洞窟
/シュベル
恐怖に震える私に気付いた皆が、奮い立たせる言葉を思念で伝えてくれる。
ウィリアは大丈夫だと、我らが着いているのだから絶対帰ってくると――。
その言葉に励まされ、もう少しで会えるのだと夢の記憶を振り払うように頭を振る。
専攻していたユルセイたちからの思念で、馬車が止まっていると報告があった、山間に見える洞窟へと向った。
洞窟に降り、ユルセイたちを探す。
外で見張りをしていた仲間へ声をかければ、洞窟内は既に制圧済みだと報告された。
急ぎ中へと進み、ユルセイを見つけ彼の肩を縋る思いで掴み声をかける。
「ウィリアはどこだ?」
「しゅ、しゅべるさま……」
振り向いた彼の表情を見た瞬間、ウィリアがここに居ないことを悟った。
この数日、休息すらもとらずに彼女を探し求め、飛び回っていた私の身体は、ウィリアを見失ったことへの失意から、支えを無くしたようにグラリと崩れた。
「シュベル様!」
側に居た、ベルンたちが倒れた私のそばへ駆け寄り、腕を掴むとその身体を支えてくれる。
それでも立ち上がらねばと思う一方で、逢えないかもしれないと言う思いが、立ち上がることを拒否してしまう。
瞼を閉じれば彼女の微笑が見えるのに――。
パシっとなる音と共に頬に痛みを感じ瞼を開けば、今にも泣き出しそうな顔をしたアルミスが、私の頬を平手で打ったところだった。
「シュベル様。気をしっかりお持ちなさい!」
「ア……アルミス……」
叱責するように彼女は声を張り上げ、私を見つめるアルミスの名を呆然と口ずさむ。
私に視線を合わせるように座り、両手を頬におくといつもの女性らしい顔を見せる。
「シュベル様、ウィリア様は必ずあなたの腕に戻ります。
だから、もう少しだけ私たちと一緒に、私たちの娘を探しましょう?」
「あぁ」
アルミスは、ウィリアが攫われたことで自分を責めているだろう。皆からの叱責を覚悟しているに違いない。それでも彼女を探すため自身の子を屋敷に残しきてくれたのだ。
ウィリアは、私の番であり大事な娘だ。
皆にとっても愛しい娘なのだ。こんな所で、恐怖に駆られ不安になるなど……情け無い。
アルミスの言葉に、私は周囲で心配する皆の顔を見回せば、ニヤっと口角をあげて見せてくれた。
それは、大丈夫だと語りかけているようでもあり、私の情けなさすらも受け入れてくれた表情だった。
「すまんな。迷惑をかけた……ここに改めて誓おう。以降何があろうとこのようなことはしない」
「それでこそ、我らが王ですじゃ」
「その通りですな。ハハハッ」
「まったく、世話のかかる方ですね」
「だからこそ、側にいるのでしょう?」
「ふふっ。さぁ手がかりを探しましょう」
「そーだな!」
「そこで、報告なんっすけど!
奥にウィリア様のご学友と思われる子女、女、初老の男がいました」
「なにー! それを先に報告せんかー! バカモン!」
皆に改めて誓いを立て、立ち上がる私へ手を差し出してくれるジオールの掌を握り返せば、ジオールを、デイハ、ベルン、カシ、アルミス、アルティが順に、明るく声を出し、振舞いその場の雰囲気を払拭してくれた。
それに続いたユルセイの報告に、皆が驚きの顔をするなかデイハだけが、ユルセイに対し叱る声をあげ、その声は洞窟内で幾重にも木霊した。
その後ユルセイと共に行動していた仲間たちに、ジェシカと従者と思われる男、それからジェシカの母と思われる女が、私たちの元へ運ばれてくる。
観察するよに取り囲み、見つめれば意識は無いようだが、酷く衰弱している様子も無いことから、危害を加えられたわけではないと判断できる。
回復魔法が得意な巫女が居ればその場で回復させてやることが可能だったろうが、私たち竜に回復魔法はない。仕方なく、自身の爪で指先を傷付け血を、それぞれの口に一滴ずつ垂らした。
その行為を皆は、眉をひそめ見ていたが、こうする他無いことは、理解できていたらしく、誰もが声をあげ止めることはしない。
血を飲ませ、数分でジェシカの母と思われる女は意識を取り戻す。
「んっ……」
起き上がり、周囲を見回し呆然と私たちをみつめる。
その身体は痩せているものの、その顔色は飲ませる前とうって変わって色味が良くなっている。
「目覚めたか?」
「はい……あの、ここは?」
「ここは、デュセイとカージスの中間に位置する洞窟だ。
お前はここに攫われてつれてこられたようだが、覚えているか?」
私の言葉に、ハッとした顔をした女は、今更ながらにその身体を抱きしめると周囲を見回し、ジェシカの姿を見つけ、わが子を守るように抱きしめ何度も名を呼んだ。
その母親の行動で、目を覚ましたジェシカが掠れた声で母を呼べば、女は涙を流し謝罪を口にする。
「ジェシカと言ったな? ウィリアを連れ去った男たちは、何処へ向かうといってたいたかわかるか?」
フイに話しかけられた彼女は、身体をビクっと大きく揺らし此方に引き攣った表情の顔を向けた。
「私はウィリアの保護者だ。ウィリアを探してここまで来ているのだ」
「うっ……うぃすゆりあさ……ん」
「行方が判らない」
「ごっ、ごめんなさい。私がっ――」
漸く状況が飲みこめてきたらしいジェシカが、起き上がると地に頭を着け謝罪する。
今は謝って欲しいのではない。と喉まででかかる言葉を飲み込み、ジェシカへ再度男たちについて問いただす。
「何でもいいのだ。情報が欲しい! 頼む」
地に臥したまま、顔をあげようとしないジェシカの肩をに触れ、優しい声音を意識して頼んだ。
そこで、3人目である初老の男が目を覚ましその額に腕をあて、数秒後「ジェシカ様! 奥様」と二人を心配する声音をあげると、起き上がり二人を見てその肩の力を抜くしぐさを見せた。
その後、取り囲んでいる私たちに気付いたかと思えば、二人を守るように背に庇う姿勢を取り睨みつけてくる。
「すまんが、感動の再会は後でやってくれ、それよりもウィリアはどこだ?」
その行動に、徐々に焦り苛立ちを覚える。
今一番優先すべきはウィリアだけなのだから、帰った後に存分にやればいい。そう意志を込め3人へ問いただす。
訝しげな視線を向けてきていた、初老の男がウィリアの名を出した途端視線を彷徨わせた。
「もしや……ウィスユリア様の……」
「保護者だ。男たちは何か言っていなかったか?」
その後男は、確か……と、何かの薬を嗅がされ意識が途切れる寸前に、耳に聞こえたらしい男たちの会話を教えてくれた。
「ここから、少し下った所にジュンゼル大河があります。
そこを使い船でどこかの港へ向うと聞こえた気がいたします」
「そうか。男たちと会ったのはウィリアを連れ去って何日後だ」
「3日目の月が西へ沈む頃でございます」
「そうなると、既に4時間ほどが経過していることになります」
ベルンの見立てが正しければ、既にウィリアはどこかの港へ連れ込まれた後の可能性が高い。
男との会話をそこで終わらせ、後ろへ控えた皆に命を下す。
「皆聞け! これより港の船全てを調べる。ここからなら我らの速さで1時間ほどでいけるだろう。
港でグリンヒルデの紋章もしくは、ダンスパーティーでウィリアへ声をかけていた、あの男の顔を見かけたら直に知らせよ」
「これより、私とジオール殿が取り仕切る! 各部隊のリーダーは、シュベル様のお言葉を伝え、港へ移動を開始せよ。但し、陽が高いうちは鳥ほどの大きさになることを忘れず伝えるよう」
デイハの言葉に仲間たちが動き出す。
《デイハ、ジオール。すまんがこの者たちを送るついでに港の封鎖ができないか掛け合ってくる。
しばしの間、デュセイに戻ることになる。任せてもいいか?
それから、カシお前にはこの近辺全ての港町を回っておいて貰いたい》
《お任せあれ》
《もちろんじゃ!》
《畏まりました》
《理由は聞かないのか?》
《必要が?》
《ないな》
《では、お先に……》
デイハ、ジオールの頼もしい返事を聞きつつ、カシへ港町を回るよう伝える。
ジェシカ、母、従者を連れ洞窟を出れば、次々竜体になり飛翔するの仲間たちに視線を送り、手を振った。
皆が飛び立ったあと、ジェシカたちに視線を向け、これからとる行動について簡潔に説明する。
「お前たち、これから魔法で皇城まで送り届ける。私の手に触れしっかり握り目を瞑れ」
驚いた表情をするも、ゆっくりと頷きつつ私の手や肩、腕をしっかりと掴んだ。
それを確認すると、同時に空魔法を使い、皇王の執務室へと移動した――。
処女作である愛娘がついに、100話目を迎えました。
私の拙い文章を、読んでくださる読者様に心から感謝申し上げます。
足をお運びいただきありがとうございます。




