを覚えつつも何とか言葉を搾り出す。


「みっ、みずでものっ、のみにいくのか?」


 ――いくら、焦っていたとは言え、これはない。と全身が急激に冷えるのを感じた。

 そのお陰か、冷静になれた。何度か咳払いをする。


「すまない。本当のことを話せば、ウィリアがベルンを心配して落ち込んでいるのではないかと、そう思って部屋まできたのだが……その、こんな時間に好いた者の側にいけば、自嘲できるかわからなかったのだ。それで、こんな所にいたのだが……」


 いい訳はせず、赤裸々に自身の心の内を語った。

 見つめるウィリアの顔が、ゆっくりと開く花のように綻んだかと思えば、瞳が潤み紫苑色の髪が細波のように揺れると、その身体は私の胸へと飛び込んでくる。

 立ち上がりかけた状態のまま受け止めれば、バランスを崩しトサっと小さな音を立て座り込む形になった。


「不安にさせたか?」


 胸の内を語ってしまったせいで、不安にさせたのではないかと思い聞けば、頭を振り違うと示すウィリア。

 ならば、何故だろうと考えるも彼女が話してくれるまで、ゆっくりと頭を撫で待つことにした。

 

「そう言えば、ベルンたちへの贈り物について、相談しようと思っていたんだった」


 独り言のように呟き、天井へと視線を向けた。

 淡く黄色い月の光が、明り取りの窓から廊下へ差し込んでいる。静寂の中で聞こえるのは、ふたりの息遣いだけ――。

 もぞっと動いたウィリアの方へ視線を戻せば、胸に耳をあてるように頭を預けている。


「シュベル様――」


 彼女は、名を呼び、俯く。


「死んだりしないですよね?」


「大丈夫だ。空魔法もあるし、自衛できる魔道具を作り出して持たせるつもりだからな」


「そうじゃなくて……」


 ベルンのことかと思い、答えれば違うと否定される。 

 どこかを見つめたままだった彼女の頭が離れ、視線を合わせる位置へ移動する。

 その顔には、切なさや悲しさが詰まっている。


「シュベル様が、危険になることもありませんよね? 突然、ウィリアを残して、居なくなったりしませんよね? 番になるんですよね?」


 あぁ。そういうことか……。

 彼女の行動の意味が、漸く理解できた。詰まった言葉の意味も――。

 

 不安を抱えさせていた。今回のことで、彼女は私を心配していたのだ。

 大人になったからと、彼女の気持ちを知りつつ知らぬ素振りをし、いい訳がましく年齢を理由に、逃げていたのかもしれない。


 彼女を誰にも渡したくないと思いながらも、彼女の気持ちにははっきりと答えず。彼女を待たせていたのだろう。

 他人には番だと公言しておきながら、本人にはずっと曖昧なまま、好きだと言われたあの日から3年もの間――いや、もっとずっと前からだ。

 前回も、そして口付けさえもウィリアからだった。せめて、番となるための告白だけは、私から言いたい。

 

「ウィリア。本当は16になってからと思っていた、だが今聞いて欲しいことがある」

 

 膝に座るウィリアを抱き上げ、横へと移動する。

 彼女の正面に移動し、片膝を付き魔法:個人箱から、彼女の名の由来である小さな花弁が沢山ついた紫色が美しい花を一輪取り出すと、両手で持ち真っ直ぐに彼女の瞳を見つめ伝える。


「ウィスユリア。シュベル・クリム・ハーナスは、この命尽きるその時まで、お前を愛し共にあることを、君の名とこの花に誓う。この思いを受け入れてくれるのならば、花を受け取って欲しい」


 差し出した花へ、自身の口付けを落とし差し出した。


「っ……はい」


 細く美しい指先がゆっくりと、花に触れると私の手から離れて行った。

 彼女の濃い紫苑色の瞳から、朝露が滑り落ちるように雫が流れた。

 白に染められほんのり紅を塗ったような頬に手を添え、雫のあとを消すようになぞれば瞼が、瞳を覆う。吸い込まれるようにそっと唇を重ねた。

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