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私は異世界で百合の花園(ハーレム)を創ることにした。  作者: 虹蓮華
第1章「異世界生活を始めよう」
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本編1-13「輸送手段に思いを馳せて」

 チュンチュンチュン。


「ぺろぺろぺろ……」


 チチチチチ。


「ぺろぺろぺろ……」


 ああ、頬から伝わる感触のなんと心地良いことか……。


「ぺろ……」


 私は途中にも関わらず、寝返りを打ち、愛しいモフモフを抱きしめる。


「ああ~、癒される~。極上の肌触りだわ~~」

 彼女へのお返しとして、ペロペロの代わりに頬ずりで挨拶する。


「みぃ~っ……」

 彼女は抗議らしき声で鳴き、ジタバタともがいてみたものの、直ぐに私に身体を預けてくれた。


 タマモのお腹はとても温かく、ふわふわの毛は私の相貌を優しく包み込んでくれる。

 ちょっと土臭いのが玉に瑕だが、昨日の今日では致し方あるまい。


 よし、お風呂に入れてあげよう。

 そう思いつつも、もう暫く桃源郷に顔を浸して居たかったが、


「ちょっと、クスハ!? 何時まで寝ているんですか? そろそろ起きて下さい!」


 突然扉を開けて入ってきたティアに、窘められてしまった。


 って、あれ? ティアさん、ノックも無しにご登場とは、随分じゃありません?

 それになんだか、ご機嫌ナナメなご様子。


 そんなにタマモを取られたのが悔しかったと云うのか……。


「ティア。昨日約束した通り、今夜はティアがタマモを抱いて寝て良いから、今だけは見逃して頂戴」


 姿勢を直してタマモを膝に抱き、キリッとした表情を作ってティアに訴える。


 すると彼女は、「いえ、そう言う事では無いのですが……」などと言って、口をモゴモゴさせながら俯いてしまった。

 ん? これは若しかして、若しかしちゃったりします?


 タマモをそっとベッドへ除けると、ティアの前まで歩み寄り、優しく抱き寄せる。


「なあに? 若しかして、嫉妬しちゃった? 馬鹿ね、私の心の中心に居るのは、何時でも貴女だけよ」

 彼女の後頭部を撫でながら諭すように囁くと、彼女はビクッと体を震わせ、


「なっ!? 何を……」


 それだけをなんとか絞り出し、一瞬の逡巡の後、スッと両手で私を押し退け、

 真っ赤な顔でキッと一睨み。


 パカンッと小気味良い音を立てて、手に持っていたお玉でおでこを叩いてきた。


「も、もう、馬鹿な事を言ってないで、早く顔を洗ってきて下さい! そろそろ朝ごはんが出来ますので!」

 振り向きざまにそれだけを伝えると、足早にスタスタと台所の方へ去っていってしまった。


「い、痛い……」


 私は半分涙目になってその場に蹲ると、タマモが足元まで駆け寄ってきて、「くぅ~ん?」なんて心配そうな声で見上げてきてくれた。


 くっ……、何て可愛らしいんだコイツめ……。


 私はタマモの頭を撫でながら、


「心配してくれて有難う。でも、私は大丈夫よ」

 それだけを告げると、彼女を抱きかかえ、ティアの後を追ってダイニングへと向かった。


 テーブルに座った所で、辺りを見回す。

 本来ある筈の物が見当たらない。


 私は意を決して口を開く。


「ティア、ちょっと聞きたいんだけど……、若しかして、置いてきちゃった?」


 すると、鍋を掻き混ぜる手が一瞬だけピタリと止まった後、


「ええ。若しかしなくても、その通りです!」

 ツーンとした声色で、振り返りもせずに非情な現実を教えてくれた。


 愕然とした私だったが、直ぐに気を取り直し、


「取って来ます」

 とだけ伝え、タマモを膝の上から横の椅子に除けて、家を飛び出した。


「いってらっしゃい!」


 背中越しに掛けられた言葉からは、既に棘は感じられなかった。



 私は高度を取り、《水蒸気ジェット》を最大噴射させて目的の地点へと向かう。

 フーガポーテストモルスと最初に対峙した場所だ。


 速度が速すぎた為に若干通り過ぎてしまったが、それでも3分程で現場に到着。


 最初の戦闘地点――と言っても、圧縮した《城壁》で進攻を防いだだけだったが――へ降り立つと、直ぐに目的の物を見つけることが出来た。


 薬草がたっぷり詰まった袋が4つ。まだ日が昇ってそれほど時間が経っていない為か、蔦袋は健在なまま、でっぷりと転がっていた。


 あ、そっか! 私が4つ持って帰らなくちゃいけないのか!

 あっはははは……。


 はぁ…………。


 泣き言を言っていても始まらない。

 私は固くなりつつある結び口を無理矢理輪っか状に結び直し、二つを腕に通し、二つを手にぶら下げる事で、窮地を脱する。


 見た目は気にしたら負けと云う物だ。

 運搬に問題が無い事を確認すると、《飛行》を使い、運べる速度限界ギリギリを維持して帰還した。


 蔦袋の強度が心許無かった所為で、《飛行》で可能な限り飛ばしたものの到着まで1時間も掛かってしまった。


 なんだか無性に心と体が疲れた気がする……。


 そう云えば、飲まず食わずで家を飛び出してしまった事を思い出す。

 若干フラフラと、覚束ない足取りで家に入ると、ダイニングテーブルでタマモと戯れているティアが目に入った。


「ただいま~」


 そう言って二人の近くまで寄ると、なんだか良い匂いがした。


「あら、お帰りなさい、クスハ」


 タマモの絹毛を櫛で梳いているティアの髪の毛は、ほんのりと濡れて輝いている。


「ティ、ティア? 若しかしてだけど、まさか、タマモとお風呂に入っちゃったとか……?」


 私が喉の奥から震えた声を絞り出すと、


「ええ。だってこの娘、女の子なのに土の匂いをさせてたんですもの。可哀想じゃない? だから、クスハを待っている間に入れてあげたの。序に私も入っちゃった」


 てへっと戯けた表情で、残酷な事実を付き付けてくる彼女。


 その瞬間、私の目の前は真っ暗になり、その場に頽れる。


「そんな……、帰って来てからの楽しみだったのに……。ティアがそんな酷い子だったなんて思わなかったわ……」

 あの、心優しかったティアはもう居ないのね、よよよ。なんて嘆いてみせると、


「ああ、もう。馬鹿な事言ってないで、クスハも入ってきたら如何ですか? 急いでいたから、汗もかいているんじゃないですか? 今ならまだ温かいですし、お風呂から上がったら朝食にしましょう」


 はて、今の言葉から察するに、お風呂は抜け駆けされたものの、朝ごはんはまだ食べていないという事か。


 彼女の素っ気無い振りをした確かな優しさを感じ取り、胸が温かくなる。


 嬉しさを押さえ切れなくなった私は、「ありがとう」と一言だけ伝えると彼女の後ろ髪を1房手に取り、そっと口付けをしてからお風呂へと向かった。


 後ろから、「クスハ!?」なんて可愛らしい怒鳴り声が聞こえてくるが、聞こえない。

 ティアの、恥ずかしさの余り真っ赤になってるであろう顔が目に浮かぶようだ。


 タマモとのお風呂を奪われた私は今ので溜飲を下げると、急いで汗を流す事にした。


      ◆


 少し遅めの朝食を取り終え、今日のこれからの予定を相談する。


「さて、調子に乗って集めまくった薬草ですが、これらが入る袋なんて有りますか? ティアさん」


「そんな都合の良い物、有る訳無いじゃないですか」


 洗い物をしながら、素っ気無く答えるティア。

 それに対して私は、テーブルに両肘を付いて両手で口元を隠し、業とらしく重い口調で続ける。


「では、何か使えそうな物に心当たりは在りませんか?」


「そうですね。大きな布、とか?」


「大きな布、ですか?」


「ええ。例えば、シーツとか……」


 二人の間に暫し重い沈黙が訪れる。


「それは、不要な布だったりしますか?」


「まさか、昨夜も普通に使っていたじゃないですか。それとクスハ、何時までそんな話し方をするつもりですか?」


 思ったよりも早く終了宣言が為されてしまった。残念ではあるが姿勢を崩し、何時もの話し方に戻す。


「だって、深刻な会話をするにはそれ相応の雰囲気ってモノが必要でしょう」


「その理屈は良く分かりませんが、重要な問題である事は間違いありませんね」

 はぁ……、と一つ溜息を吐いたティアは続けて、


「仕方ありません。クスハが使っているベッドのシーツを使いましょう」


 とんでもない事を言い出した。


「え? 良いの!?」


 意外過ぎるその言葉に、思いの外大きな声で聞き返してしまった。


 私がティアの家で寝泊りさせて貰っている部屋は、元々は彼女の亡くなったご両親が使っていたお部屋だ。


 少なからず思い出もあるだろう、そんな部屋の備品を使ってしまって、本当に良いのだろうか?

 私の声色からそんな思いが伝わったのだろう、彼女は少し寂しそうな表情をした後、


「確かに、名残惜しく無いと言えば嘘になりますが、今はクスハのお部屋も同然です。ならば、現在の利用者であるクスハの為に使った方が、より生産的だと言えるでしょう」

 それに、シーツが無くなって困るのはクスハですし。


 敢えて使われた諧謔的な言葉に込められた想いに、自然と笑みが零れる。


「ありがとう。このお礼は、纏まったお金が出来たら新しいシーツで以って返させて頂くわ」


 衝動的に抱き付きたくなったものの、二人の間にはテーブルと云う大きな山が存在していた為、代わりに彼女の両手を包み込む事で感謝を伝える。


 ティアはそこからやんわりと手を抜くと、


「その時を楽しみにしています。それで、方針も決まった事ですし、そろそろ領都へ向かった方が良いのでは無いですか?」


 至極最もなお叱りを受けた。



 こういう時、《創造》の能力は非常に便利だ。

 シーツをベッドから引き抜き魔力を込めると、一瞬で大きな木綿の袋へと再構築されるのだから。


 その袋に、枯れる直前の蔦袋から薬草を全て詰め替えれば準備完了。

 背中にひょいと担げば、気分はまるでサンタクロースだ。


 否、待て。これでは流石に持ち運びに不便極まりない。

 手持ちの鉄と革を急遽使い、簡易的なリュックへと改良を施す。


 上半身程の大きさのリュックを背負い玄関へ向かうと、ティアは既に準備を整えて、タマモと一緒に待っていた。


「お待たせ。それじゃ、行きましょうか」


 二人にそれだけを伝えタマモを肩に乗せると、皆で家の中へ向け一言、「行って来ます(みぃ!)」とだけ残し、扉を閉めた。


 私達は先ず、昨日仕留めたフーガポーテストモルスの死体が置かれている場所へと向かった。


 タマモや大きな荷物を持っている為、《水蒸気ジェット》は使えないが、通常の《飛行》ならば問題は無い。

《防壁》で風防を展開し、可能な限りの速度で飛行する事30分弱、目的の場所に到着する。


 地面に降り立ち、氷付けの魔獣の死体に近づくと、明らかな違和感を覚えた。


 魔獣の死体が縮んでいたのだ。


 半分とまでは行かないまでも、3分の2程度には小さくなっているだろうか。

 更には、魔獣に宿っていた魔力までもが減っていて、そっちの減りは桁違いだ。

 下手すると、その量は100分の1以下にまで減少しているかも知れない。


 他にも異常な箇所が無いか調べたが、幸いにも大きさ以外には特に何も見つからなかった。


 念の為、ティアにも確認して見たところ、


「申し訳ありません。私もこう言った事例は初めてでして、何が原因かは判りません」

 との事だった。


 ただ、ティア曰く、現状の魔力値でも魔物としてはかなりの量だという事なので、素材としての価値はそれなりにはあるだろう。

 当初の予定通り、このまま冒険者協会まで持って行く事にする。


 問題は、どうやって運ぶか、だ。


 試しにちょっと《飛行》を使った上で引き上げてみたところ、かなり出力を上げなければ持ち上がらなかった。

 この状態で領都まで運ぶのは現実的では無い。


 さて、どうしようかと何度目かになる妙案をティアに尋ねてみると、


「クスハ、私を何だと思ってるんですか?」


 呆れた様子でジト目で睨まれてしまったものの、


「そう言えば以前、重い物を運ぶのに船を使う事がある、と聞いた事があります」

 と、一つの案を提示してくれた。


 ほう、舟運ですか。それは失念していました。

 しかし、それを利用する為に欠かせないモノが一つある。川だ。


「確かに、エングリンドは河で囲まれているけど、そこに繋がる川なんてこの辺にあるの?」


 当然の私の疑問に、彼女は自信満々に答える。


「ええ。ロエンの近くに川が一本流れておりまして、それを下った先にエングリンドがあるんです」


 しかも、川は多少蛇行しつつもほぼ直線上を走っているので、陸路より移動距離がずっと短いというオマケ付き。


 なんて都合が良いのでしょう。これは利用してみる価値がありそうだ。


 一縷の望みに希望を託した私達は、二人で巨大な魔獣の死体を持ち上げ、燃費度外視の《飛行》でロエンの近くを流れるという川を目指した。



 日は中天を通り過ぎ、そこから更に2時間程経過した辺りで、漸く村の外れまで辿り着く事が出来た。


 そう言えば、朝ごはん以降何も口にしていない。

 勢いに任せてここまで来たものの、流石にいい加減、お腹が空いて倒れそうだ。


 私達は一旦食事休憩を取るべく、ロエンに入る。


 ロエンは本当に何も無いただの辺鄙な村だったが、幸いにも一件だけ食事処があったので、そこでお腹を満たすことが出来た。

 序に、これまた一件しかなかった商店で干した肉や魚、果物を幾つか見繕い、早々に村を後にする。


 お腹も膨れて元気も回復した。これ以上村に留まる理由は無い。


 今度は私一人で魔獣を運び、食料とタマモをティアに預けて移動すること数キロ。

 進んだその先で森の中を流れる河を発見し、比較的拓けた川原に着地して様子を伺う。


「なんか、流れが速い様な気がするけど、私の気のせいかしら?」


「いえ、間違いなく速いですね。ほら、見てください、クスハ」


 彼女が指差した方を見遣ると、胴体ほどの太さの倒木が、水面をクルクルと回転しながら流されて行くのが確認出来た。


 流木はあっと言う間に視界の外へと消えて行く。


 濁流の様に飛沫が舞ってはいないものの、これは間違い無く急流の部類だろう。

 しかし、なるべく急ぎたい私にとっては渡りに舟だ。


 川の水面幅は目測でも十分、水深もスイの見立てでは充分との事だったので、魔獣が載るような大きさの筏を造っても全く問題が無いだろう。


 寧ろ、速すぎる流速が最大の懸念材料と思われたが、


(スイ、フウ、貴女達で筏の制御って出来る?)

 駄目元で尋ねた所、


(問題ないよー。任せて……)


 なんと、出来てしまう様だった……。

 熟、意思の在る聖霊の反則っぷりに感嘆しつつ、今の会話をティアにも説明して、筏の材料となる木を十数本見繕う。


 それらを《蔓縛鎖》で固定しつつ、形を整えれば即席の筏の完成だ。


私はそれを流されないように同じく蔓で固定しつつ水面に浮かべ、意気揚々と獲物を載せ――そして、沈んだ。


 しばしの沈黙。流水が筏と魔獣にぶつかるせせらぎだけが、沈んだ心に清涼感を齎してくれる。


『沈んでやがる。重すぎたんだ――』頭の中で誰かが呟いたが、緑の子をペシリと叩く事で黙らせる。

 勝手に記憶の中にある台詞を引用改変しないで欲しい。


 流され掛けた意気込みを引き戻し、沈んだ筏と魔獣を一旦引き上げて思案する。


 この魔獣は、思っていた以上に重いらしい。となると、筏でこれを支えるのは現実的では無いようだ。

 もっとちゃんとした舟の形にするべく、追加で木材を数本調達する。


 そして、ヤケクソの《創造》を行使した。


 木材が溶け合い、一つの形へと再構成されていき、目の前に木製の(はしけ)が出現した。

 小屋付きである。


 今度こそはと川に浮かべ、魔獣を載せてみると、無事に浮かんでくれた。


 中々の難敵であったが、これで一件落着である。

 小屋に乗り込むと舫いの蔦を切り落とし、いざ出航。


 舟はグングンと加速し、流れと一体になった。


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