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竜達の愛娘  作者: ao
第五章 ―終章―
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記憶と追憶

初ヒロインの回です……。

/ウィリア


《シュベル様? 聞こえますか?》


 直に迎えにいくと言われ、一時は安心したけど……。何処かへ運び込まれ、手首に何かをつけられてから、シュベル様からの返事が聞こえなくなってしまった。

 何度目だろう……何度思念を飛ばしても一向にシュベル様からの思念は返ってこない。

 視界を奪われ、身動きがとれず、聞こえない思念に不安が募り自然と涙が止まらない。


 時折聞こえる声は、知らない男の人たちの声で、”グリンヒルデ”や”陛下”などの単語が聞き取れた。

 それを伝えたいのに何も出来ない……助けて……シュベルさまっ……。


 足や手を動かしなんとか逃げ出せないかともがけば、ガタっと音がなりそれに気付いたらしい足音が近づいてくる。

 顔を持ち上げられ、鼻を摘ままれ口を開けさせられ、何かを流し込まれ飲み込めば、意識がまた遠のくのを感じた。

 

《しゅ……べ……る……さま――》


                 ・

                 ・ 

                 ・

 

 心地よさを感じ瞼を開けば、沢山大きなビルが立ち並び、黒い頭をした多くの人が下を歩いている。

 車が走り、懐かしいと感じる景色がそこにはあった。

 上から見下ろすことに違和感を感じ、自身の身体を見回せば、綿毛のようにフワフワと浮かんでいる。


『なんで?』


 独り言のようなそれに返す者はなく、ただただ周囲へ掻き消えた。

 懐かしい町並みを浮遊しながら楽しんで、移動していると酷く懐かしく見慣れた街並がそこにはあった。


『たしか~。あそこを曲がって真っ直ぐいけば……』


 思いつくままに進み、ある1件の家へと辿りついた。表札には「松木」と書かれている。

 何かが塞き止めるように感じるも、気にせず中へと入り階段を上に登る。


『奥の部屋が私の部屋……』


 なんで、こんなこと分るんだろう? そう思いながらも自分の部屋へ入ってみる。

 ただの物置となっていた。誰かが頭の中で悲しみを訴える。

 詰みあげられたダンボールに黒いマジックで記された文字を見て、頭が割れるように痛み悲鳴をあげた。


『いやぁぁぁぁ!』


 何かに侵食されるように、色んな記憶が流れ込んでくる――。

 自分が、カルミティアル様の力でルルリアルに転生し生まれ変わったこと。

 元日本人であり、松木リノと言う名前の女子大生だったこと。

 実の両親から愛されたいと願い続け、叶わなかったこと。 

 大学の友人から進められたゲームで、フェザードラゴンにシリアンと名前を付け家族のように思っていたこと。


『あはは……死んだあとも……こんな扱いなんだ』


 リノとしての悲しみが、堪えきれず涙が流れる。

 陽が沈み、月が顔を出し室内へと明かりを差し込む頃、元リノの部屋の扉が開き、見知った兄が姿をみせた。ゆっくりと歩き、ベットへ腰を降ろす兄を憎しみを込め見つめた。

 兄さえいなければ……何度もそう思った……幼い頃からずっと、ずっと……。


「リノ……」


 ベットの側に置かれた熊の縫ぐるみを手に持った兄は、まるで私の代りにするように熊の頭を撫でるとポツリと私の名を呼ぶ。


「――ごめんな」


 悔いるように悲痛な声をあげ俯いた兄の双眸から滴る水が、涙なのだと気付くのにそう時間はかからなかった。


『お兄ちゃん……』


「親父たちのせいで、お前が死ぬなんて……ごめんな。

 ずっと知っていながら俺は逃げてた……お前や親父たちから、自分さえ良ければいいなんて考えて。

 お前の気持ちをもっと、もっと考えるべきだったんだ。

 なのに……最低な兄貴でごめんな」


 初めて兄の思いを知って、後悔してくれていることが分った。

 兄にされたことを思えば、確かに他にも沢山言いたいことはあるけれど、愛されていないと思っていた家族の1人に私を思って悲しんでくれている人がいたことが分っただけでで十分だと思えた。

 死んだことに後悔はない……どちらかと言えば、死にたかったのだから……そう思った刹那、床に黒い穴が開き、私を飲み込む。


『お兄ちゃん、ありがとう……嫌な妹でごめんね……』


 涙で歪む視界に映る穴は既に豆粒程の大きさになっているが、届かないとわかっていても言わずにはいられなかった。


                 ・

                 ・

                 ・


 視界を埋め尽くす自身の髪を何とか三つ編みにした頃、落下する私の身体を何かが支える。

 見れば、シュベル様と同じ黒い鱗を持った竜だった。

 大きな翼を広げ、優雅に飛ぶ竜へ懐かしさを感じつつ私は彼へ問いかけた。


『あなたは誰?』


 私の問いかけに、竜は優しい声音で返してくれる。


『我名、シュハニベル・クリミム・ハガートナス』


『シュハニベル様……』


『なんだ?』


『ここは、どこですか?』


『ここは追憶の空と呼ばれる場所だ。そなたの記憶がここへそなたを連れてきたのだろう』


『そうですか……』


『あぁ』


 ゆっくりと翼を動かして進んでいた、シュハニベル様は広い花が咲き乱れた平原へと降りるとその身体を、地に伏せ私を降ろしてくれた。

 お礼を伝え、追憶の空を見回すと少し登った丘の上に誰かの墓標があるのを発見した。

 

 花をできるだけ踏まないよう気をつけながら歩き、墓標の前に立てば小さなロザリオが墓標の首にかけられている。

 それにそっと触れ裏を返してみるも名前などは記されていなかった、けれどそれが誰の物で、誰のためのに作られたものかを私は知っていた……。


『シュハニベル様が、ウィスユリアのお墓を作ってくださったのですね』


『あぁ。私の愛しき番の――』


『シュハニベル様……』


 首を伸ばした彼の首元へ抱きつき名を呼べば、心から愛しさが湧き上がる。

 かつて同じ名を持つ私が愛した竜であり、人族と諍いを嫌い盟約を交わした初代王竜――。


『そなたは変わらぬのだな。

 ウィスユリア……否、今はこう呼ぶべきか――ウィリア。そなたはいつも私を救う』


 いつの間にか竜の姿が人へと変わり。

 いつもの香りに包まれ瞳を開け見上げれば、見慣れた彼が眉根を寄せて苦しそうな表情を見せると私の身体を抱き寄せた。

 

『シュベル様』


『必ず助ける、だから待っていろ――』


 優しい風が私たち2人を包み込むよう吹く。

 花に囲まれ追憶の中再び逢えた幸福に、もう1人の私がその言葉を紡ぎ出す。


”私の愛しい人。あなたを残し、国のため死した愚かな私を許し、愛してくれるのですね。

 時を経て再びあなたに愛された……ただそれだけで――”






 大きな物音と身体に受けた衝撃に意識が戻り瞼を開けば、見知らぬ豪奢な広い空間に両手両足を縛られ、目を塞いでいた布だけが外された状態で投げ出されていた。

 目の前に座る太ったおじさんが、私を眺めると髭をひと撫でする。


「ふむ……これが、例の娘か?」


「左様でございます」


「アルスティにしては、いい娘を選んだものだ……儂の妾にしてやっても良いのぅ」


 ニヤっと微笑む陛下と呼ばれた髭の男の笑みに隠れたねっとり絡みつく視線に、身体が震え身の危険を知らせる。

 どうにか逃げないと……そう思考しつつ立ちあがろうとする私に、男は椅子から立ち上がり一歩ずつ近寄ってくる。


「いやっ!」


 必死に叫び拒否するも、男の足は止まらずそむけた私の顎を持ち上げた。

 少し汗ばんだ指が気持ち悪い。何か……何かないの? 思い出して! 

 そう必死に考え、”魔法”と言う言葉を思い出す。使えないかもしれないと覚悟しつつ、震える心と身体を何とか宥め、気持ちを落ち着かせる。


 記憶を辿り、幼い頃にならったシュベル様の言葉を思い出す。


”ウィリア、良いか? 大気中に集まる魔力を意識し体内で練り上げることが大事だ”


”はい。シュベル様”


 大気中に集まる魔力へ意識を集中しつつ、体内を循環するイメージを脳内に思い描く。


”次は、どの魔法を使うかだ……例えば、お前に危険が迫ったとしよう。

その場合、お前の身を守る魔法が必要だろう? そんな時は、身を守る魔法を思い起こすのだ

 そうだな、例えば風が渦巻き他の蹴散らすような……そんな魔法を”


”はい……シュベル様”


 風の檻……シュベル様の言う風の檻とは竜巻でいいのだろう……。

 竜巻中に私の身体を閉じ込めるイメージを固め、魔力へそれを伝えた。


”大丈夫だ。ウィリアなら……私の愛しい娘ならば出来る”


 優しく愛情を感じる瞳で、微笑みかけてくれる記憶の中のシュベル様に向け私も微笑みを浮かべる。

 不安を押し殺し、頭の中で語りかけ目を開くと同時に、練り上げた魔力を全て放出する。


 腕に嵌められた、金属によって遮られる感覚を覚える。

 だめ……もっと、もっと……!

 更に、強く魂の力すら使うつもりで魔力を放出し続ければ、腕に嵌められた金属が、ガキッと音を立て割れ、床えと落ちた。


 私の周りに大きな風が巻き始め、それは放出する魔力に合わせ高く巻き上がり建物の屋根を吹き飛ばし、視界から男を消し飛ばすほどの大きく渦巻いていく。

 焦りを覚えると同時に、嫌な汗が額から頬へと伝い顎から床へと流れ落ちた。

 

《ウィリア……聞こえるか?》


《ウィリア様、聞こえるのであればお返事を!》


《ウィリア様、どこじゃぁ~。爺が探しにきたぞぉー?》


《ウィリア様、皆が心配しておりますよ。お返事してくださいまし》


《ウィリア様どこにおいでですかな? お返事をお返し下さい》


 みんなの声が頭に響く……嬉しくて、やっとやっと通じたと言う思いと返事を返さなければと言う重いから、思念を返そうとした刹那、胃から何かがこみ上げ口から吐き出してしまいそうになりとっさに口を手で覆うも間に合わなかった。

 押さえた手と床を見れば……鉄臭い匂いの赤い液体だった――。

足をお運びいただきありがとうございます!

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