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私は異世界で百合の花園(ハーレム)を創ることにした。  作者: 虹蓮華
第2章「異世界生活を快適にしよう」
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本編2-4「災害は何時も突然に。重要なのは、その情報の共有」

「ああ……、気のせいでは無い。実際、増えている」

 彼は重々しく口を開き、口元へ運んだ腕を僅かに傾ける。


「やはり、そうでしたか……。実は先程、私達が報告を終えた討伐依頼がありまして、そこでもゴブリンの変異種である、デプラゴブリンを一箇所にて複数体確認致しました。アルメリアさんも、驚いていらっしゃいましたよ」


 ティアの補足報告を聞いたヴェルクさんは、乱暴気味に茶飲みを丸机に置くと、目が飛び出さんばかりの表情になって、前のめりに聞いてきた。


「複数、だと? 一体、何体いたんだ?」

「五体です」


 私が代わりに簡潔に述べた瞬間、ブッと何かを噴き出した様な音が聞こえた――気がした。ヴェルクさんが飲んでいる最中じゃなくて、本当に良かった……。


「それだけじゃ無いですよ。もっと悪いお知らせがあります。これを見て下さい」

 そう言って私は、腰嚢から握り拳大の、禍々しい血管のような帯を不規則に巻き付けた紫色の玉を一つ取り出し、丸台の真ん中へ音を立てて置いた。


「こ、これは?」

 彼の当然の問に対し、


「デプラゴブリンよりも、もっと強力で凶悪な魔物の魔核です。恐らくは、新種と思われます。過去にも存在していた可能性はありますが、取り合えず、その見た目と凶暴さから、“レッドキャップ”と呼ぶ事にしました」

「レッドキャップ……か。初めて聞く名前だな。それで、その特徴は?」


 私が仮称した名前を口の中で転がすと、次いで説明を求めてきたので、仕方なく打ち合わせ通りに詳しく伝える事にする。


「先ず、最初にお断りしなければならないのですが、これは変異をしかけていた個体から取り出したものなので、完全なレッドキャップと云う訳ではありません」


 私が前置きを置くと、続けてティアが、


「ですが、その段階で既に、デプラゴブリン十体相当の戦闘能力を有していたと思われます。若し此れが完全に変異を終わらせていた場合、大抵の、恐らくスクア程度の冒険者では束になったとしても、討伐に困難を極める可能性が非常に高いです」


 彼らにとって、絶望的な現実と未来を突き付ける。私はそこに間を置かず、淡々と理由説明へと話しを進める。


「と言うのもですね、身体能力も然る事ながら、最悪な事実がもう一点。コイツはゴブリンと違って、殺す目的で人に近付く危険性があります。実際、遭遇時も明確な殺意を漲らせて襲い掛かって来ました。驚いた事に、武器を持って、です。あくまで推測ですが、その……、非常に言い難いのですが、巣穴の中に半分原型を留めない遺体らしきモノを二名分発見しまして、付近にあった遺留品から察するに、先に討伐に向かって壊走した組隊の人たちだと思われます。コイツは、彼らから武器を奪い、それを使って向かって来たんです」


「なッ……」


 驚愕に言葉を詰まらせるヴェルクさんに構わず、尚も私は先を紡ぐ。


「相手がゴブリンであれば、戦闘で死ぬ事はあっても遺体が荒らされるなんて事はありません。ですので、明確な悪意や敵意あっての所業と見るのが妥当です。見た目に関しても、戦利品で着飾ってでもいたのでしょうか……、犠牲者の血で赤く染まった衣服を頭や体に巻き付けていましたので、意図しての作為性を感じますし、そこそこの知能を持っているとも推測されます」


 ここまで息を呑みながら話を聞いていたヴェルクさんは、完全に言葉を失ってしまっていた。そんな彼の姿に同情心は覗くものの、本来の目的と動機は、ただの報告では無い。


 言いだしっぺであるティアに目配せをすると、彼女は一つ頷き、


「デプラゴブリンが複数発生した程度であれば、聖霊の巫女としても静観を貫く積もりでした。ですが、デプラゴブリンよりも危険極まりない魔物が発生してしまいました現状に緊急性があると判断致しまして、特別にクスハにお願いして、“巫女”として報告に伺った次第なので御座います」


 冒険者としてではなく、巫女としての表情を作った彼女がそう告げた。


「つまり、これは……。巫女殿が動くべき案件である、と……、そう言う事ですか……」

 マコーミックさんが呻く様に発した問い掛けに、私の方から答えを返す。


「はい。レッドキャップは大変危険です。オーガ等の肉食の魔物と違い、捕食では無く唯の殺戮行為を目的として行動する魔物というだけでも厄介なのに、強さも大抵の冒険者では太刀打ち出来ないオマケ付き」


 彼女から目線だけで残りの部分を任されると、そこで改めて支部長さんの目を見据えながら、


「どんな魔物であっても、一定以上の魔力溜りに触れる事で突然変異を起す可能性があるのはご存知だと思いますが、発生した現場の状況から推察するに、デプラゴブリンという変異種が高濃度の魔力溜りの中で人間の血を浴びてしまったのが原因だと考えられますので、そうそう起こり得る現象では無いにしろ、今後も同じ事が起こらないとも限りませんから」


 ――私はどちらでもよかったのですが――と一言置いて、


「せめてもの注意喚起として、判断の一助にでもなればと思い、レッドキャップの魔核を持参してお声を掛けさせて貰ったのです」


 ティアの生来の生真面目さを汲んだ私は、当事者の一人として、あくまで彼女の補助として同伴したのだった。重要な部分の殆どを、私が喋っていた気がしなくもないけど……。


「実は……、な。これまでの上位種の目撃情報の増加を受けて、近々本部で緊急会議が開かれる予定だったのだ。その矢先に、こんな爆弾が持ち込まれるとは……。喜ぶべきなのか、それとも、悲しむべきなのか……」


 漸く再起動したと思ったマコーミックさんは、小さく呟くと頭を抱えて、また直ぐに停止してしまった。


 はて……、どうしたものか……。何時までもこのままで座っていても仕方がないし、そろそろ移動を切り出そうかと、この後の予定に思案を巡らせていると、思いも寄らない人物がこの席の前に現われた。


「おやおや、こんな可愛い子達と一緒にお茶なんて、存外隅に置けないじゃないか。ヴェルクの旦那」


 その人は、冒険者登録時のいざこざの際にお世話になった、ベルカ・ヨグノトースさんだった。

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