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私は異世界で百合の花園(ハーレム)を創ることにした。  作者: 虹蓮華
第2章「異世界生活を快適にしよう」
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本編2-7「敵を知らず、己も知らねば、恥すら知るまい」

 東に聳える山々の稜線から陽の光が差したのを合図に、討伐隊の本隊一行は開拓村を発ち、グリフィスが目撃された森へと足を踏み入れた。


 森と一言で言ってもその形態は様々なもので、この一帯はすらりと高く伸びた針葉樹の巨木が主役らしく、木々はそれ程密集してはいない。

 上空を仰げば、わりと遠くまで緑の中に藍の空を見る事が出来た。これだけの空間が頭上に空いていれば、翼の生えた象だって飛び回れそうだ。


 歩き始めてからそう間を置かずして、出発した時間帯にはまだ薄暗かった森の中も、天陽が完全に顔を出した辺りから、かなり遠くまで見通しが利く様になっていた。


 先頭を往くのは、ペンネの組隊である〔奏天の霹靂〕。そこから鋒矢状に各組隊が展開し、一定の間隔を維持しながら慎重に歩を進める。

 道中、森の奥から外縁部へと迷い出た猛獣や魔物と頻繁に遭遇するかと思われたが、そんな事は一切無く、一同は黙々と歩き続けるのみだ。


 どうにも、一番前で地図を見ながら先導している人物から溢れ出ている殺る気を機敏に感じ取っているらしい獣魔達は、自分達が狩られる立場だと理解しているようで、接触を避けて動いている節すらある。このままでは、一部の人間の所為でグリフィス討伐の副次任務である、害獣駆除が満足に出来そうにない。


 森に入ってから暫くした頃、二時間位経ったであろうか。威嚇しながら索敵という、とても器用な真似をしつつ隊を率いていた、ペンネの隊長さんが急に立ち止まった。


 彼は仲間だけを呼び集め、仲間内だけで何やら話し合いを始めた。


 歩調を合わせて立ち止まった他の面々はその様子を遠巻きに眺めていたが、


「皆の者! 少し話したい事がある。一旦こちらに集まってきてくれ」


 彼の呼び掛けが聞こえると陣形を崩し、ぞろぞろと一塊になる形で集合した。


 隊長さんは周囲を見渡し、全員が十分な距離にまで近付いたのを確かめると、


「予定が少々、狂ってしまっている。このまま進み続けた場合、グリフィスは討伐出来たとしても、細かい魔物の駆除にまでは手が及ばない。よって、ここら一帯を本作戦の戦闘地域にしてはどうだろうかと考える。諸君らも既に気が付いてはいると思うが、どうにも我々は彼らから見て脅威として映っているらしく、小動物の姿すら一切見当たらない。小賢しい事だ。これでは昨日の段取りで決めておいた、敵性の獣魔を発見次第駆除しつつ、それに釣られて現われたグリフィスに全員で当たる、という前提が成り立たない。そこで、だ」


 勿体ぶった動作で以って、一度、溜めを作った後、


「敢えてこの場所で大々的に害獣駆除を行い、意図的に大きな音や声を立てて、騒ぎを聞きつけた討伐対象を誘き出す作戦へと、変更する事を提案したい」


 相談の体を装いながら、修正案への承諾を持ちかけてきた。



 今回の依頼の現場総指揮、全体責任者は彼ら、〔奏天の霹靂〕ひいてはその隊長である彼に一任されている。それを態々こんな回りくどい言い方をするなんて、面倒なヤツだ。


 討伐隊の総意として、各組隊の認識の相違を無くし、円満且つ潤滑な作戦行動をする為に必要なお墨を付けたいのだろうけど、正直鬱陶しく感じてしまう。責任の一端を、他に流す目的もあるのかも知れない。


 知らない者同士だからこそ余計に、代表が責任を持って一つの判断を下す必要があると思うのだけどな……。


 なので、私は煩わしい不要な『責任』だ、『役目』だ等から避けたくて、気心知れた仲間だけを求め、拘るのだ。その上で、中心には何時でも常に私が居る。


 こんな願望を抱いてしまう私は、恐らく、社会性が欠乏してしまった人間なのだろう。


 身内だけで、お互いの顔色を伺う事無く、和気藹々と過ごしたいと願うのは純然たる我侭であろうし、独り善がりの内弁慶である事も重々承知してはいるのだけれども、こればっかりは生まれ持った性格でもあるので、如何し様も無い。


 こんな私に嫌な顔一つせず、黙って付き合ってくれるティアや皆には、本当に感謝しかない。


 ……おっと。ついつい、物思いに耽ってしまっていた。私が上の空だった間にも、話はどんどんと先へと続いてゆく。


「今からその理由を説明しよう。先ず、この辺りは比較的起伏が緩く、足場も悪くない。木々の間隔もそう狭くなく、組隊単位での移動や戦闘にも支障は来たさないだろう。領有守備隊から派遣された駆除部隊も、魔物との戦闘が長引いている間にグリフィスが現われたと言っていたそうなので、充分な興味を惹く為にも、各員は持ちうる力を存分に振るって目立って欲しい」


 確認の視線を巡らせる彼に対し、僅かな首の動きで肯定を返す者、ただ黙って要求を聞き入れる者、反応は様々だ。


 そんな癖の強い連中の独特な態度で、通達事項がちゃんと伝わっていると判断したのであろうか、満足気に大きく頷いてから、


「そしてもう一つ! 集落を代表する者が言っていたんだが、この森は奥の方まで進んで行くと、途中から小規模な楯状台地が幾つも立ち並んだ景観が広がっているらしい。恐らくだが、グリフィスはそのどれかの頂上を塒にしていると思われる。こちらからそこまで出向いた場合、よじ登るだけでも一苦労だ。その間に襲われでもしたら、目も当てられない。よって、待ち構えて迎撃した方が、得策という訳なんだ」


 何が、『なんだ』なのだか良く分からないけれど、あれこれと長ったらしく捏ね繰り回して振るわれたご高説を、満面のドヤ顔で以って締め括った。


 動く者、声を発する者は、一人としていない。ウンザリとした空気は噫にも出さず、されどお互いが出方を伺い合う中、


「用件は分かった。それで、グリフィスが現われた後は、どうするんだい?」


 これまで静かに自己満足な自酔語りに耳を傾けていた、ベルカさんが一歩前に歩み出た。彼女の居る方に顔だけを向けた彼は、


「ああ。それに関しては、問題ない。僕たちはここに留まって、樹上から周囲の警戒にあたるからね。君達は、陽動に徹していてくれて構わない。そして、まんまとのこのこ対象が姿を現したら、僕たちがこの笛を吹いて、この場所まで誘導してから対処するので安心して欲しい。僕たちが責任を持って、グリフィスを討伐する事を約束しよう」


 爽やかさを張り付けた気持ちの悪い笑みで、すっ呆けた事を抜かしやがった。


 コイツ、一体何を寝惚けた事を言っているんだ? 事前にティアに聞いていたグリフィスの戦闘能力から推察するに、この人達の組隊だけでは悲しいまでに力不足である。

 此処に居るスクアの冒険者が全員で挑んで、やっと戦闘や、狩りと呼べる段階に達するであろう事を考えると、荒唐無稽な大言壮語、以外の表現が見当たらない。


 他の組隊の中には、程度の差こそあれ、同じ様な事を考えているみたいな感じの人が何人か居たけど、彼らは秘したままだ。


 ベルカさんも、「了解した。なら、私達は精々、引き立て役に徹するとしよう」


 それだけを言い残して、元の位置へと戻った。


 他に、意見や質問、反論は無いかと尋ねる討伐隊の隊長だったが、当然そんなものは在る訳も無く、号令を合図に行動開始と相成った……。

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