回想と自由研究
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/ シュベル
ヒルデスとバーリンが捕らえられてから既に3日が経っている。何故未だここに留まっているのかは、先の話し合いで名前の出ていた、グリンヒルデの王子が関係している。
あの日夕食を共にしていた国王は、冒険者ギルドのヒルデス・バーリンが犯した罪を全て調べあげると豪語していた。ここ2日ほどだが姿を一切見ていない……忙殺されているのかもしれない。
巫女を送り届ける際に一緒に宰相ノービスを空魔法でアルシッドク皇国へ送り届けたのだが、こちらもまた、不在の時に溜りに溜まった書類の山に忙殺されていると皇王が言っていた……。
カレラ・ロート親子はと言うと、国王の計らいもあり父、ロートはスラム一帯を警護する仕事を貰い働いているようだ。カレラには、いずれはニーヤが跡を継がせると言っていたので、そのうちそう言うことも学ぶのだろう。
ヒルデスとバーリンの取調べで分ったことがあった。と言ってもこの情報はハロウより私たちに伝えられたのだが……。
まず、今回の竜討伐に関与しているのは、間違いなくグリンヒルデ王国であること。以前第2王子が魔力操作のことで問い合わせをした際に、功を焦ってのことだと思っていたのだがどうも違うようだ。
バーリン曰く、『いずれこの大陸をも手中に収めることを目的に動いている』と第3王子がはっきりと言った上で、『この大陸を手に入れた暁には、領主として爵位を与え召抱える』と言う旨味のある餌を目の前にぶら下げられ話に乗ったそうだ。
その話から、竜討伐の理由についても分った。一言で言えば、軍事的に利用するためだ。
『鱗は、鎧の強度をあげるため、皮は、鎧の止め具や腰帯に使うため、骨は、武器を作るため、血はポーションの材料に』と第3王子が伝えたらしい。
「いっそ竜族全てを連れてグリンヒルデを滅ぼした方が、この世界のためになるのではないか?」 と口を挟んだ私に、「竜族が手を出さずとも、いずれ潰えるでしょう」とハロウが言い軽快に笑っていた。
まぁ、確かにいろいろな国から恨みを買えば、いずれそうなるのは当然だといえる。
そんな会話をしていると、彼はそうそうと言葉を区切り「件の第3王子ですが……」と言葉を続けようとしていたが濁し、一瞬伝えるべきか迷うように視線を彷徨わせた後教えてくれた。
どうやら、捕らえ連れて来た冒険者の中にグリンヒルデ王国の第3王子が混ざって居たらしい……。何故、判明したのかと聞けば「ヒルデスを拷問して問いただしたところ、アルスティ・コーセンと言う偽名を使いグリンヒルデの第3王子が討伐隊にいる」ことなどを話してくれたそうだ。
昨日の昼にそのことが判明し、国王が牢の中にいる第3王子に面会したところ間違いないと判断された。と言う報告を受けた。
何故、1国の王子がわざわざ冒険者に混じって領地に来ていたのかについては、王子が黙秘し続けているため不明と言われてしまった……。
思考を整理し終え、コーヒーをすする。やはり、ウィリアのコーヒーは旨い。荒んだ心が洗われ優しく包み込まれるように穏やかな気持ちになる。
顔色も魔力も無事に戻ったウィリアは、自由研究という学園からの課題を、離宮の庭園内にあるグリーンカーテンがほどこされた東屋でこなしている。
ウィリアが自由研究の題材に選んだのは、アルシッドク皇国には無い草花を調べ記す、図鑑を作るのだと言っていた。
根気の要る作業になるだろう……。出来る限り協力してやりたいと思った。夜の人族が寝静まった時間を利用し方々へ飛び回り草花を摘んできていたのだが、今朝朝食を取っている私たちに向けて困った顔を見せ
「皆の気持ちは嬉しいけど、こんなに沢山持ってこられても書けないよぉ?」
そう言われてしまった……。どうやら、協力しようとしたのは私だけではなかったらしく。皆視線を逸らし頭を掻いたり、頬に手を当てたり、額に手を置き目を覆たりと様々な反応を見せていた。
「迷惑だったのか?」
罰の悪そうな表情で問いかけたアルティに、ウィリアは笑顔で横に首を振る。その度に、横に流した紫苑色の髪がふわりふわりと靡いていた。
「迷惑じゃないよ! でもね、あんなに沢山つんで来てもらっても、直ぐに書けるわけじゃないから枯れちゃうの……だから、気持ちだけ貰っておくね?」
両手を顔の前に合わせ、顎を引き上目遣いで頼み込むウィリアの可愛さに、私たちはそれ以上何も言えなくなった。
そんな彼女の側に座りコーヒーを飲むのが私の今日の仕事になった。
1つ1つ手に取り、詳細な絵を書いていくウィリアの横顔を眺め、時々その頭を撫でつつまったりとした時間が過ぎていくのを感じながら、第3王子の今後について考える。
他国の王子である彼に対し、皇王も国王もきっと処罰を下す事はできないだろう。かといって、そのまま見逃すと言うのも納得できない。もし、可能であるのならばグリンヒルデに直接乗り込み国を潰してしまえれば良いのだが、それをすればきっと優しい彼女は悲しむのだろうな。
視線だけを横に向け彼女の真剣な横顔を眺める。
人族に関わりを持つべきだと、神々はおっしゃった……。だが、関わればかかわるだけ、人族の貪欲さ、狡猾さ、と言ったものが浮き彫りになり本当にこれでいいのかと考えてしまう。
《シュベル様、国王がお話があると訪ねてきております》
ウィリアの側で思考に耽っていたところに、屋内にいるベルンから思念が入った。わかったと答え、その場をアルミスたち女竜に任せると応接室へと向った。
応接室内に入り久しぶりに顔を見せた国王は、目の下に隈ができ、頬は少しこけて見える。酷くやつれ疲れているようすが心配になり座る前に声をかけた。
「久しぶりだな。だいじないか? 無理をしているのではないのか?」
「えぇ、ギルド関係の処理が大量にありまして、時間がかかっているだけですよ……」
ハハハと乾いた笑い声をあげ、はぁ~。と溜息を吐く国王に同情しつつ今日来た理由を尋ねる。
「それで? 今日はどうしたのだ?」
居住まいを正した国王が、視線を合わせると頭を下げた。
「申し訳ありません」
理由が分らず戸惑いを感じていると、頭を下げたまま国王が理由を話し始めた。
「グリンヒルデ王国第3王子に関してです。彼の王子に対し我が国では罪に問えないと言う結果になってしまいました……。どうにか謝罪させると言う方向で話はできたのですが、お力になれず申し訳ありません」
特に気にする必要はないのにな……。それでも、この男は私たちへの義理を通すためこうして足を運んだのだろう。
「頭をあげてくれ。謝罪させると言う言葉だけでもありがたいことだ。それにだ、この国を私たちのために巻き込むつもりはないのだ」
ギュウと皺ができるほど膝に置いた手を握り締める国王へ、もう1度諭すように言葉をかける。
「頭をあげてくれ……。気にしなくて良いのだ。民を守るための選択なのだろう? ならば、謝る必要は無いのだ」
「もう……しわけ……ございま……せん」
国王は顔をあげてくれたのだが、悔しそうな表情をしていた。
きっと会議で進言してくれたのだろう……だが国というものは国王の独断で動かす事はできないのだ。そこに暮らす民のため自国を守る必要がある、彼にとっては不本意な結果になってしまうことだって少なからずあるはずだ。
「もう、謝るな。お前が気に病む必要もないのだ」
言葉をかければかけるだけ、彼は思いつめるように握った拳をきつくしていた。話しを変え重い雰囲気ををかえようと、別の話題を振ることにした。
「話は変わるのだが、この国で草花が沢山咲いている草原のような場所は無いか?」
少し考える素振りを見せた彼は、少しでも役に立つならばと何箇所も紹介してくれる。そんなに覚えられないと伝えれば、あとで地図を写して渡すと約束してくれた。
2日後に第3王子と面会することになったことなどを話し、国王は肩を落として帰っていった。
その夜、ウィリアが眠りについた後、庭先にすわり
ただただ、月が大地を優しく照らし、沢山の星が煌く空を眺めた。
いつの間にか横に座ったデイハが共に夜空を眺めてくれた。きっと、第3王子との面会に複雑な思いがあるのだろう。そう思うも話しかけるのを躊躇いただ静かに2人夜空を見あげた。
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