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竜達の愛娘  作者: ao
第四章 ―グリンヒルデ王国編―
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手がかり

 お読みいただきありがとうございます。

 面白いと思っていただけるのならば、ブクマ・評価・感想・レビュー をどうぞお願いします。


/シュベル


 デュセイの裏町の宿で、第2王子を見つけたと報告があったのはそれから2日後の深夜だった。報告にきた、ユルセイの言葉を借りればどうやら怪しい男と会っていたらしい。

 現在は、その男と第2王子と二手に分れて見張りをしているとの事だ。


「ご苦労だったな。これを皆に差し入れしてやってくれ」


 魔法:個人箱から取り出した、ウィリアお手製のハンバーガーと飲み物を手渡し労うと、嬉しそうにハンバーガーをひとつだけ取り出し、ガブリとかぶりつく。


「う~。やっぱりウィリア様のこのハンバーガーと言う食べ物は最高っすね!」


 ご機嫌な様子で、そう言うと見る見るとハンバーガーを食らい尽し「失礼します」と言って見張りに戻って行った。


「動いたか……」


 静かな室内に自身の声が響く。

 ウィリアと寝室を別けられて早、数日。眠れば良く判らない女の声が聞こえるようになった。気味が悪いので毎晩月を見上げることが日課となってしまった。


《シュベル様、まだ起きていらっしゃいますか?》


 宰相からの思念が届き返事を返すと先ほどの報告が伝えられる。


《そのことは、私のほうにも既に伝わった。会っていた男の方にも数頭回してある。明日にでもその男が何者かわかるだろう》


《わかりました。では明日、もう1度こちらからご連絡するということでよろしいですか?》


《あぁ。頼む》


 事務的に会話を終え、こんな夜更けに連絡を入れてくれる宰相の勤勉さに尊敬を覚えた。まだまだ、明るくなりそうにない窓の外を見遣れば、異様に月は妙に明るい光で地上を照らしていた。


 グリンヒルデの王子がどんな目的があるのか、それにウィリアや仲間が含まれるのか……。できることなら、皆が巻き込まれることが無いといいのだが――。

 

 いつの間にか、思考に陥っていたらしく。色の薄れた月の代りに地平が明るくなりはじめていた。


《ユルセイ聞こえるか?》


《はいはい。シュベル様。聞こえてるっすよー》


 見張りで気を張っていたとは思えない程、元気な声が返ってくる。


《どうだ?》


《商人のようです。この国でもかなり手広くやってるみたいっすね》


 商人か……。詳しくは知らないが、名前さえわかれば宰相ならば何かわかるかもしれんな。


《ふむ。名前はわかるか?》


《えっと、ゴードヴィズ商店と書いてあるっす》


《わかった。もう少ししたら交代を送る。それまで今しばらく頑張ってくれと皆に伝えてくれ》


《了解っす》


 ユルセイと話すとどうも、気が緩んでいかんな……。

 ふぅーと細く息を吐き出し、気持ちを切り替えるため首を何度か振りリビングへ向う。

 リビングでは既に、女竜たちが見張り交代の竜達のために、早めに食事の用意をはじめている。


「苦労をかけるな」


 労いの言葉をかけ、コーヒーを入れると邪魔にならないよう、グリーンカーテンの側へと腰を降ろした。

 キッチンから、楽しげな会話が聞こえる。内容は良く聞き取れないが、朝食の献立で卵焼きか目玉焼きかで相談しているようだ。

 

 平和な日常を過ごしている気分を味わい、楽しみながら宰相からの連絡を待ちつつ、皆が起きてくるまでのんびりと今度はダイニングのソファーに座り直しコーヒーを飲む。


 3杯目のコーヒーを飲み干し、瞳に明るい日差しが除き目を細め見遣れば、グリーンカーテンの隙間から、太陽が顔を見せはじめていた。

 交代のため竜たちがぞくぞくと朝食を摂りにダイニングへと集まりはじめる。

 タイミングを見計らい、ダイニングの椅子へと移動すると、皆から挨拶をしてくれる。


「あぁ。おはよう。皆には苦労をかけるが、見張りの方よろしく頼む」


 挨拶の返事と共に頼めば、親指を立て白い歯を見せた物凄くイイ笑顔で答えてくれた。

 どこから覚えてきたのやら……?


「おはようございます。シュベル様。皆も」


 そうこうしていると、ウィリアが起きて支度を済ませた格好で降りてくると挨拶をしてくれる。可愛らしいとはもう言えない、美しく大人の女性を思わせる微笑を湛えている。


「おはよう。ウィリア」


 挨拶を返す私の顔を、マジマジと見つめたウィリアは、目を細め両手を腰に当てると突然近寄ってくる。


「シュベル様。寝ていないでしょう?」


「そんなことはな――「寝てないよね?」」


 否定しようとすれば、被せグイグイと可愛く唇を尖らせた顔を寄せてくる。拳1個分まで縮まった距離から見る唇は、仄かに明るい桃色に染まっている。

 無意識に柔らかな感触を指先で撫で感じると、急にそれは遠のいて行った。視線で追いかけ見れば、ウィリアは耳まで赤くなり、両手で口を押さえている。


「すっ、すまない……」


 赤くなった彼女に釣られ、自分の顔が熱を持つ。

 フルフルと首を振ってはくれるが、やはり気恥ずかしいのだろう。視線を合わせようとはしてくれないどころか、パタパタと逃げるようにキッチンへと走って行ってしまった。


「はぁ~。何をしているのだ私は……」


 自身の愚かさを吐き出し、そのまま身体をソファーに預け、両腕を額で交差するように乗せる。

 やってしまった……。ただでさえ、幼い頃に比べ触れ合いが少ないのだ。そこへあの行為は流石にダメだろう……と頭で反省する。


 ソファーに預けた身体の重心が、内側へ流れるのを感じ慌てて腕を解いてみれば、キッチンに行ったはずのウィリアが座っている。

 どうして? 考えている事が顔に出ていたらしく、くすくすと笑うと、彼女は自身の太ももをポンポンと叩いている。


 わけがわからず、それを見守っていると彼女は腕を伸ばし、無抵抗の私の頭を優しく支えるように自身の太ももへと移動させた。

 弾力がある感覚が、顔から伝い全身を硬直させる。


 彼女を見上げようと、少しだけ頭を動かせば覆い被さるように両手で視界をふさがれる。それでも見たいと覆い被さる手を少しだけ摘まんで動かせば、指の隙間から頬を染めつつ心配する相貌を見ることができた。


「シュベル様。少しだけでもいいから、休んで」


 そう言って、顔に覆い被さる片手で、ゆっくりゆっくり何度も髪を梳いてくれる。

 彼女の優しい手付きと香りに包まれ、自然とまどろみが訪れ瞼を閉じた。


「おやすみなさい」


 ウィリアの声が聞こえた気がした。


             ・

             ・

             ・


 またか、と思った。だが、今回はどうやら違うらしい。

 竜体の私は、暗闇を独り飛び続ける、ただ、急がねばと言う焦燥感だけで飛んでいる気がする。

 何度も翼をバタつかせ速度を上げようとも、闇は一向に終わらない。

 徐々に疲れ、翼を動かす力が削がれていく。


 どれぐらい飛んだのだろうか? そう考え後を振り返ればやはり闇でしかない。

 どこか諦めたように前方のを見れば、闇の中に米粒よりも小さな明るい光が見えた。


「早く、あそこへ向わねば……彼女がっ」


 漏れでた言葉に、頭の中の自分が冷静に判断を下す。何故そこまで急いでいるのだと……。

 死力を振り絞り翼を動かす。


「もう少し……。後少し……」


 そうして、漸く光に辿り着く。

 その光の眩しさが堪らず、咄嗟に目を閉じた。


「今日も会えたわね」


 その言葉に瞼を開けば、色彩豊かな野の花が咲き乱れた平原で、白銀の巻き髪を背で纏め、銀の刺繍が入った白いローブドレスを纏い微笑む女性の姿があった。

 どこか懐かしく思っていると――私では無い――声が、彼女に答える。


「あぁ。会えたな」


「ねぇ。XXXXXX」


 寂しそうな声音で彼女が、こちらを見つめ名を呼べば――勝手に動く身体に、心が同調していく――鼓動が次第に早くなる。

 それを悟られないよう無表情を作り、そっけなく返事をする。


「ん?」


「あなたを愛しているわ……」


 愛しい彼女を抱きしめようと手を伸ばす……が、この爪で引き裂いてしまうかもしれないとその手を引っ込める。

 今すぐ欲しいと願う思いをひた隠し、切なく心を締め付ける。


「XXXXXX。我も――」


 愛している。そう伝えたかった……。

 私の腕を彼女が抱きしめる。愛しいと判る口付けを爪へと落とした。


 ――刹那、色彩豊かな野の花が咲き乱れていたはずの花々は朽ち果て、白いローブが赤へと変わる。

 何かが危険だと訴える。焦り彼女を掴もうとその腕を伸ばすも届かない。

 

「XXXXXX ダメだ! 早くこちらへ来い!」


 必死に叫び呼んだ。

 首を振り笑う彼女の相貌から幾重にも雫が伝い落ちる。麗しい筈の唇から赤い液体が流れる。


「ごめんなさい。それでも私はXXだから、助けたいの……」


「嫌だっ! XXXXXXを死なせたりなどしない!」


 必死に翼を動かし近付くも……闇はあざ笑うかのように彼女を飲み込みだ。

 私の望み願った世界が崩壊する――。


「グルオォォォォォ」


 全てを奪われた悲しみが、切なさが、孤独が、咆哮となり響く――。

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