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私は異世界で百合の花園(ハーレム)を創ることにした。  作者: 虹蓮華
第2章「異世界生活を快適にしよう」
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本編2-12「摘んだお花は、お家の花壇に植え替えましょう」

「クルァ?」


 私の言った言葉の意味を、理解出来ないと言わんばかりに声を出すハヤテ。まぁ、当然か。


「言葉の通りよ。全て私に委ねてくれれば良いわ」


 首の辺りを撫で付けながら、言い聞かせる。


「エマさん。ちょっと大規模な魔法が発動しますので、もう少し離れましょうか」


 ティアがエマちゃんに話しかけ、開けた空間の端まで移動する。危険は無いけれど、甚大な魔力を目の当たりにして酔わないとも限らない。有り難い判断だ。


「ホムラ、スイ、ミコト。貴女達も出てきて頂戴」

「ええ!」「うん……」「かしこまり~」


 私の呼び出しに応じ、残りの3聖霊も姿を現す。ふよふよと火の玉が飛び出し、ポンッと弾けてホムラが。放物線を描いて放たれた細い水流がバシャリと地面で集まり、スイが。そして、何故だか背中からズルリ……と、這い出てくるミコト。


「お前はサダコか!」


 脳髄反射ばりの無自覚に、手刀による突っ込みを入れていた。


「しまったーーーーっ。その手があったかーーーーーーっっ」


 隣で突然叫び声が上がったので、何事かと思って慌ててそちらを見てみると、その先ではフウが頭を抱えて崩折れていた。


「イヤイヤ、張り合うな。ミコトも、自慢気にしたり顔しない!」


 片手でフウの腕を引っ張って立ち上がらせ、もう片方でミコトの頭を軽く撫で叩く。


「ほら、遊んでないで、さっさと始めるよ!」


 手を叩いて、配置に付くよう促す。


「「「「はーい!」」」」


 彼女達は思い思いに返事をすると、ハヤテを囲むように四方に散らばった。


「これより、ハヤテの【擬人化】を行ないます。魔方陣展開!」


 私の指示で、聖霊ちゃん達が一斉に魔力を放出する。自分の足元に突如出現した魔方陣に大慌てでふためき出したハヤテだったけど、私はそれを優しく抱き止める。


「大丈夫よ。何も怖い事も痛い事も無いわ。ただちょっと、貴女にとっては想像だにしなかった事、奇蹟が起こるだけ。私にとって、理想の姿になって貰うだけよ」


 努めて優しく語りかけ、落ち着きを取り戻すまで何度も撫でてやる。その間に、少しずつ術式に必要な量の魔力を彼女に流し込んでいく。


 充分な魔力が浸透した。彼女も落ち着いた。準備は整った。



 《創造》――『【神威魔法】――《人化》――』



 淡い緑色の光を放ち、魔方陣が光り輝く。魔方陣の文字一本一本から魔力が吹き上がり溢れ、私達を覆い包んでゆく。


「変身はあっと言う間に終わるわ。時間を掛けた方が色々負担は減らせるんだけど、そこは、ね? それをやっちゃうと視覚的に色々と問題が起こるから、『魔法だから』の一言でなんやかやを一切合切全てすっ飛ばすわ」


 裏では一瞬で変身を完了させる為の、演算が全力で行なわれている事だろう。魂魄情報を基に、最適且つ理想の人体情報に肉体を書き換えていく。


「演算終了。何時でもいけるわ!」


 ホムラから合図があった。


 私は目を合わせて頷き返すと、ハヤテに向き直って嘴へと口付けた。


 その瞬間、私の体を通して、全ての魔力がハヤテへと流れ込む。

 存在限界を遥かに超えた魔力を注がれた肉体は瞬時に蒸発し、それと平行してヒトとしての肉体が形成される。

 霊体も同時に変化後の肉体に適応させるべく創り替えられ、即座に新たな肉体へと固定。この間、眩い光に包まれた僅か小数点以下数秒の出来事。


 お分かり頂けただろうか。これが、『魔法』と云う究極に便利な魔法の言葉によって齎された、最高に御都合主義上等な展開である事を。


 光は眼前へと集束し、収まった後に残されたのは、紛う事無き少女。

 お互いの唇と唇が密着していた状態だったので、名残惜しさを感じつつもそっと放すと、活発的な印象を与える肌色と短めの青緑色の髪が爽やかな、整った顔立ちの女の子が目を瞑ったまま立っていた。


 くらりと不意に倒れそうになったので、急いで支える。


 私は即座に《想像》で大判の布を現出させると、そこに彼女を横たわらせた。序でに体にも被せて、覆い包む。女の子はそこで、薄っすらと目を開いた。


「魔法は無事成功したみたいね。気分はどう? 私の言葉が、分かる? 喋れる?」

「うあ……。あぅ? ああうぁ……」


 捲し立てないよう、優しく、ゆっくりと放し掛けようと強く意識していたのに、結局は一度に沢山の事を訊いてしまっていた。


「ああ、ごめんね。イキナリ体が変わっちゃって、全く馴染んでないものね。無理しなくていいわ。先ずは自分の魂と、肉体を把握しなさい」


 膝枕をして、あやす様に髪を梳き撫でる。


「その子はどうされるのですか?」「ん?」


 成り行きを見守っていたティアが、私の横にまで移動してきていた。声が、何と言うか……。冷たいような、硬いような?


「何て言うのかな……。従者? 部下と言うか、家来と言うか……。この娘は人の姿をしているけれど、 “ニンゲン”では無いからね。立ち位置としては、私の『所属品』って事になるのかしらね……」


「成程。つまりは、召使や下女、下婢に分類される、と?」

「ええ、そうよ。安心した?」


 からかうように、含み笑いで問に答える。


「な訳ないでしょう……。寧ろ逆ですよ。だって、その子は謂わば、クスハの所有物なんですよね? なら、私達に出来ない様な事でも、好き勝手に出来るって事じゃないですか」


 却って、極寒の視線と声音で返されてしまった。


「いや、待って。私って、ティアの中ではどんな存在な訳?」


 動揺に高鳴る心臓を気にしながらも、そこだけは全力で否定する。愛でる事はあっても、堪能するに留める――程度に抑える筈……、予定だ。


「ふわあぁ~! クスハさんってば、凄いんですねー。聖霊様を4人も従えているのは知ってますけど、勇者様ってこんな事まで出来るんですか?」


 横からハヤテを覗き込んだエマちゃんが、おっかなびっくりな様子で感嘆の声を上げた。


「いいえ。こんな人世(ひとよ)を逸脱した行いが出来るのは、クスハだけですよ?」


 にっこり笑顔で補足するティアさん。目も口もちゃんと笑っているのに、瞳の奥が笑って居ない! 光はどこに行ってしまわれたのでしょうか!?


「あ、あはは……。そ、そうなんですね。それで、えっと、先程の会話でちょっと気になったんですけど、同じお手伝いさんでもシアさんとは違うんですか?」


 ティアの死んだ目の迫力にたじろいだエマちゃんが、意図してか知らずか、話題を切り替える疑問を口にした。


「同じじゃないわよ。シアは侍女。つまりは、侍従ね。家の管理を任せる点に於いては同じだけど、彼女には主に、私達の身の回りのお世話をお願いしたいと思っているの。だけど、今の状態では一人しか居ないから、雑事も全て彼女の作業になってしまっているのよね。それだとシアの負担が大きくなり過ぎるから、彼女の代わりに雑用をやってもらう娘を何人か用意しようと考えたの。それが、ハヤテ。この娘は私の眷属だけど、使用人、下女としてシアの下に就いて貰って、家事全般を手伝って貰う。勿論、他にも何人か用意する積もりよ?」

「は~。こうなってくると、もう完全にお貴族様みたいな生活ですね~」


 エマちゃんならではの、忌憚の無い素直な感想が漏らされる。若しこれがティアだったら、女の子を増やす事への御小言の二つや三つ、いや、五つや六つは言われていただろう。現に今も、とても何か言いたげな視線が私の胸を貫いている。


 以前に、女中の必要性について真しやかに説いた事がある。

『この大きな家に、お手伝いは必要だ。男を雇う訳にはいかない』と。


 しかし、『女の子である必要は無い。無機物の魔法生物でも十分に代用は可能だ』と正論で以って論破されてしまった。


『人形より、生身の人間の方が臨機応変に融通が利く』と苦し紛れの説得により、その時は手打ちとなった。


「あ――あの……。ボ、ボクは、ニンゲン……に、なったのでしょうか?」


 おや? これは意外。グリフィスの女の子を擬人化したら、僕っ娘だった!?


「あら? 貴女って自分の事を、『ボク』って言うのね?」

「なにか……ヘンだったでしょうか……? ニンゲンは、へりくだって自分を指す時、『ボク』と表現すると聞いたのですが……」


 徐々に言葉遣いが流暢になり、表現にも幅が出てきたハヤテ。思考に肉体が追い着き始め、肉体と思考が同期され始めたのだろう。


「ちょっと間違った知識が入ってるけど……。ううん、大丈夫よ。何も可笑しな事は無いし、変でも無いわ」


 運動が得意そうな見た目の、ボクっ娘。テンプレのド定番だけれど、アリです。


「ホムラ。この娘の設定年齢って、幾つくらい?」

「人類種で言う所の、十五歳よ。細胞だけでなく、遺伝子情報や塩基配列、分子構造に至るまで全て人類種に準拠してるわ。強いて言うなら、獣人族が一番近いかしらね」


 ふむぅ、確かに。言われてみれば、耳の位置がちょっと違う。小さな翼みたいな耳たぶらしきモフモフが、人の耳より一つ高い場所でペタンと折り畳まれている。


「ねぇ。耳、動かせる?」

「ん……。やって、みます……」


 恐らく、頭頂部に掛けてなのだろう。

 私には分からない場所に力を入れる素振りの後、『バッ(サァ)』と極々小さな音を立てて、耳が開いた。自分でも確かめているのか、小刻みにピクピク動かし、羽ばたかせたりしている。


「おお、凄い! そ、それじゃあ、羽は? 翼は出せる?」


 現在の彼女の背中はツルツルのスベスベ。何処にも見当たらないので、気になって聞いてみる。


「少々、お待ち下さい……」


 まだ不慣れな体なのか、ハヤテはゆっくりと立ち上がり――身に纏っていた布が落ちても意に介さず――自然体に立つと、何やら意識を集中させた。


「えいっ」


 可愛らしい掛け声で出現したのは、二対四枚の羽翼。肩甲骨の辺りと、骨盤の上方部分から。

 茶色と緑がとても綺麗な、グリフィスの特徴を表現した翼だった。肩甲骨から生えているのが主翼なのか、両手を広げるよりも大きい。


 腰から生えているのは補助的な役割なのか、お尻を覆う程度の大きさしかない。主翼は茶色多めで羽先が緑色なのに対し、補助翼は緑の翼に茶色い羽が生えているのも面白い。


「ふむ。この翼は出し入れしたり出来るの?」

「普通は出来ないの……。でも、この子は特別製なの……。魔力を使って、『パッ』『パッ』なの……」

「クスハ? そろそろ止めてあげてはどうですか?」


 ついつい、無遠慮に羽を撫で梳いている横から、スイが答えてくれた。更にその先から、刺々しい警告が飛んで来た。

 大人しく撫でられていたハヤテは、人差し指の中ほどを銜えて耐えていた。一瞬イケナイ感情が芽生えるも、それ以上の危険を本能が感じ取り、次の瞬間には手を引いていた。


「ゴホン。大体の事は分かりました。では、これが一番重要な点なのだけど、グリフィスの姿に戻る事は出来る?」

「ん~、それはできないね~。そんざいのありかたじたいをかえちゃったから、もうげんじゅうではなくなってしまったんだね~。あ~、でも~、げんじゅうのすがたにもどることはできるよ~?」

「えっと、つまりね。その子は“幻獣の力を持った獣人”になってしまったって事なのね。だから、変身は出来ない。けど、その代わりに魔力を消費する事で、擬似的に幻獣形態を再現できる能力を付与しておいたわ」


 私が冷や汗を掻きながらも平常心で尋ねた疑問に、ミコトがのんびりと簡潔に答え、より端的にホムラが答えた。分かったような、分からないような……?


「うーん。実際、どんな風に変化するのか見てみたいわね。ハヤテ、グリフィスの姿になりなさい」

「はい。畏まりました」


 私の命令に一礼すると、ハヤテの全身から緑色の魔力が霧状に吹き上がり、一時的に彼女を視界から妨げる。すぐに隠避の帳が吹き流れ、最初に見たグリフィスの子供がそこにあった。


「これで宜しいでしょうか? 上様」


 なんと、人語を喋りましたよ!?


「あくまで、見た目だけだからね。肉体情報は変わっていないから、声帯などもそのままよ。だけど、身体能力は各形態に応じて調整されるわ」


 私の驚きを察したのか、ホムラが解説してくれた。その声は、どこか誇らし気だ。

 うん、完璧な対応だわ。再び命令を出して、獣人形態に戻させる。完璧ついでに、もう一つ希望を付け加えよう。


「この、耳飾り? 耳羽は可愛いからこのまま採用するとして、補助翼は体の一部として固定しちゃいましょう。背中に何も無いのは、ちょっと味気無いからね。主翼は日常生活に支障を来たすといけないから、魔法による出納式でいいわ」


 ハヤテの引き締まった肢体に、ついつい手が出てしまい、要望を伝えながら背中を撫で、脇腹を撫で、腕を撫で、お腹を撫でようとしたところで『死』が背中を駆け巡った。


「なかなか、いい趣味してるねー。お姉ちゃん」


 ニシシッと笑うフウ。


「お姉ちゃんは、学習能力が無いの……」


 スイの吐いた毒舌が、私の心臓を深く抉る。スイの淡々とした口調は、切れ味が半端無い。


「かみなりがとんでくるまえに~、ちゃっちゃとすませちゃいましょうかね~」


 ミコトの音頭で、ハヤテの体が作り変えられる。その間、私はティアを宥めるのに必死だった。文字通り、命が懸かっていた。


 ティアからお許しが出るまでに数分間を要し、拝み倒した勢いで抱き付き、愛の言葉を囁いて何とか納得して貰い、唇を重ね合わせようとした矢先に「あの~……」と控えめな声が割って入った。


「ハヤテちゃんですけど、何時まであのままにして置くつもりですか? さすがに、いい加減に服を着せてあげないと可哀相だと思うのですが……」


 至極真っ当な、常識的で冷静な突っ込みがエマちゃんから発せられた。


 二人の世界から引き戻された私は最短の動作で着替えを取り出すと、《創造》の力を使ってハヤテの体形に合わせて変形し、テキパキとエマちゃんと2人で着せてゆく。


 女の子として人前に出せる姿になった事を確認したエマちゃんは、満面の笑みを私に向けた。


「それと、夫婦の営みは本拠に戻ってからにしてもらってもいいですか?」


 巻き添えを食らった当事者の一人であるティアは、両手で真っ赤になった顔を覆い、ぷるぷると震えて立ち竦んでしまっていた。


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