65話
前回のあらすじ
洋館の探索中にスズキがゾンビに食われた
「んんっ……ここは……」
目を覚ますと見覚えのある拠点でした。私たちはいつ戻ってきたのでしょうか。
先程までゾンビに揉みくちゃにされて、かなりの屈辱だったのですが……。
周りを見渡すと、タリス、リム、ネクが同じ様に寝ています。私だけ戻った訳ではないという事は、死に戻りではなさそうですね。
そこで、1人足りない人が居る事に気が付きました。
主様が居ない。
「タリス、リム、ネク。起きて下さい!!」
「ん~、これ以上食べられないわよ~」
「むふー、これが儂の力じゃー」
タリスとリムが寝言を漏らしています。どんな夢かは知りませんが、幸せそうです。起こすのは忍びないですが、今はそれどころではありません。
ネクはそれで起きてくれた様で、体を地面から起こしています。
『ここは、拠点? 何があったのかな?』
「はい、拠点だと思います。ですが、主様がいません!」
ネクも周りを見渡して確認をしているようです。私は、その間に寝ている2人を叩き起こします。普段はこんな事をしませんが、緊急事態なので仕方ありません。
「何じゃ……痛いのぅ……」
「むー、ハッ! 私の肉はどこ!?」
「2人共起きて下さい。主様が居ません」
まだ寝惚けていた2人、そしてネクと状況の確認をします。私が囮になった後に逃げ込んだ小屋に入ったら、ここに居たとの事。
3人にも状況は解からない様です。これでは、どうしようもありません。
「転移罠でしょうか。そういう罠がこの先の階層で目撃されているそうです」
『そうかも知れないね。でも、スズキだけ別の場所に飛ばされたというのは変だね』
「感知スキルを使っても、拠点内にマスターの反応はないわよ。まだ迷宮内に居るみたいね」
私も感知スキルは最初に使いましたが、主様の反応は見つかりませんでした。地下にティアとコクが居る事が確認出来るので拠点に戻されているのは間違いないでしょう。
迷宮内に1人取り残されるなんて、最悪の事態ではないでしょうか。これは、主様だけを狙った罠である可能性が高いです。
「だったら、探しに行けば良いだけじゃな」
「……そうですね。理由を考えるのは後にしましょう。手遅れになる前に助け出します」
私はアイテムボックスから転移の石を取り出して使用します。ですが、全く反応がありません。どういう事でしょうか。
ネクが直通ゲートの機能を解放しますが、そちらも反応しないようです。まさか……。
『迷宮に入れないね。1階層への扉も開かないみたいだ』
「そんな……」
私は唖然としながら呟きました。タリスとリムもその表情は暗いです。
主様が酷い目に遭っていない事を祈るしかありません。
「パステル? 皆帰って来たの?」
「あ、ティア」
地下へ続く階段からティアが上って来たようです。
そしてすぐにその表情が歪みました。私たちから凄い臭いがするのでしょうか。
「……パステル。臭い」
「あ、そういえば、私だけゾンビの中に放り込まれましたね」
「現状どうしようもないし、お風呂に入りましょ」
私たちは、ティアにお風呂の中に放り込まれました。余程臭かったのでしょう。
主様の事は心配ですが、私たちに出来ることをするしかありません。
それは、帰ってきた主様に元気な姿を見せる事です。
『あ、スズキが帰って来たよ』
私たちは、転移空間の近くで待ちました。すると、主様が転移してきたようです。
すぐに全員でベッドへと運びました。転移のショックで気を失っただけならば、すぐに目を覚ますでしょう。
ですが、私たちの期待を裏切るように主様は目を覚ましませんでした。
翌日、看病をしていたティアから主様が起きたと知らせを受けました。
そして、全員で主様の部屋に集まります。
「主様、大丈夫ですか?」
「え? ああ。頭がボーっとするんだよな。寝すぎたのかね」
主様は、笑顔でそう言ってきます。よかった。無事そうで本当に良かった。
私たちと離れた後に何があったのか聞いた方が、今後の探索で役に立つでしょう。
アイテムボックスが禁止された状態では、探索自体がままなりません。
「主様、あの後何があったのでしょうか」
「あの後……古びた洋館に飛ばされ……あ、ああ、あああああああああ」
「ご主人様!!」
主様が突然頭を抱えて叫びだしました。ティアが慰める為にその頭を抱き締めますが、力強く振り払われて転倒します。
いつもの主様であれば、フォローの1つもしますが、そんな余裕は無さそうに見えます。
私はすぐに睡眠効果のある精霊魔法を詠唱し、主様目掛けて放ちました。パニック状態であったお陰で、抵抗も出来ずにそのまま主様は眠りに落ちたようです。
「これは……まずいですね」
「うん、聞かない方が良いみたい」
いつも頑張って探索をしていた主様が、ここまで取り乱す程の事があったのでしょう。
起きたとしても聞く訳にはいきません。落ち着いてから話してくれる可能性に賭けましょう。
「ティア、主様を頼みます。この魔法は、それほど長い時間は効果が無いと思います」
「ん、解かった。ここは任せて」
ティアが主様の頭を優しく撫でながら返事をしてきます。私も一緒に居たいのですが、やる事は一杯あります。
分担してこなしていく必要があるでしょう。
『それじゃ、私は情報収集かな?』
「ええ、ネクとタリスはタブレットで情報収集をお願いします」
リムにも手伝って欲しかったのですが、まだタブレットの使い方を詳しく理解していないでしょう。
あれは、慣れないと辛いです。今までの経験が全く応用出来ませんからね。
「それじゃ、僕は薬品を作るよ。スズキさんが復帰したらいつでも行動を起こせるようにね」
「はい、お願いします。リムは、ティアの手伝いをお願いします」
「解かったのじゃ。皆、無理だけはしないようにの」
私たちはリムとティアを寝室に残すと、各自行動を開始します。
全ては、主様が元に戻ると信じて。
『見つけたけど……これは難しいね』
「どれですか?」
コタツに入りながら、この闇と墓の迷宮の情報を3人で集めました。
その中からユニークモンスターの情報が、私たちの行動と一致したようです。
それによると、洋館にプレイヤーのみが転移され攻略をさせられるとの事。
通称トラウマ製造機とも言われており、攻略法を知らずに挑むと相当辛い思いをすると書いてありました。
恐らく、主様はその攻略を失敗したのでしょう。それで、ああなってしまった恐れがあります。
情報を纏めると、ゾンビに対する恐怖心を埋め込まれる可能性があるようです。
と言う事は、この5階層を私たちだけでクリアすれば、もしかしたら探索を再開できるかもしれません。
他に可能性があるとすれば、時間くらいでしょうか。
なら、私たちの取る行動は1つです。
「迷宮の攻略をしましょう」
『そうなるよね。うん、私は賛成するよ』
「それしか無いわよねぇ……大変だけど頑張りましょ」
私たち3人は、迷宮の攻略をする事を決意しました。後はリムに声をかけるだけですが、あの子の事ですし大丈夫でしょう。
プレイヤーのみが転移させられるという事は、使い魔のみの構成なら出会わない可能性があります。
賭けになってしまいますが、それでも試す価値は十分あるでしょう。それに、私たちはユニークモンスターに対する回答を知っています。
出会ったとしても倒す事は可能だと思われます。
「主様はどうですか?」
「まだ寝てる。でも、うなされるとかは無いみたい」
方針が決まり、主様の眠る寝室へと向かいました。まだ起きていないらしく、ティアがその頭を優しく撫でながら見守っています。
リムは、主様の隣で一緒に寝ているようです。全力で走りましたし、疲れてしまったのでしょう。
ネクとタリスは、情報の収集を続行しています。探索をして行く上で、どんな情報でも欠かせません。今回の様な事が今後起きないようにする為にも。
「ティア、迷宮の探索を私たちだけで進める事に決まりました」
「そう……ご主人様の事は任せて。必ず戻してみせるから」
「はい、お願いします」
私たちは2人で主様の寝顔を見ながら呟くように言いました。
全ては主様の為に。主様がまた前を向いて進む事が出来るようになる為に。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「なぁ、パステルたちは何をしているんだ?」
「ん、迷宮探索の続きをしてる」
一緒に寝転がっているティアにパステルたちの所在を聞いてみた。
俺が目を覚ましてから数日、毎日のようにパステル、タリス、ネク、リムの4人はどこかへ行っていた。
俺自身は病人でもないのに、ベッドで寝ていた。
「……そうか……俺、情けないよな……」
「うん、かなり」
ティアにそうはっきりと言われた。今でもあの洋館の事を思い出すと体が震えてしまう。
ゾンビなんて見た日には、その場から逃げ出してしまうだろう。頭の中では解かっていても、体がどうしても落ち着かなくなる。
「でも、今のご主人様には時間が必要。ゆっくり休んで」
「ああ……でも、こんな自堕落的な生活をしていたら戻れなくなりそうだよ」
食事とトイレと風呂以外、ずっとベッドかコタツの所で誰かとイチャイチャしている生活だ。どう考えても駄目だろう。
剣術の訓練をしようとしても、PCを見ようとしても止められている。
恐らく迷宮の事を考えさせないようにする為だと思うのだが、このままでは体が鈍ってしまいそうだ。
今、パステルたちは死闘を繰り広げているのだろう。俺が欠けてしまったから、今まで以上に戦闘が辛くなると思う。
パステルが俺に望んでいる事は簡単に解かる。また、戦えるようになる事だ。
「ティア、剣の訓練だけさせてくれないか? このままだと体が鈍ってしまいそうなんだ」
「ん……仕方ない」
そう言って、ティアは上半身を起こし、ベッドから下りる。俺もアイテムボックスから服を取り出すと着ていった。
そして、訓練所に向かうと、準備をする為に剣を取り出す。
それを手に持って鞘から剣を抜く。
だが……。
「あ、あれ?」
柄を持って構える。それだけの動作のはずなのに体が震える。手が震えて切っ先が定まらない。
まさか、俺は戦う事が怖くなってしまったのか?
皆を守れるほどに強くならないといけないのに……。
「ご主人様……もういいよ」
「……ティア……」
ティアが優しく俺に声をかけながら、剣を持つ右手の手の甲に触れる。そのまま、俺の剣を取り上げると、それを鞘に戻してアイテムボックスへと仕舞った。
俺はその場に座り、うな垂れる。
「ハハハ、俺駄目だな……」
乾いた笑いが漏れる。まさか、剣を握る事すら辛くなっているなんて思ってもいなかった。
ティアが、俺の首に腕を回して抱き付いて来る。本当に情けない。
「ご主人様。ゆっくりでいい。ゆっくりでいいから、少しずつ始めていこ?」
「……ああ、すまないが、よろしく頼むよ」
俺は、ティアの体を抱き締めながら答えた。もしかしたら、もう剣を握る事が出来ないかも知れない。
そんな不安を紛らわすかのように……。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
雑談スレ part101
119 名前:名無しさん
精力薬って便利だよな
120 名前:名無しさん
精力剤が必要とか随分頑張っているんだな
精力増大だけでは足りないのか?
てか、いつの間にそんなもん追加されていたんだ
121 名前:名無しさん
いやいや、精力薬って結構色んな症状に効くんだよ
まさか二日酔いに聞くとは思わないだろ?すぐに消えるぜ?
それに、ラスダン到達で追加される活力草から作れるぞ
122 名前:名無しさん
それいいな
ドワーフと一緒に酒盛りを結構しているんだが
あいつらと合わせると必ず二日酔いになる
123 名前:名無しさん
ドワーフにあわせられる時点でどう考えても異常だろ
奴らの飲み方は恐ろしい
124 名前:名無しさん
しかも翌日なんともないんだよな
イラっとしてしまった
125 名前:名無しさん
見た目がロリな外見で酒を飲みまくるって凄い違和感だよな
126 名前:名無しさん
酔わせた所を美味しく頂くのがいいんじゃないか
127 名前:名無しさん
絡んでくるだろ
あれをかわして先に酔わせるとか無理
128 名前:名無しさん
126はどんだけ酒に強いんだ
元の世界にもやたら強いのは居たが
129 名前:名無しさん
さすがにドワーフに部屋の酒を全て飲まれたときは泣いた
酒は無限箱じゃねーんだよ
130 名前:名無しさん
料理酒なら・・・ってあれは美味しくないしなぁ・・・
131 名前:名無しさん
全部尽きて最終的に飲んでたぞ
調味料が尽きたのなんて初めて見たわ
132 名前:名無しさん
ドワーフに酒を与えるな
ねだって来たら交換条件を出す事を忘れるな
133 名前:名無しさん
ひでぇ・・・
でも、それもありかな
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
雑談スレpart102
477 名前:名無しさん
なぁ、お前ら変異種をどれくらい捕まえた?
478 名前:名無しさん
3人かな
皆強いぞ
恐ろしいくらいに
479 名前:名無しさん
あれを見ていると
俺らって何の為に居るか解からなくなるよな
480 名前:名無しさん
英雄様が相手では仕方ない
スキルも覚えさせられるから
更に強くなるという・・・
481 名前:名無しさん
訓練をつけて貰って俺らも強くなればいいじゃん
経験はあっちの方が上でも強くなれるだろ?
482 名前:名無しさん
そうかも知れんが・・・
凹まないか?
483 名前:名無しさん
何言ってんだ
ここに来る前は一般人だった俺らが
強い英雄と同じだと思う方が間違い
そんな事を考える暇があるなら強くなれるように努力しようぜ
484 名前:名無しさん
お前すげーな
確かに嫉妬しているより
強くなる努力をした方が建設的か
485 名前:名無しさん
覚醒スキルも後天的に覚えられるらしいし
色々と強くなれるんじゃないか?
スキルと合わせれば色々と伸ばせそうだし
486 名前:名無しさん
良い話になっているところ悪いんだが
聞きたいのはそうじゃないんだ
変異種ってどれくらいの頻度で現れてる?
487 名前:名無しさん
水をさすなよ
これから全国大会を目指すのに
488 名前:名無しさん
何の大会だよ
489 名前:名無しさん
変異種は大体1階層に1体くらいだな
んで、同じのが出たのは見た事無い
490 名前:名無しさん
てことは、チャンスは1回だけ?
結構きついな・・・
491 名前:名無しさん
二度目もあるらしいが
かなり時間を置く必要があるんだってさ
当然捕獲していない事が条件らしい
492 名前:名無しさん
二度目があるのか
なら、あの装備がもう1個・・・
493 名前:名無しさん
それは無理だってさ
装備品を持っていると宝箱から出ないんだそうだ
494 名前:名無しさん
そかー
かなり有用な装備だったから全員分欲しかったんだけどな
495 名前:名無しさん
凄いのを持っている場合があるよな
俺のは状態異常を完全に防ぐネックレスだった
496 名前:名無しさん
それは大当たりじゃねーか
確かにそれは全員分欲しい
497 名前:名無しさん
一応、状態異常を防ぐ装飾品は作れるらしいけどな
素材が稀少な宝石類らしくて量産は無理って言ってたけど
498 名前:名無しさん
稀少なのか
まずは自分たちのだろうし
自動販売に流れるのは当分先かー
499 名前:名無しさん
それはしゃあない
流れてくるだけ良いと思うしかない
500 名前:名無しさん
効果の無い装飾品は一杯流れているんだけどな
どくろの指輪とか
501 名前:名無しさん
ああ、前の世界でも露天商とかで見たやつか・・・
そういうのを作れる人も来ているのな
502 名前:名無しさん
そこそこ売れているみたいだし
売らない手はないのだろう
材料はいくらでも手に入るしね
503 名前:名無しさん
シルバーが本当に銀製で作れそうだしね




