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迷宮と掲示板 改稿版  作者: Bさん
5章 闇と墓の迷宮
77/88

59話

「今日は前回の続きだ。出来る限り探索を進めよう」


 翌日、ミーティングの時間に告げる。と言っても、前回の探索の続きなので特に変わった事は無い。

 恐らく今日から、ヴァンパイアが出てくるエリアに足を踏み入れるくらいだろう。


「それじゃ、準備をしようか」

「あ、スズキさん、待って」


 俺たちが椅子から腰を上げようとした所でコクに止められる。何かあるのだろうか。

 コクはテーブルに黒い武器や防具を出していく。ああ、そういえば、ダーク鉱の装備か。


「新しい武具がもう出来上がったのか」

「うん、昨日頑張ったよ。形状はそこまで変わらないけど、性能の底上げは出来ていると思うよ」


 コクはそうは言うものの、細部に施されている装飾は以前よりも凝っていると思う。

 自分の物だと思わしき剣を鞘から抜いて見てみる。黒い刀身がその姿を現した。


「ダーク鉱って殆ど黒ばかりなのな。闇に紛れたら見失いそうだ」

「うん、全身黒ずくめで格好いいよね」


 格好良いかはさておき、この鉱石で全身鎧を作ったら黒騎士みたいな見た目になると思う。

 そんな姿で、あの夜のような暗さの地域を歩いたら怪しさ大爆発である。尤もカンテラを腰に付けている時点で位置は丸解かりな訳だが。


「これって闇属性とかないのか? 黒ってそんなイメージがあるんだが……」

「そういうのは、無いみたいだよ。黒い金属だからダーク鉱って名前が付いただけみたい」

「そうか。なら、安心だな。タリス、聖属性の付与を頼む」

「あいよー」


 どうやら闇属性はないようだ。アンデッドが多い地域で、闇属性が付与なんてされていたら使えなくなる所だった。

 タリスは、1つ1つ付与魔法を使っていく。ティアの片方の剣だけ風、他には全て聖属性を付ける。

 全てを終えたタリスは、テーブルの上に大の字で転がった。


「大丈夫か?」

「……疲れたぁ……」


 以前は1つに付与してすぐにポーションを飲んでいたのに、今回は一気に全ての付与を終わらせたようだ。

 大分魔力が増えたのだろうか。ゆっくりとポーションを飲んでいるタリスを見てそう思った。


「少し休憩してから探索を開始しよう。コク、新しい装備をありがとうな」

「どういたしまして。探索の方頑張ってね」


 コクはそう言うと自分の寝室の方へと歩いて行った。どうやら徹夜して作ってくれていたらしい。このまま寝るのだろう。

 その後ろ姿を見ながら感謝し、新しい装備を見る。サイズや重量はそこまで変わらない。戦闘スタイルに影響しないように、気を使ってくれたのだろう。


「ネク、ティア。装備の調子を確かめたい。訓練場に行こうか」

『そうだね。探索前の準備運動をしよう』


 俺たちはタリスとパステルを置いて、訓練場へと歩いて行った。





「っと、これで半分は埋まったかな」

「お疲れ様です。周囲を警戒しますので、主様は宝箱を」


 準備運動を終えた俺たちは、迷宮に入り探索をしていた。かれこれ3時間くらいだろうか。マップも半分を超える範囲の探索を終えていた。

 今の所はヴァンパイアの姿はなく、ゾンビとゴーストばかり相手をしている。周囲にあるのは墓場ばかりだが、ここのマップは思ったより広いようだ。毎回4階層くらいの範囲であれば楽で良いのだが……。

 そんな事を考えながら、宝箱の鍵を開ける。大分慣れたモノで、以前の様に集中しなくても簡単に開けられる様にはなっていた。


「相変わらずダーク鉱と札だ。札の方は売れないから溜まる一方だなぁ……」

「新しい使い魔が増えた際に使えるので取って置きましょう。これほどの数が必要になる事は無いと思いますが……」


 俺の言葉にパステルが返してくる。使い魔が増えた時の事を踏まえても全種類が数十枚あるのだ。それこそ部隊でも作って効率良く探索とかしない限り必要ないだろう。札は自動販売に出せないので溜まる一方だ。普通に売却をしても二束三文にしかならない。

 使い魔の数をむやみやたらに増やしたいとは思わない。俺が守れる人数はそれほど多くないのだ。無責任に増やせば良いというモノでもない。


「さて、そろそろヴァンパイアがいる地域に入る。遠距離攻撃の警戒を怠らないようにな」

『一番危ないのはスズキだよ』

「うぐ……」


 ネクの書いた文字を見て言葉に詰まる。実際、魔力感知を出来る後衛2人は魔法の詠唱があった時点で気が付くだろう。ネクに関しては闇属性の魔法が無効である。

 そうなると一番危険なのは確かに俺だったりする。しかも、倒されたら強制帰還というオマケ付きで。


「十分気を付けるさ。それじゃ行こうか」

「はい、では、こちらへ」


 パステルに先導されながら探索を再開する。同時に同じ所に移動しないよう伝えながら歩き回るが、やはりゾンビやゴーストばかりだ。

 この階にはヴァンパイアは居ないのだろうか。同じタイプの迷宮でも出る魔物と出ない魔物が居ると聞く。出ないのだとしたら凄く残念だ。おっぱい。


「あっ」

「ど、どうしました?」


 突然隣で声を上げられたからか、パステルが驚いた表情をしていた。いや、今はそれ所じゃない。ヴァンパイアが居たのだ。

 マップを見て位置を確認する。ここから100m程先のマップの端っこの方だ。何でそんな所に居るのかは解からない。それに、周囲に1人しか居ない。もしかしたら、ゾンビやゴーストが居るかも知れないが、あの程度の敵は物の数ではない。


「ヴァンパイアが居た。女だったら捕獲しよう」

「女限定……ですか? なるほど、解かりました」


 パステルは微笑しながら返事をしてくる。どうやら察してくれたようだ。男のヴァンパイアとか気障っぽくて好きになれない。偏見だけど。

 同時に女のヴァンパイアは高飛車みたいなイメージがある。その辺りはちゃんと教え込めば良い。それはそれで楽しみだ。


「あっちの方向だけど、ゾンビやゴーストの反応は?」

「ありません。捕獲の邪魔をされそうにはないですね」


 パステルの魔力感知にも引っかからなかったようだ。つまり、邪魔するものは一切ない。思う存分捕獲出来るという事だ。相手が女とは限らないけどさ。

 俺たちは、慎重に歩を進め生命感知で引っかかった場所まで近寄る。正面に1人の人型のシルエットが見える。遠くから見た感じでは、女性のように見えた。少しずつ近寄るに連れて、そのシルエットがはっきりと解かる。


「で、でかい……」


 思わずそれを見て呟いてしまった。隣に居たパステルがこちらを見ている。何か黒いオーラを出している気がするが、怖くて見れない。

 貧乳もおっぱいだ。貴賎はない。でも、そんな事を言ったら矢で射抜かれそうだ。


「捕獲するぞ。援護を頼む」

「主様、1人では危険です。まずは私が遠距離で……」


 そう言ってパステルは、弓に矢をつがえる。相手はまだ気が付いている様子はない。手足でも撃ち抜いてくれれば、動きを封じる事が出来るだろう。

 俺とネクはいつでも飛び出せるように構える。そして、パステルが矢を放った。その狙う先は……心臓!?


「ネク行くぞ!!」


 胸を貫かれ倒れるヴァンパイア。俺は慌てて走り寄り、拘束アイテムを投げ付ける。

 どうにか間に合ったようで、そこには捕獲が完了した球が落ちていた。危ない危ない……折角のおっぱいを逃す所だった。

 

「パステル……」

「申し訳ございません。手が滑りました」


 弓矢って手が滑るものなんですかね。その割に心臓に一直線だったんだが……。

 どう見ても反省の色もない。巨乳を撲滅したいのだろうか。恐らくこれ以上追求してもかわされそうだ。


「ふぅ……手が滑ったのなら仕方ないな。次は気を付けてくれ」

「はい、次は確実に仕留めます」

「いや、そうじゃなくてだな……」


 この子の中では巨乳=敵という構図が出来ているんだろうか。捕獲するって言ったよね?

 どうやら、パステルは巨乳を見ると性格が変わるらしい。どこまで憎んでいるんだよ。


「キリも良いし、そろそろ拠点に帰ろう。幸いこの辺りはマップの端だ」

「パステルッ! 痛い!! 凄く痛い!!」


 俺が帰還をする事を告げると、パステルが近くを飛んでいたタリスを掴み、その胸に抱く。

 そして、タリスが抱き締められる痛みから叫びだす。哀れな……。

 俺はそれを見なかった事にして、マップの端に楔を設置する。皆を集めて羽を使用し、拠点へと帰還した。




「さて、俺は牢屋に行く。皆は休んでいてくれ」


 拠点に戻り、ティアの出迎えを受けた後、皆にそう告げた。内心凄く楽しみなのだ。

 ネクがパステルの肩を軽く叩いて、コタツの部屋に誘導している。女がそこまで胸の大きさに拘る理由は解からない。

 だけど、貧乳にコンプレックスを抱える子って良いね。八つ当たりはされたくないが。


 牢屋の部屋に入る。なんだか凄く久しぶりの様な気がする。使っていなくても使い魔の皆が掃除してくれているみたいで、思ったより綺麗なようだ。

 そういうのは、全部使い魔任せなんだよな……たまには手伝うのも良さそうだ。


 牢屋に設置してある筒に球を入れると牢屋の中に1人の女性が現れた。

 手足を縛られ地面に転がっている子を見る。長い銀髪、白い肌、目は閉じているから色は解からないが、見た目はかなり綺麗な部類だろう。

 だが……胸が……。


「どうして貧乳なんだ……」


 俺は地面に膝を突いてうな垂れる。捕獲前は巨乳だったはずだ。どうしてだ。どうしてこうなってしまったんだ……。

 身長は目測で150cmくらいでネクと大差はない。だが、その胸はパステル以下だ。これはかなりショックだ。期待していただけに……。

 俺はおっぱい派ではなく尻派だ。確かに尻の形の方が重要だ。それでもおっぱいが嫌いな訳じゃない。並以下の子ばかりで少し大きい子に憧れたっていいじゃないかよ。俺が一体何をしたんだ……。この迷宮の主は残酷だ……。


 ちょっと自己陶酔に入りながら、そんな事をしていると、牢屋の中の子が身動ぐ。起きたのだろうか。

 俺は立ち上がると牢屋の中を見る。そして、その子と目が合った。赤い。深く赤い目だった。ヴァンパイアっぽいなぁ……。


「ここはどこじゃ?」

「じゃ?」


 目の前の少女は、縛られている事も焦らずにそう言ってくる。どこか聞いてくるのは真っ当な質問だろう。

 だが、俺が気になったのはその語尾だ。見た目は若い気がするのだが、実はかなりの高齢なのだろうか。

 ヴァンパイアってくらいだし、見た目どおりの年齢ではないのかも知れない。


「ここは、迷宮内の拠点だ」

「拠点……迷宮……。ふむ、では次の質問をしたい。儂をどうするつもりじゃ。裸で縛りおって……子供の様な体に欲情する変態かのぅ?」


 少女は目を細めて、そう言いながらこちらを見てくる。その目は、こちらの行動を咎めていると言うよりは、この後どうするのか楽しみにしている様にも見えた。

 ここで選択肢を間違えてはならない。おっぱいは諦める事になったが、この子を使い魔にする事は諦めてはいない。出来る限り解放はせずに仲間に加えたい。

 もしかしたら、俺はこの子に魅了されているのかも知れない。ロリコンではないはずなのに、俺はこの少女から目を離すことが出来ない。


「君を使い魔にしたい」


 俺は、一言それだけを伝える。何故だか、多く言葉を紡ぐ事が出来ない。

 まるで金縛りにでもかかったかのような……。

 ふと、そこで以前掲示板で見た情報を思い出した。確か、目を合わせることで動きを封じる事が出来るスキルがある。そんな話が書いてあったはずだ。


「魔眼か?」

「ほう、気が付いたか。いかにも魔眼を使っておる。そのせいでこちらも身動きは取れぬがの」


 どうやら本当に魔眼を使われていたようだ。ただ、書いていたスキルでは自分よりも弱い相手限定だったはずだ。

 少なくともこの子よりも俺の方がレベルや強さは上のはず。なのに、その効果を味わう事になるという事は、スキルの魔眼とは別なのだろうか。

 しかし、そういう情報を簡単に明かしても良いのかね。これから交渉をするのであれば、魔眼を使えるという情報を隠した方がスムーズに利用出来ると思うのだが……。


「お主の使い魔になること自体は構わぬ。じゃが、こちらもいくつか要望があってのぅ……」

「出来る事であれば叶えよう。教えてくれ」


 この少女相手に騙しながら交渉をするのは、得策ではない気がする。もし、本気で魔眼を使われていた場合、こちらは完全に従っていただろう。

 それをしないという事は、俺と話し合うつもりがあるという事だ。今後、魔族のような力のある種族と交渉する時は、気を付けたほうが良さそうだ。


「まず、一番重要な事じゃが、血が欲しい。儂はヴァンパイアという種族上、命の維持に血を飲む必要があるのじゃよ」

「それは想定内だ。どの程度の血を飲むのかは解からないが、出来る限り叶えよう。それに関しては、こちらからも質問がある」


 漫画や映画などでの知識では、ヴァンパイアに血を吸われた場合、下僕あるいは同じヴァンパイアになるという話がある。

 伝承などの曲解の可能性もあるが、少なくとも聞いておかなければ危険だろう。そうなってしまったら、俺だけではなく他の使い魔にも影響が出る。


「血を吸われた場合、何かが感染してしまう事態は起こるのかどうかだ」

「何も起こらぬよ。血を急激に失った事と魅了の魔眼を使われた事で意識が薄れるくらいじゃ」

「そうか……」


 俺は言葉を濁しながらそう聞いてみる。少女は、考える素振りもなくそう言ってきた。この話を本当か嘘か判断を……いや、後で種族の情報をPCで調べられるだろう。

 もし、この話が嘘であった場合、契約は無効になる。それなら、確認をするまで血を吸わせなければ良い話だ。

 尤も、ヴァンパイアを使い魔にしている他のプレイヤーは結構多いらしい。そのプレイヤーたちが何も言わない所を見るとそういう危険は無いのかも知れない。


「次の条件じゃが……衣食住を保障してほしいのじゃ。血を吸う事で最低限生命の維持は出来るのじゃが、それ以外でも食事は必要になるのでな」

「それも保障しよう。他にも使い魔はいるが、全員俺と同じ食事、寝床は用意している。衣服に関しても作る者が居るから問題はない」

「なら、使い魔になる事を受け入れるのじゃ。早くせい」


 保障されると解かったからか、今度は急かしてきた。随分と忙しい子だな。

 牢屋に入り、膝を突いて手をかざす。そういう事をする必要はないのだが、雰囲気というのは重要だろう。

 そして、”テイム”と心の中で呟くと、この子の情報が入ってくる。魔眼なんて持っているから変異種なのかと思ったが、ヴァンパイアとして標準のスキルらしい。血を飲む時に誤魔化すのに必須なのだろうか。ヴァンパイアの世界も世知辛いね。


「これが……使い魔というモノの感情かの。面白いのぅ」

「これで完了だ。手足の拘束を外すよ」


 少女の手足の拘束を外す。その際に色々と裸体が見えてしまっているが、俺は生憎ロリコンじゃない。

 嘗め回すようにその体を見てしまっているが、ロリコンじゃない。きっと、魔眼のせいだ。


「ふむ……体に異常はないみたいじゃな」

「これを着てくれ。後でサイズの合った物を作ってくれると思うが、さすがに裸のままでは寒いだろう」


 そう言って俺はシャツをアイテムボックスから取り出す。俺のサイズなので、かなりぶかぶかの様だ。

 ネクのサイズなら丁度良さそうだが、勝手に拝借する訳には行かない。いくら使い魔の物だとしても自由にして良いわけでもない。

 スリッパも取り出して履かせる。素足では、この石畳は冷たいだろう。


「布の質は良さそうじゃな。この分だと衣類はいい物を作ってくれそうじゃ」

「ああ、その辺は期待してくれて良いよ」


 俺は、少女を連れて牢屋を出ようとする。そういえば、名前を考えなければ……。


「君は自分の名前を覚えていたりしないか?」

「名前かの。むむむ……思い出せん」


 どうやら記憶を持っていないパターンのようだ。そうなると仮の名前を付けてやらないとな。

 ヴァンパイア、ヴぁーん、情熱の律動、律動、リズム、リム。うん、リムにしよう。


「思い出すまでリムって名乗ってくれ」

「ほう、リムか。気に入った。その名を名乗る事にするのじゃ」


 どうやら気に入ってくれたようだ。呼びやすい名前を考えるのは相変わらず難しい。

 俺はリムを連れて広間へと移動する。巨乳じゃないから、パステルと上手くやってくれるだろう。

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