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私は異世界で百合の花園(ハーレム)を創ることにした。  作者: 虹蓮華
第1章「異世界生活を始めよう」
8/43

本編1-6「出会いと到着と衝撃の事実」

2018/07/06

・フォーマットを変更しました。

・サブタイトルを変更しました。

・本文の文脈を考慮し、最低限の加筆と修正を加えました。


 四日目を迎える。

 予定通りなら、今日中にはエングリンドに到着できる。


 宿場町を後方に見送りつつ、街道に復帰する。

 誰も居ない街道を駆け出したりしながら遊び半分で進んでいると、お昼も近くなってきた頃、前方でなにやら物騒な喧騒が聞こえてきた。

 様子を見てみると、一台の小さな荷馬車を複数の男が取り囲んでいるようだった。


 人数は十人くらい居そうだ。

 え? まさか、ここでも山賊……いや、盗賊さんですか?

 この辺の治安は一体どうなっているのかと内心溜息を吐きながら、物陰に隠れて様子を伺う。


 微かにだが、声が聞こえる。

 荷馬車を取り囲んでいる男達の中の一人が、大きな声で荷台に向かって叫ぶ。


「荷物、金目の物は全て置いていけば見逃してやる!」


 余りにもお決まりな文句に思わず噴出しそうになる。しかし、男の言葉には続きがあった。


「いや、待て。そこの荷台に隠れている女も置いて行って貰おうか」


 そう男が言い終わるや否や、仲間の別の男が荷台に手を突っ込み、中から一人の女性を無理矢理引っ張り出した。


 それを見た刹那、私は走り出す。


 必死に抵抗している女性を押さえ付けようとしている男を、私は女性に注意しつつも疾走の勢いそのままに、一刀の下に切り伏せる。

 一撃で命を刈り取られた男がドサッとその場に倒れ込むのを確認すると同時に、周囲で事態を飲み込めずにただ立ち尽くすだけの身近な男を更に数人一薙ぎで切り捨てた。


 女性の周囲の安全を確保した私は、彼女を背中に庇いつつ、そこで漸く振り返らずに彼女に声を掛ける。


「怖かったでしょ? でも、もう大丈夫よ。私が助けてあげるから、安心しなさい」


 そう言って、賊共を一睨みする。

 賊共は一瞬たじろいだが、直ぐに態勢を立て直し、私を中心に囲むように展開する。

 そんな中、賊を率いているであろう男が喚き散らす。


「こ、このアマ、何してくれてんだ! つか、どこから出てきやがった? こんな事してタダで済むと思うなよ!?」


 興奮し過ぎている余り、支離滅裂で呂律も回っていない。

 私はそんな男に冷ややかな視線を向け、死を宣告する。


「それはこっちの台詞よ、このクズ共が! 美少女の敵は私の敵だと知りなさい」


 昨日は聖霊の力を確かめたので、今日は《想像》の力を試すことにする。


 《想像》――『禁鞭』――


 その瞬間、私の手には一本の金属の紅い鞭が握られる。


 それに満足した私は、情け容赦無くその暴威を振るう。

 たった一振りされた鞭は、風切り音を幾重にも奏で合いながら、周囲を縦横無尽に奔り回り、取り囲んでいた男達を一人残らず木っ端微塵に吹き散らした。


 禁鞭やべぇ……。でも、すげぇ…………。

 これはお気に入りに登録しよう。うん、そうしよう。

 感動に打ち震える手の平から禁鞭が霧散するのを確認した後、私は改めて彼女に向き直ってから声を掛けた。


「もう大丈夫よ。ところで、どこか怪我とかしてないかしら?」


 すると、呆然としていた彼女が弾かれた様に慌てだす。


「あ、あの、父が! お父さんが怪我を!」


 言われて初めて御者席を見ると、そこには一人の男性が座っており、肩に弓矢を受けていた。

 矢は未だに刺さったままなので血は噴出してはいないが、それでも見るからに辛そうだ。

 私は一瞬思案した後、直ぐ傍まで来ていたティアに声を掛ける。


「ティア、お願い出来る?」


 直ぐに状況を察した彼女は、「ええ、勿論です」と一つ頷き、回復魔法を唱えた。


【地属性魔法】――《上位治癒》――


 すると、瞬く間に傷は塞がっていき、矢も抜け落ち、あっという間に完治してしまった。

 魔法って便利だな、凄いな、私も覚えたいな――等と暢気な事を考えていると、ふと声が掛けられる。


「あ、あの、助けて頂いて有難う御座います」


 そこには深々と頭を下げる親子が居た。

 父親に至っては、馬車から降り、地面に頭が着きかねない勢いだ。

 私はそれを、軽く笑って受け取る。


「いえいえ、お気になさらないで下さい。目の前で困っているびしょ……人が居たら、助けるのは人として当然の事ですよ」


 一瞬言い間違えそうになった私を見るティアの目が心なしか冷ややかだったが、当の本人達は気付いていない様子で、


「いや、そんな訳には参りません。何か、私に出来ることであればお礼をさせて頂きたいのですが……」


 なんて土下座状態のまま見上げて来るものだから、仕方なく一つ要求する。


「それでは、ご飯を少し分けて貰えませんか?」



 荷台にあった全ての食料を渡してこようとするのをやんわりと辞退し、私とティアがお昼に必要な分だけを頂戴する。

 彼女達と昼食を共にする中で、お互いの自己紹介も済ませる。


 彼女の名前はエマ・シュトーゼンという。父親はアドル・シュトーゼン。

 エマ達は領都エングリンド内の外れで小さな商店を営んでおり、今回ロエンまで荷物を届けた後の帰りであり、その途中で運悪く盗賊に絡まれてしまったとの事だった。

 そこで、一つ気になった質問をする。


「この辺は随分と治安が悪いようですが、護衛の一人も雇わずに遠出とは、失礼ですが少々無用心かと思うのですが……」


 するとシュトーゼン氏は所在無く笑い、


「いや、面目ない。そうしたいのは山々だったのですが、お恥ずかしい話、手持ちに余裕が御座いませんで、護衛に冒険者を雇うお金も乏しいのです。普段でしたら、この辺ももう少し人通りもあったものでしたから、ついつい油断してしまいました」


 ――それに、治安が悪くなったのはここ最近の話なんですよ――と付け加えた。


 中々重要な語句がちらほらと出て来た気がする。

 私はそこを詮索する事にする。


「すみません。今、治安が悪くなったのはここ最近と仰いましたが、それは何故なのですか?」


 するとシュトーゼン氏は『ああ』と頷き、


「貴方達は知らないでしょうが、皇国では数年前から都市内での『健全化』に尽力してまして、要するに、マフィアといった大物からスリのような小物まで含めた“ならずもの”への取締りを強化したのです。その影響で、市街から締め出された無法者の、取り分け小物が徒党を組んで、道行く者達に悪事を働くようになってしまったのです。勿論、国としてもそういった賊を捕まえてもいるのですが、未だに市内に蔓延る大型マフィアに手を焼いていて、思う様に行っていないのが実情なのです」 

 半ば諦めた様子で詳しく教えてくれた。


 大体の事情は理解できた。であるならば、ティアが知らなかったのも当然だ。

 それに、人通りがやけに少なかったのも説明できる。

 そんな様々な悪要因が重なった結果、今回の襲撃が引き起こされてしまったのだろう。


 しかし、これは私にとっては、良い結果を齎してくれた。

 エマちゃんという可愛い知り合いが出来たからだ。それも、最高の形の出会いを持って。

 私はこの縁をさらに強固にすべく、一つの提案をする。


「私達は領都を目指していたのですが、良ければご一緒しませんか?」


 それを聞いたシュトーゼン氏は大層喜び、


「是非、こちらからもお願い致します!」


 と頭を大げさに下げた。




 私達は荷台に乗せて貰いつつ、エマちゃんと三人で女子バナに花を咲かせ――主に、領都内でのエマちゃんのオススメの甘味処や衣料店等だったが――る事三時間程、前方に大きな都市と巨大な門が見えてきた。


「あれが、私達の住む街、領都エングリンドです」


 どこか誇らしげに紹介してくるエマちゃん。

 確かに、一目見ただけで立派な都市だと解る。


 これは益々期待が持てそうだと胸を膨らませていると、


「申し訳ありませんが、ここで一旦お別れしなければなりません」


 とシュトーゼン氏。続けて、


「と言いますのも、住人と来訪者では入り口が違うのです」


 との事。


 確かに、門の片方では行商人らしき人物や旅人風の者達が何人も並んでいる。


「お先に失礼します。門を通り抜けた先でお待ちしております」


 そう言い残して、シュトーゼン氏は門へ向かって行った。


 私達も来訪者専用の入り口へ向かおうをした所で、此処に来て漸く重大な事に気付く。


 ――どうやって入街するんだ?――


 そう、私達は住民票も持っていなければ、パスポート――この世界では『手形』と言った方が妥当か――すら持っていない。それどころか、若し入国料が必要だとしたら、それすらも持っていない。


 そんな事で内心大慌てしている私を尻目に、スタスタと衛兵の詰め所に向かっていくティア。

 並んでいる人達すら通り越し、直接詰め所の衛兵と二言三言話していたティアは、私に振り返り手招きをした。


 それに黙って付いていく。

 詰め所の前まで辿り着くと、ティアは徐に懐から一枚の羊皮紙を取り出す。

 なんと、ティアは持っていたのだ。それも、かなり特別な。


「入街許可を求めます。それと此方は、私の連れの者です」


 それを見た衛兵は恭しい態度を取り、


「これはこれは、巫女様。ようこそお出で下さいました。どうぞ、お通り下さいませ。こちらが、滞在許可証になります。お連れの方もどうぞ」


 などと言って、サクッと通してくれた。


 チラリとティアの横顔を伺うと、静かにドヤ顔しているように感じた。

 門を出てからエマちゃん達と合流する間に、どういうことなのか説明を求める。


「これはですね、クスハ。勇者の重要さについては以前説明しましたよね? それは巫女にも言えることで、勇者には及ばぬものの、巫女も周辺国家に於いて重要な存在として扱われているのです。その為に、エングリン領限定ではありますが、領主様直々に特別待遇手形を発行して貰っているのです」


 と、今度は隠そうともしない得意げな表情で、大きな胸を更に強調させるかのように、可愛らしく腰に両手を当てて胸を反らせた。


 それならそうと、早く言ってよー。と思わず口から出掛かったが、可愛らしい彼女の姿を堪能する方を優先させる。


 そんな遣り取りをしている間に、シュトーゼン氏の荷馬車に到着する。

 思っていたよりも遥かに早い合流にとても驚いていたが、私達が濁すとそれ以上は詮索して来なかった。

 その代わりに、私達を自宅まで案内し始める。


「小さくて狭い家ですが、若し宜しければ上がっていって下さい。それと、差し支えなければ、お礼も兼ねて夕飯を召し上がっていって下さい」


 願っても無い申し出である。「そう言う事でしたら、是非」と私も快諾する。


 シュトーゼン氏は食材の買出しをするとかで途中で別れ、エマちゃんに先導されながら彼女の家を目指す。

 道中で彼女から、


「そう言えば、クスハさん達は何時までこの街に滞在されるんですか?」


 なんて質問が投げ掛けられたが、私が『気が済むまで』と答える前に、


「一週間程を予定しております」


 と、ティアがニッコリと笑って返していた。


 無期限の滞在許可証は公言してはならないらしい。危ないところであった。

 それなら……、と観光計画を練っているエマに気付かれないように、ティアがジト目で見てくる。

 もう十分解ったから、そんな目で見ないで。と私も目で返事をしていると、どうやら彼女の家に到着したようだった。


 彼女の家は商業区の外れの方にあり、確かに間口も小さい。とは言え、一介の個人商店なのでこの位が普通なのだろう。現に、周りの商店らしき建物も同じ位の大きさだ。


「散らかっていて恥ずかしいのですが、どうぞお上がり下さい」


 そう言って、彼女が入り口の扉を開ける。

 中に入ると、『これぞファンタジー!』と云わんばかりの、様々な道具が所狭しと並んでいた。

 しかし、雑多な雰囲気は一切無い。寧ろ、綺麗に整理整頓されているのが見て取れる。

 それだけで、シュトーゼン氏の仕事に対する姿勢というものが伺えた。


「綺麗に整理されていて、良いお店ね」


 そんな呟きを口にすると、彼女は照れたように笑い、


「お父さんがだらしないから、いつもお手伝いで私が商品を並べているんですよ」


 恥ずかしそうに言った。


 ありゃ、勘違いだったか……などと考えていると、どうやら顔に出てしまっていたのだろう、彼女が慌てて、


「ああ、でも、お父さんの仕事の腕は確かなんですよ!?」


 手を振りながら必死に訂正してきた。

 私はそれに笑って答えると、近くにあった小瓶をなんとなく手に取る。回復薬らしかった。

 それを見たエマは申し訳無さそうな表情になり、


「ウチのお店で扱っているのは、下級回復薬までなんですよ。それ以上となると、もっと大きなお店に行かないと無いですね……」


 自嘲気味に呟く彼女の姿に苦笑いをしていると、そこにシュトーゼン氏が帰って来る。

 何とも言えない微妙な空気を打破するかの様に現れた救世主に内心で喝采を送りつつ、氏の進めもあって、店の二階へと上がっていった……。



 ◇◆◇◆◇



 その日の夕飯は、エマも吃驚するほどの豪華な物だった。


 まるで、収穫祭と新年祭と建国祭が一斉に来たかの様な料理が食卓一杯に並ぶ。

 エマは、下拵え等を手伝う父親と一緒に丁寧に調理をしつつ、食卓に並んで座る命の恩人二人に思いを馳せる。

 父も、今回の出来事にはとても感謝しているようだった。

 勿論、エマとしても感謝してもしきれ無い。文字通り、“命の恩人”なのだから。


 唯でさえ、二人とも絶世の美女と言っても差し支えない程美人なのに、滅法強く、一人は魔法に長けた清楚でお淑やかな雰囲気漂う美しいエルフと、もう一人は快活で、女性でありながら格好いいとすら感じてしまう程の美少女剣士。

 自分も同じ女性ながら、思わず頬を赤らめてしまう。

 クスハに対して抱く淡い想いの正体に気付かぬまま、エマは最高の料理を堪能して貰うべく、腕によりを掛けるのだった。


 食卓に料理が並べ終わると、二人の勧めもあり、皆で楽しく食事を取る。

 味にはそれなりに自信はあったが、実際に二人が口々に美味しいと言いながら食べていく様を眺め、ホッと胸を撫で下ろす。


 そんな中、父がとんでもない提案を口にした。


「お二方。若し宜しければ、今夜は家に泊まっていかれませんか?」


 いや、気持ちは分かるけど、こんな小さな汚い家に泊めるなど、流石にそれは失礼だろう。

 私が否定しようと口を開きかけた時、


「いえ、流石にそこまでお世話になる訳には行きません。今夜は、宿を取ることに致します」


 とクスハさんが先に答えていた。

 父は心底残念そうにしていたが、私はその答えに心底安堵する。


 しかし、今夜の父は諦めない。


「それでしたら、せめてこちらで宿をご用意させて頂きたいのですが?」


 それなら問題なかろうと、私も黙認する。


「それは大変助かります。是非、お願い致します」


 ティアさんも同意してくれたので、父は早速知り合いの宿屋に話しを付けに行くと言って、飛び出して行ってしまった。


「忙しない父で申し訳ありません。ですが、それだけお二人に対する感謝が強いと言うこと。ここは何も言わずにお受け取り下さい」


 私が軽く頭を下げながら言うと、


「いえいえ。そこまで喜んで下さっているのであれば、私としてもお助けした甲斐があったというものです。寧ろ、良くして下さり過ぎて、逆に申し訳なく感じてしまいます」


 強者としての風格を纏いながらも、礼節も弁えているクスハさんの姿に、我知らず見惚れてしまう。

 ティアさんが小さく咳払いをした事でその場の空気は霧散し、談笑しながらの食事を再開したのだった…………。



 ◇◆◇◆◇



 よっぽど嬉しかったのだろう。大変気合の入ったご馳走に舌鼓を打った後、名残惜しそうなエマちゃんと別れ、シュトーゼン氏が用意してくれた宿へと向かう。


 宿の前まで送ってくれた氏に別れを告げ、宿の扉を潜る。

 部屋数は4室程で、民宿を更に小さくしたような内装だったが、綺麗で清潔な良い宿だった。

 私達の姿を確認した人影が声を掛けてくる。


「あんた達だね、アドルとエマを助けてくれた二人組ってのは。話は聞いているよ。しがない安宿だけど、ゆっくり休んでいっておくれ」


 声のした方を向くと、受付台の向こうに恰幅の良いおばさ……女性が座っていた。


「そうさせて頂きますわ。それで、二人ですとお幾らでしょうか?」


 そうティアが訪ねると、豪快に笑いながら、


「何言ってるんだい。弟と姪の命の恩人からお金なんて取る訳がないだろう。それに、お代なら既にアイツから貰っているよ」


 そいうことであれば、素直に好意を受け取らせて貰おう。


 二人一緒の部屋が良い旨を告げ、部屋の鍵を受け取ると、階段を上り奥側の部屋へ向かう。

 部屋に入ると、素朴な木の香りに包まれる。

 私はそれを胸一杯に吸い込みつつ、ふらふらと吸い寄せられるように綺麗なシーツの張られたベッドへと身を投げ出した。


 あーー、極楽じゃ……。


 ティアの家のベッドと比べると幾許か寝心地に劣るが、三日振りのベッドである。今この瞬間に於いては、此処こそが楽園であった。

 そんな様子の私に呆れたような溜息を吐きながら、ティアが尋ねて来た。


「それで、クスハ。明日の予定はどうするんですか?」


 これは後回しに出来ない案件である。

 私は重くなりつつある体を引き起こし、ベッドに腰掛ける。


「そうね……。先ずは冒険者組合で登録を済ませちゃいましょうか」


「私もそれが良いと思います。そうすれば、皇国内での身元も保証されますし、依頼をこなせばお金も入りますしね」


 そうなのだ。ティアは持ち合わせがある程度有るが、当然ながら私は一文無しである。

 今後の生活を考えても、お金を稼ぐことが急務だった。


 取敢えず、それ以外はその時に考えようという事になり、持参した寝巻きに着替えようとした時に、フウが突然飛び出してきて不思議そうな声を上げた。


「ねえねえ、お姉ちゃん。昼間の戦いを見ていたんだけどさ、どうしてあんな魔力を無駄使いするような能力の使い方をしているの? 泉で何かしている時もそうだったけどさ、あれじゃあ、魔力の消費量に見合った結果は得られないよ?」


 なん……だと……?


 どういう事なのか、説明を求める。

 するとスイまでも飛び出してきて、疑問に答えてくれる。


「あのね……、お姉ちゃんの能力は、《創造》って言うとっても珍しくて強力な力なの……。好きな物を好きな形で創り出す事が出来る、神に祝福されし能力……。勿論、素材が在っての話だけど、折角存在しない物を創れるんだから、それをしないのは勿体無いの……」


 何と言うことでしょう……。

 私は今まで、この能力は《想像》した物を発現させる力だと思っていたのに、実際は、《創造》したい 物を創り、生み出す能力だと言うのだ。


 衝撃の事実と、余りの自分の間抜けっぷりに眩暈を覚える。

 そんな私を知ってか知らずか、ホムラまで加わる。


「もう少し説明させて貰うわね。条件はあるけれど、《創造》は物体だけじゃなくて、生物にも干渉しうる危険な能力なのよ。文字通り、存在しない生物すらも産み出せてしまう……。だから、本来であれば人間が手に出来るような能力じゃないのよ。お姉ちゃんだから心配はしていないけれど、危険性は知っておいて損は無いから、伝えておくわ」


 最早思考回路はショート寸前な訳なのだけど、そんなのお構い無しにフウが嬉々として能力の無駄の無い使い方について説明してくれる。


「だからね、魔力を無駄にしない使い方としてはね、泉の時のあの剣は半分正解。でも、半分は間違い。剣自体は貴重な金属が大量に必要だけど、それらを素材にして、《創造》で魔力を放出できる剣を創り出せば良いわけ。そういう意味では、今日の昼のあの鞭は完全に無駄使いね。あれなら、魔力を込める事で自在に変化する鞭を創れば済む話だから」


 キシシっと悪戯っ子の顔で事も無げに言い放つフウ。

 正直、勘弁して欲しい……。


 私は混乱する頭を必死に纏めつつ、今までの会話で得た情報を整理する。


 そこから察するに、私が作り出したエクスカリバーや禁鞭は、想像の具現化では無く、魔力を消費して創造された物だったということなのだろう。

 魔力のみで造られた物は、魔力が無くなれば当然消える。

 これまでは、想像物なのだから消えるのも当たり前だと思っていたのに、それは間違いだったと言う訳だ。


 素材さえあれば、実際に存在し得る武器として、創造すら出来てしまうとは……。

 そこまで考えた所で、一つの疑問に思い至る。


「そう言えば、素材がとうのとか言っていた気が……」


 その呟きに答えたのは、ミコトだった。


「えっと~、おねえちゃんのきおくのなかのことばをかりると~、しつりょうほぞんのほうそく? ってやつ~。いちきろのてつでいっとんのてつのぶきはつくれないし、てつのぶきをどうでつくることもできないし~、できたとしても、ぶんしこうぞう? ってのをいじくらないといけないから、とってもまりょくをしょうひしちゃうのね~。だから~、ひつようなそざいをひつようなぶんだけあつめなければいけないの~。そして~、それはぶったいでもせいぶつでもいっしょ~」


 とのことだった。


 大体理解できた。納得出来たかは別だけども……。


 《創造》の能力の有用性と危険性と使い方を把握したところで、猛烈な睡魔に襲われる。

 気が付けば結構な時間話し込んでいたらしく、窓から見える街はすっかり寝静まっていた。


 久しぶりに立ったまま意識を手放していたティアのおっぱいを揉むことで現実に引き戻し、背中をポカポカと叩かれつつも直ぐに同じベッドに潜り込み、これまでの旅で疲れた体を癒すのだった…………。

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