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迷宮と掲示板 改稿版  作者: Bさん
5章 闇と墓の迷宮
71/88

56話

「うーん……誰にどの職に就かせるか迷うな……」


 俺はPCで調べた結果を見て呟いた。前職に戻せないというのは、試しに色々と出来ないから大変だ。

 もし、掲示板に書いていたように、ここから派生して行くのなら、迂闊に選ぶ事は出来ないだろう。

 ゲームのキャラなら失敗したらやり直しも出来るが、ここは現実だ。その人の戦闘スタイルが変化してしまう恐れがある。


 候補として考えているのは、ネクがナイト、ティアはソードマン、パステルとタリスはウィザードだ。

 コクはアルケミスト以外選ぶ余地はない。プリーストが選択肢に無いのは、今まで魔法による回復を一切していなかったからだ。

 これから必要になる可能性はある。だが、そうなったらその時に仲間を増やすという手もある。

 考えなしに何人も加えようとは思っていない。だが、必要になって増やさないのは愚かだろう。


「一応、本人にも聞いてみるか。人生に関わる事かも知れないしな」


 そう呟いて立ち上がる。コタツの所に居るのはタリスとティアか。一緒にネクも居そうだな。

 パステルは珍しく地下に反応がある。コクと何か作っているのだろうか。あの2人が一緒にいると嫌な予感しかしない。

 巻き込まれたくは無いので、先にコタツの部屋へと向かった。


「あれ? マスターどうしたの?」

「居るのはタリスとティアだけか。ちょっと聞きたい事があるんだ」


 部屋に入るとタリスがこちらに声をかけてきた。テレビからは、ワイドショーで芸能人の不倫がどうとか流れている。この2人はそんなの見てたのか……。

 俺はコタツに入るとクラスアップの札を取り出す。タリスとティアは、その札を見て首を傾げていた。


「これは、クラスアップの札というらしい。今、ティアはファイター、タリスはメイジという職なんだけど、それを上の職業に変えてくれるらしいんだ」

「え!? そうなんだ……という事はあたしも強くなれるの?」

「くらすあっぷ……」


 2人は札を凝視しながら各々そう言っていた。そりゃ、こんな札で強くなれると言われても信憑性はないよな。

 こうやって考えられるのが羨ましい。プレイヤーはクラスアップ出来ないんだよなぁ……。


「それで、それで?」

「落ち着け。ファイターは、ナイト、ウォリアー、ソードマンから選べる。メイジはウィザードとプリーストだな。その違いは……」

「ソードマンがいい」


 タリスに急かされて説明をしようとした矢先、ティアが即決してくる。やだ……男らしい……。

 効果を聞く前に決めてしまっても良いのだろうか。性能的にも獣人の戦士に丁度良いが……。てか、女なのにソードマンなのな。


「ティア、本当にそれで良いのか?」

「ん、大丈夫。素早さ重視の剣士」

「なんだ、知っていたのか……」


 どうやらティアは既にクラスアップの事を知っていたらしい。タブレットがあるのだから、事前に知っていてもおかしくは無いよな。

 強さに興味のある人であれば、どこからか行き着いていたのかも知れない。


「メイジの方を早く、早く」

「はいはい。ウィザードは攻撃魔法重視、プリーストは回復関連重視だな。どっちがいい?」

「うーん……回復魔法は苦手なのよね……」


 タリスの性格からして癒すというより、攻撃魔法をぶっ放す方が合っているだろう。

 ゲームのフェアリーとかは回復してたりするけどな。


「決めた。ウィザードでお願い」

「本当にそれで良いのか?」

「う……どうしようかしら……」


 決めたタリスに確認を取ると迷い始めた。少し意地悪だったか。

 それでもウィザードの札から目を逸らさない。どうやら答えは変わらないようだ。


「やっぱりウィザードで」

「解かった。それじゃ、札に書いてある文字を読んで使ってくれ」


 2人にそれぞれの札を手渡しながら言う。それを受け取り2人は眼を通していく。

 すると札が消滅し、同時に2人は眼を閉じた。


「これが、新しい力……」

「へー、便利になりそうじゃない」


 無事クラスアップを果たせたようだ。スキルを覚えた時の様にすぐに実感出来るのな。

 すると、ティアが突然立ち上がる。


「訓練してくる」

「あ、あたしもいくー」


 そう言って2人は部屋を出て行った。新しく得た力を実戦でどの様に使えるかシミュレートするのだろう。

 知識にあったとしても実際使わないと違いが判らないものだ。


「さて、次は地下か……」


 気は進まないが、これ以上後回しには出来ないだろう。ネクは感知スキルで調べられないしな。

 地下への扉を開けて階段を下りていく。鍛冶場付近に来た時、話し声が聞こえる。さて、どんな悪巧みをしているのだろうな。


「あ、これ? なるほど、面白い機構をしているね」

「ええ、それで完成です。コクも大分理解してきましたね」

「まだまだだけどね。でも凄いよ。こんな理論思い付きもしなかった」


 部屋からコクとパステルの声が聞こえる。ここまでは、普通に知識を教えているだけにしか聞こえない。

 何か怪しい事をしている訳ではなかった様だ。少し反省してドアノブに手をかける。


「私自身も何でこんな事を知っているか解からないんですけどね。それより、コク。例の物は準備出来ましたか?」

「もちろんだよ。発禁の品だから苦労したけどね。回復薬に混ぜる事で検閲を逃れたみたい。効果は変わらないみたいだよ」

「それは素晴らしいです。早く、早くください。それがあれば……ハァハァ……」


 パステルが頬を紅潮させながら、息を荒く吐いている。

 あるぇ? どう考えても危険な取引の様な気がしてきた。パステルは一体何を頼んだんだ?

 嫌な予感しかしない。凄く巻き込まれそうな気がする。


「はい、これだよ。ただし、使用する時は注意してね。獣みたいに発情するらしいから」

「それで良いんです! さぁ、早く」


 俺は、音を立てずに鍛冶場に入る。いつものパステルであれば、気配を察知して気が付かれていただろう。

 だが、今の彼女はかなり興奮気味だ。俺が背後から近付いている事に気が付いていない。


「あっ」

「薬品か? 危なそうだから没収しておくぞ」

「あ、主様!? それは、それだけは後生ですから!!」


 俺はコクから薬品を取り上げると、ズボンのポケットにそれを仕舞いこむ。アイテムボックスに入れてしまったら、後で回収されそうだし。

 パステルが顔を青ざめながらそう言ってくる。本当に必要そうな物だったら、ちゃんと返せば良い。


「それで、コク、パステル。2人に新しいクラスになって貰おうと思う」

「……クラスアップですか。あの札はそういう効果があったのですね」

「クラスアップ?」


 すぐにパステルは頭を切り替えて話に乗ってくる。本当にこの切り替えの早さは見習いたい。

 コクはクラスアップの事を知らないようだ。そういう情報には、興味が惹かれないのだろう。


 2人に札の効果と職業の説明をする。すると、すぐにコクはアルケミストを選んだ。

 戦闘が出来ないのだから、前衛職を選ばないとは思っていたが早いな。


「私がなるとしたらウィザードですね。タリスがウィザードを選んだのであれば、私はプリーストの方がバランスは整えられるのですが、どうにも回復魔法は苦手です」

「プリースト不在か……わかった。2人ともそれを使ってくれ」


 当初の予想通りの職業になったようだ。後はネクがナイトを選んだら全く予想と同じになりそうだ。

 すぐに札を使用してそれが消滅して行く。無事クラスアップが終わったようだ。


「これは面白いね。初めて鍛冶より調合をしたくなってきたよ。無限箱の中の薬草は残っているかな?」

「今日の分はやっていないから残っているはずだ。好きな様にやってくれ」

「うん、やってくるね」


 そう言ってコクは小走りで鍛冶場を出て行く。パステルは新しく増えたスキルに関して何か考えているのだろうか。

 パステルの横顔を見ながらボーっとする。変なスイッチが入らなければ美人なんだけどなぁ……。


「パステル。何か思いついたのか?」

「合成魔法と組み合わせられそうですね。魔力の消費量がどうなるか次第ですが……」

「そうか。今タリスが訓練所に居ると思うから、色々と試してみてはどうだ?」


 パステルにタリスの居場所を教える。感知スキルを使えばすぐに解かる事だが、訓練所で訓練をしているとは限らないしな。

 俺とパステルは一緒に階段を上がっていく。もう地下に用事は無い。


「それで主様。先程の薬品ですが……」

「返さんぞ。嫌な予感しかしないんだ」

「……そうですか……」


 パステルが明らかにがっくりと肩を落とす。悪い気がするけど、さすがに自分の身に降りかかるような事だったら困る。

 せめて効果を確認しない事には、返す気にはなれない。


「そういえば、ネクはどこにいるか知っているか?」

「えーと……あの辺りはネクとタリスの寝室ですね」

「ありがとう。行ってみるよ」


 パステルに感知スキルを使ってもらい、階段を上り切ったところで別れる。

 訓練所の方へ歩いて行ったので、色々と研究をしてくれるのだろう。


「さてと、寝室か」


 俺はそう呟きながら、2人の寝室の扉の前に立った。さすがにノックの1つもせずに入るわけにはいかない。

 扉を軽く3回叩くと人の気配が扉に近付いてきた。そして、その扉が開かれた。


『スズキ? どうしたの?』

「ちょっと、話があるんだ。入って良いか?」

『大丈夫だよ。どうぞ』


 ネクに案内されて部屋に入る。そういえば、寝室って寝る以外に使っていないから、ベッドしか無いのか。

 余り必要性を感じていなかったから、他の家具を入れるのを忘れていた。余裕が出来たら、椅子とテーブルくらい用意した方が良さそうだ。


『それで話って?』

「クラスアップって知っているか?」

『ごめん、知らない。教えて』


 ネクの書いている文字を読みながら聞いてみる。さすがに知らなかったか。

 職業に関して説明をして行くと、ネクは何故かプリーストの札を手に取った。

 

「ネク? それはメイジからじゃないとなれないんだが……」

『うん、解かってる。クラスはこっちを選ぶよ。スズキ……いや、マスター。私の話を聞いて欲しいんだ』

「……そうか。聞かせてくれ」


 スケルトンである以上表情はないが、それでも何か懐かしんでいるような、悲しんでいるような雰囲気が伝わってくる。

 ネクは、プリーストの札からナイトの札に替える。そして俺の事をマスターと呼んで来た。わざわざマスターと言うくらいだ。使い魔と主の関係として聞いて欲しいのだろう。


 この間から少し様子がおかしかった理由だろうか。

 はたまた、記憶が戻ったのだろうか。

 ネクは、ゆっくりと紙に文字を書き始めた。

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