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私は異世界で百合の花園(ハーレム)を創ることにした。  作者: 虹蓮華
第1章「異世界生活を始めよう」
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本編1-18「クスハ、家を買う(予定)」

 近くで人が動く気配を感じ取り、朝が訪れた事を知る。


 ゆっくりと瞼を開けると、身嗜みを直しているティアと目が合った。


「おはよう……」


「お早う御座います、クスハ」


 太陽の光が、部屋の中を直接照らす。


「もう少し寝てても大丈夫ですよ?」


「いえ……、私ももう起きるわ」


 一度うつ伏せになり、両手両足を使って、無理矢理布団から体を引き剥がす。


「ん、んぅ……」


 大きく伸びをし、頭と体を完全に目覚めさせる。


 私をじっと見つめる視線に気がついた。


「ん? どうかした?」


「あ、いえ! 何でもありませんっ」


 どことなく慌てた様子で、作業に戻るティア。ヘンなの……。


 序に私の布団も直して貰い(勿論、私も手伝った)、二人で並んで顔を洗いに部屋を出る。

 戻った時には、タマモも既に起きていて、大きな欠伸をしていた。


 この幸せな光景を、ずっと私の中に閉じ込めてしまいたいと、そんな欲求が心の底から湧き上がって来る。


「ティアには昨日も話したけど、私はこの街に拠点となる、家を買おうと思います!」


 力強く、そう宣言した。




 身支度を整え、階下へ降りると、女将さんが店先を掃除しているのが窓から見えた。


「お早う御座います」


 そのままカウンターを通り過ぎ、建物から出て挨拶をする。


「おや、お早うさん。今日は早いじゃないか。昨夜はよく眠れたかい?」


「はい、お陰さまで。それで、今からちょっと、エマちゃんの所まで行ってみようと思います」


「そうかい。気を付けて行って来るんだよ」


「有難う御座います。それじゃ、行ってきます」


 ティアも同様の挨拶を交わし、早朝の街を並んで歩く。

 澄んだ空気が心地良い。肺を満たす度に、清々しい気持ちが心を満たす。


 日が差し始めた街並みには微風が吹き流れ、1吹き毎に眠りから覚めて行くようだ。

 喧騒で溢れ返る前の、人通りも疎らな商店街区の小道をゆっくりと進んでいくと、そこかしこの店先で忙しなく開店の準備に追われる店員さんを目にする。


 買物客など、居やしない。

 けれども、建物の影で未だに多くの部分を影に占められている路地には、静かだが確かな活気に包まれていた。


 そんな商店が並ぶ中、シュトーゼンさんの道具屋に到着する。

 周りの食料品や雑貨のお店は、店頭で作業している店員さんが居たのに対し、この道具屋は静まり返っている。


 若干不安にはなったが、中からは微かに人の動く気配があったので、思い切って【準備中】の札が掛けられている扉を開けた。


 カランカランと小気味良い音が店内へ響き渡り、奥で作業をしていたエマちゃんが手を止めて振り返る。


「あ、済みません。まだ準備ちゅう……って、クスハさんとティアさんじゃないですか!?」


 仕分けていた商品を其の侭に、空でも飛びそうな勢いで駆け寄ってくるエマちゃん。


「お早う、エマちゃん」


「はい、おはようございます。……って、そうじゃなくて! 急に居なくなったから心配てたんですよ!?」


「ごめんごめん。冒険者協会で登録だけ済ませて帰る積もりだったんだけど、手頃な依頼があったんで、序にこなして来ちゃったのよ」


「えっ!? 元々、冒険者さんとか、傭兵さんとかじゃなかったんですか?」


「ああ、そこからか……。全然違うわよ。冒険者にだって、あの日に成ったばっかり」


 そう言って、私とティアは其々の冒険者証を取り出し、エマちゃんに見えるように目線の高さで数度閃かせる。


「それって、もしかして、トルプの冒険者証じゃないですか?」


「ええ、そうだけど……」


「凄いです! いえ、凄すぎです!! まさか、冒険者になってたった数日でトルプに昇格するなんて、やっぱりお二人は唯の旅人さんじゃなかったんですね!」


 最初、私達を見つけた時の双眸は大きく見開かれていたが、途中で責める様な眼差しになり、今ではキラキラと瞳を輝かせてすらいた。


 ホント、この娘は見てて飽きないな……。


「それで、折角冒険者に成ったんだから、暫くはこの街に腰を落ち着けようと思ってね。エマちゃんには顔見せだけじゃなくて、この街で家を売買している場所も聞きたくて、来たのよ」


「そうだったんですね。ちょっとだけ待っていて貰ってもいいですか? 直ぐに支度してきますんで!」


 今度は店の奥に向かって勢い良く消えて行く。


「お父さーん! クスハさん達が帰ってきたよ! それとね、今からちょっと出掛けて来てもい~い?」


 彼女の大声に呼ばれて、シュトーゼンさんが迎えに出てきた。


「ああ、これはどうも。お早う御座います。先日は大変お世話になりました。本日はどの様な御用向きで? おお、そうだ! 若し宜しければ、朝ごはんなど食べて行かれては如何ですか?」


「だ~か~ら~。お父さん!? そういうのは逆に失礼だから! あと、クスハさん達をおじさんの所まで案内してくるねっ。ほら、いこ!」


 僅かに息を切らしながら戻ってきたエマちゃんに連れ出され、訪れた店を早々に立ち去る。


「あ、ああ。行ってらっしゃい!」


 頼り無さ気だが、精一杯の大声に見送られ、エマちゃんを先頭に町の中心部へと進路を取った。

 歩く道すがら、手持ち無沙汰だった事もあり、軽い疑問を口にする。


「エマちゃん家ってさ、道具屋だよね? それにしては、周りのお店ほど積極的に商売してる様に感じなかったんだけど、なんで?」


 思った通り、浮かない表情を浮かべるエマちゃん。

 間違いなく失言になる事は分かっていたので、なるべく言葉は選んだ積もりだったが、やはり喉奥に押し留めて置くべきだっただろうか。


 そんな心配をしていると、ポツリ、ポツリと呟き出した。


「まず、“道具屋”と言うのとはちょっと違いますね。正確には、“冒険用具店”って言います。それを省略して、用具店、用具屋なんて言ったりします。あの辺りで用具店を営んでいるのは(うち)のお店だけで、他は食品だったり、日用雑貨を扱っているお店ばかりなんです」


 ああ、成程。ゲームだと道具屋が一般的だけど、それだと意味が広すぎるもんね。


「それで、お客さんが少ない理由なんですけど、今の時代、冒険者って成り手が居ないんです。昔は人気の職業だったそうなんですけど、魔物と人間種の棲み分けが進んだ結果、昔ほど魔物の脅威に晒される事も無くなり、なら、こちらから積極的に、未開の地に危険を冒してまで探索や討伐に向かう必要も無いって風潮になったみたいで、“冒険”と呼べるような仕事が激減してしまったんです」


 ふむふむ。話に熱が篭ってゆく。


「今ある殆どの依頼だって、治安維持の真似事や、好事家の下らない欲望を満たすものばっかり! そんな事だから、今時冒険者を目指す人って言ったら、家業を継げなかったり継ぐ気が無かったり、仕事に馴染めなかったり諦めた様な人が、気軽な日雇い感覚で仕事した気になる為に登録してるのが現状なんです。勿論、本物の冒険者さんも沢山いらっしゃいますが、今の冒険者の半分は、こんな連中なんです!」


 冒険者協会に初めて入った時、ガラの悪そうなのがヤケに多いと感じたのは、その為か。

 それにしても、エマちゃんがこんなに冒険者について熱く語るとは思わなかった。


 私達が何も言えずに黙っていると、それをどう受け取ったのか、


「す、すみません。わたしばっかりこんな喋っちゃって……。ご迷惑でしたよね? そうだ! クスハさん達の冒険の話、聞かせてください!」


 よっぽど恥ずかしかったのか、耳や首まで真っ赤にしながら、それを誤魔化す様に勢い良くこちらに話題を振った。




 エマちゃんに、薬草採集の時の出来事を改ざんしつつ掻い摘んで話していると、この街で一番大きな通りに出た。

 中央の目抜き通りは流石に開いている店もあり、道行く人の姿も疎らだったが散見する。


 昼とは違う表情を見せる大通りは、馬車が走っていないだけでとても歩き易い。

 貸切の歩行者天国の様な光景に、思わず胸が躍ってしまった。

 話を聞くエマちゃんの反応が一々面白かったのも、大きな要因。


 気が付けば、何時の間にか目的の建物が目の前にあった。


 【エングリンド市街区開発管理部街頭出張所】


 入り口の扉は、固く閉ざされていた。


 そう、御丁寧にも大きな鍵が掛けられ、閉まっていたのだ。

 どういう事か、説明を求めようかと決めた矢先、振り返った彼女は涙を浮かべ、震えながら声を発した。


「開門時間はもっと後だって事、すっかり忘れてました……」


 今にも泣き出しそうである。

 取り敢えず、宥める為に軽く抱き寄せて頭を撫でていると、ティアが最高の助け舟を出してくれた。


「そう云えば、朝食がまだでしたね。時間もまだ有るようですし、良ければ一緒に如何ですか? エマさん」


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