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迷宮と掲示板 改稿版  作者: Bさん
4章 街の迷宮
61/88

49話

「これがその装備だよ!!」

「でか……持てるのかこれ」


 翌朝、訓練場にてコクが完成した武器を取り出す。

 巨大なランス型の槍だ。全長3m程だろうか。太さが8cmくらいある。先端は細いが、取っ手の辺りになると凄く太い。

 確か砲撃をするとか言ってたし、その機構がそこにあるのだろう。


「ちょっと持ってみて良いか?」

「うん、どうぞ。だけどトリガーは引かないようにね。暴発するから」


 持ってみない事には、それが使える武器なのか解からない。暴発と聞いて少し怖くなるが、逆にそれに触れなければ問題はないはずだ。

 それを片手で持ち上げてみるが、持ち上がらない。

 両手で持って構えてみる。どうにか持ち運びは出来そうだが、これを使って振り回せとか言われたら不可能だ。


「ティア、持ってみてくれ」

「ん……重い」


 ティアに手渡して具合を確かめてもらう。

 速度重視のティアにはちょっと合わないかも知れない。


「ティア、走れそうか?」

「いけると思う。ただ、そこまで長い距離は無理」


 重量のある武器を持ったまま長距離を走ってもらうわけではない。精々数十メートルくらいだろう。

 試しに訓練場を端から端まで走って貰うと、きつそうではあるがどうにか出来そうだった。


「コク、使い方を説明してくれ」

「うん、まずこの武器の先端を龍の腹の部分に突き刺すんだ。そしてこのボタンを押す。やってみて」


 コクは説明しながらティアの持っている槍のボタンを指差す。グリップのやや上部にあるそのボタンを押すと、槍の先端が開き銃口が現れた。

 先端の部分は花が開くように真横に円状に開いている。それぞれが尖っているのを見る限り、これが相手の肉の部分に突き刺さって固定されるのだろう。

 

「この銃口が現れたら、今度はトリガーを引けば良いんだけど、かなり音がうるさいから気を付けてね」

「音か……ある程度距離が離れているだろうから、俺たちは大丈夫だと思うが、持っている人は大丈夫なのか?」

「うーん……僕が実験した時は暫く音が聞こえなかったかな。出来れば耳栓みたいなのがあるのが理想かも」


 そう考えると、ドワーフであるコクよりも耳が良いティアにはかなりきついだろう。

 猫耳に対応している耳栓なんてあるんだろうか。


「ティア、ちょっと触るよ」

「うん、乱暴にはしないでね」


 ティアの頭に付いている耳に触れる。割と大きめだし、人間用の耳栓では難しそうだ。

 その耳に触れて上から耳を塞ごうとする。触れるとビクビク小刻みに動くのが楽しい。


「この状態では聞こえるか?」

「ん、大して変わらない」


 ティアの耳を押さえていると普通の人間と大差ないな。

 完全に音を消すにはイヤーガードの様な物を付けた方が良いのだろうか。

 いや、この上から兜を着けるから、塞いだ状態でかぶれば結構違うのか?


「ティア、兜を着けてみてくれ」

「解かった」


 そう言ってティアは自分の兜を取り出す。

 そして耳を折ったままそれを着用した。


「どうだ?」

「かなり聞こえなくなった。試して良い?」

「俺たちが離れたらな。皆離れて耳を塞いでくれ」


 ティアを除いた全員がティアから離れて耳を塞ぐ。

 その様子を見て1つ重大な事に気が付いた。ネクの耳ってどこにあるんだ?

 そんな事を考えているとティアが槍をしっかり持って構えを取った。

 そして、トリガーを引く。


 爆音と共にその先端から球状のような何かが飛び出す。その球は壁にぶつかると重い音を立てて地面に落下した。

 反動も凄まじいらしく。ティアが撃った場所からかなり下がっていた。

 この威力なら城壁くらい破壊出来るんじゃないか?

 でも、この威力でも壊れないのな、拠点の壁。


「あーあー、塞いでも結構くるな。皆大丈夫か?」

「こっちは問題ないよ。ティアが固まったまま動かないから様子を見ようよ」


 俺は周りの仲間に声をかけるとコクがティアの方を見ながら言った。

 釣られてティアの方を見ると槍を構えたまま動いていない。

 反動には耐えたみたいだが、どうしたのだろうか。


「ティア、大丈夫か?」


 そう声をかけても動かない。どうしたんだろうか。

 コクがティアの持っている槍を固まっている手から取り外すと状態をチェックし始める。

 俺はティアの兜を外して様子を見る。目を大きく開いたままの表情で固まっていた。


「ティア?」

「これ、気絶してない?」


 いつの間にか、タリスとネクも近寄ってきていたようだ。

 ティアの顔を見たタリスがそう言ってくる。

 

「立ったままか……」

『辛うじて耐えたんだろうね。凄い根性だと思う』


 気絶しているのなら、このままにしておく訳にはいかない。

 目を閉じさせるとティアを抱き寄せる。強張っていた体は弛緩し俺の方へと倒れてくる。

 原因はなんだろうか。音なら更に耳を塞ぐ何かを用意する必要があるだろう。


「コク、武器の状態はどうだ?」

「うん、調子は大丈夫だよ。ただ連続して3発が限界かな。銃身が熱くなりすぎてる」

「3発か。この威力なら十分足りるだろ。確実に3発撃てるように調整を頼む」

「もちろんだよ。次は試作品ではなく完成品をお見せするね。衝撃を減らさないと……」


 そう言いながらコクは槍を仕舞って訓練場を出て行く。

 この後、しっかり作り直してくれるだろう。

 

「ネク、タリス。ティアはこっちで面倒を見るから、休んでいてくれ。今日の探索はなしだ」

「うん、解かったー」

『コタツの所にいるから、何かあったら言ってね』


 そう言ってタリスとネクは訓練所を出て行く。

 俺はティアの背と膝の裏に腕を回して持ち上げる。そして寝室へと運ぶのだった。





「猫耳用のイヤーガードか……そんなものあるのかね」


 ティアを寝かせた後、俺はPCの前に座る。

 まずは、コクから売上がPCに転送されている事を確認する。結構まとまった金額が入っているようだ。こんなに入るのであれば、ドロップを素材に変えて正解だった。現物ドロップの倍の金額になっている。


 次にティアの気絶の原因に対する対処法を考えよう。

 それが音であった場合は、耳を塞ぐ何かがあれば少しでも軽減出来るんじゃないか、と素人思考ながら思う。

 コクがその辺りの何かを抑えてくれるかも知れないが、俺の方で出来ることがあればしておきたい。

 現在も地下で実験をしているらしく、爆発音がこっちまで聞こえている。よく耐えられるな。


「兜の間に布の様な何かを入れるしかないか」


 耳栓は置いてあったが、人間用しかない。コクの様に人間と大差ない耳であれば異種族でも使えそうだが、エルフや獣人の様な形状では入らなさそうだ。

 それなら頭の部分を布で覆ってから兜をかぶった方が簡単だし、効果を発揮してくれるだろう。

 その辺りはネクと相談をして作って貰うのが良さそうだ。

 それを伝える為に、コタツの部屋へと向かった。


 コタツの部屋に入ると、ネクとタリスがコタツに入ってテレビを見ていた。

 俺も2人に釣られて画面を見る。その番組は街中を歩いて何か紹介していた。

 良くあるグルメだか名所を紹介する番組の様だ。

 2人は、日本の古くからある建物の紹介を凝視していた。


「ネク、頼みがあるんだが」


 邪魔をするのもなんだが、先に用件だけは伝えたい。

 俺は声をかけると、首だけ動かしてネクがこちらを見た。少し怖いです。


『何? 変な物は作らないよ?』


 ネクが紙に書いてこちらに見せてくる。変な物ってなんだよ。

 あえて言わせたくなる衝動に駆られながら、頭の中で考えていた図案を紙に描いていく。

 それを画き終えたらネクに見せた。


『え? 何これ。紐?』

「ネク何を言って……ってあああ、違う、これじゃない」


 見せた絵は何故か女物の下着だった。どうしてこうなった。

 慌ててそれを消すと、先ほどまで考案していた図を描いていく。


『兜の内側に布を敷き詰めるんだ……確かに音は聞こえにくくなると思うけど、かなり窮屈だよ?』

「それは仕方ない。ティアには我慢してもらうしかないよ」


 言い方は酷いかも知れないが必要な事だ。1発で倒せる相手であれば良いのだが、2発3発と撃たなければならない場合、気絶してしまったのでは話にならない。

 確実に倒す方法を考えなければならないのだ。


『解かった。後でティアに協力して貰って作るよ』

「頼んだぞ」


 ネクの了承の言葉を聞いて俺はコタツから出て立ち上がる。

 今出来ることはそう多くはないが、ティアの様子を見に行こうと思ったのだ。


「マスター、さっきからドカンドカン鳴っているは何なの? 凄く気が散るんだけど」

「気にしないでやってくれ。コクが何か実験をしているんだろう」


 今もずっと地下から爆発音が鳴り響いている。連鎖的に別の火薬が爆発してそうだが、手伝いに行くつもりはない。

 むしろ、行ったら爆発に巻き込まれそうだ。

 広間に転送されてきたらベッドに運んであげよう。うん、それがいい。


「大きな音ってなんだか面白そうよね。見に行ってみようかしら」

「止めとけ。巻き込まれるぞ」

「大丈夫、大丈夫。コクだって居るんだし、そこまで危なくないでしょ」


 タリスは相変わらず怖いもの知らずだな。この拠点の中で一番危険な鍛冶場に行くとか。

 俺は飛んで行くタリスを見送る。ネクもやれやれといった呆れた雰囲気を醸し出していた。

 掴んで止めても良いのだが、ずっと抱えているわけにもいかない。どこかで抜け出して行ってしまうだろう。

 それなら様子を見て理解をして帰ってくることを祈るしかない。無事だと良いんだがな。


「それじゃ、ネク。俺はティアの様子を見に行くよ」

『いってらっしゃい。目が覚めたら教えてね』


 ネクの書いた文章を確認し、俺は立ち上がりティアの寝ている寝室へと向かった。



 扉を開けるとティアがベッドの端に座っていた。どうやら目が覚めていたらしい。


「ティア」

「……ご主人様……ごめんなさい……」


 俺が名前を呼ぶとティアはこちらを見て謝ってきた。

 自分のせいで試作品の実験が失敗に終わったと思っているのだろうか。

 あれは、俺やネクが使っても失敗だっただろう。そもそも反動に耐える事自体が無理だ。

 実戦では先端が相手の体に固定されているとは言え、その体にかかる負担は大きいだろう。

 

「気にするな。試作段階なんだ、色々と失敗はあるだろ」


 そう言いながら俺はティアの隣に座る。

 そんな俺をティアは顔を上げて見てくる。その目は少し涙ぐんでいた。

 どうにもティアは記憶が戻ってから、感情の制御が出来なくなっている気がする。

 元々気が弱いタイプだったのか、記憶が戻って時間が余り経っていないせいで混乱しているのかは解からない。

 

 俺はティアの肩に腕を回して抱き寄せる。ティアは俺の肩に頭を乗せると目を閉じた。

 こうなったらもう言葉は要らない。雰囲気と流れに身を任せるだけだ。

 胸を揉みたいとか脚を触りたいとか言ったら、完全に空気が壊れる。我慢だ。良い匂いがしてくるが我慢だ。

 


☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「うーん……これでも駄目か……」


 僕は実験の後、ランスを分解して銃身の耐久性を調べていた。どうしても衝撃の緩和が出来ない。

 ドワーフであるからか僕はどうにか耐えられたけど、他の種族では無理だと思う。

 使用者が気絶してしまう様な武器では未完成品だ。話にならない。

 威力を重視してしまった余り、使用者にかかる負担を考えていなかった。

  

「でも、威力を下げるとあの巨体を倒せるかどうか……」


 装填数を上げれば上げるほど槍の重量は増すし、連続で使用する事を考えると砲身が熱を帯びて暴発してしまう可能性も上がってしまう。

 この重量で撃つには3発くらいが限界だ。


「どうしたら良いんだろう……」


 考えれば考えるほど、どつぼに嵌まっていく。こんな状態では新しい武器なんて作れそうにない。

 販売する予定の武器も作らないとならないのに……。


「相談……してみようかな」


 僕は備え付けられていた椅子に座ると、タブレットを手に取る。

 そして起動させて掲示板を開くのだった。



☆ ☆ ☆ ☆ ☆



鍛冶スレpart13


247 名前:名無しさん

作ったガン○レードの試し斬りに行って来たぞ

 

248 名前:名無しさん

どうだった?

やっぱり爆発が凄く強かったとか?


249 名前:名無しさん

撃ったら手から飛んで行ったわ!

反動に耐えられるかよ!!


250 名前:名無しさん

やっぱりなー

銃身が血で詰まって暴発だと思ってたんだけど


251 名前:名無しさん

お前ひでぇな


252 名前:名無しのドワーフさん

僕もランスの方を作ったんだけどやっぱり駄目だったよ

使用者が発射時の衝撃に耐えられなかった

反動は耐えてくれたんだけど


253 名前:名無しさん

>>252

性能を詳しく


254 名前:名無しのドワーフさん

ランス型でキャノン部分は75ミリ

先端を開く所までは順調だったんだけど

撃って2発目に繋がらずに使用者が立ったまま気絶しちゃった


255 名前:名無しさん

75mmキャノンを撃って吹き飛ばされずに耐えるとかwwwwww

てか、どう考えても対戦車砲です

人間が耐えられる訳無いだろ


256 名前:名無しさん

装甲車とか戦車じゃ駄目なのか?


257 名前:名無しのドワーフさん

想定している相手が雷龍だからね

回路が存在する乗物じゃ無理だと思う


258 名前:名無しさん

ああ、かわしても放電でどっかイカれる可能性があるのか

でも、それだと人間でも変わらなくないか?


259 名前:名無しのドワーフさん

作戦では陽動を使って武器を持った人が隠れて接近する予定

お腹の下で突き刺して砲撃するつもり


260 名前:名無しさん

つまり、一撃で倒せなかった場合か

銃身を厚くしてもきつそうだな


261 名前:名無しさん

科学技術だけだときついかもな

そもそも対戦車砲を人が扱うなんて想定していない


262 名前:名無しさん

結構リザードマンとか耐えてくれるぞ

全身に銃を装備させて乱射とか面白かった


263 名前:名無しさん

おい、人間戦車止めろよ

龍退治はもう飽きたんじゃないのかよ!


264 名前:名無しさん

なるほどなー

使用者が人間じゃないから色々と耐えられるのか

面白そうだ


265 名前:名無しさん

サイボーグとか作るなよ!?

絶対だぞ!!


266 名前:名無しさん

構造が変えられないのなら

付与魔法はどうだ?

武器なのだから付けられるだろう?


267 名前:名無しのドワーフさん

あ!

そうか

それがあったんだ!!


268 名前:名無しさん

付与魔法ねぇ・・・

土で硬化、風で軽量化あたりかね

火なんて使ったら暴発しそうだし

水は銃身を凍らせてどうするんだという

光と闇は関係ない


269 名前:名無しさん

お勧めは硬化かな

問題が使用者にかかる衝撃なら

それによって素材が振動を伝えにくくなるから最適だと思うぞ


270 名前:名無しさん

普通の武器と違って個別の部品にかける事も出来る

筒以外に風の付与魔法をかけると総重量も相当軽くなるぞ


271 名前:名無しのドワーフさん

みんな、ありがとう

色々と試してみるよ


272 名前:名無しさん

おう、今度は龍を倒した報告に期待しているぞ

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