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私は異世界で百合の花園(ハーレム)を創ることにした。  作者: 虹蓮華
第1章「異世界生活を始めよう」
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本編1-10「はじめてのおつかい(薬草採集)」

2018/07/06

・フォーマットを変更しました。

 初の飛行旅行は、30分程という短い時間で終わりを迎えた。

 横着しようと考えたのは自分なのだが、まさか、こんなに早く到着出来るとは思っていなかった。

 それと同時に、音速で30分もかかった事にも驚かされた。


 森が見えてきたところで徐々に減速し、空中で一旦停止する。

 眼下には、広大な森林が広がっていた。

 森の境目に到着しただけなので、ティアの家や泉はまだここからは見えない。


 さて、目的地周辺まで来たものの、この後どうするか……。

 自分でも初めて見る上空からの景色に、しきりに感心しているティアに話しかけようとする。


 彼女は今でこそ落ち着いているが、飛行当初は目を回しっぱなしだった。

 聖霊による補助があるので安全安心なのだが、ちょっと可哀相な事をしたかな……なんて考えが及んだが、


「クスハ、凄いです。見てください! ミルドの森があんなに遠くまで見渡せますよ!?」


 落ち着いていなかった……。

 私が話しかける前に、彼女らしからぬテンションの高さで先に声を掛けてきた。


「ええ、そうね。確かに見事な見晴らしだわ……」


 私がその勢いに気圧されていると、一瞬ハッとした表情になり、次いで消え入りそうな声で、


「す、すみません。私ったら……」


 顔を赤らめて、俯いてしまった。

 普段の彼女と違う姿も新鮮で可愛かったのだが、残念ながら既に何時もの彼女に戻ってしまったようだ。


 想像すらしなかった異次元の高速移動を体験する過程で、驚きの余り一周回って受け入れた結果、変なテンションになってしまったようだ。


 ティアは大人しい性格だからか、深窓の令嬢を思わせる雰囲気がまた愛らしいのだが、もう少し自分を出しても良いと思う。

 いや、私が好き勝手やり過ぎなだけか……。


 時間が勿体無い。そろそろ薬草探しに取り掛かろう。


「それでティア、薬草ってどこら辺に多く生えているの?」


 漸く本題を口にすると、


「そうですね……、多く見かける地点ですと、ここからもう少し北に行った辺りですね」


 聖霊の森の北西辺りを指差して教えてくれた。

 私達はその付近まで移動した後、比較的木の密度が低い場所に降りる。

 辺りを見渡すと、既に特徴的な花が数輪咲いているのを見つけることが出来た。


「へえ……。最初級依頼だけあって、随分と簡単に見つけることが出来るのね」


 私は早速それの一つに駆け寄ろうとすると、引き止める声が掛かる。


「待って下さい、クスハ。一つずつ採っていては時間が掛かります。この種類の薬草なら、どこかに群生地があるはずです。それにですね、一般的にこの手の野草は、花が咲いてしまっていると養分が花の方にいってしまうんですよ。なので、咲く前のから採取するのが正解なんです」

「ちょっと待って居て下さい」と付け加えると、辺りを見回し始めるティア。


 それは良いことを聞きました。

 依頼の内容は、最下級回復薬の材料となる薬草の採取。


 一つの回復薬を作るのに必要な薬草は10枚で、それだけで一応依頼は達成なのだが、幸いにもこの依頼には数量制限が無い。

 持って行けば持って行っただけ報酬が増える。品質も多少は影響するだろう。


 一つの金額が微量なので、当面の生活費を用意するのには数が必要になってしまう。

 その点を考慮して最善を提案してくれるのが非常に有難い。彼女が相棒で心底良かったと思う。

 感慨に耽ながら彼女の姿を探すと、少し離れた場所でしゃがんでいた。


 どうしたのかと思い近づくと、


「そうですか、ありがとうございます」


 なんて会話してるような声が聞こえてきた。


 疑問に思いティアが話しかけているであろう場所を注意して見て見ると、草むらに隠れて何かいるのが分かった。

 もう少し近づいたところで、その正体が目に入る。

 ウサギとリスを合わせた様な動物がそこに居た。


「ティア、こんなところで何してるの?」


 当然の疑念を口にすると、ティアは立ち上がり、目の前の小動物に別れを告げると教えてくれた。


「群生地の場所を聞いていたんです。割と近くにあるみたいですよ」


 マジで!?


「へ? ティアって、動物と話し出来るの?」


 ちょっと間抜け混じりな私の質問に対し、


「お話し程では無いのですが、簡単な意思の疎通程度であれば少し可能なんです。森の動植物限定ではありますが……」


 流石はエルフと言うべきか。お約束は大抵押さえていると見える。

 君ばかりが驚かされている訳では無いのだよ、ティア君。


 さっきの小動物は既に居なくなっていたので、私達も移動する。

 先程の地点から更に北西の方角に向かい、道など無い森の中を歩くこと約20分。

 途端に辺りが開けることも無く、群生地に辿り着いた。


 これは上空からじゃ分からないね。


 咲いている花はまだ殆ど無く、蕾も散見される程度。

 て言うか、素人目には目印の花が無いのでどれが目的の薬草なのか判らない……。


「ティア、どれが薬草なのか教えてくれるかしら?」


 愕然とした私をクスクス笑いながら、薬草の特徴を丁寧に教えてくれたのだった。


      ◆


 教えてもらった特徴を頼りに薬草を摘み採っていく。

 両手に一杯になったところで、緊急事態に直面する。


 ――袋が無い!


 しまった……。何も考えていなかった。


 すとれーじ? あいてむぼっくす? 何それおいしいの?


 無限に何でも入るポケットなんて便利な物、存在する訳ないじゃない!


「どうしよう、ティア。入れる袋が無いんだけど!?」


 私の悲痛な叫びを聞いたティアさん。なんでしょうか、その、私も今気付きました的な表情は……。


「え……? まさか、ティアも何も持ってないとか?」


「あ、当たり前じゃないですか! だって、街を出て直ぐここまで来ちゃったんですよ?」


 仰る通りで御座います。

 さて、こんな初歩的な失敗で躓いてしまった……。


《創造》の力を使うことも一瞬頭を過ぎったが、こんな事で使いたくないし、何より夢が無い。

 如何し様も無くなったら、最後の手段として使うまで控えておきたい。


 何か良い案が無いか尋ねると、


「うーん、そうですね……。何か使えるものが有れば良いのですが……」


 探してきますね。なんて言い置いて一人でさっさと探しに行こうとしたので、私も慌ててそれに付いて行く。


 自分が居たところで微塵も役には立たないが、この場に残っても手持ち無沙汰なだけだ。

 寧ろ、彼女に付いて行った方が何かしら得る物があるはずだ。

 鬱蒼とした森を分け入りながら進んで行くと、蔦が絡みついた一本の木を発見する。


「クスハ、丁度良いのがありました。これで袋を作れます」


 そう言うとティアはその木に歩み寄り、短刀で1メートル程の長さに蔦を切り出した。


「これはですね、チョウチンヅタと言いまして、まあ、見てて下さい」


 彼女は蔦の片方を二重の方結びで固く結わくと、もう片方に手を翳し、魔法を唱えた。

《突風》の下位版である《送風》が唱えられた瞬間、蔦は一気に膨らんだ。

 その様は、まるで大きな風船を膨らませる様子を連想させた。


「なにこれ!? 凄い! どうなってるの?」


 私が思わず目を輝かせていると、ティアはそれを渡しながら教えてくれた。


「この蔦は木に寄生する植物なのですけど、秋になると蔦のあちこちで種子が作られて膨らむんです。その膨らんだ部分が僅かに光ってて、夜になるとぼんやり浮かび上がるからチョウチンヅタなんて呼ばれてるんですね。本来はもっと南の方にしか生えてないはずなんですが、こんなところにも生えていたとは幸運でした」


 あまり気乗りはしませんでしたが、最悪、服で代用せざるを得ないと考えていましたから……。

 冗談めかして呟いた彼女だったが、目が笑っていない。否、心なしか死んでいる様にも見えますよ!?

 いやいや、それには及びませんとも。その時は私が何とかするまで……。


 ともかく、これで入れ物が用意できた。


 この蔦は膨らむと一日で枯れてしまうとの事だったが、それだけあれば十分です。

 私達はそれぞれ二袋ずつ用意すると、さっきの薬草の群生地に戻った。

 そこからは、順調に薬草を採取していく。


 滞りなく4つの袋が満たされた頃には既に日はかなり傾いており、周囲を夜の帳が覆いつつあった。

 ちょっと夢中になり過ぎていたかも知れない。


 程よくキリも良かったので撤収の声を掛けると、ティアも同意してくれたので、ここで切り上げる事にする。

 今から街に戻るのは現実的では無いとの結論から、また、折角ここまで来たとの感傷から、この日はティアの家で一泊することになった。


 僅か数日しか離れてなかったのにも関わらず、なんだか懐かしさを感じてしまう。

 私達は通常の《飛行》を唱え、夕日に照らされた森を眼下に眺めながら、一路ティアの家を目指したのだった。



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