57話
「……そんな事があったのか」
『うん、その後どうなったのかは解からないんだけどね』
ネクの過去の話を聞いて、ネクが強い理由が何となく解かった。
大量の魔力に謎の妖精による修練、そして戦場の最前線での戦闘か……。
戦死したという15年の間に、どれだけ密度の濃い人生を送っていたんだ。
「ネクはどっちの名前で呼んだ方が良いんだ?」
『ネクのままで良いよ。もう私はフィリスじゃないから……私はネク、スズキの使い魔だよ』
アンデッドの体になった事を指しているのか、あの頃の自分はもう過去の人間だったと思っているのかは解からない。
ともかくネクは、俺の使い魔のままで居てくれるようだ。
ネクの体がどうなったのか、その魔族が倒されたのか知りたい所だが、その世界に居る訳ではないので調べようが無い。
どうにかして、結末くらいは知りたいんだがなぁ……。
『ともかく、私は記憶と共に過去の技術を取り戻したから、今まで以上に活躍するよ』
「いや、あの魔力解放だけは使わないでくれ。魔力の枯渇って相当苦しいらしいぞ」
『約束は出来ないよ。スズキが私を心配してくれるのと同じで、私も仲間を助けたい気持ちはあるから』
「……そうか。なら、いざという時以外は使わないよう頼む」
ネクの能力が更に強化されるのは嬉しいが、死に繋がる魔力解放だけは使って欲しくない。
スケルトンの体が苦痛を味わうのかどうかは知らないが、自爆攻撃は見ていて気分の良い物でも無い。
俺が合理的であれば、ネクを上手く利用できたかも知れないが、ネクも家族だ。犠牲にして探索を進めたいとは思わない。
ネクはナイトの札を手に取るとそれを使う。これで全員のクラスアップが完了した。
全員予想通りの職業になったようで、パーティ全体の底上げが出来たと思う。
後は、メンバーを増やしていけば探索も楽になる……かなぁ……。今までのを見る限り楽にならない気がする。
『さてと、この力を試すために訓練場に行こうかな。スズキはどうする?』
「俺も皆の新しい力を見たいから行くよ。コク以外全員訓練所に行くみたいだし」
ネクは、俺に話した事でスッキリしたのか、訓練場で力を試すらしい。
俺たちは、訓練場へと歩いて行った。
「――ッ!! また!!」
ティアの剣はネクの盾に防がれる。そのままネクは体重をかけてティアに突進する。ティアは、咄嗟にそれを避けて距離を取る。
だが、ティアは距離を取り切れない。未だにネクのハンマーの攻撃範囲内だ。そのままネクはハンマーをティアの体目掛けて振り払う。
ティアは、無理な姿勢のままそれを転がるように回避する。肩や肘を結構地面に強く打っている気がする。
それでも、すぐに起き上がると構えを解かずにネクと対峙する。
「ネク……硬い」
ティアがそう呟いた。ナイトにクラスアップしたネクの防御を破るのは困難だ。殆どの攻撃がその盾によって防がれてしまう。
だが、そう言っているティアの敏捷速度も凄く上がっており、そんなネクと対等に渡り合っている。てか、俺じゃもう相手にならなくね?
前職の時点で対等の強さだったのに、更に強くなってしまっては勝てそうに無い。プレイヤーは上級職とかないんかねぇ……。
「マスター、眉間にシワが寄っているわよ」
「あれを見た後じゃなぁ……」
後衛の方々は直接前衛と戦う事はない。だからか割と気楽に観戦しているようだ。
あの2人の模擬戦に付き合わされる身になって欲しいです。
そして、ティアとネクは再度切り結ぶ為に走り出した。俺はそれを遠くの世界の映像を見るかのように、呆然と眺めたのだった。
「ふぅ……ご主人様、代わる?」
「いや、遠慮しておくよ。今の2人に太刀打ち出来そうに無いし」
暫く模擬戦をしていた2人は、それを終えてこちらに歩いてきた。
見れば見るほど、自分の強さとかけ離れて行っている気がする。
仲間が強くなっていくのは嬉しいのだが、離されるのはきついのだ。役立たずにはなりたくない。
「タリスとパステルの魔法はどんな感じだ?」
「魔力の消費量が下がったお陰で、今までよりも上位の合成魔法を使えるようになりました。範囲の拡大に関しては、危険なのでここでは使えませんね」
「そうか。魔力の消費量がどの程度か解からないが、無理だけはしないようにな」
魔法も大分使い勝手が良くなったようだ。魔力の消費が少なくなるという事は、ポーションの消費量も減るだろう。
そう考えるとこれ以上の速度で探索を出来るのかも知れない。
『スズキ、今度は魔法を含めて試したいから、ティアと一緒に2対1をやってくれないかな?』
「ネク……あれをやってみるのか」
『うん、だからスズキたちは全力で来て欲しいんだ』
「解かった。ティア、ネクを全力で倒すぞ」
「え?」
俺はそう言うと、装備を着け始める。ティアは何の事かさっぱり解からないらしく困惑している。
敢えて説明をしない。さすがに、魔力解放はしないと思う。だが、詠唱予約がある。恐らくこっちを実戦で使って、感覚を取り戻したいのだろう。
「ティア、ネクは記憶を取り戻して、本来の英雄並の技量になっている。手は抜くなよ」
「……解かった。全力で行く」
俺とティアは剣を構えて互いに言葉を交わす。ティアには、戦士としてのプライドがあると思う。先程の戦闘も手を抜かれていたと思うと結構衝撃的だったかも知れない。少し怒ったような表情をしているみたいだ。
ここまで計算通りだったらネク怖い子っ。
「あっ……そういう事ですか」
ネクは鎚と盾を構えてこちらを向く。そんなネクを見たパステルが声を発して何かを悟る。魔力感知に引っかかったのだろうか。
どうやら、ネクが何をしようとしているのか気が付いたようだ。
詠唱予約をするのであれば、少しでも試合前の時間を長引かせる訳にはいかない。ネクのそれは複数ストック出来るのだ。
「ネク! 行くぞ!!」
そう声をかけて盾を前面に出しながら突撃をする。ティアは少し驚いていたが、俺の動きに反応してきた。普段の俺の待つという戦闘スタイルではありえない事だ。
一気に接近すると勢いのまま剣を突き出した。ネクは盾でそれを横から弾くとハンマーで反撃をしようとする。だが、それは叶わず、ティアからの剣が迫る。
ネクは1歩下がる事でそれを回避する。ティアは追撃する為に左の剣をネクに突き出す。ネクは、その剣を盾で防ぐと同時に光の矢を放った。
「――ッ!!」
「ティア!」
俺はティアに体当たりをすることでその射線上からずらす。光の矢は俺の盾にぶつかったようだ。その衝撃は大きかったが、耐えられないほどではない。
これが炎の矢だったら、盾が高温で熱くなったりするのだが、この光には熱は含まれて居ないらしい。その分、アンデッドに特別な効果があるのだろう。
「今の……なに?」
「あれが、ネクの新しいスキルだ。詳細は省くが、武器だけじゃない事だけ覚えとけ」
「解かった。気をつける」
距離を取って、ティアが俺に聞いてくるが、俺自身も簡単に話を聞いただけだ。そこまで詳しい理論や効果は解からない。
パステル辺りならすぐに何かに気が付いているだろうが、生憎俺の知識ではそこまで理解する事は出来そうに無い。
例えば、いくつストック出来るのか、それの使用中にどれだけ体に負担がかかるのか、なんて魔法を使えない事には知りようが無い。
幸いにも俺たちは、アンデッドではない。最悪、避けられないとしても盾で防げば、どうにか耐えられるのだ。
それに関してはネクも解かっているだろう。だから、無駄に避けられるような場面では使ってこないと思う。来るとすれば、こちらの攻撃の後の僅かな隙を狙ってくるだろう。
正面から行ってもネクに勝つのは難しい。だとすれば、奇策を練るしかない。
ティアと並びながら、自分の持っているスキルを思い起こす。剣、盾、軽業、防御強化、直感は今も使っている。罠解除、調合、精力増大はこの状況では使い道が無い。とすれば、投擲くらいだが……。
「あっ」
「ご主人様?」
思わず声が出てしまった。投擲スキルがあるじゃないか。今までの魔物との戦いでは、少しナイフを投げる程度にしか使っていなかった。
こういう対人戦の方が使い道があるんじゃないか? 一応、刃の引いた訓練用の短剣は用意している。だとすれば、投げて隙を作り出す……いや、ネクはその程度の攻撃は予測しているだろう。ならば!!
「ティア、俺は後ろから援護する。正面を頼むぞ」
「ん、解かった。行く」
ティアは、剣を構えて走り出す。それに合わせて俺は剣を投擲した。ティアの攻撃と同時に飛んでいく剣。だが、それはネクの盾によって簡単に弾かれてしまう。
すぐに、盾の裏に隠してあるナイフを取り出して、ティアの攻撃に合わせて投げていく。手数が多い俺たちの攻撃を捌ききれないのか、ネクは攻撃魔法を使う事でナイフの勢いを相殺する。
恐らく、ネクは俺が持っているナイフの数を把握しているだろう。遂に投げナイフは底を付いてしまう。だが、俺の投擲武器はそれだけじゃないんだぜ?
俺は、アイテムボックスと念じる。横にアイテムボックスへの亀裂が現れる。そこに手を突っ込むと練習用の剣を取り出す。練習用の武器は、予備を含めると相当な数がある。それら全てが、投擲用に使えるのだ。
卑怯と言わないで欲しい。事前に魔法をストック出来るネクと変わらないはずだ。ネクのストックとアイテムボックスの在庫のどっちが先に切れるか勝負だ。
ティアの攻撃に合わせて、剣や槍、弓や矢を投げていく。本来弓は撃つものだが、そんなのは関係ない。とにかく何でも良いから投げるんのだ。
「うわぁ……」
「主様、それはちょっと……」
それを見たタリスとパステルが凄く嫌そうな表情を浮かべながら声を出していた。うるせぇ、勝てば良いんだよ。
ネクは、防ぎきれないと察したのか、こちらに向かって走ってくる……って、こっちくんな。今の俺には剣も盾もない。既に投げてしまったのだ。
俺は、ネクの攻撃を全力で回避する。アイテムボックスは動きながらでは使用できない。使った場所に亀裂が現れるのだ。そこに手を突っ込んでアイテムを取り出すのはまず無理である。
回避だけでは限界を感じた俺は、ネクに背を向けて逃げ出した。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
雑談スレpart82
103 名前:名無しさん
さっき鑑定してビビった
スキルもドロップするのな
104 名前:名無しさん
ああ、ドロップするぞ
大半は買えるスキルだけど稀にレアなのが出るらしい
105 名前:名無しさん
へー、レアなスキルとか面白そうだな
どんなのがあるんだ?
106 名前:名無しさん
レアかどうかはさておき
良く見かけるのは魔眼だな
効果は自分より種族レベルの低い相手の動きを封じるだったか
107 名前:名無しさん
ちょっと中二入っているな
でも、動きを封じるとか強くね?
108 名前:名無しさん
意外とそうでもないんだよ
まず、相手に目が無いと駄目だし、相手の視線を合わせられないと効果が無い
それに、複数の相手に同時にかける事が出来ない
敵によっては、目を合わせても効果が無いのもいるしな
109 名前:名無しさん
条件厳しいな
目を合わせるとか結構辛そう
獣っぽいのはあっちから合わせて来るけど
110 名前:名無しさん
確か、脳の神経に影響を与えて麻痺させるらしいから
そういう部分が、最初からおかしい相手には効かないんだってさ
アンデッドや魔法生物には効かないそうだ
111 名前:名無しさん
アンデッドでもヴァンパイアみたいなのには効きそうだけどなぁ・・・
112 名前:名無しさん
ヴァンパイアだと魔眼持ちの変異種もいるから
迂闊に目を合わせるのは危険だぞ
ヴァンパイアの変異種って結構多いらしい
113 名前:名無しさん
へー、元々力のある種族だったのかな
もしくは、個体が少ないのか
114 名前:名無しさん
どっちだろうな
ヴァンパイアって大量にいるイメージは無いな
115 名前:名無しさん
ともかくレアなスキルが落ちる事があるんだな
スキルばかり効果が高いと魔法が寂しくなるなぁ・・・
116 名前:名無しさん
魔法に影響を与えるスキルもあるぞ
魔力が上がるのとか別の効果を与えるのも
117 名前:名無しさん
そういえば、鍛冶スレで新しい魔法の研究が始まったらしいぞ
118 名前:名無しさん
何で鍛冶で魔法なんだよ!?
鍛冶と魔法って全く別もんじゃないのか?
119 名前:名無しさん
ああ、奴らは面白そうなら何でも飛びつくから
あそこは、鍛冶スレなんて名前だけど別物だから
120 名前:名無しさん
そうなのか
見に行きたいような行きたく無いような・・・
121 名前:名無しさん
止めとけ
あそこは魔境だ
122 名前:名無しさん
そうしとく
んで、新しい魔法の研究って何よ
123 名前:名無しさん
魔石に独立した別の効果を付与する研究だったかな?
俺も詳しくは解からん
124 名前:名無しさん
あれ?
魔石って魔力を取り出すくらしか出来なかったよな?
杖なんかにくっ付けて魔法の補助的な武器にするの
125 名前:名無しさん
そうだったんだけど
新しい理論が見つかったらしくて皆で研究を始めたんだってさ
126 名前:名無しさん
へー、あのスレの人らは結構情報を共有しているんだな
調合スレなんて情報を秘匿しまくっているのに
127 名前:名無しさん
まぁ、仕方ないさ
独占的に商売を出来れば儲けられるんだし
128 名前:名無しさん
それにしてもなぁ・・・
育毛剤はマジで欲しいんだわ
129 名前:名無しさん
それかよ
他の若返るのとかそういうのじゃないのかよ
130 名前:名無しさん
ハゲは万国共通の悩み
仕方ない
131 名前:名無しさん
育毛剤 30万DP
あれには目を疑ったわ
132 名前:名無しさん
ちゃんと効果はあったらしいぞ
ソースは掲示板
133 名前:名無しさん
当てになんねぇ・・・
っと、魔法に関するスキルだっけか
その手のスキルってスクロール以外から覚える事も出来るらしいぞ
134 名前:名無しさん
どういう事?
覚醒スキルとは別物?
135 名前:名無しさん
ああ、努力の果てに理論を得る事で使えるようになる場合もあるらしい
というか、スキル自体がその努力を省略して覚えるようなもんだしな
136 名前:名無しさん
ほほう、魔眼みたいな先天的なものは仕方ないにしても
魔力の増加とか鍛冶スレの研究みたいなのは、努力でも得られる可能性があると
137 名前:名無しさん
そういう事だな
スキル枠も覚醒スキルに入るらしいから
既存のスキル枠を圧迫する事も無い
138 名前:名無しさん
そりゃいいや
変異種じゃない使い魔も変異種並の力を得られる可能性があるって事だろ?
皆の士気の向上にも繋がりそう
139 名前:名無しさん
それには相当努力する必要あるらしいけどな
少なくともスキルを覚える事で
新しい力を得る近道になっているのかも知れない
140 名前:名無しさん
つまり、努力次第で死んだ毛根を生き返らせられる方法が!!
141 名前:名無しさん
いや、素直に育毛剤買えよ・・・




