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私は異世界で百合の花園(ハーレム)を創ることにした。  作者: 虹蓮華
第2章「異世界生活を快適にしよう」
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本編2-6「現実を知る。それは幸運であり、不幸でもある」

 エングリンドの街を出て、専用に用意された乗合馬車に揺られること早三日目の昼過ぎ。


 私達は何故か、スクア用の、トルプの人達が乗るものよりも少し上等な馬車に、〔紅雷〕や他のスクアの女性冒険者さん方と同席していた。都合上、〔紅雷〕の一部として扱われたが故の措置ではあったのだけど、結果的にはとても凄く助かった。


 ペンネ八名、スクア三十六名、トルプ十三名に、私達3人を加えた総勢六十名もの大所帯にも関わらず、冒険者への様々な配慮には細心しているらしく、男性陣と女性陣とで最初から馬車が別けられており、精神衛生への心配りには心から感心した。

 同乗していた〔紅雷〕の方々や他の先輩方も、みんな気さくな人達ばかりで、『妹が出来たみたいだ』と、とても良くしてくれた。ま、そのお陰で、皆さんとは徐々にだが仲良くなっていっては、いるのだけど……。


 この馬車には私達の他には、〔紅雷〕の組員、隊長にして重装剣士のベルカさん、軽装戦士のイザベラさん、斥候のキーリィさん、遊撃歩兵のマルティナさん、治療術士のサリーヴさん、そして、この世界では珍しいらしい、攻撃使用に堪え得る魔術士、ウラニュエスさんの六名と、〔青き爪牙〕からは弓士のアマンダさん、薬師のイミーナさん、〔聖女と殉教者〕の紅一点、高位治癒術士のアリステリヤさんが乗っている。


 全員二十歳以上の、大人の女性ばかりだ。この世界では成人は十五歳からだけど、纏う雰囲気が、やっぱり違うのだ。アマンダさんは既婚者だし、イミーナさんも、同じ組隊の人とお付き合いをしているのだ。猥談なんて、叩けば幾らでも出てくる。


 同年代や、せめて恋愛や痴情に絡まない話題であれば、変に萎縮する事も無く、普通にお話したりも出来るのだけどね。正直、人見知りの激しい私にとっては、これだけの大勢の人達と同時に過ごす事自体、得意では無い。

 ましてや、今回の討伐隊への参加は“私”にとっては不本意甚だしいものであったので、余計、苦手意識が先行してしまうのだ。


 そんな私の仲間の中に居て、とびきり元気なのが一人。エマちゃんだ。

 彼女に至ってはすっかり全員と打ち解けてしまっていて、実家から持ち込んだ大量の用具品に加え、私が間に合わせの為に作った簡易的な生理用品なんかも、積極的に売り込んだりとかしていた。


 ああ、普段はそそっかしい部分が目立つけれど、そこはやっぱ、商人の娘だわ。逞しいですこと……。因みに、もう一人の主犯格であるティアは私の肩に頭を乗せ、すやすやと穏やかな寝息を立てちゃっていたりする。

 彼女曰く、馬は乗りこなせても、馬車に揺られるのには慣れていないのだとか。


 一人寂しく、小さな窓から外を眺めていると、


「どうした、クスハ。馬車に酔っちまいでもしたのか?」


 そんな私を気遣ってくれたのか、ベルカさんが声を掛けてきた。


「いえ……。そういう訳では、無いのですけど……」


 身動ぎをして、座る位置を直す。


「まあ、疲れちまうのも無理は無いけどよ、今日の夕刻前には着く。もう少しの辛抱だ。それに、お前が持って来てくれたこの綿袋、遠慮なく使わせて貰ってるが、尻が全く痛くならなくて皆凄く助かってるんだぜ?」

「そうそう、今までも似た様な物はあったけど、これは別格だわ」

「私も、これのお陰で快適よー」


 方々から、感謝の言葉が投げ掛けられる。


「そうですか。気に入って頂けたなら何よりです。一応それには座布団って名前があるんですけど、試作品なんで若し良かったら、一つずつ差し上げますよ?」


「え? 良いの? やったー」「クスハちゃん、ありがとぅー」


 大袈裟に喜ぶお姉さま方。


「ですが、先程も言いました通り、それはあくまで試作品です。改良を重ねて完成品が出来ましたら、その時は改めてお買い求め下さい」


 気持ち程度であるが微笑んでそう付け加えると、


「あ~~! それは私の台詞です。取らないで下さい~」


 エマちゃんの、悲しそうな叫び声が客室内に木霊した。




      ◇




「皆の者、これまでの道中と長旅、ご苦労であった。諸君らにはこの広場に天幕を張り、一晩夜営をしてもらう。明日は早朝から森へと入るので、それまでに十分な休息を取り、旅の疲れを癒して欲しい。さあ、急いで準備するがよいぞ!」


 今回の討伐隊で唯一の、ペンネの組隊である〔奏天の霹靂〕の隊長さんが、心なしか胸を反らせて号令を飛ばす。


 ここは、渦中の開拓村の周囲に広がる空き地の一角。開拓の前線基地である小さな集落に六十人もの人数を受け入れられるだけの施設などありはしないので、代替措置として、人数(組隊)分のテントを態々エングリンドから運んできたのだ。


 日没までにはまだ今しばらくの猶予があったけれど、だからこそ、今の内に設置しなければならない。でなければ、暗い中での作業となってしまう。

 最悪、不完全な状態、限りなく露天に近い環境下での寝泊りだけはなんとしても避けたいのは誰しもが思うもので、皆一斉に組み立てに取り掛かった。


 ペンネの人達だけは、歓迎も兼ねて村の代表さんの家で泊まるとの事で、さっさとこの場を去ってしまったけれど……。


 馬車から資材を運び出すのはトルプの男性連中に任せ、私達も自分達の分の天幕を設営し始める。これもやってくれると申し出てくれた人達が、トルプの中から“結構な数”居たけど、『冒険者足る者、自分達の事は全て自分達でやる!』そう言って、それらを全てお断りした後、エマちゃんにこっそりと教えを請うた。


 当のエマちゃんは、私もティアも天幕の立て方を知らなかった事実に、愕然としていた。


「こんな、本格的な冒険者の野営をするなんて、初めてだわ」


 彼女に指示された通りに杭を打ちながら呟くと、


「え? 何言ってるんですか、クスハさん。普段の野営では、こんな立派な天幕なんて使いません。寝袋が有れば良い方で、大抵は、外套を体に巻いたりして一夜を過ごすんですよ?」


 呆れた口調と、じっとりとした目で、エマちゃんから突っ込みが入った。


「これまでのが異常だったんです! どんな討伐依頼もあっと言う間に終わらせてしまいますから、日帰りや、行く先々でも宿に泊まる事が可能だったんです!」とも。


 あー、そう言えばすっかり忘れていたけど、私もティアと初めて森を出た時は、そんな風にして夜を過ごして居たわ……。私は知らずして、冒険者としての初夜を既に経験していたという事になる。


「そっか……。ティアと一緒に過ごしたあの夜が、私にとっての初体け――」


 バヂンッッ。どこからとも無く、強力な電撃が一瞬だけ襲ってきた。吃驚してそちらを見遣ると、


「馬鹿な事を言って居ないで、さっさと手を動かして下さい! クスハ!」


 顔を真っ赤にしたティアが、目の端に涙を浮かべながら此方を睨み付けていた。




 天幕が立ち並び終えた頃には、夜の帳が直ぐそこまで迫っていた。


 夕飯は、村の人々がなけなしの食材を集めて、振舞ってくれた。決して豪華ではなかったけれど、それが逆に温かかくて、とても美味しかった。


 夕食後は、各組隊に分かれて自由行動となる。なる筈だったのだけど……。何故だか、〔紅雷〕の面々は全員、私達の天幕に集まっていた。


「それじゃあ今から、明日の打ち合わせを始めるとしようか」


 自然体な口調で、寛ぎながら切り出すベルカさん。


「あの、その前にちょっと宜しいでしょうか? なんで皆さん、此処に集まっているんですか?」


 議長よろしく、〔紅雷〕の隊長として最初に音頭を取り出した彼女に対し、私が率直な疑問をぶつけると、


「うん? なんでって、そりゃ、一緒に行動する上で擦り合わせを行なうのは当然だろう。バラバラに動いちゃ、連携の取りようが無いからな」

「ええ、言いたい事は分かります。ですが私が言いたいのは、何故一緒に行動する前提で話が進もうとしているのか、です」


 討伐隊と一言で言っても、別に全員が一律に動く責務は無い。軍隊では無いからだ。

 各組隊には其々に合った遣り方というものがあったりするので、なまじ下手に行動を共にするよりかは、各々が独自に動き判断し、その都度協力した方が全体の能率、その他諸々が向上すると言った観点から、個別での行動が基本方針となっている場合が殆ど。


 連携が乱れれば、全滅の憂き目に遭う可能性も否定出来ない高難易度の討伐依頼に於いては、危険を冒してまで組隊に不確定分子を加えるなど、ある意味、自殺行為に等しい。


 今のは一般論であって、私達を加える事で起こり得る不幸は一切有り得ない杞憂話ではあるのだけれど、なるべく人目を避けたい私としては、尚も食い下がる。


「ああ、その事か。それはな、私達がお前達の推薦人だからだ。実力はどうであれ、格下を推薦した手前、私達には君達を見守り、助ける責務がある。ま、どちらかっつーと、助けられるのは私達になりそうだけどな!」


 一人はワハハ、他はアハハと笑う、〔紅雷〕の方々。


「当てにしてるぜ?」


 そう言って、ポンッと肩を叩かれた。


「はあ……。そう言う事情なら、仕方がありません。トルプの若輩者なので、期待に応えられないとは思いますが、出来るだけの事はしましょう。ティアが」


 尤もな説明を受け、形式だけでも折れた姿勢を見せた私にベルカさんは一つ頷くと、


「よし! 話も纏まった事だし、改めて説明するぞ。陣形は、クスハ達三人を中央に配置する事以外は、いつもと同じだ。雑魚と遭遇した時には、私とイザベラで対処する。キーリィとマルティナは三人の護衛に集中してくれ。必要に応じて、ウラニュエスは援護射撃。以上だ」――続いて、グリフィスとの戦闘に突入した場合だが……――。


 こうして、村が静まり返る時間帯まで、あらゆる事態を想定しての話し合いは続いた。


 彼女達は、十分に話が煮詰まると自分達の天幕へと戻って行ったけれど、その際、


「あー、そうそう。今からこんな時間に出歩くなんて基本滅多に無いとは思うんだけどさ、間違っても、決して夜に〔聖女と愉快な殉教者〕の天幕にだけは近付いたりしちゃいけないよ? アイツ等はちょっと……、いや、かなり変わっていてね。アリステリヤは良い奴だし、取り巻きの連中も、気持ち悪いが悪い人間じゃないんだが……。兎に角、夜中に無用な用事で、彼女達が寝泊りしている所に近寄っちゃいけない。君達にはまだ早すぎるし、無縁の世界でもあるからね」


 なんだか、歯切れの悪い意味深な言葉を残して、立ち去っていった。訳が分からず、お互いを見合わせる私とティアであったが、その横で、エマちゃんだけが茹蛸みたいに耳から首まで顔全体を真っ赤に赤らめて、俯いていた。


 疑問符を頭に浮かべた私は、今の話と何か関係しているのかと訝しんで横から覗き込み、目を回して固まっている彼女の姿に、思わず慌てふためく。


「エ、エマちゃん!? どうしたの? 何か知っていたりするの!?」


 両肩を掴んで少し強めに揺すってみると、


「あ、あの……。私も、朧気に噂で聞いただけなのですが……」


 微風に揺られる衣擦れの音よりも小さな声で、瞳を彷徨わせながら語り出した。


「〔聖女と殉教者〕の方々は皆さん、其々が全員、アリステリヤさんとご結婚されているんです。女性を主体にした多重婚は男性と較べれば確かに珍しいのですが、これ自体は何らおかしい事はありませんし、眉を顰めるものではありません。ですが、問題、というか、女性冒険者の中でも取り分け、男性にご縁の無いトルプを中心とした多くの方々に余り良く思われていない部分が、この先にありまして……。あの、とても言いにくいのですが、その、ふ、夫婦ならして当然の行為を、ええと……、ふ、複数の方々と同時にされていると、それが彼女の意思によるもので、趣味でもある、と。そんな陰口を囁く方々が、いらっしゃるのです……」


 語尾の方は、もう殆ど消えかかってしまっていた。


 針の筵のような痛い沈黙が室内に反響し、重たい空気で息が詰まりそうになる。それってつまり、アリステリヤさんはオタサーの姫……じゃない、ソレ目的のサークルの姫って事? いや、待て。全員が婚姻関係なら、それは健全な夫婦の営み……?


 衝撃的な内容に、自意識が勝手に暗転しようと働きかける。


 開けてはならない、パンドラの箱を開けてしまった! その事に激しい後悔の念が押し寄せるも、今更記憶を消す事も出来ない。身動ぎ一つ取れない凍りついた世界が支配する中、


「ひ、人には其々、其の人にしか分からない事情というものがお有りなのでしょう! 人様の家庭を覗き見するような無粋な真似は止して、さあ、明日は早いのですから、さっさと寝てしまいましょう!」


 ティアが、無理矢理にだが手を叩いてその場の換気をしてくれたお陰で、私達は言葉少なくも再び動きを取り戻すことが出来た。


 私は地面の堅い感触が直に伝わる床に、《創造》の力を無駄使いして綿の詰まった布団一式を人数分敷きながら、今日得た一番の教訓の事だけを只ひたすらに考える。


 世の中には、まだまだ知らない事が沢山ある。そして、知る必要も無い事も、沢山ある。私はそう強く胸の中で唱え、寝付くまでの間、思考の奥底、魂へと深く刻み付けたのだった。


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