グリンヒルデへ
/シュベル
ジェシカたちを連れ皇王の執務室へと飛んだ私を待っていたかのように、宰相と皇王、そしてもう1人知らない男が向かえた。人の良さそうな顔をした、髭を生やした細い男だ。
「いかがでしたか?」
頭を振り否だと答える私に、皇王たちは明らかに俯き失意を顕にする。そんな2人に、大丈夫だと肩を叩くことで知らせれば、何故か謝罪の言葉を口にする。
「どうして謝るのだ?」
「我が国の民が……竜大公であるシュベル様の番であるウィリア様を……」
「それは違うだろう? 元凶はグリンヒルデだ。お前たちは巻き込まれたに過ぎないのだ」
「ですが……」
本当なら私が落ち込むべきなのだろうが、何故か皇王たちを慰めると言う状況が出来合ってしまっていた。実際、彼らが私へ謝罪する必要はないので問題とは思わないが、こうも落ち込まれると、返ってどうすればいいか悩まされる。
不思議なものだな。そう思いつつ、ジェシカたちから離れ、皇王たちへ伝えるべきことを伝えようと口を開きかけた私を遮るように、もう1人の男が大またで連れてきた3人へと走り寄る。
「ジェシカ! マーサ! キルケット!」
3人を両腕をいっぱいに広げ抱きしめ、無事を確認する男に視線を向ければ、横に立つ皇王からジェシカの父親である、ユーフェリテ侯爵だと教えられた。
なるほど、あれがか……。と特に反応することもなく、皇王たちへ港の件について話しをする。
「すまんな。実は頼みがあって来たのだ」
「頼みですか?」
「あぁ。どうやらウィリアを攫った男たちは、港町へ行くという話しをしていたらしい。
そこで、一時的でも構わん。船の出港をとめて欲しいと思ってな」
「船ですか……」
「できるか?」
「それは、可能です。ですが我々には移動手段がありません……」
「そこは問題ない。カシに港町を回らせている。既に半分程は終わったはずだ」
そう説明すれば、皇王は頷き執務机へと向かい何かを書き始めた。
それを見守っていると、宰相に呼ばれそちらを向けば畏まった様子で佇むジェシカ親子と従者の姿があった。
一歩歩み出るなり、深く頭を下げてくるジェシカ親子に対し、気にするなとは言えなかった……。
ウィリアを連れ去った連中に脅されていたとは言え、彼女の命を差し出したのだ。
「どんなに、謝られてもお前たち親子を許すことはできない」
そう伝え話は終わりだと言う意味を込め、皇王方へ向き直る。落胆した表情をしているだろうことは、見るまでもなく判っていたが、私の心はそこまで広くはなれなかった。
「シュベル様、お待たせいたしました」
そう言って、皇王が私へ厚い布に包まれた羊皮紙を渡してくれた。それを受け取り、カシへ思念を送る。
《カシ。迎えを頼む》
《はっ》
短い返事の後、執務室へ姿を見せたカシに頷き、宰相へと向き直る。ジェシカ親子を慰めていた彼は、泣き崩れるジェシカたちの肩を何度か叩き声をかけると私へ向き直り頷いた。
それを確認して、皇王へ礼を伝えるとカシの空魔法で、港町へと移動した。
「ここは?」
「あの洞窟より、川を下って直ぐの港町です」
「わかった。ノービス何処へ向かえばいい?」
「港警備の詰め所へ向いましょう」
カシがまず選んだ移動先について説明を求めた。理由に納得して、宰相のへ何処に行けばいいかを確認する。詰め所と呼ばれる場所を彼の指を追って確認すれば、港の高台にある立派な建物だった。
近くの御車に頼み、詰め所まで移動する。その道中何度も宰相から謝罪を受けた。
お前が悪いわけでは無いだろう? と何度も伝えたのだが止めようとはしなかった。カシと視線を合わせ、肩をすくめて見せれば少し、思案したカシが提案する。
「では、ウィリア様がお戻りになったら、皇王たち含め皆で食事をすれば良いのではありませんか?」と、意味がわからず、カシを凝視すれば理由を教えてくれた。
それまでの間存分に悔いて……ウィリアが戻ったら今回の件は終わりとして、それ以降悔いることなくウィリアに謝罪して、終わりにすればいいのだと言う。なんともカシらしい言い分だと思った。
「お客さん方つきやしたぜ」御者を頼んだ男が、私たちへそう声をかけ窓の外をみれば、高台にある詰め所の玄関についていた。男に賃金を払い、馬車を見送った。
詰め所の前には誰も居らず、中へと勝手に入っていく宰相の後について私たちも建物の中へと歩みをすすめた。走り回る兵士たちの一人を捕まえ、何があったのか? と問いただせば、竜が飛び回っていて町中が大変なのだと言う……なるほど……仲間がウィリアを探すため飛び回っていたからだろう。
その兵士が走り去ろうとするのを止めた宰相は、その件について砦の管理者と話したいと伝えた。訝しんだ表情を見せる兵士に、ポケットから取り出したある物を見せた刹那、兵士の顔が驚き固まったかと思うと大きな声で「失礼しました! 直にご案内いたします!」と言い敬礼すると、前を歩きはじめた。
一際立派な扉の前まで移動すると兵士は、ノックと共に名乗りをあげ入室の許可を願いでる。扉が内側から開き顔を見せた男は、私たちの姿を確認するように上から下へと視線を動かし目を眇めた。
「この忙しい時にどういった用件で尋ねられたのですか?」
「私は、ノービス・ニケ・バルフォンと申します。皇国にて宰相をしております。
こちらのお方は、竜大公であらせられるシュベル・クリム・ハーナス様です。
こちらは、竜大公様の臣下であられる、カシ殿。
我らは皇王様の命でこちらを訪ねております。至急ここの管理者にお会いしたい」
宰相の名乗りを聞いた男は、あんぐりと口を開け驚いた後、扉を開け「大変失礼いたしました!」と敬礼すると、私たちを室内へと通した。
室内には、この地方を領地とする貴族であろう男と、砦の長のように見える筋骨隆々の男が、ソファーで話しをしているようだった。
宰相が、2人へ軽く会釈をすれば、驚いたように2人は立ち上がると畏まり頭をさげた。
ソファーを勧められるもそれを拒否して、宰相はさっそく皇王から預かった布を明け2人に見せるよう掲げ持つと内容を読みあげた。
「なんと……竜大公様のご令嬢が攫われたですと?」
「えぇ。それで大至急出航をとめて頂きたいのです……」
「直ぐに手配いたしましょう。ヒグリス何人か港に向わせろ」
「了解しました!」
皇王の手紙を読み終えた宰相に対して、貴族らしい男が立ち上がり驚愕の表情を見せた。出航をとめて欲しいと願う私たちの願いを聞いて長は、扉を開けた男の名を呼ぶと命を伝え男は直に部屋を出て行った。
「そう言えば、つい数時間前ですが船籍不明の船が港を出たと報告があがっているのですが……」
私たちを案内してくれた兵士が、思い出したように報告をあげた。
そちらを振り返り、肩を両手で掴むと出航していった方角と特徴を兵士に問いかければ、グリンヒルデからくる商船に良く似た船だったらしい。
「カシ!」
「宰相はお任せを!」
私の意図を汲んだカシの言葉を耳に入れながら窓へと足を進め、振り返り「頼んだ」と伝え窓を全開させると、そこから飛び降り竜体へと変化する。
翼を動かし羽ばたき上昇すると同時に皆へ思念を送った。
《聞け! 既に船は出港し手入る可能性が高い。直にグリンヒルデに向う、この地に残る者たちを選別し他の者は私と共に飛べ》
共に行く仲間たちが、大きさを元に戻し私の周りへと集まるのを旋回しながら待つ。
《これで全てです》
「グルオォォォォ」
報告してきた、リュークの声に皆に聞こえるようひと鳴きすると船を追い、海へと翼を羽ばたかせた。
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