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迷宮と掲示板 改稿版  作者: Bさん
3章 坑道の迷宮
40/88

34話

「それで今、体は大丈夫なのか?」

「調子良いよ。前より良いくらい」


 コクの記憶を聞いて、まず最初にそれを聞きたくなった。

 何か障害があるのなら、すぐにでもそれを取り除く必要があるだろう。

 特に問題がなさそうなら良いのだが……。


「何ていうかね。ここに来て体自体が作り変えられた気がするんだ。だから、大丈夫。心配してくれてありがとうね」

「いや、主として当然の事だよ。問題が無いのなら良いんだ」


 少し照れ臭くなって主なんて言葉を使ってしまったが、仲間が調子悪ければ心配もする。

 再発しないのであれば、記憶が戻って良かったという話だろう。

 両親に会えないのは残念そうだが、コクの表情を見る限り吹っ切れた感じはしている。

 変に断片的に思い出すより、全て思い出したほうがすっきりしそうだ。


「そろそろ上に戻るか?」

「ううん、記憶を思い出して更に鍛冶をしたくなったから、僕は暫くここで色々とやってるよ」

「そうか……無理だけはするなよ?」


 そう言って俺は立ち上がる。鍛冶をずっとやりたがっていたみたいだし、これ以上止めても拗れるだけだ。

 今までのパターンから無理をしそうだが、あとで様子を見に来れば良いだろう。

 コクは苦笑いだけ返すと金床のほうへ向く。俺はそれを横目に鍛冶場を出るのだった。


「っと、ティアはどうなったかな」


 広間に戻るとタリスが上下逆転して飛びながら、漫画を読んでいる姿が見えた。

 逆さでも飛べるのな。いや、そもそも何で飛びながら読んでいるんだ?

 ずっと飛んでいて疲れないのだろうか。羽を忙しそうに動かしている。

 あれを背中の筋肉とか使って動かしているのならかなりの労働だ。

 そもそもフェアリーって何なんだ?


 という疑問が出たが、触れない方がいい話題の様な気がしたので、忘れる事にしよう。

 世の中には知らない方が良い事も多いよね。

 でも、スカートで逆さになるのは止めた方が良いと思うんだ。見るけど。


 それを舐めるような目で見て満足すると、そのまま寝室へと向かう。

 

「ティアは……まだ寝てるか」


 ベッドの端に腰を掛けその寝顔を見る。

 その寝顔は、先ほど死んだ者とは思えない程安らかだ。


「守れなかったな……」


 そう呟いてティアの額から頭にかけて撫でる。

 耳に少し触れてしまい、ビクンと動いた。

 

「ん……ご主人様?」

「あ、スマン。起こしてしまったか」


 それで起こしてしまったようだ。ティアは目を薄く開き、こちらを見ている。

 触れておいてスマンも何もない気がするが。


「そのまま撫でて。ご主人様に撫でられるの好き」

「ああ、分かった」


 頭ではなくその体をな、と言いたい気持ちはあったが、さすがに自重する。

 復活してすぐは体がだるくなったり、死んだ時の痛みのようなモノが継続している場合がある。

 とは言え、怪我自体は治療されているのだから、幻痛なのだろう。

 しばらく経てば勝手に消えていくものだが、どれくらいかかるかはその時の倒され方次第で変わる。


 俺はティアの頭を触れるかどうかくらいの力で撫で続けた。




「夕飯出来たよ!」

「もうそんな時間か。ティア、起き上がれるか?」

「大丈夫」


 コクがバーンと扉を開けて夕飯だと伝えに来た。いきなりは驚くわ。

 どうやら、結構長い時間そうしていたようだ。ほら、猫を撫でながらのんびりしていると、時間の経過を忘れるというアレだ。


 3人でテーブルに向かうとそこには肉……の塊が一杯あった。なるほど、ドワーフ料理か。

 肉の塊に使われているスパイスの香りが食欲を誘う。こんなにスパイスなんてあったっけ?


「パステルに協力して貰ったんだ。調味料が足りなくてさ」

「以前頂いたお金で買わせて頂きました。何に使って良いか良く解からなかったので」

「そうか。でも次から言ってくれ。料理に使う物だったら、こっちが出すぞ」


 とっくに使い果たしていると思っていたのに残していたらしい。

 調味料も俺自身が料理をしないこともあり、何を買って良いのかさっぱり解からないのだ。

 美味しい物を作ってくれるのなら、そこに妥協をするつもりはない。基本的に娯楽の少ない場所だけに。


「そうするね。ささ、食べてよ」

「しかし、見事に肉だな」


 コクが塊を切り分けて皆に分配する。こういうのを香草焼きと言うのだろうか。

 肉の塊の内部に様々な野菜やスパイスが入っている。

 どこかの国でこういう料理を見た事あるが、思い出せそうに無い。


「お、これは中々美味しいな。スパイスの辛さが良い刺激だ」

「そう言ってもらえると嬉しいよ。どんどん食べてね」


 スパイスの刺激が肉の旨みを引き出している。

 口に入れた瞬間に滲む様に出てくる肉汁が素晴らしい。


「あ、私は野菜を中心に……ああああ」


 コクの切り分けは平等だ。好き嫌いは許されない。

 菜食主義のパステルには酷かも知れない。コクだけに。

 

「からいーでも、おいしー」

『面白い味だね。パンに挟むと丁度良いよ』


 タリスが騒がしく食べている。それに対してネクが助言をしていた。

 ドワーフの料理は刺激が強いスパイスが多いのだろうか。

 慣れていない人には、ちょっと刺激が強いかも知れない。


「ん、ドワーフの料理、興味深い」

「酒に合いそうだよな。あー残りはないんだっけか」

「全部飲んじゃったよ。買う?」


 この間みたいに大量に飲む訳では無いが、ちょっと晩酌をする程度なら飲みたいかも知れない。

 と、そこで思い出す。鍛冶場を作ったから金ないじゃん。


「……諦めよう。贅沢は敵だ」

「あらら。折角飲めると思ったんだけどなー」


 コクが残念そうに言っていた。

 そりゃ、俺だって飲めるのなら飲みたい。今回はちょっとタイミングが悪かったようだ。


 こうして、賑やかな夕食が過ぎていった。この後、あんなことになるなんて知らずに……。






「スズキさん。いくつか武器を作ってきたよ。確認と売却をお願いね」

「お、早いな」


 夕食を作っている時間を考えると、そこまで余裕がなかった気がするんだが。

 そこには剣が3本あった。現在ある素材からだと銅と鉄、あるいは加工した鋼の武器だろう。

 この短期間で3本も作るとは中々順調の様だ。


「最初はこの剣から」

「3本とも自信作だよ。初めて作った割に良い感じに出来たと思う」


 一番近い剣を手に取ると鞘から抜いてみる。


「うおっまぶしっ」


 鞘から剣を抜くと、その刀身から眩い光が溢れた。

 何で剣が発光しているんだよ。

 むしろ眩しくて刀身が見えねぇ……。


「コク、何だこれ」

「鋼の剣だよ」

「いや、どう考えても鋼の剣じゃないだろ……」


 剣を鞘に戻して鑑定台に置く。そして鑑定を行ってみると。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

鋼の剣+8

効果

発光する。製作者:コク

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「発光するじゃねーよ!!」

「スズキさん、落ち着いて」


 鑑定結果を見て俺はそのPCのモニターに突っ込みを入れる。

 物理的にやっても、こっちの手が負けそうなので言葉だけだが。


「……ふぅ……落ち着いた。それで、この+8って何だ?」

「さー何だろうね。何だか少しいい物が出来た気はしたんだけど」


 そりゃ、刀身が光る剣なんて普通とは違うものが出来たと思うだろうな。

 逆にいつも通り、とか言われても困る。今後の装備が全て光っていたら嫌だ。


「困った時のマニュアル頼りだな」

「へーそんなのあるんだ」


 PCの最初の画面に戻りマニュアルを開く。

 そこに記載されている内容によると。


・通常より良い品に+○と付く

・+は最大100まで。

・+の量は+5で本来の装備の2倍の性能、+10で3倍の性能に当たる。

・具体的に何が上がるかと言えば、硬度(折れ難さ)、切れ味が上がる。

・+10が出来れば御の字。+5でも十分強い。10以上はまずない。

・武器だけに付く。


「へー本来より良い装備なんだ」

「そういうのも解かるんだ。鑑定って凄いね」


 本当に凄いと思う。俺たちの元の世界に、こんな性能のPCがあったら鑑定士は廃業だ。

 便利ではあるが、何から何まで明かされそうで怖い。


「ほら、スズキさん。ボーっとしてないで次の剣」

「……次もこんなんじゃないよな?」


 俺が聞くとコクは俺から目を逸らす。そうですか。

 次の剣を手に取ると覚悟を決めて鞘から抜こうとした。


「ぐっ、なんだこれ。抜けん」

「うん、棒だから」

「ちょっと待て」


 どう見ても剣である。なのに棒ってギミックかよ。

 仕込み武器ならぬ仕込まぬ武器か。

 どうすんだよ、これ。


「コク、これは手抜きか?」

「そうでもないよ。これ魔法の杖だもん」

「何で剣の形にしたッ!!」


 剣の形の杖ってもう何が何だか解からない。

 諦めて鑑定台に乗せて鑑定を行う。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

剣の杖+6

効果

鋼製の剣の形をした杖。抜けない。製作者:コク

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「あーはいはい、抜けませんでしたよ。名前も剣なのか杖なのか解からん」

「不貞腐れてないで次いこー」

「楽しそうですねェ。こっちは2本目で早くも疲れましたよ」


 こういう武器も、その手の収集家みたいな人には売れるかもしれない。

 鋼装備で2倍なら、今の魔法銀より強そうではあるけど、杖なんだよな……。

 さっきの剣も単純な威力なら、今の武器より強いだろう。

 発光して自分が目くらまし食らいそうだけど。

 せめてカンテラとか松明くらいの光量なら使えたんだがなぁ……。


 最後の剣を手に取る。今度は剣だよな?

 既に疑り深くなっている気がする。

 その剣を鞘から抜く。青く綺麗に磨かれた刀身だ。青銅だろうか。


「青銅の剣か?」

「うん、そうだよ」

「え? 普通の?」


 俺が聞くとまたもやコクは別の方向を向く。そうですよね。

 色々な方面から見るが、普通の青銅の剣にしか見えない。

 銅の剣は錆び付いていたから解からなかったが、こう見ると結構銅も綺麗だな。


「何も起こらないな。コク、種明かしを頼む」

「うーん、僕じゃなくて魔法使いの人に頼まないと、真価を発揮しないかな」

「また杖なのか?」


 テーブルの方を見るとパステルが机に突っ伏していた。

 さっきの夕飯食べすぎて動けないとか言ってたもんな……。

 よし、犠牲者はパステル、君に決めたっ。


「パステルー助けてー」

「う……主様。情けない声を出さないで下さい」


 テーブルから体を起こしてこちらに言ってくる。

 青ざめたりしてないし、多分大丈夫だろ。


「コクが作った武器なんだけどさ。杖らしいんだ。魔力を込めてみてくれないか?」

「コクが作ったのですか。もう武器も作れるんですね」

「うん、自信作だよ。訓練場の方に行こうか」


 ……訓練場じゃないと危ないのか?

 魔力を剣に込めるだけで危ないって一体何を作ったんだよ。

 まさか爆弾とかじゃないよな?


「嫌な予感しかしないけど、行ってみよう」

「嫌な予感ですか? 普通の武器ですよね?」


 俺はパステルのその言葉をスルーし、無言で先導する。俺も武器なのか解からないんだ。

 訓練場に入ると誰も居なかった。いや、居ても困るけどさ。


「それで、これに魔力を込めれば良いんですか?」

「剣は抜いてね。軽くだよ。そっとだよ」

「随分と慎重にやらないといけないんですね」


 魔力の調整に関しては、パステルは凄く上手いと思う。

 だからきっと失敗しないはず……。


「いきます」


 そう言ってパステルは剣を抜き、その刀身に魔力を込めた。


「ちょ、何だよ、これ」

「思ったより凄いねー」


 あっけらかんとしたコクの声が憎い。

 何せ正面には……巨大な炎の龍が現れたのだ。


「主様、これ、なんだと思いますか?」

「……龍だな。パステル大丈夫なのか?」

「ええ、かなり魔力が吸い上げられていますが、今の所は問題ありません」


 パステルが、魔力を吸い上げられていると感じるほどって、どれだけ消費しているのだろうか。

 俺やタリスあたりが使ったら、すぐに魔力切れを起こしそうだ。


「この龍を正面に放出とか出来るのか?」

「……動かしてみます」


 少し辛そうな表情に変わったパステルが、剣を振ってみた。

 龍は正面に走ろうとして……消えた。


「あれ?」

「ハァハァ……これ以上は無理です」


 パステルが膝を突いて息切れを起こしていた。

 龍を出して、動かそうとしただけで魔力切れなのか?

 完全には切れていないと思うが、かなりの量を消費したのだろう。

 こんなにも疲れているパステルは初めて見た。


「すまん、無理をさせたな」

「いえ、面白い現象でした」

「コク、剣を頼む」

「うん」


 俺はパステルを抱きかかえると、コクに指示を出す。

 さすがにこのままにはしておけないだろう。

 コクはいい物を見た、と言いたそうな表情で剣を拾う。

 そして俺は、疲れてぐったりしているパステルを寝室へと運ぶのだった。

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