32話
「ティア、もう拠点だ」
「ううう……」
駄目だ、手遅れだ。遅すぎたんや……。
と冗談はさておき、戻ってもティアは蹲ったまま動かない。相当ショックだったようだ。
ゴーストが出ること自体は解かっていたはずなのに、プライドが許さなかったのだろう。
結局、その恐怖を克服出来なかったようだが。
「パステル、ティアの防具を外してくれ」
「解かりました。その後はベッドへ?」
「いや、コタツへ行こう。皆が一緒に居る場所の方が良いと思う」
俺とネク、パステルは防具を外す。
外して汗をタオルで軽く拭く。帰還後の一連の流れだ。
「ティア、大丈夫よ。もう幽霊なんて居ないわ」
その間タリスはティアに声をかけて慰めている。
だが、幽霊という言葉を聞いてティアの体がビクンと跳ねる。言葉だけでも駄目なのか。
しかし、いつもは敵を恐れない勇敢な戦士であるティアが、ここまで怯えるなんて昔に何があったのだろう。
「さぁ、防具を外しましょう。主様は見ないであげてください」
「ああ、解かった。戦利品の処分に移るよ」
防具の下に服を着ているので、裸になるから見るなという話ではない。
その泣き顔を見ないであげてほしい、という意味だろう。
PCを起動して戦利品を鑑定していく。相変わらずのラインナップで武具は全処分である。
武器を溶かして素材に出来ればいいのだが、炉を使っても傷を付ける事が出来ないらしいので売るしかない。
処分を終えて周囲を見ると誰もいない。皆コタツの方へと移動したようだ。
コタツの部屋に入るとネク、ティア、パステル、タリスが揃っていた。
コクは帰ってから見ないので、地下にでも居るのだろう。
パステルがティアを子供を扱うように抱きしめている。
先ほどまでのように泣いていない所を見ると、大分落ち着いてきたのだろう。
誰にだって辛い過去というモノはある。
タリスは雑誌を読みながらティアの方をチラチラ見ている。
ネクはいつもの様に裁縫だ。ティアが後で寂しくないようにする為か、衣類ではなく人形を作っていた。
スケルトンが人形を作る光景ってシュールだな。
「ティア、大丈夫か?」
「……うん」
声をかけると返事をする余裕くらいは出来たようだ。
ティアは立ち上がると俺の方に歩いてくる。そういえば、いつもの定位置は俺の隣だっけか。
そのまま俺を背もたれにする様に座った。こうした方が密着するから落ち着くのだろう。膝に座るとか猫みたいだ。
折角なので、両手をティアの腹の前辺りで組む。静かな鼓動が聞こえる。
その首筋に顔を埋めると息を吸い込む事で、ティアの香りを楽しむ。
「マスター、いちゃついてないで話を聞きましょ」
「あ、ああ、そうだな」
そんな事をしていたらタリスからツッコミが入った。
もう少し楽しみたかったが、どんどんエスカレートして行きそうだったので自重する。
「ティア、幽霊が苦手なのか?」
「う……うん、苦手」
俺がそう聞くと明らかにビクンと跳ね、肩を震わせて言ってくる。
怖がらせない様に俺は腕に力を込めてきついくらいに抱きしめる。
ティアはその腕に手を触れるとその震えが収まっていく。
「幽霊は苦手……」
「幽霊、か。ネクは大丈夫なのか? アンデッドだが」
「ネ、ネクは大丈夫。幽霊は斬れない。だから駄目」
「そういう基準なのか……」
ネクは名前を出されてこちらを向く。そしてティアが明らかに怯えているのを見てショックを受けていた。
すぐにフォローしたが、これはフォローと言っても良いのだろうか。
攻撃が通らないから苦手、というのはまた戦士っぽい理由だな。
この世界のゴーストは元の世界の幽霊とはまた少し違う。
魂という意味では同じらしいが、見た目のグロさがない。
俺たちがイメージする幽霊は、血を流してたりして死んだ時の様子だ。
だが、この世界の場合は人の形を作った白い気体のような見た目だ。
そういう魔物だと思えばそこまで怖い感じではない。
「しばらく2階の探索はなしにするよ。1階で稼ごう」
「……ありがとう」
礼を言われても、いずれ2階も探索しないといけないんだけどな。
コクの鍛冶場を作る為に稼がないとならないし、暫くは稼ぎやすい1階を中心に行動したほうが良いだろう。
鍛冶で作られた装備品に付与魔法をする事で、幽霊にも効く武器が出来るらしい。
あれを斬り殺せるのなら、ティアの苦手意識もある程度克服が出来るかもしれない。
探索するのはそれからでも遅くは無いのだ。
「あれー? もう皆帰って来たの?」
「お、コク。戻ってきたのか」
「うん、ちょっと水を飲みにね。あ、そうだ。スズキさん。つるはしがそろそろ切れそうだから補充よろしく」
「早いな。長くやってたのか?」
コクがコタツの部屋へとやって来て、そんな事を言ってくる。
話し声がするからこちらに来たのだろう。
10本あったつるはしが切れるってどれだけ長く採掘をやっていたのだろう。
俺たちが探索に出てすぐに始めたのだろうか。
「今までずっとやってたよ。鉄と銅が一杯入っちゃった」
「そ、そうか。後で補充しておくから今日はもう止めとけ」
「えー、もう少しやっていたかったんだけどなぁ……」
どれだけ採掘マニアなんだ。そういう作業って辛いものじゃないのか?
どんな作業でも嫌々するより、楽しんでいた方が良いのかもしれないが。
「それじゃ、僕はシャワーを浴びてくるね」
「なら、一緒に風呂も洗ってくれ」
「はーい」
そう返事をするとコクは歩いていった。
奴は疲れを知らないのだろうか。ドワーフだからなのか、コクだからなのかは解からない。
「ティア、そろそろ夕飯の準備を頼む」
「もう少しだけ、こうしていたい」
ティアはそう言うと俺のほうに体重をかけてくる。
こんな事を言われて断れる男は居ないだろう。
俺は腹の前辺りに組んでいた手をティアの胸のほうに伸ばそうとする。
「マスター、そういうのはベッドでしなさいよ」
「そうですね。行きましょうか」
タリスから苦情、パステルはさり気なく自分も混ぜる。ネクからは呆れと非難の眼差しがこちらに向いていた。
そういえば、皆居たんだっけか……。時と場所はちゃんと選ばないとな。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
雑談part 24
788 名前:名無しさん
だからそこで言ってやったんだよ
尿は飲み物だってな!
789 名前:名無しさん
さすがにそれは引くわ
790 名前:名無しさん
前にパンツとか言ってた人か?
どんだけ変態的な性癖を持ってるんだよ
791 名前:名無しさん
畜生……誰も理解してくれねぇ……
792 名前:名無しさん
そういう特殊な性癖の人もいるんじゃないか?
声に出して来ないだけで
793 名前:名無しさん
友よッ!
794 名前:名無しさん
俺は違うわ!!
795 名前:名無しさん
あー盛り上がってる所すまん
参考に出来そうなトラウマの解消法を知っていたら教えてくれないか?
796 名前:名無しさん
いや、ぶった切ってくれ
さすがにこれ以上はやばい
トラウマにしてもどんなのを抱えて居るかによるな
治す必要も無いのもあるんじゃないか?
797 名前:名無しさん
ああ、すまん
幽霊が怖いらしいんだ
原因は記憶が戻ってないから不明だが
ゴースト相手に怖がってしまって戦闘にならない
798 名前:名無しさん
幽霊が怖いとか可愛いじゃないか
・・・女だよな?
799 名前:名無しさん
古来からの解消法は無理やり突撃させる
逆効果のような気もするけどな
800 名前:名無しさん
それをしなければ生き残れない状況にするのは
ありだと思うが・・・本当に動かないと死ぬからなぁ・・・
801 名前:名無しさん
何で幽霊が怖いのか解からないけど
倒せる武器を持たせて倒せば良いんじゃないか?
そうすれば、自分でも倒せる相手だと認識するだろ
802 名前:名無しさん
それも手だけど・・・付与魔法と鍛冶武器が必要だな
今は鍛冶で作った装備の競争率高いんだよな
803 名前:名無しさん
確か液状にして型にはめ込むタイプの作り方では駄目なんだっけか
量産できないらしいな
804 名前:名無しさん
鉱石の取得も採掘が必要になるから
某ロリ工房でも1日40本が限定なんだってさ
805 名前:名無しさん
40本って十分作っている気がするが・・・
806 名前:名無しさん
残念ながら鉄や鋼装備を含めてだ
魔法銀や黒鉄装備以上は数が少ない
807 名前:名無しさん
なるほど・・・
数は作れても素材が低めなのか
ゴーストくらいなら弱い武器でも
付与すればいけそうな気がするけどさ
808 名前:名無しさん
他で使えないのならアイテムボックスから出すのが手間だな
それなら魔法で倒した方が早い
809 名前:名無しさん
2本背負っても邪魔だしなぁ・・・
速度重視のタイプだと尚更だ
810 名前:名無しさん
てことは、良い武器を作れるようになる
または手に入れたら付与魔法で挑んだ方が良いって事か
倒させて見る方向で頑張ってみるよ
811 名前:名無しさん
ちなみにその子の種族は何?
812 名前:名無しさん
猫獣人
813 名前:名無しさん
幽霊に怯える猫獣人だと!?
治すな、そのまま愛でろ
814 名前:名無しさん
ああ、そうだな
そのまま慰める振りをして
好き勝手できるじゃないかっ!!
815 名前:名無しさん
さすがにそれは可哀想だろ
俺も猫耳ほしいなー
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「やっぱり鍛冶か……」
PCの画面を閉じて一息つく。
付与魔法でそれに対抗出来る属性を付ければ、幽霊だって斬れる。
そうすれば、ティアの恐怖も少しは和らぐかもしれない。
何となく寝室の方を見て、今はパステルと共に寝ているティアの事を思う。
そっとしてあげるのも優しさだが、この迷宮では何が起こるか解からない。
情報でゴーストが出ないと言っても、もしかしたら突然出てくる場所もあるかも知れない。
情報といってもあくまで経験談なのだ。攻略本がある訳じゃない。
それにいつまでも俺たちが一緒に居るとは限らないんだ。
転移罠、落とし穴、そういったトラップによって分断される事だってある。
そうなった時、恐怖の中死んでいく何て事になったら、もう戦えなくなってもおかしくはない。
仲間達には、出来るだけそうなって欲しくないんだ。
だからせめて、立ち向かうだけの勇気くらいは持てるようになって欲しい。そう願う。




