46話
「……そんなことがあったのか」
「うん」
ティアは涙を流しながら淡々と過去を話していた。
俺は、抱きしめて慰めたい衝動に駆られながらも、話が終わるまで待った。もういいよな。
「ティア」
ティアの名前を出来る限り優しい声で呼ぶと、その頭を抱き寄せる。
ティアもまた俺の背中に腕を回して静かに泣いていた。
皆空気を読んで黙っている中、タリスだけ炭酸を飲んでゲップをしていた。自重しろよ。
ティアは俺の胸から頭を離す。タオルを取り出して涙を拭くように手渡した。
「落ち着いたか?」
「もう大丈夫。話を聞いてくれてありがとう」
ティアは目を腫らしながらも笑顔を作って俺たちに礼を言う。
この表情を見る限り、ある程度は吹っ切れてそうだ。
「それで、ティア。いや、レオナって呼んだ方が良いか?」
「ううん、ティアが良い。ご主人様に貰った大切な名前だから」
嬉しい事を言ってくれる。付ける時は適当だったが、今となってはそう呼ぶ事にも愛着がある。
いきなり変わっても間違えてしまいそうだ。
「解かった。ティア、これからもよろしくな。あと、俺の事をお兄ちゃんと呼んでも良いんだぞ?」
「ご主人様は兄さんじゃないから呼ばない。ご主人様はご主人様で居て欲しい」
残念ながら義妹プレイは拒否されてしまった。残念だ。本当に残念だ。
俺を主と呼ぶ事に拘りがあるのなら仕方ないのだろう。
「さて、話を変えよう。鱗に関して何か解かったか?」
「うん、解かったよ。現状の武器ではまず破壊できないって言うのがね」
「駄目じゃねぇか」
魔法銀の武器で破壊出来ないという事は、魔法以外では有効打を与えられないという事だ。
そうなってしまうと長期戦になるだろうが、ゴーレムのように単調な攻撃でもない。
あのゴーレムでさえ、特殊な攻略法を見つけなければ大変だったのだ。あの速度で走れる龍を抑えられる自身はない。
破壊する可能性があるとすれば、あの巨大な戦斧だろうか。
重量が20kgを越えるあんな武器をどうやって扱うのか困るけど。
「コク、鱗を破壊する装備の作成を頼めるか?」
「もちろんそのつもりだよ。ただ、今は情報が足りないから、時間はかかりそうだけどね」
「ああ、それでいい。頼んだ」
いくら鍛冶技術が天才的だと言っても出来ないものは出来ないだろう。研究をして貰うしかない。
幸いここの迷宮は他人に聞くという手段がある。鍛冶スレの人らが意見をくれそうだ。俺は訳が解からないから見ないが。
「俺たちはDPを稼ごう。どんな素材を購入する必要が出るか解からない。必要な時に必要な物を揃えられるようにしよう」
「では、坑道の1階ですか?」
「ああ、そうだ。稼ぐならあの階が良いだろう。変異種は出来る限り回避したいな」
パステルが場所の確認をしてくる。懸念するのはあのドワーフくらいだろう。さすがに奴とは戦いたいとは思わない。次に戦って勝てる保証は無いのだ。
「今日は迷宮の探索を行わない。皆、あの龍に対して自分が何を出来るか各自考えてくれ」
「私は……そうですね。タリス、合成魔法をいくつか調べたいので、付き合ってください」
「テレビがあたしを呼んでいるのよ! い、いやぁぁぁぁぁ」
パステルは魔法の研究か。タリスが叫びながら連行されていく。それでもコーラを放さない根性は評価してあげたい。
『あの斧を使う許可をくれないかな? 今の段階で通用する武器ってあれだけだよね』
「そうだな。だけど、あの武器は重すぎて使えないだろ?」
『それでも可能性があるのなら、試してみたいんだ。あ、斧のスキルはいらないよ』
「解かった。無理だけはするなよ? 慣れていない武器を扱うのは危険だからな」
『うん、肝に銘じておくよ』
ネクはそう紙に書いて見せてくる。そして、訓練場の方へ歩いて行った。
だが、これだけは言わせてくれ。ネク、お前に肝はないだろ。
「ティアはどうする?」
「料理を作る」
ああ、また4日近く待機しなければならないのか。
前回のだけでも十分余っているが、次がまた4日で来るとは限らない。
そういった検証もまた必要になりそうだ。
俺はどうするかな。スキルなんかも現状では決められない。
とりあえず、情報を得る為にPCへと向かった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「さてと、まずは鱗の強度の確認かな」
僕は鍛冶場に入ると、アイテムボックスから鱗を取り出した。
この鱗は、皆が命懸けで取ってきてくれた物だ。決してその思いを無駄にしてはならない。
その楕円形の鱗は、このまま取っ手を付けて盾に出来てしまうほど大きい。
ハンマーを振り下ろして叩くが、傷1つ付かない。確か、魔法銀の武器で攻撃しても小さな傷が付く程度って言っていた。
このまま鱗を加工して防具を作りたい衝動が現れる。だけどそういう訳にはいかない。
道具で鱗を固定して、今度は全力でハンマーを振り下ろす。それでも傷は付かない。
この鍛冶場にある様々な道具で叩きつけてみたけど、全部駄目なようだった。
熱したハンマーで殴っても駄目みたいだ。
「この鱗を貫通させるのかー、中々難易度が高そうだね」
僕は独り言を呟いた。難しいけど、やり応えがありそうだ。
でも、今ある素材では難しそう。僕の世界にあった金属では魔法銀ですら手に入り難い。殆どの装備が鋼までだった。
鍛冶スキルの知識から、それ以上のダーク鉱、ウーツ鉱、オリハルコンなどが上がる。
もはや失われた金属であるそれらだが、この迷宮では手に入るのかも知れない。
タブレットを取り出して、それらが売られているか調べてみる。
「う……これは、ちょっと言い出せないかな」
鉱石はすぐに見つかったのだけど、かなり高価だ。まだ、そこまで進んでいる人が多くないのか、それとも出品をする人が少ないのかは解からない。
独占的な価格設定でちょっと手が出せそうに無い。それに、それらを買って本当に解決できる保証も無い。
必要な量の鉱石を集めるとなるとかなりの金額になりそうだ。
「買わずに効果を試す方法……鍛冶師として余り頼りたくないけど、聞いてみるしかないのかな」
掲示板という機能の事を思い出す。彼らに聞けば答えなり、それに近いアドバイスを貰えるかも知れない。
自分だけで全て解答を出したかったけど、今回はそんな事に拘っても仕方ない。
必要なのは確実に相手を倒せる武器を作り出すことなんだ。
そう言い訳をすると僕はタブレットから掲示板を開いた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
鍛冶スレpart12
112 名前:名無しさん
で、処女航海はどうなったんだよ
113 名前:名無しさん
沈みました
114 名前:名無しさん
ああ、まさか爆発するなんてな・・・
115 名前:名無しさん
火薬の量が多すぎたんや・・・
116 名前:名無しさん
だよなぁ・・・
まさか、プールに浮かべただけで爆発だもんな
異世界の物理法則こわいわー
117 名前:名無しさん
何で水に浮かべただけで爆発するんだよ
絶対誰か自爆装置付けたろ
118 名前:名無しさん
え?付けたよ
119 名前:名無しさん
当たり前だろう
各自頼まれた部品全てに付けたんじゃね?
120 名前:名無しさん
自爆装置だらけじゃねーか!!
怖すぎるわ
121 名前:名無しさん
あー、もしかしたら俺の自爆装置かも
衝撃で発動するから・・・
122 名前:名無しさん
何で船に衝撃で自爆する装置を付けるのよ!!
123 名前:名無しさん
ほら、折角つけたんだから
爆発しないと勿体無いじゃん?
124 名前:名無しさん
いくつもの装置が連鎖して派手な爆発が起きたらしいな
木っ端微塵だったとか
125 名前:名無しさん
実験者談
「乗る前でよかったわ」
だってよ
126 名前:名無しさん
お前ら、それでいいのか?
127 名前:名無しさん
次は自爆装置にも耐えられる素材で作らないとな
128 名前:名無しさん
自爆に耐えてどうするんだよ!
てか、自爆させんなよ!!
129 名前:名無しさん
耐久素材って何があったっけ?
オリハルコンだと高すぎるんだよな
そもそも金属素材だと重量に問題が出るが
130 名前:名無しのドワーフさん
素材といえば、龍の鱗を手に入れたんだけど
これを貫通出来るような素材ってあるのかな?
131 名前:名無しさん
龍の鱗ねぇ・・・
どんな龍かにもよるな
132 名前:名無しのドワーフさん
雷龍かな
魔法銀の武器で少ししか傷が付かないくらいの強度だったよ
133 名前:名無しさん
そりゃ珍しい龍だな
どこに居たんだ?
134 名前:名無しのドワーフさん
特殊な迷宮だよ
だから余り遭遇は出来ないかも
135 名前:名無しさん
特殊なのじゃ無理だ
アレって同じパターンは殆どないらしいしなぁ・・・
136 名前:名無しさん
魔法銀でそれくらいしか傷が付かないとなると
オリハルコンくらいじゃなきゃ破壊は難しいかもなぁ・・・
137 名前:名無しさん
でも、あれって凄く高いよな
欲しいんだけどなぁ・・・
138 名前:名無しさん
入手出来る奴が少ないからな
供給が間に合っていないのが現状
139 名前:名無しさん
単純に貫通させるというだけなら
ダーククリスタルはどうなんだ?
耐久性に問題はあるけど
140 名前:名無しのドワーフさん
ダーククリスタル?
初めて聞く素材だね
141 名前:名無しさん
系統としては水晶だな
それを加工して作った刃は凄く鋭いから突き刺さると思うよ
ただ、耐久性に問題があるから1回突き刺しただけで壊れると思う
142 名前:名無しさん
それじゃ駄目じゃね?
龍って1回刺しただけで倒せるような相手じゃないし
そりゃ、突き刺されば凄く痛いと思うけど
143 名前:名無しさん
なら、刺した後にそれを広げられる作りにすれば良い
無理やり傷口をこじ開けられれば致命傷になると思う
144 名前:名無しさん
刺す場所次第だな
腹に突き刺せれば内臓を破壊出来そうだ
だけど、こじ開けるだけでは物足りないな
145 名前:名無しさん
そうだなぁ・・・
大砲でも設置してみるとか?
146 名前:名無しさん
どうやって持つんだよ
そんな重いもん持ち運べないだろ
147 名前:名無しのドワーフさん
いや、発想は悪くないよ
刺して広げた後に火薬を使った弾を撃ち込めばいいんじゃないかな
148 名前:名無しさん
なに?ガン○レード?
それは滾るな
149 名前:名無しさん
突き刺すんだし
形状はガン○ンスじゃね?
150 名前:名無しさん
鱗を突き刺して貫通させて
肉に開いた先端を突き刺して銃口を開く
そして銃撃による攻撃か
エグいな
151 名前:名無しさん
龍を倒すのならそれくらいじゃないとな
それでも使い捨てだから内臓を狙わないと駄目だろうけど
152 名前:名無しさん
何回も使えれば腕とか狙えるんだけどね
このダーククリスタルも結構高価だから
何本も作るのは難しいと思う
153 名前:名無しさん
オリハルコンほどではないけどな
どっちかといえば工芸品とかに使う素材だし
154 名前:名無しさん
ダーククリスタルの値段見てきたけど
10万DPって何よ
高すぎるだろ
155 名前:名無しさん
オリハルコンは100万越えるぞ
到達者が増えればもっと下がると思うけど
156 名前:名無しさん
鉱床も到達した階層で増えていく形式だしな
無理して先行した人らの特権みたいなもんだろう
157 名前:名無しのドワーフさん
ダーククリスタルで先端を作成
開く機構と砲撃・・・
ありがとう。何となくだけど打開策が見えたみたい
158 名前:名無しさん
どういたしまして
結果は教えてくれよ?
159 名前:名無しのドワーフさん
もちろんだよ
朗報を期待しててね
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ふぅ……面白い話が聞けたかな」
僕は掲示板を閉じて独り言を言った。ダーククリスタルかー。
価格を調べる為に出品されているのを見ると10万DPで置いてあった。
試作用に1つ、実際に使うのに1つの合計2つ必要になりそうだ。
そうなると20万DP必要になる。ここの施設を作るのに12万必要だったと考えると凄く高価なのだろう。
採掘の知識から入手手段を探す。それによると、低確率で坑道から取れるらしい。
低確率というのがどれくらいなのかは解からない。だけど、低いというくらいだし、この価格からしても相当出ないのだろう。
スズキさんはお金稼ぎに坑道を回るらしいし、一緒に付いて行って探した方がよさそうだ。
「うん、そうと決まったら、スズキさんと相談しないとね」
弾を射出する機構の研究もしなければならない。全てやるのは相当時間が掛かりそうだ。
でも、やり甲斐はある。今までのただ武器を作るのではなく、ある敵に対する武器を作る。
しかも、普通の武器じゃない。こんなにワクワクするのは初めてだ。
僕はにやけた顔を隠さずに、スズキさんの所へ急ぎ足で向かった。




