39話
「お、もう生えてるな」
「うん、凄く早いね」
「大根はまだ……」
翌日、コクとティアと共に畑の様子を見に来た。
そこは魔力草が大量に生えている。本当に1日で出来るらしい。
大根はまだ成長段階らしく、葉がようやく出た程度だった。
「間引きとか必要ないのか?」
「これからやりたい。今日の探索は?」
「ボスだから、昼から行く予定だ。疲れない程度にやっていいぞ」
ティアにそう言うと早速大根のある場所まで歩いていった。
俺とコクは魔力草の採取だ。かなりの広範囲にあるから思ったより重労働かも知れない。
「早速作るぞ」
「うん、でも僕が全部やろうか? そろそろボス戦の為に休んだ方がいいよ」
途中から参加してきたティアと合流して、採取を終わらせて広間まで戻る。
次は調合なのだが、もうそんな時間か。
調合は難しい手順では無いが、何かと神経を使う。
これから大きな戦いがあるのなら、絶対事前にはやらない方が良いと思う。
コクに任せると、俺は装備の点検を始める。
壊れても拠点に戻ってくるといつの間にか修復されている装備だが、点検は欠かさずやっている。
説明にも無かった内容を全て信用して、いつか酷い目に合うのが怖いのだ。
暫くそうしていると、時間が来たらしく皆テーブルに集まってくる。
ボス戦前のミーティングの時間だ。
「3階層のボスは、巨大なゴーレムらしい。近接武器は殆ど通じないから魔法主体の戦闘になると思う。コク、ポーションは?」
「マジックポーションが20個作れたよ」
「20個か。それだけあれば十分足りるよな?」
「はい、2時間くらいはいけると思います」
魔力草はまだまだあったので、引き続きコクが作ってくれるだろう。
アイテムボックスへ入れるわけだから、戦闘中に増えていくと思う。
だが、2時間戦闘を出来るのなら十分とも言えるだろう。
1つの戦闘を1時間も戦っていたら神経をすり減らす。10分でも長いくらいだ。
そこまでの長期戦になるという事は、何かが足りていない証拠だ。
一応、バランスの良いパーティだし、そこまで酷い状況には陥らないと思う。そう思いたい。
「俺とネクが前に出て防御を行う。ティアはタリスとパステルの支援を頼む。詠唱中に避けられない攻撃とかされるかも知れないから、抱えて避けてくれ」
「解かった」
前衛が防御、後衛が攻撃魔法というスタイルだ。ゴーレムとの戦いでもこういうスタイルが基本だった。
敵のサイズが変わってもやる事は変わらない。敵のターゲットを受けて、攻撃を受け流し続けるだけだ。
「合成魔法はいかが致しますか?」
「狙えるようなら頼む。ただし、範囲には気を付けてくれ。俺とネクが巻き込まれても困る」
「だだ、大丈夫よ。任せなさい」
何故どもりますか、タリスさん。
合成魔法もあれから新しいバリエーションを聞いていない。
竜巻の合成を使ったら確実に巻き込まれそうだ。
弾丸の方はゴーレム相手に、物理的なダメージを与えても仕方ないだろう。
衝撃だけなら相当なものだと思うけど。
「多分、長期戦になると思う。必要なポーションは遠慮なく飲んでくれ。特にタリス」
「解かってるわよ。ボスで我侭はもう言わない」
少々不安だが、その言葉を信じる事にする。仲間とは信じる事で成立するもんだ。
あれからタリスも成長しているだろう。多分。
「これくらいだな。3階層でのゴーレム戦は殆ど情報がない。皆気を付けてくれ」
そう言ってミーティングを締める。
他の階層まで進んでいる人たちはいるらしいが、情報が思った以上に少ないのだ。
競争をしている訳でもないのだから、明かしてくれると嬉しいんだがな。
「開けるぞ」
ボス部屋の前に転移し、扉に手をかける。
いつもこの瞬間は緊張する。
どんな強敵が現れるのだろうか。
どんな戦闘になるのか。
どんな死闘が繰り広げられるのか。
不安と同時に期待がある。
重苦しい音と共に巨大な扉が開いていく。
内部はいつもと変わらない石造りの部屋だ。
前の階層の様に蜘蛛の糸が大量にある訳でもない。
「部屋の中央に魔力反応があります。恐らくボスのゴーレムでしょう」
「解かった。ゆっくり進もう。わざわざ走って体力を消耗する必要もない」
全員で陣形を崩さないようしっかりと進んでいく。
そして部屋の中央辺りまで移動すると、そこには巨大なゴーレムが居た。
「……でかっ」
「これは上まで届きませんね」
ゴーレムの全長は大体10mを越えていた。
剣では頭どころか腰まで届くかどうかだろう。
その体は俺たちが使っている武器の色と同じだ。
つまり、魔法銀を使ったゴーレムなのかも知れない。
正直武器で勝てる気がしない。
「行くぞ」
相手は微動だにして来ない。こちらの出方を見ているのか、それとも敵だと判断していないのか。
剣を構えると俺とネクは左右に分かれて突撃した。
俺は接近すると、ゴーレムの足を狙って剣を振り下ろす。ガキンと金属同士がぶつかる音が鳴る。
だが、剣で斬りつけた部分は全く傷がない。どうやら、俺の攻撃は全く効かないらしい。
こうなると、ネクのハンマーと魔法だけが頼りだ。
ゴーレムは腕を回して攻撃する。走って突進してくる。
この二通りでしか攻撃をしてこない。大振りの上に事前動作があるので、回避は余裕だ。
基本的に敵の正面に立たないようにすれば、回避が出来るのである。
一応、後衛に行かないように、ゴーレムと後衛の間には立って、こちらを狙うように仕向けている。
ゴーレムの敵として判断するセンサーだか機能は単純で、一番近い相手を狙うらしい。
敵の近くにいるのは俺とネクだ。避ける時に移動する為、交互に狙われる。
この程度であれば、スタミナポーションさえ切れない限り、数時間の戦闘は出来そうだ。
先ほどから、タリスとパステルの魔法がゴーレムの上半身を狙って放たれている。
全て命中しているのだが、ゴーレムはよろける事も無く、ただずっと俺たちに攻撃を仕掛けてくる。
本当に効いているのか疑問に思ってしまう。
「っと、タリス、パステル。合成魔法を使ってくれ。このままじゃ埒が明かない」
「解かりました。タリス、旋刃行きますよ」
「おっけー」
2人が同時に魔法の詠唱を始める。今まで見た合成魔法とは違い、かなりの時間がかかっている。
もしかして中級の魔法の合成なのか?
てか、俺たちゴーレムの前に居て大丈夫なのかね?
俺とネクはそれから5分ほどだろうか、避け続けている。
本当に詠唱をしているのか疑問に思ってしまう。長すぎだろ。
「主様、準備が出来たので出来るだけ遠くに走ってください!」
「は?」
パステルからそんな言葉が飛んできた。俺は変な声を出してしまう。
いや、疑問に思ったり考えるのは後だ。パステルが逃げろと言うのだからここに居ては危険だ。
俺とネクは一斉にゴーレムから離れる。後衛の方にではない。
魔法の射線上を通るのは危険だと勝手に判断した。
そして10mほど走ったところだろうか。背後で凄い風が吹き上がった。
俺はその風に押されてバランスを崩す。
「いってぇ」
そして反射的にゴーレムの方を見ると、見えない何かがゴーレムにぶつかり、その巨体を弾き飛ばした。
ゴーレムはそのまま部屋の奥まで飛ばされていき、やがて見えなくなる。
すぐ後に何か巨大なものが壁にぶつかった様なそんな音が聞こえてきた。
「凄いな」
「ん、ご主人様大丈夫?」
いつの間にかティアがこちらに寄ってきたようだ。
俺は差し出された手を握って立ち上がる。
「パステル。この魔法は?」
「中級の魔法の合成です。理論上は出来ていたのですが、実戦に使ったのは初めてですね」
「凄い威力よね。お陰で少し読み違えちゃった」
皆と合流して魔法の事を聞いてみる。
俺が飛ばされたのは、恐らくその読み違えた部分が原因なのだろう。
これでゴーレムは倒されたのだろうか。あれだけの巨体が凄い勢いでぶつかったのだからかなりのダメージになったと思うのだが……。
「パステル、タリス。魔力反応はどうだ?」
「……まだ、ゴーレムの反応は消えていません」
「ちょ、ちょっと。凄い勢いでこっちに突っ込んでくるわよ!!」
「ゴーレムの予定進路から離れるぞ!」
先ほどまで鈍足だったゴーレムがどうしたのだろうか。
俺たちはタリスに言われながら進行方向からそれて移動する。
そして、ゴーレムは俺たちが先ほど居た場所を素通りすると、そのまま壁に激突する。
「な、なんだこれ。暴走してんのか?」
「解かりません。少なくとも、あれにぶつかったらタダじゃ済みません」
「そうだな。タリス、進路の誘導を頼むぞ」
「らじゃー」
ゴーレムは反転するとまたこちらへ突っ込んでくる。
ただの突進だ。その方向さえ解かれば避けるのは問題ない。
壁になんどもぶつかっていれば、ゴーレムと言え自滅するだろう。
何度かそうやって避けていると、突然ゴーレムが俺たちの近くで静止する。
「なんだ?」
「様子を窺いましょう。攻撃しようにも何をしてくるか予想がつきません」
俺はパステルの提案を受け承諾する。あちらの攻撃に当たれば1発で瀕死か即死だ。迂闊な事は出来ない。
止まったまま動かない。もしかして機能を停止したのだろうか。だとしたら楽でいいのだが……。
ところが、そんな俺の希望を嘲笑うかのようにゴーレムの胸の辺りが開く。
そしてそこからは一口の銃身が現れた。
「皆散開しろ! 絶対に止まるな!!」
嫌な予感しかしない。銃身という事は弾丸が撃ち出されるのだろうか。
銃の速度より早く走れなんていわれても無理だ。
俺たちは全員別々の方向へ逃げる。目的は相手の照準を混乱させる為だ。
そして銃身からは炎が噴出した。
「火炎放射器かよ!!」
銃弾だと思っていたのに、火炎放射器とか止めてくれ。
炎は伸びるようにゴーレムから繋がって噴出している。
それが、地面に辿り着き、そのまま俺たちを追いかける様に近付いてくる。
「って、こっちかよ!」
こうなったら必死に逃げるしかない。
あんな炎に巻き込まれたら一発で焼き尽くされる。
仲間の方に行かなかった事を幸運と思うべきか、こちらに来たのを不幸と思うべきか。
とにかく走る。息が切れそうだが、スタミナポーションなんて飲んでいる余裕がない。
だが、その奮闘空しく、俺に炎が追いついた。
「ご主人様!!」
最後にそんな声が聞こえた。そして俺は炎に包まれた。
「ぬ、ぬわーーーーーーー」
叫ぶ事しか出来ない。体に火が回ってくる。
熱い、熱い、熱い。
熱い……あつい……あつい……
いたい……あかい……あかい……
……なにもみえない……くろい……しずむ……しずんでいく……
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「あ、あああああ」
誰が発した声なんだろう。もしかしたら、あたしかも知れない。他の誰かなのかも知れない。
マスターが炎に焼かれている。
その炎は激しく燃え上がっている。
ゴーレムはずっとマスターを焼いている。
あたし達は、その場から動けない。
ただ、ただ呆然と立っている。
マスターが焼かれている。
ゴーレムはマスターを焼くのを終えると、そのまま関係ない方向に走り去りそのまま壁にぶつかった。
でも、今はそれどころじゃない!
「マスター!!」
「ご主人様!!」
私たちは、マスターの事を呼びながらマスターの元に走り寄る。
そしてその姿を見て驚愕した。
「うっ……」
あたしは口を押さえて吐き気を抑えた。
その姿を直視する余裕はない。
涙が流れる。マスターがこんな事に……。
「主様……」
パステルが呟いた。
そして地面に転がっているマスターの剣を取る。
ジュッという音が聞こえた。
マスターの剣は、かなりの高温で焼かれたのか、熱をかなり持っているみたい。
そんな剣を取ってパステルは何をしようと言うのだろう。
「主様、お叱りは後でいくらでも受けます。ですが……」
パステルは剣を両手で持つ。
そしてマスターの近くまで歩くとその切っ先をマスターの首元に定めた。
まさか!!
「今楽にして差し上げます」
「パステルやめて!!」
思わずあたしは声をあげた。
頭では解かってる。死んでも拠点に帰れる。その方が苦しみが少ない。苦しみは長くは続かない。
それでも仲間がマスターを殺す所なんて見たくなかった。
ネクがあたしの体を抱きしめる。そしてあたしの目を塞いだ。
ネクもティアも戦士だ。
だから、これが一番合理的だと解かってる。
そうするのが一番長く苦しみが続かないと解かってる。
あたしだって解かってる。だけど、感情が許さなかった。
そしてあたし達は拠点へと戻った。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
使い魔専用スレ part7
114 名前:名無しのフェアリーさん
・・・仲間がマスターを殺した
115 名前:名無しのゴブリンさん
え?下克上?反乱?
116 名前:名無しのオークさん
ついにやっちゃったか・・・
俺もセーラー服とかいうのを着せられた時は殺意を覚えたわ
117 名前:名無しのヴァンパイアさん
随分と変わった主じゃな
オークのそんな姿を拝むとは
118 名前:名無しのオークさん
しかも写真?とかいうのを撮りやがった
笑いながらな!
119 名前:名無しのエルフさん
落ち着け
今はフェアリーの話を聞こう
経緯は?
120 名前:名無しのフェアリーさん
マスターが炎で焼かれて・・・
苦しみを長引かせない為に・・・
121 名前:名無しのゴブリンさん
ああ、それは仕方ない
俺だってやると思うぞ
俺もマスターは慕っているけどさ
それは必要だと思う
122 名前:名無しのエルフさん
そうだな
復活しないのなら治療を施すが
復活するのだからそれが合理的だ
苦しませない為にもな
123 名前:名無しのフェアリーさん
解かってる
あたしも頭では解かってるのよ
でも、あたしはその子に酷い事を言っちゃった
124 名前:名無しのオークさん
割り切れない事だってあるわな
慕っている相手だったら尚更だ
でも、謝って来い
これしか言えない
125 名前:名無しのヴァンパイアさん
そうじゃのう
お主も解かっておるのじゃろ?
ならやる事は1つじゃな
126 名前:名無しのフェアリーさん
うん・・・でも今は愚痴を聞いてほしかったの
後でちゃんと謝るわ
127 名前:名無しのオークさん
愚痴ならいくらでも聞いてやるよ
溜まったもん全部吐き出せよ
128 名前:名無しのフェアリーさん
うん




