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婚約破棄された令嬢とパーティー追放された冒険者が国境の隠者と呼ばれるまでの話  作者: あかね
二人と一匹+一羽

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白猫は見張り役

 道に槍が落ちていた。

 普通は落ちていないものである。しかも所有者を知っている。


「なにをしているのかのぅ」


 白猫はつぶやく。様子を見に来てみればこれだ。

 この槍には所有者以外にはちゃんと持てない機能がついているので、持っていけなかったのだろう。明らかに不審な道のど真ん中に落ちていた。もう少し目立たない場所に置けばいいものがそこにあるのだから、動かせなかったのだろう。

 案の定、今日から国境があくと聞いて通りかかる冒険者や商人などが、なんだあれと覗き込んでいた。


「あ、これ、ナキのじゃね?」


「だろうな。こんなの使うもの好き他にいないし、お、クリス様もいるけど、あいつどこ行った?」


「にゃぁ」


 知らない。

 白猫は可愛い子ぶって答えてみたものの誰にも通じなかった。


「……もしや、マジで拉致された?」


「あれを連れて行くってどういうやつだよ。酒場で酔っ払いとはいえ、傭兵も冒険者も一般人も等しく沈めていったやつが」


「鮮やかに流れるようにあれと思ったころには転がされているという謎の技が冴えわたる」


「おまえやられたの?」


「泥酔して絡んで面倒そうに制圧された。なお、五人ほどでそれぞれバラバラな方向から同時に襲った」


 しばしの沈黙があった。泥酔していたと主張をそのまま受けてもそれなりの実力を裏付けている。

 相手が泥酔はしていなかっただろうから抵抗すればそれなりに場が荒れるはずだ。そして、それが人目につかないというのは考えにくい。

 この場はなにかあったにしては不自然なほどに荒れていない。


「これはあれだな、ついていったんだな。おーい、誰かギルドに連絡取れ」


「へ? 犯罪の匂い?」


「ちげぇよ。一応、これ、誘拐事件だろ。黙ってたら後でなんか言われる」


「え、なんかしないんですか。先輩」


「今は、所属なしだから俺たちが庇護なしでなんかするのは無理だな。相手が悪い」


 ナキが貴族との間にトラブルを抱えていたのは、周知の事実だ。本人も相手も隠す気もなく、言いがかりに近いことで詰め所に連れていかれた件でさらに知れ渡った。

 美人な恋人を持つと大変だなと同情されているくらいだ。


「ギルドが関与するなの一点張りだから、よほどヤバい相手なんだろ。気になるけど、ナキならなんとかするんじゃね?」


「……つーか、相手無事で済むかね?」


「貴族の坊ちゃんがどうやったって無理だろうよ。あれなら俺もやれる」


「だなー。お綺麗過ぎてパターン読めて相手にならない。逆にやりすぎて逆恨みされそうで負けてやるけど。どうすんだろうな」


「ま。本人がついていったんだったら勝算はあんだろ。

 クリス様はどうされますか?」


「にゃ」


 ここで待つと告げれば、それは通じたようだ。

 残念そうに皆が一撫でして立ち去った。一パーティーが町のほうへと戻っていったので知らせはきちんとしてくれるようだ。


「ナキは、みんな、心配してくれないと泣きそうじゃのぅ」


 それもウソ泣きではあるだろうけど。白猫はのんびりと顔を洗う。



 日暮れじゃのぅ。帰ろうかのぅと白猫が思っていたころにようやく、ナキは現れた。


「あれ、クリス様、来てたの?」


「待ちくたびれたわ。もう夕方じゃぞ」


「追っかけっこが長引いて。

 でも、これ回収しないと困るからさ」


 ナキはひょいと長槍を回収している。ナキが現れるまでに通りがかった人が持てないか試したりしていたが、そのすべてが諦めて立ち去ったものとは思えない。

 ナキ本人は、見た目はボロボロに見える。ところどころに赤いところがあるので、それなりに立ち回りを終えての帰還のようだ。元気ではないが、満身創痍でもない。


「冒険者がギルドに知らせにはいっていたぞ」


「じゃ、なんかメモでも残したほうがいいかな」


「なんぞ、遺書でも書いとくのか」


 白猫は冗談のつもりだった。ほんとにおもしろくない失言だなぁとナキが言いだすと思うようなつまらないこと。


 しかし、ナキはじっと白猫を見つめていた。なにかまずいことを言った気はする。気はするが何がどうまずかったのかはわからない。


「なんじゃ」


「クリス様にしては察しがいいなぁと思って」


「にゃ!?」


「追い詰められて、崖から落ちまして亡くなりました。

 ってな具合で、退場しとこうかなと。次あったら別人で通す」


「……おぬし、やることが、えげつないのぅ」


 主に高所恐怖症の白猫に一緒に崖から落ちようぜと言っているところが。落下先でのクッションを期待されているという事実もなにげにひどい。

 ナキは白猫の首根っこをつかみぷらーんとさせている。この体勢になるとなにもかもやる気が失われるのはなんだろうか。

 もう、どうにでもしてーと言いたくなるこの感じは。


「そう? さすがに、皇子様に刃傷沙汰しちゃったら無理でしょ」


「……なにをしてきたのだ」


「事故だよ事故」


 軽く笑うナキを白猫は白い目で見た。絶対なんかやらかしたに決まっている。

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