ウィリアノココロ②
②です。
/シュベル
リビングで寛ぎ、ウィリアに本を読んで聞かせていると、水浴びを終えたジオールが戻ってきた。
先程の会議を思い出していたらしいジオールが忌々しげに言葉を吐いた。
「南は、頑なだのぅ!」
その言葉をカシが拾う。
「確かに、彼らの言う事も分らなくはないのですが、皇王達の話を聞く限りこの国の上の方は心配するに及ばないと思うのですけどね」
「皇王達を知らないのが大きいのかもしれませんね? 先入観が多いのでしょう」
ベルンの言葉に、2人は頷き溜息を吐いた……。
「しかしのぅ、平行線のままでは何もはじまらんのだがのぅ」
ジオールは頭が痛いと言わんばかりに、眉間に手を添えている。カシリアが、そんな重苦しい空気を壊すように、明るい良く通る声を出す。
「そんな、辛気臭い顔しないで~! 甘いものは疲れにいいらしいですよ? これ食べましょう?」
手には、丸くコロコロした色とりどりのお菓子が乗っていた。可愛らしい菓子は、マカロンと言う物だそうだ。
「それと、これも」と言って取り出したのは、強い酒の入った白磁の瓶だ。
その酒を皆の紅茶に入れていく。もちろんウィリアのには入れていない。私が酒の入った、紅茶を一口飲むとウィリアがマカロンをひとつ摘み私の口へと運んでくれた。
ハァ~至福だ!! このままここでウィリアと一緒に居られればいいのに!!
至福の時間は直ぐに、ベルンの溜息によって崩されていった。
「シュベル様は、どうお考えなのですか?」
ここで、私の意見を聞こうと考えたのか、だがそれでは何の意味も無い。
「私は、お前達の意見を聞くだけだぞ? ここで私が何かを言えばそれがお前達の意思に取って代わる! それでは意味が無いだろう?」
口角を上げ笑って言えば、3人の恨めしそうな目が私に向けられた。
ガックリと項垂れるカシ・ベルン・ジオールに対し、仕方ないとウィリアを差し向けることにした。
3人に気付かれないよう、思念で話をする。
《ウィリア、3人は会議で疲れているようだから、マカロンを食べさせてあげてほしい……》
《はい、シュベルお父様》
そうして、ウィリアは立ち上がると、まずはジオールのところへ行き。
「ジオールお爺様、あ~ん」
可愛らしい笑顔を向けて、指に摘んだマカロンを食べさせた。突然のあ~んにジオールは、一瞬固まるもデレデレの顔になり、口を開けていた……。そして、次はベルン・カシと同じように食べさせ、3人の顔が緩むのを確認しウィリアを手招きで呼び寄せ撫でた。
デレた3人に、というより父親に対しカシリアは、顔を引きつらせ(ドン引き)ていたのは見なかったことにした。
その後、デイハ・リュークがアルティを連れて屋敷を訪れた。なぜアルティまで…と言いそうになったが、一度謝罪した事でとりあえず様子を見る事にした。
「へぇ~すっげーなぁ! ここが北の竜の本拠地ってわけかぁ」
などと、いい物珍しそうに見回している。相変わらずの口調らしい……。
フッとそう言えばと思い出す。あの激しい気性の娘リィハを見かけなかったが、どうしたのだろう?
「そう言えば、デイハ殿の娘はどうしている?」
「あぁ、え~とですね……」
私の問いに歯に物が詰まったような言い方で、言葉を濁すデイハ
「聞いてはまずかったのか?」
そう問いかければ、いいえ……、お話した方がよいでしょうと話しだした。
簡単に言うと、未だにあの性格は直っておらず、私の妻になれると思い込んでいるらしい…その上で北への移動とくれば暴走しかねないと考えたデイハは、リィハを隅の塒に押し込み、行動を起さぬよう監視を付け行動を規制していると言う事だった。
話を聞き、なんとも言えない顔をするしかなかった。女の執念とは凄いものだなとある意味関心した。
リィハの事はおいておて、と前置きをしデイハは話を振ってきた。
「本日の会議についてですが、シュベル様はいかが思われましたか?」
つい先程した会話を思い出し、ふっと笑ってしまった。
「いかがされましたか?」
不安げな顔をみせ、リュークが問いかてきた。そんなリュークに笑った理由を話す。
「いや、つい先程も同じ事を、ここに居る者に聞かれたばかりなのでな。少し可笑しかっただけだ。私が思う事は、『お前達の意見を聞くだけだぞ? ここで私が何かを言えばそれがお前達の意思に取って代わる! それでは意味が無いだろう?』と言う事だ」
「――――」
沈黙が落ちる。皆きっと、どうにかしたいのだろう…だからこそ私の意思を求めたのだろうが、私は、私が意見する事を否とした為、各々どうしたらいいのか迷っているといった様子だ。
室内にウィリアのとても小さいはずのくすくすと笑う声が響く。何を笑っているのかと思い、ウィリアに視線を向けると彼女は、小刻みに左右に揺れていた。
「ウィリア、どうかしたのか?」
「ひゃい、おとうしゃま?」
ん???? 何があったのだ? 幼い頃の言葉遣いになっているぞ!
そして、ウィリアの持っていたカップに視線を向ければ、それは先程まで私が飲んでいた紅茶が入っていたカップだ。ただし、強めの酒を入れてあったはず!! 気分転換にと、カシリアが配っていたのを思い出す。
「あぁ。酔ってしまったのか?」
「うぃーあ、よってにゃいもん」
幼い頃を思い出す!! 可愛い。他の皆も思い出していたのか、懐かしそうに目を細め笑みを浮かべると「懐かしいですな~あの頃はじぃーおじたまとわしを追い掛け回しておられたのぅ」やら「あの頃はまだ、歩くのも覚束無くて冷や冷やしましたね」、「笑うと野に咲く花のように可愛らしかったですわ」など、口々に呟いた。
そんな皆をぶった切るように、ウィリアは「うぃーあは、おこってるのー!」と言い突然怒り出した。
「おとーしゃまも、じーおじも……みぃーなもー、うぃーあのことなかまはずれーにしゅたー!」
などといい、最後には、膝を抱えて泣き出してしまった。
私含め周りの大人は、なんとか泣き止んで欲しいとオロオロするばかりで、何の役にも立たなかった。どうしたものかと悩んでいると……。
北の竜で最高齢と思われる女竜のシュナが珍しく1階に降りてきていた。シュナは基本、塒に篭りあまり外に出る事は無い。屋敷に部屋を作ってからは、その部屋に篭り食事以外では顔を見せる事は無かったのだ。そのシュナが泣くウィリアを優しく抱きこむと慰めはじめた。
何故、シュナがウィリアをあやすのか?2人にどんな関係があるのか? 不思議に思うも、ウィリアをあやし慰めてくれている今、聞くことでは無いと思い、ただ彼女に任せる事にした。
漸く泣き疲れたのか、眠ってしまったウィリアを抱かかえたまま、シュナは、そのしわがれた声で静かに語りはじめた。
ウィリア様は、ずっとずっと悲しんでいらっしゃったと……。
(今より、ずっと幼い頃、この子は種族が違うことを人知れず泣いておったところに、たまたま出くわしてその日より、この子の話を聞く事にしたのじゃ……)そう言うと、少しだけ懐かしそうに目を眇めた。
(他の皆には語れないこの子の心――自分だけが違う種族だという事を理解し。違うからこそ、いつか皆に嫌われ捨てられるかもしれないとそう言ったこの子は、強い意志を持った眼差しで、自身が後悔しない為、自分ができることを一生懸命やりたいと…皆に料理を作る事で感謝を示したいと言っておったぞ…)
(我らは竜族、この子は人族、その違いは消えぬ――だが、この子の思いは伝わるはずじゃ!! それに)と付け加え、シュナが、語って聞かせた話は、南の竜が来た際の事、城での出来事など、今まで私達には語られることの無かった。ウィリアの思いがふんだんに詰まっていた。
最後にシュナは私・デイハ交互に視線を向けると
「のう。我らが王よ、南の長よ、何故あなたさま方は、この子を竜達と別けたのだ? 何故――仲間と言いながらこの子だけを除外した? この子は、頭が良い子だ。お前達を困らせない為・竜達の為と理由をつけられれば、嫌われ捨てられぬようにと自身の思いを押さえ控えるだろう――だが、その心がまったく傷を負っていないと――そう思っているのかの?」
「っわ、私は……」
問いかけられ……南の竜の行動や言動に振り回され悲しむよりも、屋敷で過ごしたほうがこの子の為に良かれと思ったのだ!! と、そう言いたかった。だが、泣きつかれ眠るウィリアの顔をみると言葉が喉に詰まったようにでてこなかった…私達は選択を間違ったのだと、そう思った。己の愚かさを知るには、十分だった……。
きっと、私達はとても苦い顔をしていただろう。そんな私達の様子を見ていた、シュナは一度、細く長く息を吐き出すと
「これから、気をつければ良いのじゃ、この子の器はこの世界に住むどんな竜より遥かに大きいからの。ほっほほ」
そう笑って、ウィリアを優しく撫で、ソファーに降ろすと部屋へと戻っていった。それを見送っりシュベルは眠るウィリアの目尻に残る涙を拭い「すまなかった……」と静かに告げた。
その後、会議の時間となりアルミスにウィリアを託すと議場へと向かった。
会議は思いのほかすんなりと終わりを迎えた……。
叙爵に対して反対意見を出していた、リューク・アルティの二人が、叙爵に条件をつける事で賛成と意見を変えた為だった。今後、皇王にこの条件を伝え、承諾するよう働きかけていくと言うことで纏まった。
シュナの語りは、2人にどんな思いを持たせたのか……。
それは私にも判らないが…きっとウィリアと言う女の子の心を知ることができたのではないか? そう思うことにした。
シェナとシュナ…似すぎてたった数回なのに入れ替わる…と言う罠…




