逃亡 3
「……ほんと、ごめんなさい。どうかしてた」
「大したことじゃないわっ」
目も合わせず耳まで赤いミリアを見れば何かしてしまったのではないかとない記憶を探りたくなる。
さすがに寝ている間のことは記憶にないが、不埒なことをしていないと断言できない。
一時間ほどで燈明につつかれナキは目を覚ましたのだが、寝る前と状況はほぼ変わっていなかった。
ほぼ、であるのは、なぜかミリアに髪をなでなでされてたりしていたからである。目の前に嬉しそうなミリアの顔があったので、なんだ夢かと処理しそうになったくらいだ。
今は、とても距離をあけて座っている。白猫は疲れたといつものサイズに戻っており、燈明は今も鳥の姿のままだ。ぱたぱたと飛び回ってどこかに落ち着くようでもない。
「疲れてたんだもの仕方ないのよね」
「ここぞとばかりに堪能していたので気にせずともよいと思うぞ」
白猫はしれっとそんなことを言いながら、顔を洗っている。
ぴきっと音がしそうなほど空気が凍り付いたことに全く気がつかずに。赤い鳥は僕関係ないしとナキの手の届かないところに逃げている。
ナキはえ、俺なにされちゃったのと聞くに聞けず、ぷらりと吊るされた白猫を見る。ミリアがそれをするのは初めてみた。つまりはそれほどの失言だということだ。
「なにもしてないわ。不可抗力よ」
ミリアの力強いその言葉に白猫がこくこくと頷いている。
ナキは事実確認をあきらめた。箱入りのミリアがすることなどたかが知れているし、聞いて恥ずかしいのはナキのほうだ。
「じゃ、撤収。燈明様は?」
「僕も一回休む。誰かさんたちが勝手に使ったから調子悪いんだ」
「誰かさん、たち?」
ナキは不穏な言葉に思わず燈明を見つめた。鳥の表情は読めないので、真意をつかむことはできない。
くるりと白猫へ視線を向ければ明後日のほうを向いていた。
「……詠歌様と誰」
「う、うむ。とりあえず一度帰ろう」
ごまかすような言葉にナキは一度黙った。
黙ったまま鍵を取り出し、扉を呼ぶ。
「クリス様、あとで、ちゃんと話をしようか」
「約束は果たしてくれるのであろうな?」
「場合による」
「横暴!」
「ミリア、ちゃんと捕まえといて」
「わかってるわ」
「あー、僕は知らないっと」
「おまえも来い」
ナキは燈明の胴体をぎゅっと捕まえる。愛護団体が抗議をしそうな握り方をしても聖獣なので無問題だとナキは割り切って燈明を捕まえた。
「ぎょえっ、な、なんて鳥の握り方っ!」
騒がしいままに扉をくぐり、扉がぱたりと閉じた。
この国境での出来事以来、冒険者のナキは消息不明として扱われる。
死体も遺留品の一つも出てこなかったということが理由ではあるが、帝室に冒険者ギルドが配慮したという噂もあった。
ミリーと名乗る赤毛の娘も以降、行方がわかっていない。
皇子様の後処理は次話。




