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迷宮と掲示板 改稿版  作者: Bさん
3章 坑道の迷宮
33/88

28話

「あ、タリス。皆を呼んできてくれるか?」

「うぃー」


 広間にコクを連れて来たが、タリス以外は皆別々の場所にいるようだ。

 紹介をするのなら全員集まってからした方が、面倒が無いだろう。

 テーブルの上で大の字で寝転がっていたタリスに頼む。

 俺と分担して呼ぶのも良いのだが、ここに来たばかりのコクを1人にしても心細いだろう。

 しかし、こいつは何でこんな所で寝てたんだ?


「あ! あれは何?」

「あれはPCだな。ここだと……物を売買と情報収集なんかが出来る装置だ」

「へー凄く便利そうだね」


 そんな事を考えているとコクがPCを指差しながら聞いてくる。

 コクは広間をキョロキョロと目移りしながら観察しているようだ。

 どうやら好奇心旺盛らしい。


「まぁ、落ち着け。とりあえず、座ろうか」

「うん……でも、良く解からないけど凄いものが多いね」

「後で全部ちゃんと説明するよ」


 俺がそう言うとコクは笑顔でありがとう、と返してくる。屈託の無い笑顔がまぶすぃー。

 雑談をしながら待っていると、他のメンバーが広間にやってくる。


「交渉は成功したようですね。おめでとうございます」

「ああ、紹介をするから皆座ってくれ」


 パステルに特に不機嫌そうな雰囲気は無い。

 どうやら杞憂だったようだ。


「えっと、僕はドワーフのコクです。よろしくお願いします」


 皆がテーブルに座り、コクが自分の名前を言う。

 他に色々と話してもらいたいが、記憶がないのなら難しいだろう。


「コクには鍛冶を頑張ってもらう予定だ。装備品などの製作は全部任せることになると思う。皆仲良くしてやってくれ」


 俺が補足する様に伝え、使い魔たちが各々に自己紹介をしていく様子を眺める。

 そうしている内にコクも皆に打ち解けて行ったようだ。

 どちらかと言えば社交的なタイプのようで助かる。


「さて、コクにこの拠点の案内を頼む。俺は今のうちに戦利品の処分をするよ」

「おけー、それじゃまずはお風呂からね」

「タリス、待ってください。休憩は終わりです。合成魔法の実験を続行しましょう」

「う……」


 率先して案内をしようとしていたタリスをパステルが止める。

 テーブルで寝転がっていたのは、休憩だったのか。

 実験となると多めに魔力を消費するのかも知れない。

 パステルは魔力の多さから疲労を感じにくいかも知れないが、タリスは休憩を挟まないと辛いのだろう。

 そうして、タリスはパステルに抱えられて訓練場の方へ歩いていった。


「ん、なら私が案内する」

「よろしくね」


 ティアが案内を申し出たようだ。これなら大丈夫だろう。

 そう思っていたらネクがメジャーを取り出してジェスチャーをする。


「あ、その前に採寸」

「採寸……という事は服を作ってくれるのかな?」


 コクが言うとネクが頷く。コクとネクって名前が似てるな。失敗したかなー。

 さすがに、このまま凝視する訳にも行かないだろう。

 俺はそう考えると邪魔をしないようにPCの方へと向かった。





「やっぱり魔法銀か。階も変わらないし代わり映えしないな」


 鑑定を終えて呟いた。

 この3階層でドロップする装備は魔法銀製の品物なのだろう。

 これでは2階も同じ気がする。


 とは言え、それらを販売するとかなり儲かる。

 2階層の森での稼ぎが5000DPだったのに比べ、1万DPも入るのだ。

 単純に倍になった上にゴブリンやドワーフといった脳筋モンスターだけである。

 比較的安全に稼げるので、今後新しい稼ぎ場が見つかるまでは、ここで戦うのが良いだろう。


 コクがどんな武器を使うのか解からないので、とりあえず一式は残し全て売却する。

 それでも9000DPは稼げた。テレビ貯金が捗るな。


「あ、そういえば、コクのステータスを確認しないと」


 変異種という事は珍しいスキルを持っているかも知れない。

 少し期待しながらステータスからコクの項目を開いた。


名前:コク

性別:女

種族:ドワーフLV1

職業:ファイター

種族適正

腕力強化:力が強くなる。

鍛冶、採掘ボーナス:鍛冶スキルと採掘スキルを使用すると通常より良い物になる。


職スキル

熟練度最適化、勇気


スキル

採掘LV25、鍛冶LV5、料理LV10、調合LV10、彫金LV20

魔道具作成LV5、裁縫LV20


固有スキル

鍛冶神の加護:鍛冶による製作品に大きなボーナスが付く。

生産特化:生産スキルを使うと獲得経験値が+50%される。ただし、戦闘での経験値が-50%になる。



 な ん だ こ れ は

 完全に生産向けである。むしろ、戦闘面では全く駄目っぽい。

 

「これは留守番要員……か?」


 戦闘に出しても上がらないスキルばかり覚えている。

 固有スキルがあるので、戦闘スキルを覚えさせても他のメンバーの半分の速度でしか上がらない。

 無理に戦わせるより、生産で頑張ってもらうのが理想だろう。


 でも、採掘ってどこでやるのだろうか。普通に考えれば迷宮内だろう。

 拠点で栽培とか出来るのだろうか。

 家具類の生産関係を見ていると鉱床や畑があった。

 拠点を農園にでもするつもりなのだろうか。


 奥まで掘り進めなくても鉱床があるのは助かるが、これって限界とかないのかね。

 どうせなら無限箱とかで鉱石を出してくれた方が楽だろうに。

 読み進めていると、変な項目を見つけた。


「ドロップ品の変更?」


 商品ではなく、何か設定を変えるボタンらしい。

 それの説明を読むと、現在ドロップしている装備品が素材でドロップするようになるそうだ。

 つまり、3階層であれば、魔法銀製の武具ではなく魔法銀の鉱石で、回復薬などの薬品は回復草の様な素材に変わる。

 今まで完成品であった物が素材に変わると手間がかかるだけだと思うが、生産者依存の付加価値があるんだそうだ。


「回復薬は変わってない気がするんだけどなぁ……」


 実際に俺が作っている回復薬などの薬品は、ドロップしている薬品と効果は大差ない気がする。

 これ以上スキルレベルが上がれば、色々と変わるのだろうか。

 この機能は保留だな。少なくとも鍛冶場を作ってからにしたい。


「あ、そういえば、鍛冶場を作ろうにも知識が全く無かった……」


 武器を作るのに何が必要か、など聞かれても答えられる人は少ないだろう。

 炉で熱して金槌を打つくらいは知っていても、詳しい知識がないと何かが足りないとか起きそうだ。

 そういうのは専門家に聞いた方が良いだろう。

 コクが鍛冶スキルを持っていたから、その手の知識を持っていそうだ。

 そう思い生命感知で現在地を調べて、そちらへ歩いていく。




「ここが、ご主人様と私とパステルの寝室。ベッドの下にある本は気にしないであげて」

「本? これ? って、ああ……なるほどね」


 俺が寝室に入ると、コクがベッドの下を覗き込んでごそごそ何かしている。

 シャツ1枚なんだからそういう格好は止めなさい。

 あと、本の事はほっといて。


「ティア、コク。説明はどんな感じだ?」

「もう殆ど終わり。後は、道具の説明くらい」

「スズキさん、水道って凄いね。どこから水を引いているんだろう?」

「解からん」


 相変わらず、興味津々のようで色々と聞いて来るが、ガス水道がどこから引かれているのか何て俺も解からない。

 排泄物の行く先もな。

 コクは知らないと言われて、少し残念そうな表情を一瞬だけすると、すぐに戻る。切り替え早いな。


「コク、鍛冶場で必要な物を教えて欲しい。作るにしてもどれくらいの設備が必要か全く解からない」

「うん、自分で使う場所だからね。出来れば見て決めたい」


 コクは嬉しそうにこちらに小走りで来る。

 ティアは説明がやっと終わったとばかりに少しため息を吐いていた。

 好奇心がある相手だと、色々と聞かれて大変だったのだろう。

 余り喋るのが得意な方ではないティアにとっては、かなりの労力だったのかも知れない。

 

「料理を作る。希望ある?」

「うーん、コクの歓迎を含めて作って欲しいな。コクは何か要望あるか?」

「肉が食べたいかな。あと、お酒はないよね?」

「酒かぁ……」


 今の所、買ったとしても料理酒くらいだ。

 ドワーフはやっぱり酒が好きなのだろうか。ってわざわざ確認するくらいだ、好きなのだろう。


「たまには酒を飲むのも良いかもな」

「あ、なら好きなの選んでも良いかな?」

「お酒の話より料理をお願い」


 酒の話で盛り上がろうとしていた所でティアから横槍が入る。

 そういえば料理か。


「肉を豪快に焼いたのが食べたいかな」

「それはまた極端な……パステル辺りが困りそうだな」

「ん、野菜のも別に作る」


 タリスやネクは喜びそうだが、菜食のパステルが困りそうだ。

 全く肉を食べないと言う訳では無いが、こってりした油モノが苦手らしい。

 メインが決まった所でティアは料理の為に離脱する。

 俺とコクは必要な物を揃える為にPCへと向かった。


「えっと、お酒だっけ?」

「鍛冶の道具の話だ」


 PCの前に到着していきなりそれである。

 もう酒を飲む事しか頭に無いのだろうか。


「ああ、鍛冶場ね。ここでどうやって道具を見るのかな?」

「ちょっと待ってくれ、リストを開く」


 そう言ってPCを起動させ売買リストを開く。

 その中から炉や金床があるページを開いた。


「これは凄いね。これが説明で……DPってお金?」

「似たようなもんだ。出来れば高くない方が助かる」


 最悪テレビ貯金を崩すと言う手もあるが、余りやりたくはない。

 鍛冶自体もすぐに必要になるわけではなく、追々揃えていきたいと思っている。


「うーん、これとこれ。後は……細かい道具は?」

「こっちだ」


 言われた道具の名称とDPをメモし、細かい金槌の様な道具のページを開く。


「道具はこれかなー出来れば現品を触ってみたかったけど……」

「さすがにそれは無理かな。それなりに質は良いと思うから勘弁してくれ」

「うん、これで終わりだね」


 全てメモし終わる。そしてそのDPを全て足すと酷い事になっていた。


「12万DPか……もう少し安くならない?」

「これ以上は安くならないよ。この炉だって魔法銀以上は難しいよ?」

「……金がかかるな」


 炉自体はランクアップを直接出来るらしいから、選んだ物を強化していけばいい。

 ランクの低い物を買ったとしても、後々無駄にはならない。


「金を稼がないと全部は無理だな」

「1つだけあっても仕方ないからね。ゆっくり集めようよ」

「鍛冶を約束したのにすぐに揃えられずにすまん」


 使い魔交渉の約束事だっただけに、揃えられないのは申し訳なく思う。

 俺が頭を下げるとコクは焦ったように手を振る。


「いやいや、すぐに出来るとは思ってなかったから。一から道具を揃えるのが難しいのは解かっていたからね」

「そう言ってもらえると助かる。時間はかかってもちゃんと揃えるよ」


 俺がそう言うとコクも落ち着く。

 しかし、12万か……テレビ用の貯金を崩しても半分しか買えない。

 ここら辺で稼ぎに入らないと辛いな。


「それより、お酒はどうなのかな?」

「ん? ああ、酒か」


 どうやりくりしようか考えていると、コクが言ってきた。

 どうやら未来の事より今の事らしい。かなりの酒好きみたいだな。

 飲料から酒のリストを開いていく。

 元の世界にあった酒から見たこともない物まである。

 随分と幅広いんだな


「あ、このお酒好きなんだ」

「……高すぎだろ」


 銘酒、魔王殺し。この世界の酒は魔王をも殺すらしい。

 元の世界でもそういう感じの名前の酒は一杯あったから、その手の命名なんだろうけどさ。

 記憶がなくても好きだった酒とか覚えているのな。

 ティアやパステルも郷土料理を覚えていたように、覚えている記憶と忘れている記憶があるのだろう。

 全て忘れていたら会話すら出来ないとかあり得る。そう考えるとかなり都合の良い記憶喪失だなぁ……。


「さすがに飲めるとは思ってないよ。僕も……何だろう。覚えてないや」

「過去の記憶に直結する内容なんだろ。ゆっくり思い出せばいい」


 そう言うとすぐにコクは忘れたように酒を選び出す。

 でも、コクさん。酒の単位が樽は勘弁して下さい。


「ビールがあるのか。コクは飲んだ事あるか?」

「そりゃ、もちろんだよ。でも、僕は蒸留酒の方が好きかな」


 蒸留酒は通常の酒よりもアルコール度数が高い。俺たちの世界であればウォッカやブランデーなどがそれに当たる。

 そんなのを樽単位で買うとかドワーフは酒に強すぎだろ。


「俺はビールにしとくよ。後は……軽いカクテルでも買っとくかな」

「それは残念。僕は……樽は駄目?」

「駄目。料理もあるんだから程々にな」


 そもそもこの小さい体のどこに入るのだろうか。樽の方がでかいぞ。

 俺たちは酒を買い込むと訓練所に持って行く。

 この部屋は窯があるせいで結構暖かい。ビールは冷えた場所に置いておきたい。

 訓練所なら10℃以下くらいの温度なので、ずっと置いておくと結構冷える。そこに置いておけば夜に飲む時に丁度良いだろう。

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