再会
/シュベル
海を渡りきり、既に3日グリンヒルデ上空を旋回しウィリアの痕跡を探しまわる私へ、ベルンはじめ皆が休めと無理矢理、屋敷に連れ帰りルリアの作った緑の色をした飲み物を飲まされ、その不味さに意識を失った。
またこの夢かとそう思った……。
ゆっくりと羽ばたき飛ぶ私の視界に、紫苑色の髪を持つ少女が落ちてくるのが映り助けなければと思い、急ぎ翼をはためかせ移動する。
何とか彼女をその背で受け止め乗せれば、私の鱗を撫で名を聞いてきた。
いつもならば聞き取れないはずの名が、はっきりと聞こえた。
シュハニベル・クリミム・ハガートナスだと! それは我ら竜種の初代王竜の名ではないか……何故、私が初代王竜の夢をみる?
理屈は良く分らないだが、背に乗せた少女は私の良く知る彼女に良く似ていた。
『シュハニベル様……』
『なんだ?』
『ここは、どこですか?』
『ここは追憶の空と呼ばれる場所だ。そなたの記憶がここへそなたを連れてきたのだろう』
『そうですか……』
『あぁ』
少女は私ではない私の名を呼び、私でないものと会話を交わす。
追憶の空と呼ばれるこの場所の名をはじめて知り、何故私がここにいるのだろうと不思議に思うも、シュハニベルの感情に同調するように、思考は薄れて行った。
少女を乗せ、花が咲き乱れた平原へと向う。あそこならばなんとなく喜ぶのではないかと考えたからだ。案の定平原につくと彼女は、嬉しそうに微笑んでくれた。
丘の上に立つ、私の愛しい彼女の墓標の前に移動する彼女を追って私も共に移動する。
ウィスユリア……私をひとり残し、国のため死を選んだ私の唯一無二の番。
彼女を私から奪った、国を恨んだ、人族を恨んだ……許せなかったのだ……なのに何故私は――。
『シュハニベル様が、ウィスユリアのお墓を作ってくださったのですね』
『あぁ。私の愛しき番の――』
『シュハニベル様……』
彼女の腕が私の首へと回り、シュハニベルは私なのだと幼いような声音でそれは告げた。
『今度こそ幸せになるんだよ』と……。
あぁ、そうか私は、今一度生をやり直したのだ。
愛しい番を失い、死を選んだ私に神は、もう一度やり直す機会を与え、私の番を私の子として授けて下さったのだと理解した。
『そなたは変わらぬのだな。
ウィスユリア……否、今はこう呼ぶべきか――ウィリア。そなたはいつも私を救う』
その刹那、魔法:擬人化を使わずとも人の姿をとっていた。
シュハニベルではなく、シュベルとしてその少女を抱きしめ思いを伝えた。
『シュベル様』
『必ず助ける、だから待っていろ――』
愛しい私のウィスユリア、もう二度と失ったりはしない。
彼女の中のウィスユリアが私へ愛を囁いた。
”私の愛しい人。あなたを残し、国のため死した愚かな私を許し、愛してくれるのですね。
時を経て再びあなたに愛された……ただそれだけで――”
”あぁ。私もお前を愛している。これからも、この命が消えるその時まで永遠に――”
突如夢が途切れ、勢いよくベットから起き上がり周囲を見回せば、自室のベットの上だと理解できた。
嫌な汗が全身から噴出す感覚に、焦りを覚え急ぎグリンヒルデへと空魔法を使う。
薄暗い雲が覆う空を見上げ、ウィリアへ思念を飛ばす。
切れた後もこれだけは止められず、数分置きにおくってしまう。
その時だった、大気が歪みグリンヒルデの城からウィリアの魔力によく似た波動を感じ、竜体になり急ぎ城へと向う。
《ウィリア……聞こえるか?》
《ウィリア様、聞こえるのであればお返事を!》
《ウィリア様、どこじゃぁ~。爺が探しにきたぞぉー?》
《ウィリア様、皆が心配しておりますよ。お返事してくださいまし》
《ウィリア様どこにおいでですかな? お返事をお返し下さい》
思念を飛ばしウィリアの返事を待てば、ベルン、ジオール、アルミス、デイハの順で思念が届いた。
城を見やれば、屋根を吹き飛ばし今にも城ごと破壊しそうなほど強大な風が渦巻いている。
《ウィリアは、城だ!》
思念で皆にそう伝えれば、周囲を飛んでいた竜たちが一斉に城へと向う。
渦巻く風に上手く飛べなくなり、仲間たちが次々落ちていく中必死に翼を動かしウィリアを探す。
《皆、無理をするな》
《これしき、どうってこないのじゃぁぁぁ》
《そうですとも、我らを舐めてもらっては困りますぞ!》
ジオールとデイハの気合の篭った思念に後押しされるように、渦巻く風の中なんとか翼を動かし城を見ていく。
ひと際広く大きな窓が連なる部屋の中に彼女の気配を感じ、窓を破り中へと入れば強大な風がここより発生していることが見て取れた。
渦巻く風の壁に顔を押し込み、中へ無理矢理入り込めばうつ伏せに倒れたウィリアを視界に捕らえる。
急ぎ口に食わせ風の壁から、連れ出そうとしてみるも発生させたのがウィリア本人であるため、彼女を連れ出すことができなかった。
《ウィリア! ウィリア! 起きるのだ》
思念を送れどピクリともしない彼女に焦りを覚える。
どうにかしなければと、悩んでいる間にジオールとデイハもまた私の側へと辿りついた。
《ウィリア様は?》
《この中だ。ジオールとデイハに頼みがある》
《なんなりと》
《擬人化した私を咥え、この中へ押し込んでくれ。ウィリアの意識が戻らねば、この風は止まらない》
《承知》
《頼む》
デイハのカゲに隠れるよう身体を縮め、魔法:擬人化で人の姿をとった私をジオールがその口に咥え込む。デイハがまず己の身体を使い風の壁に耐える間に、ジオールが首を差し込み私を中へと運んでくれた。
《しばし、思念が切れる。その間お前たちはここから離脱せよ》
《なりません!》
《そのようなこと!!》
《お前たちを危険に晒したくないのだ。頼む》
グッと睨みつけるジオールの鼻先を撫でてやり、デイハに視線で促せば瞼を閉じることで了承してくれた。自身の身体を引きつつジオールをゆっくりと後退させ、風の壁を抜けていく二人へ皆を頼むと言伝した。
完全に風の壁が閉まり、中には私とウィリアだけになると直様駆け寄り、彼女の身体を抱き起こす。
口から流れ出る鮮血に嫌な予感を覚え、彼女の魔力を確認すれば既に底をつき根源を燃やしていることがわかった。
まずは意識を取り戻させなければ……このままでは、魂ごと消えてしまう。
震える指先で、意識の無い彼女の頬を叩き声をかけつつ起きるよう促す。
「ウィリア。起きるのだ!」
叫ぶように何度も声をかけ、頬を叩く。
ピクリと指先が震え、彼女の瞼が痙攣する。
「ウィリア!」
私の声に呼応するようその瞼がゆっくりと開く。
「ウィリア。直に魔法をとめるのだ」
「……しゅ……るさ……」
「あぁ。私だ。迎えに来た。もう大丈夫だから、魔法を止めるのだ」
微かに頭が動き頷いたのだわかる。
ふぅーと息を大きく吐き出し、肩の力を抜くよう身体を私へ預けると徐々に私たちの周囲に巻いていた風の壁が薄く弱くなっていった。
「遅くなってすまない」
謝罪の言葉を口にすれば、微笑むような表情をみせそのまま彼女は意識を失った。
「ゆっくり休め」
そう声をかけ、彼女を抱き上げ立ち上がると同時に屋敷へ移動するため空魔法を使う。
景色が一変し、見慣れたウィリアの部屋へと移動する。
ベットに彼女を寝かせ、皆に思念を送れば次々彼女の部屋へと押し寄せる。
《シュベル様。いかれるのでしょう?》
ベルンの声に静かに頷いた私の手を、アルミスが掴み涙ながらに謝罪する。
彼女の肩を優しく叩き、ウィリアへ魔力を送りつつ世話をすると言う罰を与え、ベットで眠るウィリアの頭を撫でその場を後にした――。
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