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私は異世界で百合の花園(ハーレム)を創ることにした。  作者: 虹蓮華
第1章「異世界生活を始めよう」
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本編1-12「小さな家族と大きな存在」

「さて、と……、このデカブツだけど、どうしよっか?」


 目の前に横たわる魔獣に目を向けつつ、曖昧な質問をティアに投げ掛ける。


「どう、とは?」


 私の曖昧な質問に対し、曖昧な質問が投げ返される。


「いえね、家まで持って帰るにしても重たそうだし、このまま放置しても大丈夫なのかな? と……。食べられちゃったりとかしないかしら?」


「それでしたら、恐らく問題は無いでしょう。獣型の魔物は見た目こそ動物に似ていますが、体組織が純魔力で汚染されている場合が多いです。武器や道具としてはそちらの方がいいのでしょうが、食用としては適さないんですよ」


「つまり、野生の動物も好き好んで食べたりしない、と?」


「いえ、寧ろ敬遠しますね。高濃度の純魔力は、言ってみれば毒みたいな物なんです。魔物の肉などが珍味として重宝されたりしますが、それらを食用にする場合、態々手間を掛けて、魔力を中和する加工を施したりしているんですよ」


 肩を竦めつつ教えてくれるティア。

 彼女の露骨に呆れている様子に、思わず苦笑が洩れてしまう。


「そうすると、腐ったりする心配の必要も無いのかな?」


「んー、流石に私もそこまでは解りかねます。何せ、聖霊の森に住んでいると、魔物と遭遇する事自体が有り得ませんでしたから……」


 成程、確かに言われてみればそうだ。


 今回は常識外れに凶悪な魔物が相手だった為に侵入を防ぐことが出来なかったが、本来、聖霊の森は非常に強力な結界で護られており、魔物は一切侵入する事が出来ない。魔物にとっては存在する事さえ許されない聖域なのだ。

 魔物に対する知識が乏しいのも仕方ない。


 そこまで会話した所で、分からないなら確かめれば良いことに気付く。

 私は魔物の死体に近づくと、改めてその背中に触れる。

 相変わらず奇妙な手触りを返してくるが、その奥にあるものを確認するように手の平に意識を集中させる。

 すると、その魔物は魔獣と呼ばれるだけあって、一般的な獣と殆ど変わらない構造をしている事が分かる。


 魔獣が魔物足る所以は、心臓の代わりに魔核で動いている事。それ以外は、動物と一緒だったのだ。


 ならば、食べられもするし、放置すれば腐ったりもするだろう。

 腐敗を予防するには、冷凍保存と相場は決まっている。


 私はフーガポーテストモルスの質量を確かめつつ、全体だけでなく内部まで魔力を浸透させてから、一気に高位水属性魔法で凍結させる。

 冷凍状態を維持する為に、念のため3日分の魔力も注入して置く。

 これにて保存措置は完了。


 満足した私は、家に帰るようティアに呼びかけるが、


「いえ、その前に、被害状況の確認と結界の修復が先です」


 まだやるべき事があるようだった……。


      ◆


 私達は、魔物が残した暴威の痕を辿って結界の縁まで移動する。

 ほぼ直線で延々と延びるそれは、《飛行》で移動する私達にとっては快適な通路だったが、眼下には倒木が散乱していて痛々しい。

 惨状を目の当たりにしたティアの悲しそうな表情に私の胸も締め付けられそうになるが、


「ティア、先を急ごう」


 ぐっと我慢して、敢えてそう声を掛けることで前を向かせ、速度を上げて結界が破壊された地点まで急行する。


 戦闘中と違い、一切の滞りも無く、程なくして縁に到着。

 結界を修復しようとした所で、ふと前方から異変を感じた。


「ティア、向こうから何か聞こえなかった?」


 結界の向こうまで続く、魔獣が進攻する際に穿った森の空間の先を見ながら聞くと、ティアもそちらに意識を集中させた後、


「確かに、何か良からぬ気配がしますね」


 警戒を含んだ声色で返してきた。

 一瞬首を突っ込もうか迷ったが、自分が先に気が付いたのも相まって、無性に気になった私は、


「ちょっと見に行ってみよう」


「ええ」


 ティアが答えると同時に飛び出していた。


 最大限に警戒しつつ、自分でも意外な程の速度で飛行した私は、前方で小型の魔獣達に襲われている一匹の獣を見つける。


 獣に向かって一匹の魔獣が飛び掛ったところで、私は飛行の勢いそのままに両足での飛び蹴りを叩き込む。


 蹴り飛ばされた魔獣は、勢いそのままに近くの木に全身を強く叩きつけられ、その場で絶命して崩れ落ちた。

 私はフワリと襲われていた獣の近くに着地すると、間髪入れずに魔法を発動させる。

《蔓縛鎖》で魔物の動きを封じ一網打尽にした後、《氷柱突撃槍》にて仕留める。

 計6匹の魔獣は数秒で全滅。


 ちょうどティアが追い付いて来たので襲われていた獣に目を遣ると、全身が無数の傷で覆われた獣は既に力なく倒れていた。


「これは、マタオヤマギツネのメスですね。こんな場所にいるのも意外ですが、尻尾が三本もあるとは、かなり珍しい個体です」


 マタオヤマギツネとは、その名の通り、通常は山間部の低部から中部にかけて生息している大型の狐っぽい動物で、大きい個体は全長で二メートル近くにまで達するとされ、強い固体は二本から三本の尻尾を持つと言われる、普段は中々お目に掛かれない貴重な動物なのだそうだ。


 貴重と言っても、個体数が少ないのではない。生息域まで到達するのが困難な故の貴重さだ。

 そんな動物がこんな場所にいるのは確かに不思議だったが、倒れ伏しているマタオヤマギツネを一目見て状態を察したティアは、目を閉じ首を横に振った。


「残念ですが、既に息絶えています」


 よく見れば、無数の傷の中には致命傷が幾つも交じっていた。

予想は出来ていたが、助けると決めた手前、それが叶わなかった現実を付き付けられるのは思いの外心に堪える。


 せめて弔ってやろうと綺麗な深緑の柔らかい毛を1撫でしてやると、お腹の下で何かが動いた気配がした。

 私が慌ててお腹を丁寧に退かすと、なんとその下の窪みから、小さな白い塊が傷を負って丸まっていた。


「ティア! 最上級の治癒魔法をお願い!」


 思わず大きくなってしまった私の声に即座に反応した彼女は、私の要望通り、治癒系の最上位魔法――《再生》――を使ってくれた。


 命の灯火が今にも消え入りそうだった小さな体からは一瞬で全ての傷が消え去り、止まる寸前だった呼吸は、すやすやとした寝息を立て始めた。

 ティアに上に居たキツネを支えてもらい、丁寧に小さなキツネを窪みから取り出す。


 腕の中で一定のリズムを刻むお腹、そこから伝わる確かな温もりに、嬉しさと、悲しみと、愛おしさと、慈しみの感情が綯交ぜになって、言葉では言い表せない感情で満たされる。


「親子なのかな?」


「状況から判断するに、そうかと……」


「私、この子を連れて帰る」


「それが良いと思います」


「ありがと」


「それにしても、良く気が付きましたね」


「うん……。なんかね、呼ばれた気がしたんだ」


「呼ばれた……、ですか?」


「ええ。最初は、助けてって。その次は、この子をお願いって」


「私には何も聞こえませんでしたが、クスハがそう言うなら、そうなのでしょう」


 二人で交互に撫でながら会話を続ける。


「それにしても、ここまで純白? それとも白銀と表現した方がいいのでしょうか……。ここまで見事で綺麗な色をした固体が居るとは思いませんでした」


「私は夜目が利かないから白にしか見えないけど、ティアからは白銀にも見えるんだ。なら、この子はアルビノじゃない可能性の方が高い訳だ」


「あるびの、って何ですか?」


「えっとね、突然変異で身体の色素が抜けちゃった状態を言うの。生きて行くには全く問題無いし、障碍って訳でも無いんだけど、日の光に弱いとか、いくつか注意が必要だから」


「成程。それでしたら、その子への心配は一切不要ですよ。健康その物です。何せ、《再生》は身体の欠損すら治してしまう破格の魔法ですからね」


「ふむ……。それじゃ、今の説明を聞いた限りだと、通常の治療魔法はそこまで出来ない、と」


「ええ、あくまで、傷を治すのが治療魔法です。ですので、厳密には《再生》は復活魔法に分類されます」


「それって、魔力があれば誰でも使えるの?」


「いいえ、復活魔法は巫女のみが使うことの許された魔法でして、一般には存在自体が極秘なんです。万が一、勇者様に何かあった時にだけ使う奥の手ですね」


 なんだかとても軽いノリと雰囲気で説明してくれた訳だけど、そんな凄い魔法をこの子の為とは云え、 使っても良かったのだろうか……。

 彼女にはお世話になりっぱなしだ。後で労ってあげたほうが良いかも知れない。


「処で話は変わるけど、この子の性別って判る?」


「ああ、この子は女の子ですね。全部が全部そうと決まっている訳ではありませんが、一般的な傾向として、耳で判断する事が出来ます。オスは縦に長くて中央寄り、メスは横に広くて外向きといった感じですね。ただ、生殖器を確認するのが一番確実な方法であるのは言うまでもありませんが」


 そりゃそうだ。犬や猫は勿論の事、人間の赤ちゃんでさえ、生まれた直後に付いてるか付いてないかで判断する。これは世界を超えても変わらないらしい。


 しかし、そっか……。女の子か……。

 この子には失礼だが、女の子と聞いて安心というか、喜んでいる自分が居る。


 仮に男の子だったとしても飼う事に変わりは無いが、百合ハーレムを目指す以上、ペットであっても女の子の方が望ましい。


「キツネで女の子なら、この娘の名前は玉藻タマモかな」


 私は指先で頭を優しく撫で付けながら、思い付いた名前を口にする。


「タマモちゃんですか。可愛らしい名前ですね」


 同じく、顎を人差し指の先端でこしょこしょしながら相槌を打つティア。


「そう言って貰えると嬉しいわ」


 彼女に負けじと、お腹から尻尾にかけてのモフモフを堪能していく。


 親を失った直後の子供に対する感情としては不謹慎極まり無いのだが、寝顔を見た限り、なんだかとても安心しきった様子で幸せそうな表情にすら見える。

 それが堪らなく可愛らしく、極め付けに撫で心地が抜群とあっては、否が応にも触ってしまうというもの。生理現象と表現しても差し障り無いこの現象は、誰にも止める事は出来ないのだ。


「貴女は今から私の家族。貴女のお母さんの代わりとはいかないまでも、私が全力で守ってあげるから、安心なさい。これから宜しくね、タマモ」


 最後に1撫でしながら語りかけると、横から不満そうな声で、


「あら? 私を忘れて貰っては困りますよ、クスハ」


 わざとらしく頬を膨らませて、ティアが抗議してきた。


「ああ、そうね、御免なさい」

「訂正するわ。これからは私達が貴女の家族。二人がお母さんとなり、お姉さんとなり、確り責任を持っ

て育てて行くからね」


「宜しくお願いしますね、タマモちゃん」


 クスクスと笑い合いながら、改めて二人で一回ずつ撫でたところで、いい加減そろそろティアの家に戻ろうという話になった。


 タマモの母親を手早く埋葬し、やるべき事を全て終わらせた満足感に包まれて帰路に着く途中、結界の修復が途中だった事を思い出し、慌てて境界地点まで移動。


 ティアにタマモを一旦預けて、大急ぎで結界を修復。強化も序に施し、引渡しを渋る彼女からなんとか癒しを取り戻すと、疲れた心身を休めるべく、全力でティアの家に帰還したのだった……。


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