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迷宮と掲示板 改稿版  作者: Bさん
5章 闇と墓の迷宮
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61話

「ん……朝か……」


 翌日、目を覚ました俺は、背伸びをする為に腕を動かそうとする。だが、相変わらず動かない。ティアとパステルが2人して掴んでいるのだろう。

 早めに目を覚ましてしまうと良くある事だ。2人が起きてくるのを待つしかないだろう。

 しかし、体が重いな。なんだろう……。そう思って自分の体を見る。そこには白……いや、銀色の何かが見えた。


「ああ、そうか……」


 そう呟きながら、昨日の夜の事を思い出す。魔眼の影響があったとは言え、こんな子にまで俺は手を出してしまったのか……。

 俺の体に抱きついている子、リムを見ながらそう考える。幸せそうに眠りながら、俺の胸の辺りに顔を寄せている。こんな表情を見てしまうと、悪い事をした気分にはならない。

 視線を感じてそちらを見る。パステルが目を開けてこちらを見ていた。


「……何か言いたそうだな」

「いえ、主様も節操がなくなってきたと思いまして」


 パステルに聞くと笑顔になってそう言ってきた。この状況をよくない事だとは考えていないのだろうか。

 ハーレムって女の側からしてみたらいい物じゃないと思うんだがな。


「責めている訳ではありません。私も役得です。可愛い子が増えるのは歓迎ですよ」

「お前は……男でも女でもいける口なのか……」


 パステルは俺の腕を離すと、リムの頭を撫で始める。最中にやたらティアとリムを攻めているなと思ったら……そういう事だったのか。俺にとっても悪い話ではないから、気にしない方が良さそうだ。


「さて、そろそろ良い時間だし、起きようか。って、パステル何をしているんだ」

「この髪と肌が癖になりますね。いつまでも触っていたいです」


 リムの頭を撫でていたはずなのに、いつの間にか体全体を弄っている。朝から何をしているんだ、こいつは。

 パステルの手を掴んで止めると、2人を起こす為に声をかけるのだった。




「さて、今日の探索は1階の残りの部分と2階の最初の方になる。リムが参加するから皆フォローしてやってくれ」

「リムは後衛ですし、私とタリスでフォロー致します。主様とネクはいつも通りで問題ありません」


 ミーティングの時間になって、俺は今日の予定を伝える。前衛として戦っていると、どうしても後衛がどうなっているのか解かり難い。

 全体を把握するのが理想だとしても、目の前で攻撃してくる相手をやり過ごしながら、周囲を見回すとか達人でもなければ無理だろう。

 後衛同士で互いにフォローし合ってくれるのなら、俺は正面の敵だけを気にすれば良い。


「2階からは、レイスとカースドドール、レディゾンビが新しく出るらしい。だが、ドールとレディゾンビは限定された空間にしか出ないそうだ。入ったら確認をしよう」

「人形と女のゾンビねぇ……本当に不気味な場所みたいね」


 2階の基本的な魔物は、ゾンビとレイスだと聞いている。カースドドールとレディゾンビは、広範囲に分散されてはいないとだけ書いてあった。

 えらく情報が曖昧だが、詳しく報告してくれる人が居ないのだからどうしようもない。

 半端になってしまっているのは、今まで情報を書いてくれていた人が、何かしらのトラブルで書かなくなったと予想されていた。

 もしかしたら、トラウマでも植えつけるような恐ろしいトラップでもあったのかも知れない。ホラー映画のような舞台である以上、そういう可能性は大きい。俺も気を付けねば。

 実際、ドールとレディゾンビの名前を書き込んでくれたのは、その人の使い魔だったそうだ。普段から主と一緒に掲示板を利用していたそうで、その主が書き込めない事情が出来たから敵の名前だけ書いてくれたそうだ。

 本当に何があったのやら……。


「ドールとレディゾンビに関しては、名前だけが伝わっている。どんな攻撃をしてくるのか解からないから、警戒だけは怠らないでくれ」


 全く情報が無い以上、慌てても仕方ない。出たとこ勝負で対応するしかないだろう。

 それよりも、多く出現すると言われているレイスの方が問題だろう。ゾンビはコアを破壊すれば良いので、割と楽だったりする。


「レイスってゴーストの上位なのよね?」

「ああ、ゴースト同様、魔法が効き易いから頼むぞ」


 ゴーストの上位互換とは言われているが、具体的にどの程度の違いがあるのかは不明だ。

 能力が高いだけなのか、特殊な攻撃方法が追加されたのかまでは解からない。何せ、5階層以降の情報が驚くほど少ないのだ。

 分岐が大きく、そういう傾向とまでしか情報は出ていない。


「そろそろかな? リムの装備を作ったから確認してくれないかな」

「ほう、これが儂の装備か。黒いのぅ……」


 コクがリムの装備をアイテムボックスから取り出した。そういえば、リムの服装がシャツじゃなくなっている。普段着は出来上がっていたのか。気にしていなかったな。

 黒いのはダーク鉱を使っているからだろう。だが、それよりも重要なのが……。


「何で魔法少女みたいな服なんだ?」

「その方が可愛いと思ってさ。綺麗な銀髪とよく合うでしょ?」


 長いローブでもミニスカでも確かに防御面では大差はない。剣で斬られたり、矢を射られたら同じだろう。

 幸い、今の迷宮は長い雑草が生えているような場所でもないから、多少露出していても問題はない。

 だが、これだけは言いたい。また俺の集中力を遮断するつもりか、と。ティアが留守番なのになぁ……。


「杖は短めのステッキタイプにしてあるよ。タリスのと長さが違うくらいかな」

「そこまで徹底しているのな……」


 コンセプトの通りに武器まで作るとは、コクにアニメを見せるのは色んな意味で危険だ。

 特にロボットモノはやばそうだ。いきなり鎧が変形しても困る。

 リムは、それらの装備を大切そうに胸に抱いていた。どうやら気に入ったようだ。

 パステルが平静を装いながらも鼻息を荒くしている。これはきっとやばい兆候だ。さっさと迷宮探索に行こう。


「他に質問がないようなら、探索を始めよう。リム、無茶だけはするなよ?」

「うむ。儂は新参者じゃからな。皆の力を見させて貰うとするかの」


 リムは腕を組みながらそう言う。何でそんなに偉そうなんだ。

 俺たちは、防具を着用し迷宮内へと転移した。




「さて、パステル案内を頼む。ネクとタリスはリムの事を頼むな」

「大丈夫よ。私がちゃんと守ってあげるわ」


 俺の言葉にタリスが返してくる。リムに抱かれながらだけどな。リムは最初カンテラを見て騒いでいたが、迷宮に入ると緊張した表情に変わった。

 やっぱり異世界の住人というのは戦場だと身を引き締めるものらしい。ただし、タリスを除く。


「それじゃ、開始しよう。北の方を頼む」

「はい、相変わらずゾンビが一杯いますね。接近する前に焼きながら進みましょう」


 パステルが物騒な事を言ってくるが、腐臭の近くに寄りたいとは思わない。敵の強さとしてもコアを破壊すれば簡単に倒せる程度だ。わざわざ接近する必要もないだろう。

 そして俺たちは探索を開始する。


「早速いますね」

「魔力が多いのはネクとパステルか。神聖魔法を遠距離で頼む」


 目視出来る敵はゾンビのみだ。動きが遅いため、遠距離での神聖魔法も避けられずに当たるだろう。

 まだ始めたばかりだし、ポーションを節約する為にも魔力が多いメンバーが倒した方が効率が良い。


「あ、主。儂がやってみても良いかの?」

「リムが? 構わないが……大丈夫か?」

「暗黒魔法の真髄をお見せしよう。目を開いてよく見るのじゃ」


 そう言ってリムは、魔法の詠唱を始める。暗黒魔法ってゾンビみたいなアンデッドに効くのか?

 闇属性で吸収されそうなイメージしかないんだが……。


「うむ、まずはあ奴じゃ」


 リムはそう言ってゾンビの1体に向かって何かしらの魔法を放つ。すると、ゾンビが直立不動の姿勢になった。ちなみに、先程までは猫背で徘徊していた。

 暗黒魔法ってアンデッドの動きを封じられるのかね。


「これであのゾンビは儂の支配下に落ちたのじゃ。好きな様に動かせるのじゃよ」

「へー、アンデッドの操作なんて出来るのか。そういえば、暗黒魔法ってアンデッドを作り出せるんだっけか」


 アンデッドを好きな様に操作出来るのなら、対アンデッド戦闘でかなり役に立ちそうだ。強い相手を操作するにはスキルレベルが必要とかありそうだけど。

 複数のアンデッドを操れれば同士討ちをさせられそうだ。そうすれば、遠くから安全に狩りが出来そうである。


「それじゃ、他のゾンビを攻撃させてみてくれるか?」

「それよりももっと良い方法があるのじゃ」


 そう言ってリムは、ゾンビを操作する。どう考えても嫌な予感しかしないが、やりたい様にさせるのが主としての器ではないだろうか。

 自信満々にやろうとしている事を邪魔したのでは、後の士気に関わる可能性がある。


「いくのじゃぁぁぁぁぁ」


 リムが叫ぶ。いや、叫ぶ必要なんてあるのか? 以前魔法の詠唱とかの話を聞いた時は、声に出さなくても魔法は使えると言っていた気がする。

 その場のノリで魔法の詠唱は行われるらしい、とも。なら、叫ぶのもありなのか?


 ともかく、ゾンビの方を見ると、ゾンビが全力疾走をしていた。足の骨とか大丈夫なんだろうか?

 それ以前に、ゾンビって走れたのな。

 

 そして、ゾンビは別のゾンビに抱きつくと……爆発した。


「うげ……」

「これは……視覚的によろしくありませんね」


 何せ臓物や肉片を撒き散らせながらの爆発である。昔、どっかのゲームにそんなのがあった気がするが、実際に見るのとは別物だ。

 タリスやネクは何も言わないが、大丈夫なのだろうか。タリスの方を見ると普通に青ざめていた。ネクに関しては表情がないので判別できない。そういえば、ネクは野戦病院の経験者だっけか。


「なぁ、リム」

「主、凄いじゃろ。これならアンデッドに対しては無敵じゃよ」


 俺が声をかけるとリムは胸を張って答える。得意気な所申し訳ないのだが、これは禁止だな。

 すぐに死体は消えるが、その度に爆発されたのでは気分がよろしくない。


「すまん。強いのは解かったんだが……これ、禁止な」

「なぜじゃ? 魔力の効率もいいのじゃが」

「リムはヴァンパイアだから何とも思わないかも知れないが、人を爆発させるのは見た目が良くないんだ」

「ふむぅ……」


 そうやってリムは考える素振りを見せる。ヴァンパイアって、やっぱり快楽の為に残虐な方法で人を殺したりしていたのだろうか。

 リムの過去を知りたいような、知りたくないような気がしてきた。様々な種族がいるのだから、価値観が違うのは仕方ない。出来る限り受け入れようとは思っているが、無理なものは無理である。


「解かったのじゃ。残念じゃが、主がそう言うのなら止めるかの」

「ありがとう。そうして欲しい」


 そう言って俺はリムの頭を撫で……ようとして止める。そういえば小手を付けているんだった。

 髪に引っかかったら痛い思いをさせてしまう。


「さて、探索を開始しよう。パステル警戒を頼む」

「はい、ではこちらへ」


 パステルの案内の元、俺たちは探索を開始する。

 出る敵はゾンビとゴーストしかいない為、遠距離の魔法で消滅させて進んでいると、小屋を発見する。

 この階層に来た時の小屋と同様のようだ。中には下の階に続く階段があった。


「さて、階段の途中で休もう。そこなら臭いも薄れているみたいだしな」

「そうね。この中じゃお茶も美味しく飲めそうにないもの」


 タリスの同意を受けて俺たちは階段の中頃まで下りていく。そして、休憩の為に腰を下ろして座る。

 小手や兜を外すとそれを横に置く。帰った時ティアが臭いが酷いと言っていたが、そんなに酷いものなのかね。

 自分ではさっぱり分からないのだが……。


「なぁ、パステル。臭いとかってどうなんだろうな」

「恐らく私たちは、ここの臭いに慣れてしまっていますから、判らないと思いますよ」

「そんなもんかね。っと、ありがとう」


 パステルから紅茶の入ったカップを受け取る。他のメンバーもそれを受け取り、リムとタリスが砂糖を大量に入れていた。そんなに入れたら紅茶の味なんて判らなくなりそうだな。

 鼻に腐敗臭が残っているのか、お茶以外に何かを食べる気にはなれない。少なくとも水分を補給して少し休んだら再開だな。


「ここは冷えるのぅ……」

「リム、寒いのか? ならこっちへ来い」

「うむ」


 リムはこちらに歩いてくると俺の膝の上に座ると、腕に抱き付いて来る。どうにもこの迷宮は冷えるらしい。アンデッドが多いから冷蔵保存しないとならないのだろうか。

 タリスはパステルに抱えられているし、リムの体温が低いという訳でもないようだ。ネクだけ手持ち無沙汰にしている。体温がないのだから仕方ない。


「何か温まるものを用意した方が良いのかね」

「休憩中に何かあると良いかもしれませんね。毛布があるだけで随分と変わると思います」


 俺の提案にパステルが乗ってくる。毛布か……それくらいなら購入できそうだ。ベッドの布団は持ち運びが出来ないので、迷宮に持って来れない。

 ストーブの様な物があれば良いのだが、階段だとさすがに無理か。後あるとすればホッカイロとかかね。


「さて、そろそろ探索を再開しようか」

「そうですね。ジッとしていても寒いですし」


 俺たちは立ち上がると外していた装備を装着して行く。金属の防具だが、あるのとないのでは、暖かさが大分違う。

 階段を下まで下り切ると小屋の中に出る。窓から外を覗くと、ゴーストよりも輪郭がはっきりと人型だと判る白い物体が飛んでいた。あれがレイスなのだろう。

 しかし、1階ではリムを捕獲した時以外でヴァンパイアに会わなかったな。全体的な数が少ないのだろうか。魔法を使ってくる強敵扱いらしいし、居ない方が良いのだけども。


「リム、接近してきたアンデッドは暗黒魔法で停止を頼む。タリスとパステルは迎撃。俺とネクは極力動かずにその場で防ぐぞ」

「あいよー、中位の魔法で一掃はしないの?」

「あれは効率が悪いだろう。下位の魔法で1体ずつ倒した方が良い」


 中位の魔法は、詠唱時間は長いし、魔力の消費量も大きい。下位の魔法1発で倒せるのだから、面倒臭がらずにそれで倒していった方がポーションの消費が少なくて済む。

 小屋の扉を開けると一気に外に出る。小屋の周囲にいない事はパステルの魔力感知で確認済みだ。

 マップの端から全て調べる事を目的として、俺たちは探索を開始した。

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