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私は異世界で百合の花園(ハーレム)を創ることにした。  作者: 虹蓮華
第2章「異世界生活を快適にしよう」
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本編2-2「命を懸けるだけの価値」

「今回の討伐依頼、完了しましたので報告に来ました。後で確認をお願いします。それと、魔物の一部を持って来たので買い取って欲しいのですが……」


 昼下がり、一番冒険者の数が少ない時間帯を狙って、私は報告窓口の女性にズシリと重みのある革袋と、羊皮紙を手渡した。


「確認いたします」


 そう言って受け取った女性は、革袋を逆さにすると、中身を一遍に検品台の上にぶち撒けた。

 そこには、緑色の耳端が六つと茶色い耳端が五つ。付随して、小ぶりだが鋭い爪が六本と、太くて長い、刃物の様な爪が五本、更にはこれまた肉食獣を思わせる凶悪な牙が、合計で十本入っていたのだが、其々がちぐはぐに選り分けられる。


「えっと、ゴブリン……ですよね……。耳が五つと、六つと、爪が……って、あれぇ?」


 そこまで数えた女性は暫し硬直し、しかし直ぐに諦めたのか、


「申し訳ありません……。魔物の部位に詳しい先輩を呼んで来ますので、少々お待ち頂いても宜しいですかぁ?」


 困った声色だったが、そうとは見えない顔でにへらと曖昧に笑うと、私が縦に首を振ったのを確認してから奥へと小走りに消えて行った。


「今の受付さんが、アルメリアさんが言っていた新人さんなのかしらね?」

 隣に居る、腰まで伸びた長い金髪が美しい、巨乳美少女エルフの恋人に尋ねる。


「今の受け答えと挙動、知識の浅さから見ても、間違い無くそうでしょうね。初めて見るお顔でもありますし……」

 金髪巨乳の美少女エルフは、中々辛口な感想で以って、私の質問に答えた。


「あ、あはは……。流石はティアさん。知らない人には、中々に厳しいですね……」

 もう一人の冒険者仲間である、控えめだが確かな存在感を示す美乳をお持ちの、濃い栗毛色の髪をポニーテールで纏めた少女が困った顔で呟いた。


「いやー、そうは言うけどね、エマちゃん。私だって、今の女性にはちょっと不安を禁じ得ないわ……」

「もう、クスハさんまで……。確かに、私としても少しばかり勉強不足だなぁと思わなくも無いですが、今回は特殊過ぎますし、新人さんでは仕方が無いと思いますよ?」


 同じく困った顔で擁護の言葉を紡いだエマちゃんだったけど、彼女の声からは同意の色が滲み出ており、新人職員さんに対して彼女なりに思う処があるようだった。


「そんな、右も左も分らない新人さんの教育係であるアルメリアさんは、一体何処に行ってしまわれたのでしょうか……?」


 ティアの口から漏れ出た言葉に誘われるように、新人さんが消えて行った先へと全員の目が向けられたところで、奥からアルメリアさんが新人さんに連れられて、慌てて小走りにかけて来るのが見えた。


「ああ、もうお戻りになられたのですね! 大変失礼致しました。急用で少々席を外しておりまして……」

「いえ。私達も、そこまで急ぎでは無いので……。只今戻りました。それで、もうその用事の方は大丈夫なんですか?」

「あ、はい。心配をお掛けしました。もう大丈夫です」


 そう言うアルメリアさんの顔色は、どことなーく悪そうだ。


「はぁ……。ティア、回復魔法を掛けて上げて」

「はい」

 私の溜息混じりの要請に短く応えたティアは、手早く呪文を唱えた。


【下位地属性魔法】――《回復》――。

 淡い緑色の光がアルメリアさんの体を包み、直ぐに弾けて消滅する。


「あら? ……ああ、成程。そちらでしたか」

 一人、勝手に納得した様子のティアが、続けて魔法を行使した。


【下位水属性魔法】――《快調》――。

 今度は淡い水色の光が彼女を包み込み、恙無(つつがな)く、違和感無く吸い込まれていった。


「アルメリアさん。これで大分、気が楽になったのではないですか?」

 ティアの問いに対し、


「え、ええ。わざわざ、魔法を掛けて頂いて有難う御座います。お陰さまで、かなり楽になりました」

「それは良かったです。お大事に」

 深々と一礼するアルメリアさんに、ニッコリと微笑みで返すティア。


 すっかり顔色の良くなったアルメリアさんは、冒険者の登録手続きで出会ってからこれまでの、何度もお世話になった見事な手捌きで、本来の作業と処理に取り掛かる。新人さんの代わりに受付席へと座った彼女は、検品台の上に散乱した持込品を慣れた手付きで手早く正確に仕分けしつつ、選分棒の動きを止めずに口を開いた。


「既にある程度予想出来ていた事とは言え、まさか本当にデプラゴブリンが複数、同じ巣に存在していたとは……、あまり信じたくない事案ですね」


 話している間にも、ごちゃ混ぜだった耳端、爪、牙が見る見る内に各種、綺麗に分別されていき、


「はい、確かに。ゴブリン六体と、デプラゴブリン五体の討伐を確認致しました。今回は急で危険な依頼であったにも関わらず、速やかに遂行して頂けた事、協会を代表しまして感謝申し上げます。更には、デプラゴブリンの貴重な部位まで提供して頂きまして、誠に有難う御座いました」

 窓口越しではあるものの、最上級に丁寧な動作でお辞儀をされた。


「いえ、内容が内容ですからね。誰かが即座に動かなければ、村人に直接被害が出てしまう可能性がありましたから……」




      ◆ ◇ ◆




 先日、ゴブリン退治に向かった初級者の組隊が、奇しくも壊滅して帰ってきた。


 依頼内容は、集落の畑を荒らす魔物を退治して欲しい、との事。皇国には村に満たない集落が幾つも点在しており、その中の一つからの依頼だった。依頼に来た住人の証言から、犯人はゴブリンの群れと断定され、脅度2の依頼として、掲示板に張り出されていた。それを、最近ダブレになったばかりの新人冒険者の組隊が、実績欲しさと腕試し感覚で引き受け、意気揚々と討伐に向かって行ったのだ。


 これだけならば――、この程度の依頼であれば――。人類種と魔物の棲み分けが確立される以前から延々と続く、ささやかな、人族が世界へと進出する歴史の一端でしか無かった。



 ――ゴブリンの危険度は極めて低い――。



 連中は、畑を荒らして作物を奪って行くが、進んで人を襲うような事は基本的には無い。雑食性らしく、虫や鳥等も食すと言われているが、精々その程度だ。鳥小屋が破壊される事案が偶に起こったとしても、逃げた鳥を捕まえ直す手間の方が嘆かれる始末。


 そして、人族に襲い掛かって来る事があったとしても、それは威嚇目的だったり、不意に遭遇した時の逃走手段でしか無かったりするので、始めから殺す目的で近付いては来ない。しかし、だからと言って決して油断していい相手という訳でも無く、幾ら向こうに殺意が無かったとしても、有害な魔物である事に変わりは無い。


 魔物の中では最弱の部類の代名詞として扱われているものの、地球で言う所のチンパンジーやオランウータンと同程度の体格はしており、身体能力も侮れない。“不幸な偶然”が幾つか重なり、ただの村人が武器も持たずに一対一で遭遇してしまった場合、事の流れによっては死亡も十分に有り得る。


 脳みそは有るのかどうか分らないながらも、そんなのが曲がりなりにも野犬の群程度の統率力を持って集団で行動をしたのでは、一般の村人だけで対処するにも限度が在り、若しくは非常に割に合わない。なので、戦闘経験が豊富な冒険者――の見習いが、事に当たる。

 その程度の、“只の迷惑でしかない存在” でしかないのだ。その、筈だった――。



 以上の理由から、見習いを卒業した駆け出しが最初に受ける依頼がゴブリン退治であり、初心者以外が請ける事も無い、ハズレ案件と化してしまっているのが現状で、今回、そんな貧乏クジを渋々引き受けてしまったのが、先日ダブレへと昇格したばかりの新進気鋭の若手組隊だった事に、一体誰が危惧出来たであろうか。


 構成隊員は、前衛の盾装士と片手剣士、攻撃役の両手剣士、攻撃補助の弓士、治療術士の五人組で、理想にして標準的な編成だった。

 彼らは同郷の出という事もあり、呼吸もぴったりで、今はまだ若いが、経験を積めば何れはスクアでも活躍が間違い無しの、有望株と目されていた。通常であれば、彼らが油断さえしなければ、大怪我を負う事すら在り得ない、至極簡単な実地訓練だった。


 しかし、現実には壊滅。盾装士と両手剣士は死亡し、片手剣士は利き腕損失、弓士は内臓損傷の大重体。唯一の女の子であった治療術士は、魔力を使い果たした上に心神喪失状態という無残な有様。


 これだけの被害が出るのは、ただのゴブリンの群では有り得ない。生き残りの片手剣士の証言の結果、変異種であるデプラゴブリンが複数存在する可能性が浮上し、緊急性の高い依頼へと変更された。


 だとしても、所詮はゴブリンだ。同じ難易度でも、優先度は低め。変異種は希少種でもある為、討伐すれば滅多にお目に掛かれない部位を入手出来る一方で、希少であるが故にその価値は未知数な物も多い。

 珍しい物、即ち価値が高いと言った図式は必ずしも成り立たず、希少部位の市場価値が討伐難易度と釣り合っているかは別問題なのだ。


 依頼を正式に受注してしまった後だったのも、生業目的の冒険者が敬遠する大きな一因となってしまっていた。協会の公共公平性を期する為に、受注後の依頼内容を変更出来るのは、依頼主が能動的に申し出た場合のみと規約に定められている。


 遵って、依頼報酬だけでは完全な大赤字。討伐報酬の希少部位の売却益だけが収支を分ける博打依頼を請ける奇特な冒険者なんて、そう居やしない。


 極め付けに、そんな奇特な冒険者がその場には偶然、クスハ達しか居合わせていなかったのが決め手になった。

 スクア推奨の脅度ではあったが、丁度スクアの冒険者は全員不在という不幸――実は幸運だったのだが――な状況の中、クスハとティアはトルプ、エマに至ってはダブレであったにも関わらず、これまでの討伐実績から、アルメリアを通す事で難なく受注する事が出来たのだ。


 結果、嵩がゴブリンと侮る者、採算ばかりを気にする者達を横目に流しつつ、緊急性少々の興味本位で依頼を引き受け、物見遊山感覚でクスハ達は追討へと出向いて行った。その先で、更に危険で悪質な、災害扱いされても可笑しくない程の魔物が発生しようとしているのも知らずに……。


 クスハでなければ、或いは例えスクアの複数編成の組隊であったとしても、もう少し討伐が遅れていれば、死者の数が飛躍的に増えてしまっていたであろう……。




      ◆ ◇ ◆

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