22話
「今日から森の探索を再開する。パステルはここで戦うのは初めてだと思うが、いつものように頼むぞ」
「ええ、森の中はエルフにとって庭の様なものです。今まで以上の活躍をご覧に入れましょう」
いつものミーティングの時間になり、今日の予定を伝える。
ここの所、数日はパステルとの連携の話もあり、草原で狩りをしていた。
パステルの精霊召喚はかなり強く、もう1人の壁役がいるようなものだった。
ただ、かなり鈍足の為、狼の様な素早い敵相手では攻撃が当たらないのだが。
召喚を行っていても弓は使えるらしく、後方からの射撃はかなりの腕前だった。
その攻撃は積極的に俺たちの攻撃に割り込んでいく感じではなく、あくまでサポートとして徹していた。
お陰で前衛の3人は、自分のスタイルを変える事無く戦闘を続けられた。
そして、ピンチになると援護射撃が入って敵の攻撃を妨害という連携を取れていた。
このエルフ、変態だがやりおる。
準備を終えると俺たちは森へと降り立った。
「各員警戒を」
転移してまずやる事は安全の確保だ。
毎回そうしているのだが、この時は緊張する。
下手をすると奇襲を受ける可能性だってあるのだ。
「問題なさそうね」
「こっちのマップでも問題ないみたいだ」
タリスと俺が感知スキルで周囲を確認すると、他のメンバーが警戒を少し解く。
完全に安全とは言えないが、少なくとも100mの範囲の敵の存在は把握している。
「いつも通り先導をする。ついて来てくれ」
俺がそう言うと皆無言で頷く。
この緊張感、少し癖になりそうだ。
その後は、エルフの集団をいくつか撃退していく。
やはり先手を取れるというのは大きい。
パステルが加わった事で、遠距離攻撃を出来るメンバーが2人になった。
それだけで2体は先に倒せるのである。
半数以上が初撃で倒せるから、危険は殆どなくなっている。
「少し休憩をしよう。そこに岩肌が露出している所を背に向けて休むとしようか」
「そうね。森は歩きにくくて疲れちゃうわ」
タリスが同意するように言って来る。お前、ずっと飛んでたじゃないか。
ネクとティアが周囲の警戒を行い、俺とタリス、パステルの3人が先に休む。
休むと言っても防具を外す訳ではない。座って水分を補給する程度だ。
「このお茶美味しいですね。何て言うんですか?」
「俺の世界の紅茶だな。ダージリンだったと思う」
「ん、入れ方にコツがある」
パステルが紅茶の種類を聞いてくるが、残念ながら俺はその手の話は詳しくない。解からなかったら、ダージリンと答えておけば良い。
ティアが警戒しながらも会話に参加してきた。紅茶の入れ方なんてさっぱり解からん。
「さて、そろそろ交代するよ」
「解かった」
俺は少し温くなった紅茶を一気に飲み干すと立ち上がる。
そしてティアと位置を交換しようとして……何かの予感を感じた。
「こっちか!!」
慌ててそちらに向かって盾を構える。
その盾に金属がぶつかる様な音が鳴る。
どこだ。どこから来た。
「ネク、ティア。すまないが休憩は後回しだ。ネクはタリスとパステルを守ってくれ」
「ちょっと! 生命感知でも解からない範囲よ!?」
タリスが慌てながら言って来る。生命感知は今のレベルでも100m程の範囲を知る事が出来る。
俺も盾を構えたままマップを開く、その中には光点が1つも無かった。
「どういう事だ……まさか、この木々を掻い潜って矢が飛んできたとでも言うのか?」
「恐らくそうでしょう。常識に囚われてはいけません。現実に飛んできている、それが事実です」
パステルが冷静に述べる。
そうだ。必要なのは原因を調べるのではなく、どう対処をするかだ。
「飛んできた方向は東側か。そっちに向かうぞ。こんな芸当を出来るエルフは変異種の可能性がある。注意して戦おう」
「飛んで来る方向が解かれば対処できる」
俺が指示を出すとティアがそう言ってくる。
剣で矢を叩き落すのだろうか。盾でやるより難しそうなんだが……。
ネクが殿でタリスとパステルの護衛。俺とティアがその壁になる様に進んでいく。
そして直感スキルが告げた。こっちに矢が飛んで来ると。
「ティア!」
「大丈夫」
俺ではなく矢はティアの方に飛んでいくのが見えた。
ティアはその矢を空いている方の手で掴んだ。何者だよ。
矢は放物線を描くのではなく直線に飛んできた。
恐らく相当な力を持っている相手なのだろう。
エルフじゃなくてオーガか何かが射ているのか?
「居た。エルフが1体だけ孤立している」
「こっちでも確認したわ」
生命感知のスキルで矢を撃ってきていると思われる光点を発見する。
残り少ない未探索の辺りである。
ここを調べれば終わる感じだろうか。
矢を定期的に受けながら、その位置へと誘導されるように近付いていく。
どう考えても当たらないのに撃ち続けるなんて変じゃないか?
「ティア、止まってくれ」
「ん、もう少しじゃないの?」
俺とティアが立ち止まると後ろを歩いていたメンバーも止まる。
なんだか嫌な予感がする。
「マスター、どうしたの? あと少しよ」
「嫌な予感がする。罠の可能性があるかも知れない」
これだけの腕を持っているエルフは変異種だろう。
そのエルフがただ淡々と矢を撃ち続けるだろうか。
俺だったら自分に有利な戦場を作り出す。
特に自分1人であれば尚更だ。
そう俺の直感スキルと罠の知識が告げていた。
「俺が先に進む。ついて来てくれ」
「気を付けて下さい。何なら私が罠に引っかかりましょうか?」
「すみません。探索中は自重して下さい」
パステルが俺を心配しているのか、いつもの変なスイッチが入ったのか、判断しにくい事を言って来る。
探索中は勘弁してください。
俺が先頭になり、罠を調べながら進んでいく。
矢は盾でどうにか防いでいるが、このプレッシャーは半端じゃないな。
「……あった、罠だ。解除している時間はない。強制的に発動させて破壊するぞ」
そう言って俺は投擲用の鋼のナイフをその罠に向かって投げ付ける。
罠があると思われる場所からロープが飛び出す。古典的な吊り下げの罠みたいだ。
森しかない所では、こういう罠しか仕掛けれないのだろう。
他には迂回した時用の落とし穴らしき場所があるが、遠くなので問題はない。
矢ばかりを見ていたら引っかかっていた可能性がある。
注意を逸らして引っ掛けるのは単純だが、かなりの効果がある。
その罠を破壊すると直感がもう罠がないと告げる。
今までこの直感に何度か命を助けられた。なら、それに従うのもありだろう。
「罠はもうない。一気に行くぞ!」
「あいよー」
タリスが返事をする。いや、タリスさんあなたは後衛です。飛び出そうとしないで下さい。
ネクはタリスの足を掴んで止めていた。まるで虫に紐を付けるが如く。
俺とティアはそれを見てお互いに顔を見合わせる。
すぐに真面目な顔に戻ると一気に敵の前へと躍り出た。
開けた場所に1人のエルフが居た。
そのエルフはロングボウと呼ばれる2m近くの弓を持っていた。
こんな弓で俺たちを狙っていたのだろうか。
エルフは弓を投げ捨てると腰にあった剣と何かを掴む。
それは俺の世界では普通にあったクロスボウだった。
「何あれ」
「矢を高速で射出する武器だ。弓より早くて威力があるから気をつけろ」
クロスボウなんてこの世界にあるとは思わなかった。
瞬間的な射出速度はロングボウよりも速いが、装填時間や距離で劣る。
だが、この距離での戦いでは関係がない。ここぞというときに使われたら危険だ。
それに一番大きいのは片手でも使用できることだ。
片手剣で牽制しながら使ってくるのだろう。
俺とティアは左右に分かれて走る。
タリスは風の魔法の詠唱、パステルは精霊の召喚の詠唱をする。
ネクはそんな2人が矢の餌食にならないように守っている。
俺とティアは同時に斬りかかる。
普通の斬撃だが、タイミングを合わせたそれは回避しにくい攻撃となる。
だが……
「――グッ!」
エルフは俺の剣を受け流し、ティアの攻撃を体を捻る事でかわす。
それどころか受け流したまま俺の肩にその剣を突き刺してきた。
まるで流れるような、そんな攻撃だ。こいつ、弓だけじゃないのか。
俺は距離を取る事で相手の剣を抜く。
刺さったのは右肩だ。盾を持つには困らない。
最悪クロスボウの攻撃が来ても盾で防げる。
痛みは歯を食いしばって耐えるしかない。
そしてクロスボウが撃たれる。
こちらを狙ってくると思っていたのだが、その方向はこちらではなくパステルの方だった。
ネクがその射線上に飛び出し盾で防ぐ。
だが、完全にそれを防ぐ事は出来ずに盾を弾く。
ネクでも盾で防ぎきれなかったようだ。だが、連射は出来ないはずだ。
そう思っていた。
クロスボウからガコンという何が動いた音が聞こえた。
そしてクロスボウは、すぐに2射目を放つ。
まさか連装式か? そういうクロスボウが実在したのかどうかまでは知らない。だが、このエルフはそれを使ってきた。
クロスボウから放たれた矢はネクの体に吸い込まれるように入っていく。
鎧を撃ち抜きその反動でネクは後方へ吹き飛ばされる。
「マジかよ、ネク!!」
駆け寄りたいが今は戦闘中だ。そんな余裕はない。
パステルの詠唱が終わったのかエルフと後衛組の間には巨人が現れる。
これで大きな壁として活躍してれるだろう。
「ティア、行くぞ!」
「うん」
ネクの仇を取らねばならない。肩がジンジンと痛む。
どれだけ血が流れているか解からない。
だが、俺は肩の痛みを忘れた。
こいつを倒す為に痛みなんて気にしていたら勝てない。
「いっけー」
「うおっ」
タリスの声と同時に、突然体が軽くなる。
これは強化魔法か? 見るとティアも同様のようだ。
素早さが上がるような魔法なのかも知れない。
一気にエルフに距離を詰めると剣を横に薙ぐ。
振り抜く速度がいつもより速い。これが強化魔法の効果なのだろうか。
その剣が狙う場所は、相手の体ではない。そのクロスボウだ。
まだ2発しか撃たれていないが、こんな危険な武器は使用出来ないようにしたい。
ネクが倒れた今、後衛に撃たれたら回避不可能だろう。
金属すら貫通する威力では当たり所によっては致命傷だ。
クロスボウの中心を切りつけるとその弦が切れる。
この武器が弓を模した物であればこれで使用は出来ないはずだ。
これ以上の変なギミックはないよな?
そうしている内にティアがエルフの剣を弾いた。
これでこいつが使える武器はなくなった。
他に武器を隠し持っている可能性もあるが、少なくとも大型の武器はない。
後は適度にダメージを与えて捕獲すれば、戦力として得られるだろう。
エルフは後ろに1歩下がると懐からナイフの様な物を取り出す。
この面子相手にナイフ1本で挑むなど無謀だろう。
こいつはまだ諦めていないのだろうか。
そしてエルフはそのナイフで自分の首を斬った。
その首筋から大量の血が溢れてくる。
「え?」
思わず、戦闘中に似つかわしくもない声が漏れる。
思いがけない行動で少しの間固まる。
そのエルフは崩れ落ちる様に倒れた。そしてそのまま死体が消滅する。
この時間が捕獲が可能かどうかの成否を分けてしまったようだ。
「……まさか、自害するなんて思わなかったぞ」
「ん、戦士として捕虜にならないという意思の表れ」
俺が呟くとティアが言って来る。
やっぱりそういうのがあるんだろうか。
俺なら何が何でも生き残れと言いたいのだが……。
文化や思想の違いを論じても仕方のない事なのだろう。
「あ、そうだ。ネクは無事か?」
「何とか間に合ったわよ。そこに座ってるわ」
ネクの安否を確認しようと聞くとタリスが答えてくる。
この世界の回復薬は即効性なので間に合ったようだ。
ネクの心臓の辺りを撃ち抜かれていたがスケルトンには心臓がない。そのお陰で死なずに済んだのだろうか。
穴の開いた鎧も、拠点に戻れば勝手に修復されるだろう。
「そうか、良かった。もうすぐこの階の探索も終わるからそこまで進もう。ネク、いけそうか?」
ネクに聞くとその頭を縦に下げる。
それを確認すると俺たちは残り少ないエリアの探索を再開した。
すぐに階段があると思われる小屋を発見し、次の階へと降りる。
そこには1階層にもあったような石造りの部屋と巨大な扉があった。
1階層と同じであれば、ボス部屋だろうか。
生命感知では、ボスの部屋の中を知ることは出来ないようだ。
何かによる遮断か、ネタバレによる対抗策を練られるのを避けるためか、それは解からない。
どちらにしても今日の探索はここまでだ。
ボス戦なら準備は必要だろう。掲示板とかにボスの情報が書かれているかもしれない。
俺たちは楔を設置して拠点へと帰還した。
「さてと、皆自由にしてくれ。俺はいつもの処分をする。昨日のDPを使いたいって人は遠慮なく言ってくれ」
「もう使っちゃったわよ」
「私はもう少し調べてからにします」
タリスはもう使用済みらしい。こいつの事だから食べ物なんだろうなぁ……。
パステルはまだ何に使うか決まっていないようだ。
ネクとティアは無言。何に使ったんだろうか。
趣味の物かも知れないし、追求をするつもりはない。俺だって見られたくない物がある。
そのまま解散しいつもの処理をする。
相変わらずドロップ品は代わり映えしない。
鋼の装備に回復、解毒、毒薬などだ。
必要なものだけ残して売却をする。
以前から溜め込んでいる貯金と合わせると5万DPほど溜まった。
「うーん……テレビとか欲しいな。電波がどうなっているかは解からないけど」
もし元の世界のニュースでも流れるのなら、俺たちの事がどうなっているか解かるかも知れない。
先に買った人とかが情報を流していてもおかしくはないのだが、そういう話が掲示板に挙がる事はなかった。
もしかしたら情報規制で書き込めない内容なのかも知れない。
下手にそういう情報が流れると、ホームシックとかで攻略を止めてしまう人が出る可能性もありそうだ。
ここに飛ばされてまだ2ヶ月も経過していないのだ。
これが半年にもなれば、ここの生活に慣れてきて落ち着くかもしれない。
情報の公開はそれからかも知れないが、俺としては先に知っておきたかった。
……決して娯楽が少ないからではない。
テレビがあると出来ることが色々と増えるしなぁ……。
「ご主人様」
「ん? ティアかどうした?」
すぐに必要になるモノがある訳でもないし、テレビ用の貯金でもしようかと悩んでいるとティアとネクがやってきた。
わざわざ時間をずらしてから来るなんて、どうしたのだろうか。
「私とネクで出し合って買った」
「これは……剣のホルダーか? 俺に?」
そう聞くと2人は頷く。これは、アレか。初任給で世話になった人にプレゼントするという……。そう考えると俺は嬉しい気持ちと悲しい気持ちを感じた。
渡したDPは出来れば自分の為に使って欲しかったが、これはこれで嬉しい。
「2人ともありがとう。大切に使わせてもらうよ」
お礼を言うと2人は何か照れるような仕草をする。
今まで帯剣をする時はベルトに無理やり鞘を挟む感じだった。
貰った物を腰に装着して帯剣をしてみるとしっくり来る。
その為に作られたものだから当然といえば当然だが。
「それじゃ、お礼に俺も渡そう。デザインはどれが良い?」
「ん、同じのがいい」
ホルダーのリストを開いてティアは同じ物を、ネクはハンマー用の物を選んだ。
実際使ってみるとあるのとないのでは大分違う。
俺たちは、実際に鎧まで着用してどんな具合で変わるのか色々と試すのだった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
【2階層】ボス対策【色々】
224 名前:名無しさん
大蜘蛛きっついわ
何あれ、蜘蛛の巣が張り巡らされてるし、子蜘蛛がわんさか来るし
225 名前:名無しさん
あの蜘蛛の巣は火で焼けるぞ
剣で斬ろうとするとくっつくから注意だ
226 名前:名無しさん
蜘蛛が巣を移動しようとすると
えらく速いよな
焼いて範囲を減らさないと後衛に行ったりして大変だぞ
227 名前:名無しさん
毒もやばい
食らったらまず解毒薬が必須
228 名前:名無しさん
物理が強いボスより厄介なんだよなぁ・・・
森で美味い思いをした反動かも知れんけどさ
229 名前:名無しさん
美味い思い?
なんだそれ
230 名前:名無しさん
森→エルフ→美形→ハーレム
231 名前:名無しさん
羨まし過ぎ
俺もエルフ欲しいわー
232 名前:名無しさん
エルフは変態だけどな
233 名前:名無しさん
むしろご褒美だろ
色々と無茶が利くかも知れない
234 名前:名無しさん
うちのエルフはSだったんですが・・・
235 名前:名無しさん
なにそれ
羨ましい
236 名前:名無しさん
お前Mかよ
ロリエルフに罵倒されるとかならありだけどさ
237 名前:名無しさん
ねぇよ
んで、蜘蛛の巣を焼いて毒に注意して戦えば良いのか?
238 名前:名無しさん
あと、子蜘蛛な
戦力を分散する必要がある
5,6人いないときついぞ
内前衛2人以上は必須
239 名前:名無しさん
前衛の1人が俺だから3人は欲しいな
自慢じゃないが俺は弱い
240 名前:名無しさん
本当に自慢にならんな
前衛3、後衛2~3が妥当だな
後衛が魔法で焼くと丁度良い
241 名前:名無しさん
魔法以外では焼けないの?
242 名前:名無しさん
松明でもいいぞ
ただ、火が消えたら新しいのを用意しないとならないから面倒
ないよりはマシだけどな
243 名前:名無しさん
へー、明かりを灯す以外にそういう使い方もあるのか
予備で何本か持っとくかな
244 名前:名無しさん
捕食だけは気をつけろよ
アレはトラウマになる
245 名前:名無しさん
あ、ああ、あれはははやばばあいいいいいィィィ
246 名前:名無しさん
ドクター!
ドクターはどこだ!!
患者さんが発作を!!!
247 名前:名無しさん
経験者が居たか
ボス戦はなにかとトラウマ製造部屋だからな
248 名前:名無しさん
それは怖いな
気をつけるよ
んじゃ、ちょっと行ってくる
249 名前:名無しさん
その後、>>248の姿を見たものはいなかった
250 名前:名無しさん
おい、やめてやれよ
いや、エルフを取ったんだっけか
もっとやれ




