侵入者・・・アカシ?①
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/シュベル
日差しが照りつける窓辺で、外の木々が濃い色合いに変わるのを眺め、私はひとりコーヒーを飲む。ウィリアの入園から、ひと月が過ぎようとしている。約束の魔道具は、入園した日からウィリアがコツコツ夜なべして作っていた。2週間目で学園生徒の分を作り、昨日漸く、魔法師団の分を作り上げた。魔力枯渇による脱力などの症状は出ていないようだったが、今日は大事を取り学園を休ませている。
昨日の夜に、魔道具が出来上がったことを知らせてある為、今日の昼あたりには城からの使いが取りに来るだろう。
リーシャの言っていた、森については私の領地と言うわけではなかったが、領地の直ぐ側だったこともあり、現在は森を監視するだけで済ませてある。記憶を失う可能性がある以上、近付くのは危険と判断したためだ。今日此方へ来るのが皇王か宰相なら、その話しを聞いておきたいところだ。
「おはようございます。シュベルお父様」
「あぁ、おはよう」
5部袖から肩の部分がレースになった近い白のワンピース、髪をシュシュと言うふわふわしたゴムで、頭の上の方にひとつ結びしたウィリアが、今日も可愛い笑顔で朝の挨拶をしてくれる。項がとても美しいと思う!!
早速、朝食の用意をはじめるため、キッチンに向うウィリアの後姿を追うように、私はキッチン側にあるカウンターへ向った。鼻歌混じりに、包丁を使い野菜を切っていく手付きは、慣れたもので見ている私でも簡単にできそうだと思うほどである。
実際にやってみたこともあるのが、野菜と一緒にまな板と呼ばれる板まで切ってしまい、苦笑いされたのもまたいい思い出だ。
《シュベル様》
ウィリアの料理を見ていた私に思念が届く。
《ジオールか、どうした?》
《実はの、昨夜見回り中に怪しい人影を、かの森にて見たのじゃ》
《それは、どのあたりだ?地図で見ればわかるか?》
《いや、実際に飛んだ方がよいじゃろう。わしには人族の地図は読めんしの》
《わかった。昼間は目立つ! 今夜その場所を教えてくれ》
《はっ! ところで、そろそろ朝食の時間かの?》
《そうだな。今ウィリアが作っているところだ》
《直ぐに戻るのじゃ》
《あぁ。そうしろ》
そこで、思念は切れた。最近は、ジオールも屋敷で朝食を摂るようになってしまった。わざわざ、塒から戻ってこなくても、そのまま狩りをすればいいだろうに……などとは言えず、私は溜息を吐き出すとキッチンで料理をしているウィリアへ視線を向けた。
ジオールが戻ったのは、それから10分ほど後のことだった。ダイニングの椅子に腰を下ろすジオールの側に移動する。昨夜見た人影について詳しい話を聞くことにした。
「人影について聞きたい。人数や服装などはわかるか?」
私の問いに、ジオールも真顔になり指を顎に沿え思い出すように話し出した。
「人数は、5人~10人と言ったところですな。暗がりでこちらには気付いていなかったようすじゃった、声から判断するにそのぐらいの人数はいたかと……服装は、皆ばらばらで、剣士・魔術師・斧使いなどさまざまいたようじゃ。金属の擦れる音やローブで草木が揺れる音などで判断するしかない感じじゃった」
「なるほどな。10人とはまた多いな……」
頷くジールが、魔法:個人箱から何かを取り出すと私の前へ移動させた。
「これは?」
「そやつらが落としていった物じゃ」
「ふむ」
手に持ってみたそれは、10センチ程の板のついた首飾りで、文字が書かれている。私には理解できない文字である事から、この大陸の文字ではないようだった。
暫く、逡巡した私は、知識の女神ミスティ様より知識を得たウィリアにこの首飾りを見せることをジオールに相談する。
「この首飾り、ウィリアに見せてみるか? この文字が読めるかも知れん」
私の言葉に、ジオールも頷いて同意してみせた。
「しかし、何故わざわざ夜に移動していたのか……謎ですな」
「そうだな、人族は夜目がきかないはずだ……キナ臭い匂いがするな……」
「ですのぅ」
真剣に話す私たちの前に、ウィリアのお手製の朝食が並べられはじめた。話しを一旦切ることをジオールに視線で確認し、了承を得たことで目の前に並ぶ料理に視線を向けた。
朝ごはんに用意されたのは、ウィリアが言うには和食と言うらしい。芳醇な香りの汁物(味噌汁)、野菜と肉を煮込んだもの(肉じゃが)、卵を使って上手く丸め焼いたもの(出し巻き卵)と色とりどりのおかずが並んでいる。それと米だ。
全てが旨い! ウィリアの料理に端をつけるたび、虜になっていく私とジオールの様子に、ウィリアはクスクスと笑い「美味しいですか?」と聞いてくる。私たちは2人して、何度も首を縦に振った。
その様子はとても、滑稽だったろうにウィリアは、嬉しそうに笑ってくれた。
食事も終わり、皿などを片付け終え紅茶を飲んでいるウィリアに、私はさっそくジオールの持ち帰った首飾りを見せることにした。
「ウィリア、これを見て欲しい。そこになんと書いてあるかわかるか?」
首飾りを、ぶら下げ差し出せば、ウィリアは受け取り文字を見て読み聞かせてくれた。
「冒険者ギルト シュトラス支部 Bランク アルスティ・コーセン そう書いてあるみたいです」
「シュトラス支部か……どこの支部なのだろうな?」
私の呟きを聞いた、ウィリアは少し考え
「確か、グリンヒルデの首都の名前が、シュトラスだったと思います」
グリンヒルデの首都の名前か、ここでまたあの国が出てくるのか……。
私はウィリアに礼を言うと、少し散歩に行くと伝え塒へと移動した。
私は、直ぐに思念を送る。
《少し相談したい事がある。ベルン・カシ・デイハ・リュークは直ぐに、塒に戻って欲しい》
呼ばれた者達は直ぐに返事を返し、塒へと向ってくれた。ジオールは私と共に塒へ来ていたこともあり呼びかけはしなかった。デイハ・リュークは既に居たらしく直ぐに姿を見せた。
それから間もなくして、全員が揃った。以前話した、グリンヒルデ王国から来た王弟が竜を狩るよう公言したことなどに関しては自分の胸のうちにだけ収めたいと願いがあったこともあり、他の竜達には詳細を話していない。
「突然、呼び出してすまない。例の森にて、昨夜不審者が目撃された。数は5~10名。服装や持ち物から冒険者ではないか? と疑っていたが、ジオールが持ち帰ったこの首飾りに記された文字で断定できたことがある。この文字には、冒険者ギルト シュトラス支部 Bランク アルスティ・コーセンと書かれているそうだ」
首飾りを取り出すと、私は首飾りを皆に見える位置に置いた。皆は興味深そうにそれを見ている。
「シュトラス支部があるのは、グリンヒルデ王国、その首都の名がシュトラスだそうだ……」
デイハの顔色が一気に険しくなり、机に置いた手を下ろし拳を握っていた。
「また、グリンヒルデ王国ですか……」
ベルンも私と似たような言葉を口にしていた。その顔は険しい。
「ここ最近、やたらとその国の名を聞きますね」
そう言ったのはカシだ。
「相談というのは、かの森にその国の冒険者が居ると言うことを踏まえ、その森から塒までの森、渓谷、沢などへの竜達の立ち入りを禁止する。森からかなりの距離があるとはいえ、今ここで塒の位置を特定されるのはこちらとしては不都合極まりない。解決策が見つかるまでの間でいい、どうにか皆を説得してもらいたい」
私の言葉を受け、リュークが手をあげた。私は頷く事で発言の許可をあたえる。
「確かに、塒を知られるわけにはいきませんが、何故そこまで警戒するのですか? 5~10名程度ならば、私たちを狩れるほどではないでしょう?」
事情を知らないリュークの意見は尤もな言い分だ!
「確かに、5~10名の人族では我らに太刀打ちできん。だが、もし大規模な人族が後ろに控えているとすれば、それは間違いなく我らを誘い出すための罠となるだろう?」
リュークは、腑に落ちない顔をしながらも納得したように頷いてくれた。
以前、あの森で見かけた者たちが、もしかの森へ移動していて、竜を狩るつもりならば100名以上の人族を相手にすることになる! 相手を屠ることはできるだろう、だがこちらも、ただでは済まないだろう。
どうすれば、皆の安全を確保できるか、それがこれから相談すべき重要な案件になる――。




