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迷宮と掲示板 改稿版  作者: Bさん
4章 街の迷宮
56/88

45話

「では、行って参ります」

「良い報告期待しててね」


 そう言ってタリスとパステルが移動する。物陰に隠れてカモフラージュの魔法を使うのだろう。

 俺たちは今は待機するしか出来ない。盾の取っ手を強く握る。

 今までも強敵とは戦ってきたが、対処出来る相手ばかりだった。

 今回の相手は今までとは違い、勝てないこと前提での戦いだ。


「ご主人様。落ち着いて」


 そう言うとティアが俺の手を握ってくる。いつの間にか俺は震えていたようだ。

 小手を着用しているから金属を挟んだ繋がりだ。それでも俺はその心遣いが嬉しかった。


『まるで、初陣に出る新兵みたいだね』

「う……恥ずかしいな」


 ネクからもツッコミが来る。新兵というには大分実戦を積んでいる訳だが。

 今までかなり戦闘を行ってきたのに未だに緊張するもんなんだな。

 

『でも、その新兵の様な心構えで良いと思う。戦いよりも、活躍よりも、必ず生き残るってね』

「そうだな。だが、それはお前たちもだぞ。生き返るからって死ぬ所は見たくない」

「もちろん。私たちだって死にたくはない」


 草原の上空を飛んでいる龍を見る。あれだけの巨大な龍だ。

 あれと対峙をすると考えれば、歴戦の勇士であっても恐れるだろう。


 そのまま目で龍を追っていく。すると、突然ガクンと龍が落下していく。成功したようだ。

 城壁にいる兵士たちが慌てだす。そりゃ、いきなり攻撃していた龍が落下したのだ。

 これを好機と城門の所では、部隊の編成が行われている。どうやら接近戦を仕掛けるようだ。

 城門から攻撃しても龍のブレスによって多数の死者が出ている。矢が殆ど通じないのだから近接戦闘に移すしかないだろう。


「主様、戻りました」

「らくしょー」

「お疲れ様。兵士達は突撃してくれるようだぞ」


 待っているとパステルとタリスが戻ってきた。実にスムーズな仕事っぷりだな。

 集結してくる兵士を遠くから指差す。こうなれば城門が開くのも時間の問題だろう。

 

「タリス、あの風の強化魔法は使えるか?」

「いけるわよ」

「なら、城門が開いたら頼む。どちらにしても兵士たちが通らないと俺たちは進めないからな」


 動きが速くなれば、それだけ短時間で接近できる。

 あの巨体での攻撃もそうだが、ブレスもまた危険だ。盾で防ぐ事は出来そうにない上に広範囲なのだ。

 位置によっては回避不能という事態に陥る可能性がある。

 その時、速度を上昇させていれば範囲外に逃げられる可能性が高まるのだ。


「集まって何か号令をかけるような事をしているよ。皆準備して」


 兵士たちの集団を見ていたコクが言って来る。戦いの始まりだ。

 剣を抜いていつでも走れるように覚悟をする。


「あたしたちは、どうすればいいのかしら?」

「恐らく主様は考えていないでしょう。サポートに徹した方が良さそうです」


 俺がいつでも飛び出せるように覚悟を決めて正面を向いていると、後ろからそんな声が聞こえてくる。

 ああ、そうだよ。何も考えてねぇよ。


「全て任せる」


 それだけ言っとく。正直、魔法の事に詳しくないのだから、どう指示を出して良いのか解からん。

 そして、城門が開き始める。兵士たちが龍の待つ草原に走り出した。

 タリスから強化魔法が飛んできて、俺たちを包み込む。


「ネク、ティア。行くぞ」


 俺は2人を見て言うと走り出した。





「これはまた……」

「ひどい」


 門を抜けて龍の姿を確認した。確認をしたのだが……そこには、立っている兵士が1人も居なかった。

 数百近くの兵が城門に集まっていたのに、この短期間で全滅かよ。死体は少しの間は残る。

 すぐに死体は全て粒子となって消滅した。呆然としている俺にネクが小手で俺の肩を軽く叩く。

 そうだな、俺たちが出来る事をしなければ。 


 全員無言で走り出す。巨大な龍の迫力に怖気付いたら負ける。俺はその龍を睨み付ける様に見ると視線を逸らさない。

 俺たちは全員散開して各方向から迫る。近くだと一気に薙ぎ払われたり、ブレスで一掃される可能性がある。

 なら、1人でも確実に辿り着いて目的を達成する。


 敵はネクの方を見る。鋭い鉤爪が付いた腕を振り下ろしていた。

 ネクはそれの軌道を予測し回避する。そのまま接近すると、ハンマーの反対側に付いているピックの部分を鱗に引っ掛けた。

 強く引っ張るが、簡単に鱗は剥がれそうにない。

 俺もまた接近し鱗と肉の間に剣を突き入れる。そのまま梃子の原理で剥がそうとするが、中々剥がれない。

 そりゃ、簡単に剥がれたら、全部剥がして攻撃出来るだろう。


 こちらには攻撃が来ないので、一気に力を込めて剥がそうとする。少し鱗が浮いてもう少しか、と思った瞬間鱗が帯電をし始める。

 嫌な予感がする。直感スキルが告げたのか、今までの経験から感じたのかは解からない。俺は剣をそこから抜くと龍に背を向けて一目散に走る。

 すると、背後が光った。俺は立ち止まり、反転するとその様子を見る。龍を取り巻く何かが発生していた。


「あれは、放電しているのか?」


 龍を取り巻く青い線がランダムに発生している。もし、あれが電圧や電流であったら、触れただけで即死するか良くても気絶するだろう。

 ネクとティアも気が付いたらしく、距離を取っていた。全員無事のようで良かった。

 だが、あれが放出している間は近寄れない。それにまたいつあれが放たれるのか解からない。それでは接近するのが難しい。


 だが、おかしい。放電したまま突っ込んでくれば、俺たちは回避するしかない。あの巨体を高速で動かしてきたのなら回避すら難しいだろう。

 なのに、突っ込んでくる気配が全くない。もしかして、あの放電中は動けないのか?

 決め付けるのは危険だが、1つの可能性として頭の隅に置く。しかし、あの光を見ると目が疲れるな。

 暫く待っていると、放電が止む。再度発生する事を恐れて、突撃をしないのは愚かだ。目的を果たす為には接近して剥がすしかないのだ。時間を稼いでも仕方が無い。


 俺たちは、走って一気に接近する。もし、また放電するのなら急いで剥がさないとならない。

 時間をかけてこの強化魔法が解けてしまった方が危険だ。

 剣を突き入れて力を込める。さっさと剥がれろよ。

 さっきよりも少し剥がれてくる。もう少しだ。

 そして、また鱗が帯電し始める。俺はすぐにその場を離れた。だが……。


「ネク! 早く離れろ!!」


 俺とティアは龍から離れていたが、ネクだけ離れようとしない。未だに鱗を剥がそうとしている。

 ネクほどの戦士が危険を予測していない訳が無い。そして、ネクは鱗を剥がして俺の方に投げ付けてきた。

 鱗が俺の近くの地面に転がる。そんなことより、ネクが……。

 放電に巻き込まれて一瞬で消滅した。


 俺たちはネクが消滅して行くのを見続ける。ハッと気付き、鱗を拾うとアイテムボックスへと仕舞う。

 ネクは自分を犠牲にし過ぎだと思う。初めてオーガと戦った時もそうだった。


「ティア、ネクの意思を無駄にしないためにも撤退するぞ!」

「うん」


 俺たちは、城門へ向けて走り出す。距離を取れば戦闘エリアから離脱と見なされて、転移の羽を使えるだろう。

 だが、龍も俺たちを逃がさない様に追って来る。その重量から来る振動が恐ろしい。

 後ろは見ずにとにかく走る。城壁が見える所まで来ると直感が突然告げた。


 俺はその直感に従って全力で地を蹴り前方に飛ぶ。着地を考えては居ない。前転するかのように転がる。

 そして先ほどまで居た場所を龍の腕が通過した。あっぶねぇ……。

 すぐに起き上がり再度走ろうとした瞬間、龍の尻尾がこちらに迫っていた。回避は間に合わない。

 

 俺はそのまま食らうよりは盾で防いだ方が効果的だと判断する。そして剣を投げ捨て前面に盾を両手で構えると、すぐに尻尾が俺にぶつかった。


「――ッ!!」


 声にならない叫びが口から漏れる。盾は拉げ変形して行く。俺はその勢いのまま吹き飛ばされた。

 宙を舞い、地面に落下する。


「げふぉ」


 地面に落ちた時、肺から息が漏れる。両腕がやばい。感覚がない。折れているのかどうか怖くて見れない。

 だが、足は大丈夫だ。体にも影響は無い。意識は問題なく残っている。なら、動ける。 

 そのはずだった。


 正面を見ると、龍が俺の方を向かって口を開いている。あれは……ブレスか?

 この状態では避けようがない。だが、諦める訳には行かない。


「にいさぁぁぁぁあぁぁん」


 突然、叫びが聞こえた。誰の声だ? 俺は兄さんよりもお兄ちゃんの方が嬉しいんだが。

 いや、今はそうじゃない。立ち上がり、その場を離れなければ。

 ティアが物凄い速度で走ってきて、俺の正面に立つ。俺を庇おうとしているのか?

 そんなんじゃ、防げない。俺と一緒に吹き飛ばされるぞ。


「私はまた何も出来ないなんて嫌だ!!」


 ティアが叫ぶ。何も出来ない? ティアは十分役に立っていると思う。

 それよりも巻き込まれるだけだろう。さっさと離れろ。そう言おうとした瞬間、俺は吹き飛ばされた。


 風に。


「うおおおおおおおおおお」


 俺は叫ぶ。何故なら、かなりの高さを飛んでいるからだ。城壁より高い。これ、落ちたら死ぬよ!!

 ブレスが下の方で放出されていた。当然だが、そこには誰も居ない。九死に一生を得る……とも言えない。まだ危険なのには変わりないのだ。


 俺たちは最大の高さまで行ったのか、落下していく。だが、この落下は何かが変だ。

 減速したり左右に動いたり、よく解からない動きをする。下を見るとタリスとパステルが城壁で何か魔法を使っている。

 ああ、これは2人の制御で動いているのか。助かった。


 そして、俺とティアは城壁の上に静かに下りて行った。


「パステル、タリスありがとう」

「はい、それよりも早く撤退しましょう」

「羽を使うよ! 寄って!!」


 俺が礼を言うとパステルに急かされる。コクが羽を取り出して言った。

 俺たちは慌てながらも全員集まる。そして羽を使用し、拠点へと帰還した。




「ふぅ……やっと一息吐けるな」

「主様、腕が……」

「え?」


 パステルに言われて自分の腕を見る。


 完 全 に 折 れ て い た。


「おおおおおおおお」

「痛くないの? これ」

「痛い、とても痛い!」


 タリスが俺の腕を突付いてくる。やめて、痛いから止めて!!

 アドレナリンが分泌されていた事で、今まで麻痺していた感覚が急激に戻ってきて凄く痛い。


「主様、とにかくベッドへ。コク、ネクをベッドに運んであげてください」

「う、うん。解かったよ。スズキさんお大事にね」

「くぁwせdrftgyふじこlp」


 そして俺はパステルに連れられてベッドに寝かされた。それと同時にすぐに睡魔がやってくる。これは魔法か?

 そう思った瞬間に意識が途絶えた。



☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「これで……後は安静にしてもらうだけですね」


 パステルがご主人様に魔法を使っていた。多分、痛みを感じない様に寝てもらったんだと思う。

 タリスはコクと一緒にネクを運んでいる。私は、パステルの後ろをただ付いて行っただけ。


「あのパステル……」

「記憶が戻ったんですよね?」

「……うん」


 城壁の近くで突然記憶が戻った。今なら思い出した理由が解かる。以前、同じ事があったんだ。

 思わず兄さんと叫んでしまったけど、今考えると少し恥ずかしい。


「兄さんと叫んでいましたよね?」

「うん……パステル。その話を聞いてくれる?」

「それは主様が起きている時にしましょう。貴女も疲れていますよね。今は休みましょう」


 パステルが私の鎧を優しく外していく。私は成すがままに脱がされていく。


「綺麗な肌ですよね」

「それはパステルも同じ」


 何故か鎧だけじゃなくて服まで脱がされた。今は下着姿になっている。

 ブラ? というのを付けろと言われて付けているけど、結構圧迫している。正直、苦手だ。

 パステルはそれすら外そうとしてくる。何でだろう?


「パステル、そこまで」

「残念です」


 パステルの手を掴んで止める。冗談ではなく、本当に残念そうな表情をするから始末に負えない。

 ご主人様と一緒に寝ている時も私を攻めて来るから困る。

 

「パステルってもしかして同性もいけるの?」

「当然です。可愛ければ何でも来いですよ」


 言い切った。このエルフ言い切ってしまった。身の危険を感じて慌てながら脱がされた服を着る。

 それを見て明らかにチッと舌打ちをしていた。このエルフは本当に危険だ。


「そういうのは、ご主人様と一緒に居るときだけ」

「隠れてと言うのもまた良いんですけどね。仕方ありません」


 パステルの事は嫌いではないけど、あくまで友人とか仲間として好きなだけ。

 同性愛をしたい訳じゃない。勘違いをさせる訳にはいかない。


「さて、私はコクと一緒に鱗の分析をします。ティアは寝ていてくださいね」

「この部屋って鍵かからないよね……」


 何か言っているけど、私はもう自分の身を守る事ばかり考えていた。

 パステルが部屋を出て行くのを確認して私はベッドに寝転がる。

 寝ているご主人様を見て思う。

 兄さんとご主人様は全然似ていない。ただ、優しい所だけは一緒だ。


 今なら、あの頃の夢を見れそうだ。

 今も幸せだけど、あの頃の幸せだった頃の記憶を。

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