18話
「さて、探索を進めるのなら対策を考えないとな」
俺はわざわざ声に出してやる事を決める。
コタツの部屋を作ってからそこに集まる事が多いらしく、この部屋には誰も居ない。
気兼ねなく独り言を呟けるのだ。いや、呟いても意味は無いけど。
「敵の位置の把握か……スキルだと知覚系になるのかね」
今まで感知スキルを取っていなかった。
効果の説明が抽象的で実感出来ないというのもある。
そこに誰が居る、というのを感覚で解かるという事は、直感スキルと同様で戦闘行為の阻害になる可能性がある。
感覚の強化スキルは少々忌避していた。
「取ってみるか。周囲を警戒しているのは俺とタリスが多いし、ネクやティアは逆にデメリットになりそうな気がする」
そう思い2つだけ生命感知スキルを購入する。
その1つを使用し覚えてみる。
「おっ、あっちに誰かが居る気配がする」
コタツの部屋だからタリスだろう。
誰がどこに居るかまでは解からないようだ。
今後スキルレベルが上がっていけば、色々と判別できるようになるのかも知れない。
「マップと組み合わせられれば楽なんだけどな」
そう呟いてマッピングスキルを使う。
目の前にこの拠点の地図が表示される。
そこには光点が点滅していた。
「これは……生命感知と連動しているのか?」
生命感知のスキルは基本的にON/OFF出来ない。
スキルレベルが上がればそういうのも出来るかも知れないが、現状では常に発動している感じだ。
それより地図である。
地図に表示されている光点に触れると名前が表示される。これは便利だ。
というより、もしかしたら製作者側はこれを前提としてマッピングスキルを作っていたのかも知れない。
そう言っても良いくらい綺麗に収まっていた。
距離はどれくらいの範囲を把握できるのだろうか。さすがにこの拠点内は何百㎡もないので解からない。
「魔力感知は後にするか。同時に取ると混乱しそうだ」
人間の魔力にも反応してしまった場合に二重になったり、魔法が発動してそれまで見えてしまったりすると解かり難くなりそうだ。
ある程度慣れてから取れば良いだろう。そうすれば違いなども理解し易いと思う。
「後は……防御強化か……」
スキルリストを見ているとそういう名前のスキルを発見する。
効果は防御力を上げるという訳ではなく、盾や剣で防いだ時の衝撃を和らげるらしい。
盾術スキルでも多少は軽減するが、更に多く減らす事が出来るようになるのだろう。
今回は矢なので防げないという事は無いが、1階のボスのオーガなどは不可能だった。
そう考えると盾を使う人にとっては必須かもしれない。俺とネク用に用意しておくか。
ネクはまともに正面から受けるような真似は滅多にしないが、仲間を守る時に受け流せない場面もあるだろう。
とりあえず、自分の分を使用する。ステータスで確認するとスキルレベルの項目がなかった。
どうやらこのスキルはレベルがないらしい。
上げる必要ないという事は種族のレベル依存の可能性がある。
個別に上げなくて済むのは楽かも知れない。
「こんなもんかな。一気に色々と増やすと混乱するだろ」
そう思い切り上げるとネクとタリスに覚えさせるスクロールを持って、コタツの部屋へと移動した。
「ネク、タリス。これを覚えてくれ」
「なになにー?」
タリスがノートに何やら書いていたのだが、俺が声を掛けた事でそれを閉じる。一体何だろう。
ネクは相変わらず裁縫らしい。コタツで裁縫とかお前は母親か。
「感知スキルと防御強化だな。感知はタリス、防御の方はネクが覚えてくれ」
そう言って2人にスクロールを渡す。2人は特に疑問に思う事無くそれを読み始めた。
信頼されているのだろうけど、せめて説明を受けてから必要かどうか判断して欲しい。
すぐにスクロールは消滅し、無事覚えられたようだ。
「まずは、感知スキルだが……タリス変わった事はあるか?」
「そうね……マスターは近くにいるから曖昧だけど、ティアが居る方向が何となく解かるわ」
どうやらちゃんと生命感知は発動しているらしい。
ネクは生命体ではないから解からないようだ。
「これはそういう機能だな。スキルレベルが上がればもっと明確に解かるかも知れないから慣れてくれ」
「あいよー」
タリスが相変わらずの適当な返事を返してくる。
本当に解かっているのかまでは知らないが、こっちの感知スキルが思ったより良い感じなので放って置く。
「次にネクに覚えて貰ったのは、盾や武器で防いだ時に衝撃を軽減してくれるスキルらしい」
『良いスキルだね』
俺の言葉にネクが紙に書いて返事をしてくる。
ネクは技というか経験のようなモノは凄いが、力では俺に劣るし素早さではティアに劣る。
それらを補えるようなスキルだと思う。俺より有効活用してくれそうだ。
「実際使ってみないとどれくらい軽減するか解からない。今日は疲れているし、明日探索に出る前に軽く調べてみよう」
『解かった』
ネクはその文字を俺に見せると裁縫を再開した。
これで俺から説明する事はないだろう。
コタツに入ってゆっくりしたい誘惑を振り切ると部屋を出る。
調合をする為に無限箱からいくつか薬草を取り出しテーブルに着く。
そして道具を呼び出し、いつもの日課を消化するのだった。
「ご主人様。料理の本が欲しい」
「ん? 料理?」
思ったより集中していたらしく、ティアの接近に気が付かなかった。
そういえば、料理はスキルを取得していてもその人が知っている物しか作れないんだっけか。
売買で料理関係の本を購入すれば良いのだろうか。
「あー、そういえば、売っている料理の本って怪しいのしかないんだっけか。作り方とか掲示板で聞いてみたらどうだ?」
「使い方が良く解からない」
ネクとタリスは平然と使っていたが、こっちの人からしてみたらオーバーテクノロジーだろう。
余程興味が無ければ手を出すのを躊躇うかも知れない。
そういえば小遣いって渡してなかったな。
「そうか。なら、一緒にやってみよう」
「うん。お願いします」
ティアはそう言うとタブレットを持って来て俺の隣の席に座る。
椅子を近付けるとそれを起動して掲示板を開いた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
雑談part13
388 名前:名無しさん
ここは俺に任せて先に行くんだ!!
389 名前:名無しさん
いや、俺に任せて貰おう
390 名前:名無しさん
え?なら俺も・・・
391 名前:名無しさん
どうぞどうぞ
392 名前:名無しさん
何この茶番・・・
393 名前:名無しの猫耳さん
りょうりをおしえてくだすい
394 名前:名無しさん
猫耳キター
って何だ?
395 名前:名無しさん
あー使い魔は名前のところが違うらしい
いや、意図的に俺らも変えられるけどさ
396 名前:名無しさん
つまり、本当の猫耳持ちって事か
舐めて良いですか?
397 名前:名無しさん
俺は猫耳ちゃんを食べたいです
398 名前:名無しさん
文面からして初心者だろ
余りいじってやるな
399 名前:名無しさん
料理か・・・
焼くしかやってねぇわ
400 名前:名無しさん
材料が何あるか解からないんだよな
あるのならシチューとかどうだ?
拠点は気温低いから体が温まるぞ
401 名前:名無しさん
シチューとかルーなしで作った事無いわ
久しぶりに食べたいな
作り方を俺にも教えてくれ
402 名前:名無しさん
そうだな
作り方は・・・
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ティアが画面を食い入るように見ている。
同時にノートにその作り方をメモしているようだ。
材料を見ても卵や牛乳がないから買い足さないと駄目だろう。
先ほど舐めて良いか聞かれて涙目になっていたのは内緒だ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
405 名前:名無しさん
早速作るわ
406 名前:名無しさん
お前じゃねーよ
猫耳さんはわかったかな?
407 名前:名無しの猫耳さん
ありがつです
408 名前:名無しさん
ありがつ入りました
409 名前:名無しさん
こう見ると異世界の住人が掲示板をやっているっていうのも面白いな
410 名前:名無しさん
そうだなぁ・・・
ファンタジーの世界の住人がキーボードを打つのか
・・・シュールだわ
411 名前:名無しさん
フェアリーとか結構こっそりやってたりするぞ
412 名前:名無しさん
マジで?
うちの子もやってるのかな
413 名前:名無しさん
書き込むと速攻ばれるけどな
名前が名無しさんにはならないらしい
414 名前:名無しさん
カモフラージュは不可なのか
その方が面白いけどさ
415 名前:名無しさん
その内、異種族とオタク談義をする日が来るのかな
416 名前:名無しさん
既に鍛冶スレの奴らが異種族と討論してたぞ
417 名前:名無しさん
あの魔境か・・・
あの住人は何かがおかしい
418 名前:名無しさん
何と言うか
専門家っぽいよな
419 名前:名無しさん
専門家というより
・・・発明家?
前に迷宮で空を飛ぶとか研究してたぞ
420 名前:名無しさん
何故空を飛ぶんだ・・・
いや、飛べば移動は楽かも知れないけどさ
421 名前:名無しさん
多分、攻略とか考えていないと思う
飛びたいから飛ぶんじゃないかな
422 名前:名無しさん
ある意味奴らが
一番この迷宮を楽しんでいるのかも知れない
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「作り方を聞いてどうだった?」
「……やっぱり怖い」
打ったレスは2回だけだが、結構緊張していたようだ。
ネットをやって、初めて掲示板とかに書くと緊張するよな。
「ご主人様、この材料が欲しい」
「足りないのは、バター、小麦粉、牛乳か……肉と野菜は十分だな」
ブイヨンとか書いてあったが、何これ。
固形の何からしいけど、料理をしない俺にはさっぱり何か解からなかった。
「ブイヨンかコンソメも」
「ちょっと調べるから待ってくれ」
スルーさせてくれなかった。どちらにしても売ってなければ買えない。
売っていれば、それをさり気なく出せば良い。
さすがにコンソメくらいは知っているが。
名前を知っていると言うのは便利だ。
PCの前に座ると起動する。そこから売買の食材を選ぶ。
ティアは後ろに立ってこちらを監視するように見ている。
大丈夫だ、安心しろ。メモ帳あるし、買い忘れはしない。
卵、小麦粉、牛乳は無限箱で普通にあった。
相変わらず謎の仕様だが、無限箱ならまた必要な時に個別に買う必要は無いだろう。
そしてリストを見ているとコンソメもブイヨンもあった。どっちを買えば良いんだろう。
「ティア、両方あるけどどっちが良いんだ?」
「用途によって違う。両方欲しい」
「そかー」
価格としても100DPの無限箱なのでそのまま買えば良いだろう。
半日で固形のキューブが6個か。これが多いのか少ないのか解からない。
どちらにしても今日中に揃うことはない。
「それじゃ、箱を買ったから運ぶのを手伝ってくれ」
「もちろん。楽しみ」
そう言って俺たちは無限箱置き場に運んで行った。
「あーそういえば、牛乳を買ったんだっけか」
「ぎゅうにゅう?」
食後、タリスが興味を示したのか聞いてくる。
タリスが住んでいた世界に牛って居ないんだろうか。
「そうだな。ミルクとか言えばわかるのかな?」
「んー見当がつかないかな」
ヤギのミルクとかそういうのも無いのだろうか。
俺のミルクとか下ネタは止めておいた方が良さそうだ。変に突っ込まれても困る。
ネクやティアは気が付いているようだから、単にタリスが知らないだけかもしれない。
「まぁ、飲み物だな。料理なんかでも使えるんだ」
「飲み物! 飲んでみたい!!」
「そ、そうか。なら、暖めてみようか」
そのまま飲むと腹を壊す人もいる。
それは、殺菌の種類によって引き起こされるらしい。
ホットミルクにすれば割と大丈夫と聞いた事がある。
皆がその可能性もあるし、最初から変な思いはさせない方が良いだろう。
牛乳の無限箱を開けると1リットルの紙パックの牛乳があった。
瓶じゃないのがちょっと残念だ。でも、この世界で紙パックは違和感しかないな。
それを取り出してキッチンへと向かう。
鍋にそれを全て入れると紙パックは消滅する。ゴミを出さないとはエコだな。
ここに色々と入れる人もいるが、今回はそのまま飲んだ方が味が解かるだろう。
沸騰させるくらいにまで暖めるとカップに入れていく。
全員が飲むかどうかは解からないが、自分の分が無いと寂しいだろう。
テーブルにそれを持っていくと全員が座っていた。
全員分用意してよかった。何だかんだで興味あるのな。
「マ、マスター! これ美味しい!!」
「熱い……」
タリスは興奮しながら言ってくる。どうやら気に入ってくれたようだ。
ティアは猫舌のようで息を吹きかけながらゆっくり飲んでいる。
ネクは相変わらず一瞬で消えるから寂しそうだ。てか、水じゃないから飲めるのか。
素通りしなくて良かったな。
俺も口を付けてみる。熱いが、懐かしい味だ。
ホットミルクなんて、子供の頃に飲んだきりだった気がする。
1人で暮らしていたら、意識して買わないと牛乳なんて飲む事は余り無い。
地球という故郷の懐かしさをゆっくり思い出しながら夜は更けていった。




