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私は異世界で百合の花園(ハーレム)を創ることにした。  作者: 虹蓮華
第2章「異世界生活を快適にしよう」
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本編2-5「希望の星は突然に現われ、期待は必然に裏切られる」

「あ、お久しぶりです、ベルカさん」


 私が代表して挨拶すると、ティアも続けて会釈する。


「おうっ! 久しぶりだな。君達の噂はかねがね聞いているよ。大活躍じゃないか。アルメリアも絶賛してたよ。……それはそうと、君達、本当はスクア以上の冒険者なんだろ?」


 悪戯っ子を温かく見守るような視線で、詰問されてしまった。


「あはは、まさか! 偶々ですよ、偶然ですよー」


 私はそれを、愛想笑いで以って横へと流す。そんな遣り取りをしていると、不意に、隣に座っていたエマちゃんが勢いよく立ち上がった。


「あ、あの! 失礼でなければ、〔紅雷〕のベルカ・ヨグノトースさんではないでしょうか!?」


 突然の出来事に固まってしまった私とティアだったけど、


「ああ、そうだ。私が〔紅雷〕の隊長を務める、ベルカ・ヨグノトースだ」


 彼女にとっては特段珍しい光景でも無かったようで、最初から準備でもしていたかの様な佇まいで凛と、応えていた。


 おお、格好いい。私がそんな感想を他人事みたいに心の中で呟いていたら、


「こんな所でお会い出来るなんて、光栄です! も、もし宜しければ、握手などして頂けませんでしょうか!?」


 凄い食いつきっぷりのエマちゃんがそこに居た。


 対するベルカさんも、「あいよ! お安い御用だ」なんて気楽なノリで、手を差し出してくれたものだから、その手を握ったエマちゃんは大はしゃぎ。


 ちょっと引きつつも、


「え? ベルカさんって、そんなに有名人なの?」


 と思ったことをそのまま口にした瞬間、


「ええ? クスハさんこそ、ヨグノトースさんの事をご存知ないんですか?」


 まるで責めるような口調で、問い詰められてしまった。


「ざ、残念……、ながら?」


 普段のエマちゃんとはまた違った勢いに、しどろもどろになりながらも何とか答えると、


「し、信じられません……」


 肩を震わすエマちゃん。


「常日頃から感じていた事ですが、クスハさんも、ティアさんもそうですけど、お2人共、冒険者について何も知らなさ過ぎです! いいですか……」


 彼女に、変なスイッチが入ってしまった。


「ベルカ・ヨグノトースさんが率いる、〔紅雷〕が女性だけで構成されているのはご存知ですか?」

「ええ、まあ……。何となくは……」


 其の程度であれば知っていたので、曖昧ながらも返事を返したものの、


「それがどれだけ特殊で危険な事かは、クスハさんならご理解頂けますよね!?」

「そりゃあ、それなりには……」

「いいえ。クスハさんは人外の強さをお持ちですから想像するのは難しいでしょうけど、女性だけでスクアの冒険者を勤め上げている事自体が稀有なのです! 女性のみの組隊は他にも幾つかありますが、スクアとなると話は別です。この街でも、たった一組しか存在しておらず、皇国内でも三組しか確認されていません。〔紅雷〕は、その一つなのです!」


 冒険者絡みの話題だからか、人が変わったかの如く熱弁を振るうエマちゃんは止まらない。


「それだけではありません。それだけでも凄いのに、〔紅雷〕の皆さんは、女性だけの組隊としては初であろう、ペンネに最も近い組隊だとも言われているのです! 実際、既に条件は満たしているとの噂もあります」


 ――ですが、本当に凄い理由はこの先にあります! ――


「ペンネにならない理由。これは人伝に聞いた話ですが、ペンネになると依頼の受注に制限が掛かってしまうんですけど、それを嫌って、ペンネへの昇級をお断りしているのだそうです。ペンネになってしまうと、国からの指名依頼が増えるだけでなく、国と市民からの依頼が同時にあった場合、国からの依頼を優先せざるを得ない状況に陥ってしまう為に、あえて自由の利くスクアに留まっていると、そういう事なのだそうです! 冒険者として、これ程尊敬出来る話がありましょうか!?」


 ベルカさん達がどれだけ凄いかを一心不乱に熱く語るエマちゃんは、それ故に彼女は全く気が付いていなかった。

 彼女の話す内容に、バツが悪そうな顔をするベルカさんと、苦渋と諦めの混じった表情を浮かべる支部長――マコーミックさんに……。


 私は話題を逸らすべく、先程から気になっていた疑問を口にした。


「わ、分ったから。もう十分解かったから。だから、ね? 一旦落ち着きましょうか? それと、さっきから度々登場していた、“こうらい”って、何なの?」

「え……?」


 私の質問した内容に、キョトンとするエマちゃん。


「ま、まさか、そこの説明すら必要だったとは……」


 くらりと大袈裟に体をよろめかせる彼女。ん? 私、そんなに変な質問したかな……?


「えっとですね、クスハさん。〔紅雷〕とは、ヨグノトースさん達の所属する組隊の、通り名です。紅い雷と書いて、紅雷。この方々にぴったりな名前だと思います。で、通り名なんですけど、これは別に名乗りに制限はありません。ですが、通常、トルプ以下の組隊では名乗りません。何故なら、トルプでは組隊の数が多すぎるし、固定の組隊で活動する人達ばかりでは無いからです。その点、スクア以上で活躍されている方々は、それなりに気心の知れたお仲間と共に行動する事が多く、実績や名声、信用の証として、名乗る事が慣例になっているのです」


 成程、在る種の箔付けと、識別記号の意味合いを兼ねているのか。


「二つ名! とても素敵じゃないですか!」


 おおっと!? 意外な処で意外な人が反応を示したぞ……。


「クスハ! 私達もスクアを目指しましょう!」


 いや、かと言うて貴女、既に『巫女』なんて大層なものをお持ちじゃないですか……。


「却下よ、ティア。私は別に、有名になりたい訳でも、実績を認められたい訳でも無い。只々、平々凡々に一般の冒険者として、トルプ程度の扱いで生活出来れば十分だわ」


 私が放った投遣りな言葉に、『コイツ、この期に及んで一体何を寝惚けた事を言っているんだ?』と言わんばかりの顔をする名うての女性と、納得していない表情をした仲間2人の女の子。


「あー、それについてなんだけどな……」


 それとは別方向性から、声がもう一つ。


「実は、お前達二人に関しては既にスクアへの昇格が検討されていて、今度の昇級会議で正式に審議される予定になっていたんだが……。ま、今回の実績と貢献度から、審査通過は確定だろうな」


 そう冷やかに言い放ち、机の上に置きっぱなしだったレッドキャップの魔核を懐へと仕舞う支部長さん。

 愕然とする私の横では、喜色の笑みを満面に浮かべたティアが目の端に映る。


「それとな、お前がどう感じているのかは知らないが、あくまで一般冒険者という括りで言うならば、スクアもギリギリ一般の冒険者だ。一般の冒険者の中では最上位、という認識は付き纏ってしまうがな。それでもアドルの娘が言ったような、ペンネ以上になる名誉に比べたら周りの評価が劇的に変わる事はない。寧ろ、受注できる依頼の幅が増える分、今後の活動に有利に働くぞ?」

「むぅ……」


 そこまで言われてしまっては、無為に食い下がる訳にもいかない。


 反論したい気持ちを飲み込んで力なく項垂れ腐っていると、――バタンッ――。

 扉が開くと同時に、一人の男性冒険者が倒れ込むように飛び込んできた。


 その人は酷くボロボロな風体で、満身創痍といったご様子。体を引き摺りながらもなんとか空いている受付の前まで移動すると、一枚のしわくちゃの羊皮紙を差し出し、何事か呟いてからその場に座り込んだ。


 羊皮紙を受け取った受付の女性は、素早く内容を確認すると即座にアルメリアさんの所まで移動し、アルメリアさんも業務を中断してその場で相談を開始。羊皮紙を受け取ったアルメリアさんが、受付窓口を出て私達の座るテーブルへと駆け寄ってきた。


「あ、あの……」


そこまで口にした彼女は、椅子に座る私達を見渡して何か言い難そうに言葉を詰まらせていたけども、


「この子達は俺の事を知っているよ。構わん、続けろ。何があった?」


 マコーミックさんの一言で状況を察し、上司に報告する事務員の顔になる。


「はい。緊急の討伐依頼が要請されました。対象は――グリフィス――」


 その名を聞いた途端、二人の熟達した冒険者は緊張に顔を強張らせ、恋人は困惑に染まった複雑な表情を見せた。


「グリフィスが討伐対象だって!? どういう事だい、アルメリア」


 ベルカさんがマコーミックさんを待たずに反応したのに対し、


「それを今から御説明致します。こちらが依頼状です」


 アルメリアさんは特に気にした様子も無く、羊皮紙をマコーミックさんへと手渡した。


「実は、ここから北に位置する男爵領の開拓村の周辺にある森で、最近になって凶暴な魔物が頻繁に目撃されるようになったのです。村民にも、少ないながらも既に幾つかの人的被害が発生してしまっています。そこで先日、事態を重く見た男爵様からの要請があり、領有守備隊を主体とした駆除部隊に、我々冒険者側からもトルプを数名、派遣したのですが……」


 ここからは依頼状の復唱になりますが、と付け加えて、


「森の中でグリフィスと遭遇。襲い掛かってきた為に応戦するも、彼我の戦力差から撤退、その際に、兵士の何名かが犠牲になってしまった模様です。冒険者の各員も、全員が無事な状態では無かった、と」


 チラリ、と依頼状を持ってきた冒険者を見遣るアルメリアさん。


「山の麓にグリフィスが現われる事自体が極めて珍しい状況ではありますが、人を襲う話はこれまで一切聞いた事がありません。ですが、実際に襲撃が確認されてしまっている以上、開拓村に被害が及ばないとも限りませんので、早期の危険排除を事由に、今回の討伐を緊急依頼として発議した、との事です」


 言い終えた彼女は、この場に居る最高責任者の返事を待つ。

 依頼状を読みながら説明を聞いていた彼は、依頼状を丸めてアルメリアさんに渡すと、


「分かった。緊急依頼の発令を許可する」


 支部長として、決定と指示を下した。

 承認を得たアルメリアさんは直ぐさま取って返すや否や、通常の受付とは別口の台の前に立ち、引き出しから木槌を取り出して振り下ろした。打ち付けられた木槌と机の間からは『カンッ』と乾いた大きな音が一つ立ち、館内に響き渡った。


「冒険者の皆様、討伐の緊急依頼を発令致します! 討伐対象は、『グリフィス』」


 一気に建物内部がざわめく。


「グリフィスは推定脅度5強の魔物となる為、討伐部隊はペンネを中心に、スクアを下限として構成されます。今回はトルプの方々に限り、後方支援部隊として参加いただけます。出立は三日後。目的地はハーヴル男爵領、名も無き開拓村に隣接する、カラルカンの森になります。ペンネ以上の組隊は規約に則り、可能な限り原則として強制動員となりますが、それ以外の方々に関しましては、只今より受付を開始致します!」


 ガタリッ……、と数組の組隊が立ち上がる。何れも、ただ黙って様子を伺っている冒険者とは、雰囲気も装備も違う人達ばかりだ。私が彼らを目で追っていると、横から、


「アイツらは私らと同じ、スクアの冒険者だよ。前から順番に、〔青き爪牙〕、〔鋼鉄の煌き〕〔聖女と愉快な殉教者〕……」


 ベルカさんが、其々注釈してくれた。


『“愉快な”は余計だ!』


 ギリギリ、聞こえる程度の近くを通りかかったと思しき組員らしき人が何か叫んでいたが、空耳か気のせいであろう。


 成程、道理で高そうな武具を身に付けている訳だ……。ここでふと、頭に浮かんだ事を口にしてみた。


「あの人達がスクアだとすると、ペンネから上の人達はここには居ないんですか?」


 素朴な疑問を問われたベルカさんは、


「あー、その、なんつーかな……」


 歯切れが悪い様子で、口をもごもごと動かしている。


「この支部には、ペンネの組隊が二組、単隊が一名所属している。しかし彼らは、常日頃から特別な任務に当たっている事が多く、普段から協会に顔を出す事自体が少ない。今日だって、戻ってきた一組には宿で休息を取らせている。今回の緊急依頼には彼らにも加わってもらうが、他の奴らは、帰還の状況次第だな」

 ――因みに、今現在ヘクサは皇都にしか存在していない――、ベルカさんの代わりに答えてくれたマコーミックさんは、末尾にそう付け加えた。


「ふぅん、そうなんですか……」


 気の無い感想を漏らした私は、未だに隣に立つ女性へと視線を向ける。


「ところで、ベルカさんは行かないんですか?」


 一向に動く様子の無い大先輩に、冷やかしで尋ねてみた。


「ん? ああ勿論、私達も行くよ。そして、君達も討伐部隊として参加するんだ」


 ガシッと良い笑顔で彼女に肩を掴まれ、次いでニンマリとした笑みと共に引っ張り上げられた。


「は? えっ? いや、だって私達、まだトルプですよ!?」


 事態が飲み込めずに、抗議の声を上げる。


「トルプ程度の実力じゃない癖に、よく言うよ。なぁに、心配しなさんな! 私達が推薦するから大丈夫だ。それに、もうじきスクアへ昇格するんだろ? なら、もうスクアも同然だ! いやー、君達とは一度、一緒に依頼をこなしたいと思っていたんだ」


 有無を言わさず、特設受付へと引き摺られてゆく。助けを求めて、後ろで座る面々に視線を彷徨わせてみたものの、


「グリフィス。里に下りてきた理由を調べなくてはなりませんね」


 やる気十分に、態と音を立てて席を立つティア。


「わ、私も、見てみたいです。グリフィス」


 おずおずとだが、興味津々に椅子から立ち上がるエマちゃん。


「安心しろ。俺の方からも、推薦状を出しておいてやる」


 期待に満ちた4つの眼と、背けられた一人分の目線。とっくに冷え切ってしまっているだろう珈琲を啜る無情な声が決め手となり、私の身柄は緊急業務で忙しなく動くアルメリアさんの元まで、連行されてしまったのだった。


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