リーシャの婚約・答え②
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/シュベル
次の日昼過ぎに、痺れを切らしたように宰相を伴った気まずい顔をして皇王が屋敷を訪れた。食事終わりの紅茶を飲んでいたリーシャはその姿を確認すると、立ち上がり2階へと逃れようとリビングの入り口へと向う。
「リーシャ。ちゃんと話さないとだめだよ?」
ウィリアの言葉に、足を止め肩を揺らし俯いた彼女はソファーへ戻ると座った。隣に腰を降ろすと手を握り、何度も大丈夫だよ。と声をかけるとリーシャは顔をあげ皇王へ視線を向けると自身の希望を言葉にした。
「お父様。私は……どんなに反対されようともカシオ様の元へ嫁ぎますわ!」
彼女の意思の強さを感じたのだろう、疲れた表情を見せつつも父親として微笑むと彼は、ゆっくりと息を吐くと反対ではないと伝えた上で、どうしてこんなに拗れてしまったのか諭す。
「何故お前の相手に、ヒーゼベルト辺境伯家を選んだのか話していなかったね。リーシャ。良く聞きなさい」
神妙な顔して、頷く娘を見つめた彼は優しい父の眼をして真相を伝えた。
「お前と……その付き合っているカシオだったか? カシオの実家である、ニーデルク子爵家とヒーゼベルト辺境伯家は、遠い姻戚関係にある。
元々、ヒーゼベルトの当主ははカシオの才能が惜しいと卒業後、辺境伯家の跡取りとして養子に迎える予定だったのだ。
カシオ自身貴族社会での後ろ盾がないことから、お前との縁談話を進めて欲しいと以前より話があった。だからね、リーシャは心配しなくていいんだ……」
「ほっ、本当なのですか?」
「本当だ。お前をグリンヒルデにやるつもりは無いから安心しなさい」
皇王は本心からなのだろう強い口調で言葉にすると、寂しそうな顔で笑った。
「お父様!!」
皇王呼び走りよると抱きつき、その胸に顔を埋め嬉しそうに微笑み泣くリーシャの背を優しく撫でている親子の様子に、ウィリアは手を叩き喜んでいる。私たちは、心底安堵するのだった。
お菓子を作るためキッチンへ移動しようとするウィリアを、追いかけ着いていったリーシャを見送り、紅茶を飲んだデイハが難しい顔を見せて話しを切り出した。
「しかし、グリンヒルデの動向の意味がわかりませんね……」
「確かに……。この国は、竜の保護に協力的な国だ。それなのに馬鹿王子とは言え、リーシャを嫁にしようとするとはな」
馬鹿王子の顔がチラつき、嫌そうに顔を顰めればその顔を知らない皇王が興味深そうに質問を投げてくる。
「その……。先日から馬鹿王子と呼ばれていますがそれほどですか?」
「まぁ……なんというかな……」
なんと説明したものか……と端切れの悪くなる私の代りにデイハが吐き捨てるように簡潔に語って聞かせた。
「あれは、謝罪するべき場で自分の立場も弁えず、あまつさえ同盟を結ぶなどと世迷言を言ったあげく、ウィリア様を妻に迎えるなどと言うほどだ」
彼は、事実か? と疑うような視線を送ってくる。
「事実だぞ」
「グリンヒルデとの縁談を断っておいてよかった……」
リーシャが可愛い皇王としては、他国にやりたくはなかったのだろう。だからこその苦肉の策だったのだろうが、思わぬ情報を得て本心からそう思ったようだ。
「しかし、皇王も苦労が耐えないな」
同情的なセリフになってしまったが、そのつもりはなく思ったままを口にしただけだった。のだが……。
「わかってくださいますか?」
その言葉がきっかけとなり皇王の苦労話がはじまった。国の重鎮たちからの圧、皇妃との不仲説、害虫の婚約者探しにいたるまで、切々と語ってる。
そこへ、お菓子を持ってウィリアとリーシャが戻ってくる。
「シュベル様。皆。お待たせしました」
テーブルに置かれた複数の皿には、1口サイズの沢山の果物をあしらったタルトと呼ばれるケーキがいくつも置かれている。
そのひとつを手に取り口に含めば、甘酸っぱい果物の香りと味が広がり、あとから、甘い卵の香りのするクリームがまろやかにする。ちょうどいいバランスのとれた甘さだ。
「うん。旨い。これならいくつでも入りそうだ」
素直に感想を漏らせば、ウィリアは嬉しそうに微笑み手に持っていたタルトを私の口へと運んでくれる。えさを貰うひな鳥のように大きく口を開けパクっと食いつく私の姿に、くすくす笑い声を出す2人の様子に本当に、仲良くなったものだと初めて出会ったときの事を思い出した。
「本当に、仲が良いのだな」
と、言葉にすればドヤ顔を決めたリーシャが「当然ですわ!」と返し、それに同調するように「ね~」とウィリアが言った。
楽しそうに笑い合う2人が、これからもこのままの関係で居られるようにと心から願う。
私の心の願いとは裏腹に、1人静かに考え込んでいたらしい宰相がタルトを食べ終え、グリンヒルデの事でと難しい顔をする。
「実は、かの国の第2王子が未だ我が国へ滞在していると、報告があり調べたところどうやらデュセイの裏宿に潜伏しているようなのです」
「理由は?」
真っ先に反応したのはベルンだった。
「未だわからないのです。既に学園を卒業して2年は経過しています。
不審に思い、出入国の記録を調べましたが、確かに2年前卒業式から1週間後に出国した記録はあるのですが……。
その後の入国の記録が見つかりませんでした」
「なんだとっ!」
大きな声をあげたのは、皇王の方だった。
何故、1国の王子が不法入国してまでこの国へ滞在しているのか? と宰相へ詰め寄るも、宰相もまだそこまでの理由がわかっているわけではないのだと釈明していた。
「理由がわからないとなると不気味じゃな」
ジオールの言葉に、頷き同意するも心なしか不安を感じ、横に座るウィリアの腰を抱き寄せた。
私の不安を感じたのか、腰にまわした手を包み込むように握ってくれる。
「セシルたちに、グリンヒルデの街を調査させてはいかがですか?」
「調査か……」
リュークの発言に、デイハが苦々しい顔をみせる。
「人族の姿をとれる今ならば、奴らの調査をすることも可能かと思います」
確かに、魔法:擬人化を使えば可能だが……
「だが、危険を伴うことになる」
デイハの心配も理解できる。人族の姿を取れるからと言って安易に踏み入ることを許可することはできない。いつバレ殺されるかもしれない場所へ、仲間を送るのは不安になるものだ。
「確かに、それはそうですが……。後手に回りまた仲間を失う思いをするのであれば、少しでも情報を得て回避すべきではありませんか?」
「確かに、そうできればいいが……」
言葉を濁すデイハの変わりに、宰相が質問しつつ提案する。
「先ほどからお伺いしていましたが、グリンヒルデの首都へいけるのですか?」
「あぁ。元々デイハたち元南の竜たちは、グリンヒルデの国内に住んでいたからな。ある程度の場所なら空魔法で飛べるはずだ」
なるほど、と頷く彼に何故そんなことを聞くのか聞いてみれば
「もし、竜大公様方のお許しをいただけるのであれば、我が国の諜報を得意とする者たちを同行させていただこうかと考えていたのですが……。
もし、可能であれば彼らだけを送り届けていただくことはできませんか? それならば、竜の皆様に危険が迫ると言うことも無いはずです」
宰相の申し出は願ったりでありがたいことだ、その場合私たちは危険を冒さず、情報を得ることができる。だが……本当にそれでいいのだろうか?
「その案は非常にありがたいが……」
「こちらに危険が迫ることを危惧されているのであれば無用の心配ですよ。彼らは一流です。まずバレることはないでしょう」
宰相は、眼鏡をクイっとあげると自信に満ちた瞳でそう言った。
ならばと送迎は我らが手を貸すこと、得た情報はできるかぎり共有することを約束して話を終わらせた。
デュセイの裏宿に居るらしい、第2王子の件はこちらでも調べようと言う意見が出たため、それについては必ず複数人で行動をすることを告げ了承した。




