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私は異世界で百合の花園(ハーレム)を創ることにした。  作者: 虹蓮華
第1章「異世界生活を始めよう」
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本編1-22「クスハ、障害を全力で排除せんとする也」

 先程立ち話をしていた場所まで戻り、改めて中の様子を伺う。


 傍から見れば――朽ち掛けているのは確かなのだが――廃墟と呼ぶには聊か小奇麗な建物が、これまた違和感全開の綺麗に剪定された庭園の向こうに聳えているだけの光景だ。


 錆びの浮いた門扉や鉄柵に触るのは嫌だったので、《飛行》で軽く飛び越え庭に降りると、庭の景色はそのまま、邸宅の風貌が一変した。

 黒だか、紫だか……、禍々しい色と形をした、蔦の様な、血管の様なものが、建物全体を覆っていた。


「え? 何時からこんなんなの? てか、昔からこうだったとしたら、討伐を依頼された冒険者達は、これを目の当たりにしながら突入したって事?」


 驚きと呆れが口から漏れてしまった。


「どうしましたか? クスハには、何か別のモノが見えているのですか? 私には、邪悪な気配が漂っている程度にしか見えないのですが……」


 ほう! という事は、看破能力の差で見え方が違っている可能性がありますね?


「ティア、ちょっとごめんね」


 彼女が反応するより早く、手の甲に軽く口付けをする。

 聖霊回路が繋がった次の瞬間、息を呑むような悲鳴が上がった。


「な、何ですか、このおぞましい光景は! これが、本当の姿だと言うのですか!?」


「ティアでも見えていなかったのは、どういう理屈かしらね」


「ここからでは、黒い靄の帯が纏わり付いている様にしか見えませんでした。恐らくですが、隠蔽と認識阻害の魔法が掛けられている可能性が高いです。直前まで近付けば私でも見破れたとは思いますが、それでも、これだけの効力の魔法が掛けられていたとは、驚きです」


 場合にも依りますが、見た所、私一人でも討滅出来なくも無い程度の強さですが、それでも、相当な苦労はさせられたでしょうね……。との、冷静な戦力分析。


 ティアが苦労する程の強さなら、そりゃ、スクア程度じゃ束になっても無理だわね。

 見てくれは気持ち悪いが、私にとっては全然大した脅威では無い。


 危険は無いと判断し、一歩足を進めた矢先、ティアに呼び止められる。


「そう云えば、クスハ。また勝手に、私の心と体を弄びましたね?」


 ティアさん、その表現は色々と、誤解を生みそうです。


「い、いえね。それについては謝るけど、この先、聖霊回路を繋いで置いた方が、何かと便利だと思ったのよ!?」


 必至に弁明の余地を探るが、その間に、


「ふふっ。何時もの事ですからね。これが最善だと、私も理解しておりますよ?」


 なんだか怪しげな笑みだったが、許された。


 気を取り直すと、悠々と庭の真ん中を歩き、正面の玄関を目指す。

 ティアは、何故か数歩後ろから着いて来ていた。



      ◇◆◇◆◇


「はぁ~。謝るのではなく、責任を取って頂きたいと思うのは、私の我侭ですかね……」

 ティアは、空に向かってポツリと呟いた……。


      ◇◆◇◆◇



 目の前には、所々が傷んでいるものの、とても立派で豪奢な玄関扉が聳えている。


 一息に開けようと思い、扉の取っ手を掴もうとしたところで、横から手を添える様にして遮られた。

 ティアとは別の方向から伸びる腕の先には、あの少女が立っていた。


「関わらないでって、言いましたよね? 死にたいんですか?」


「貴女が悪霊さん?」


「違いますけど……。それと、ここにいるのは悪霊なんて生易しいモノじゃ無いですよ」


「それじゃ、貴女が非業の死を遂げた、侍従長のメイドさんで間違いないわね?」


「…………」


「貴女を、助けに来た」


 私の言葉を聞いた瞬間、彼女の顔が急激に険しいモノへと変わる。


「私を……? 冗談にしても、笑えませんね。貴女に、私の何が分かるって言うんですか?」


「判らないわ。けど、事情は知ってる。だから、私が私の都合で貴女を助けに来たの」


「凄い思い上がりですね……。貴女は、これまでの侵入者の中で一番強いです。ですので、こうして直にお話する事が出来ています。そんな貴女でも、ここの魔霊には勝てない。直接会話をしたよしみとして、勘違いしたまま死なれても寝覚めが悪いので、こうして御忠告申し上げているのですよ?」


 目の奥を覗き込むと、別の意図があるように感じるのは、私の気のせいかしらね。


「ふぅん……。心配してくれてる事には感謝するわ。でもね、勘違いをしているのは貴女の方よ!」


 颯爽と言い放つと、体の内側に呼び掛ける。


「皆、出て来てちょうだい!」


 すると、私の声に応じ、4人の聖霊が一斉に胸から飛び出だしてきた。


 出て来た皆は一箇所に固まり、何と言うか、その、変身して戦う女の子を思わせる格好を其々が取っていた。

 フウとミコトは決め顔で。ホムラとスイは、恥ずかしそうな表情で……。


「あ、貴女達……? そこで一体、何をしているのかしら?」


「なにって~、まほうでへんしんして~、ぶつりでなぐるおんなのこの~ぽーずにきまってるし~」


「ヒーローの登場シーンに、決めポーズは欠かせないっしょ!」


 ノリノリな二人に対し、もう二人は、


「おねえちゃんがドン引きなの……。もうお嫁に行けないの……」


「だから私は、恥ずかしいから嫌だって言ったのよっ!」


 一見ふざけている様にしか見えなかったが、恥ずかしさの余り涙目にもなっていた。


 このまま泥沼の口論に突入しそうな4人の頭を、軽く叩いて黙らせる。

 追加で、危ない発言をしたミコトのおでこに、指パッチンをお見舞いしてやる。


「ところで、ミコト。貴女、若干喋り方が変わってる?」


「きづいちゃった~? えっとね~、このまえ、せいれいかいぎをおこなったときに~、ミコトとスイのごびがにてるってぎだいがあがってね~。それじゃ、ためしにミコトがことばづかいをかえてみようってことになったのさ~。だから~、これからはいろんなはなしかたを~ためしてみるつもりなのだよ~」


 おでこに手を当てたまま、口調はそのままで答えるミコト。

 理由は判ったけど、迷惑この上無いな!


 ふと気が付くと、緊張感の無い遣り取りに、メイドの女の子が完全に固まっていた。


「そ、その、女の子達は、ま、まさか……、聖霊様の御意思体だとでもいうんですか!?」


 違った。この娘達の存在に、理解が追い付いていないだけだった……。


 それじゃあ、序に、私の実力も見せちゃおっかな。


「ホムラ、スイ、フウ、ミコト。私の内部魔力を開放して頂戴」


「えー? 仕方ないわね……。範囲はこの敷地内で良いのよね? フウ、手伝って」


「オッケー。引き受けた!」


「……ああ、もう、その英語ってやつ。意味は解るけど、聞いてるとなんだかモヤモヤする! 真面目にやりなさい!」


「いや、ちゃんと真面目にやってるしー?」


「まあ……、いいわ。双方向遮断聖霊結界、展開準備! 観測可能範囲指定、完了。影響範囲固定、完了。範囲内に、《隠匿》《防諜》《幻視》《幻聴》の展開、完了。全工程の最終確認、完了。ミコト、スイ、こっちの準備は終わったわ!」


「りょうか~い。それじゃあ、おねえちゃんのえこのみーもーど、かいじょ~」


 解放された力は爆発を思わせる勢いで放出され、私を中心に魔力の嵐が吹き荒ぶ。


 好き勝手に荒れ狂う奔流を、なんとか全神経を集中して体の周辺に留まらせる。

 少し梃子摺ってしまったが、無事に制御する事が出来た。


「ん……、まだ少し漏れてるわね。でも、これをもっと上手く制御して、圧縮出来れば、常用も可能かしら?」


「でも……、燃費が最悪なの……」


 そんな身も蓋も無い事を言われては、夢も浪漫もあったものでは無い。


 ガックリと肩を落とすが、そこで、腰を抜かしているメイドの女の子に気が付いた。


 ティアは、流石私の相棒だ。平然と澄ましている。

 これまでの様々な経験で、たっぷりと鍛えられた成果だろう。


 そう思ったが、少し違ったようだ。心なしか、ジト目で見られている気がする。


「クスハ……。何度も言いますが、貴女は一体、何を考えているんですか? 馬鹿なんですか? それとも、学習能力が無いのですか?」


 酷い言われようだった。


「え? ちゃんと聖霊の力で、完璧に隠蔽してるじゃない!」


「まぁ、それはそうなんですけどね……。別の方面で、何か問題が起きていたら、騒ぎになっていた可能性だってあるんですよ?」


「それは、まぁ、反省してます。けどね、自分の全力を知りたいという探究心も、理解して欲しいのよ!」


「あー、もう! そんなに必死に釈明しないで下さい。別に、怒っている訳ではありませんから……」


「ありがとう~、ティア~」


 感謝の気持ちを最大限に籠めて、ぎゅっと抱き締める。


 暫くそうして居たかったけど、服の裾を引っ張られて現実に引き戻される。


「クスハお姉ちゃん。お取り込み中申し訳ないのだけれど、そろそろ退治に向かった方が良いと思うわよ。そこに座ってる女の子も、顔を真っ赤にして固まっているし……」


 指摘された幽霊の女の子は、慌てて顔を弄繰り回していた。


 て言うか、幽霊さんにしては感情表現が豊かだわね……。

 いや、この世界では霊って、精神体の事だから、別におかしな話じゃないのかな?


「さて。これでもまだ、私の実力に何か不満でも?」


 座り呆けている女の子に問い掛けると、見るからにハッとした表情になり、次いで顔を引き締め姿勢を正し、


「いえ、一切御座いません。貴女様でしたら、このお屋敷に巣食う魔霊を討滅されるなど、造作も無いでしょう。これまで私は、魔霊が外に出ないように押さえ込んで居りましたが、逆を言えば、それしか出来ませんでした。ですが、貴女様にならお願い申し上げる事が出来ます。どうか、ヴォルディミーク家を永き悪夢からお救い下さいませ」


 私は、地に頭を付けている彼女の顎に手を添えて顔を上げさせ、目を覗き込んで語り掛ける。


「それは元々の目的だったから、別に構わないのだけれど……。私から貴女に、一つ提案があるの。私がこの家の所有者になったら、私の許でメイド……侍女として働かない? いえ、働いて欲しいの。どうかしら?」


 え、ええ!? 全身で驚きを表現する程の、物凄いうろたえ様の女の子。


「あの、その、お気持ちは大変嬉しいのですが、何分、私は既に死んで居りまして、お仕えしようにも、不可能なのですが……」


「その心配は必要無いわ。最悪、何も無くても何とかするけど、若し有れば、貴女の髪の毛が一本でも残ってる場所とか、知らない?」


「それでしたら、私の死体は地下室の壁に埋められていますので、白骨ではありますが、ほぼ原型で見付けられるかと思います」


「それは不幸中の幸いね。それだけの記憶が残っていれば、完璧な状態で肉体を復元する事が出来るわ」


 十分な情報を得た私は腰を上げ、再び彼女に問う。


「これは、命令でも無ければ取引でも無い、私からの純粋なお願い。貴女さえ良ければ、私の許で働いて欲しいのだけれど、どうかしら? 貴女の答えを聞かせてくれる?」


 自分でも急な話だとは思ったが、彼女は少しの間逡巡した後、綺麗な動作で立ち上がり、


「大変、身に余る光栄で御座います。私で宜しければ、是非、お仕えさせて頂きたく存じ上げます。御館様」


 これまた綺麗で自然な動作での、正立からの最敬礼だった。


「『御館様』は、大分違うわね……。て、その前に、名前すら名乗ってないじゃない! うっかりしてたわ……。私は、クスハ・サクラガワ。 “クスハ”って呼んで頂戴」


 それと……。チラリと、ティアを見る。


「私は、ティアリエス・シャノール・エルガレムと申します。どうぞお気軽に、“ティア”って呼んで下さいね」


「私こそ申し遅れまして、大変失礼致しました。フリーシャ・ウィザルディアと申し上げます。改めまして、宜しくお願い致します。クスハ様、ティア様」


「フリーシャ、ねぇ……。良し、これから貴女の事は、“シア”って呼ぶ事にするわ! こちらこそ宜しくね、シア」


「私とも、仲良くして下さいね? シアさん」


「それとね。私って、仲間や身内同士で堅苦しいのって、好きじゃないのよ。貴女はこれまでの立場上、自分を唯の使用人だと思ってるんだろうけど、私はそうじゃなく、大切な仲間だと思ってるから」


 シアの手を両手で握り、確りと念を押す。


「だから、いきなりこんな事を言われても難しいのかも知れないけれど、私の仲間になる以上、貴女は既に身内も同然な訳ね。性格的なモノだったら仕方無いけれど、出来れば、友達の様な感覚で接してくれると嬉しいな」


 で、ですが、そもそも主人と使用人とでは、身分に違いが……などと言い出しので、強めに言って聞かせる。


「つまり、役割が違うだけで、対等な立場って事よ」


 私の価値観と考えを押し付けられた彼女は、俯いて一言、


「……はい。ありがとう……、ございます……」


 声を震わせていた彼女が顔を上げたのは、それから暫く経ってからの事だった。


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