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婚約破棄された令嬢とパーティー追放された冒険者が国境の隠者と呼ばれるまでの話  作者: あかね
二人と一匹+一羽

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わるいけど 2

 来客があったのはその日のうちだった。

 手持ちの荷物は取り上げられず、部屋の片隅に置いてあった。扉をいきなり開けられたのはその中身を点検していたところだった。

 ちらりと視線を向けただけで、ナキは元の作業に戻る。


「乱暴なお招きありがとう。それでなんの用?」


 向こうが黙っているので仕方なしにナキは問いかけた。

 来たのが想像を少しも外れない人選で少しがっかりした。これがディートリヒではなく、皇子やまさかのユークリッドだったら驚きもしただろうが。

 どちらも直情傾向なディートリヒよりはやりやすかった気がする。


 長くもない付き合いではあるが、ナキは苦手だ。

 ちゃんとした家で、きちんと真っ当に育った感がする。主義主張も外側から見れば真っ当に見えて堅物で正義感が強くて、真っ白な感じが一番いやだ。


 これ、絶対、俺のほうが悪役だよなぁとナキはため息をついた。

 悪い男に騙された女の子を救うヒーロー的な。ある意味、今は監禁(?)されたヒロインを助けるべく尋問と言ったところだろうか。


「落ち着いているな」


「慌てるな。っていう家訓があってね。動揺しても顔に出すなってさ」


 武器の類を除いて全部そろってると確認し終えてようやくナキはディートリヒに向き直った。荷物の中身をいじられた気持ち悪さはあるが、他の物は残っていたのだから良いことにすればいい。金貨などもすべて手付かずだったのは驚異的であると。

 それだけ残っていれば、ナキには武器がないことは問題にならない。なくなったものを後で回収する面倒さはあるがそれくらいだ。


「で、改めて聞くけどなんの用?」


「この部屋にはある女性がいた」


「ん?」


「その女性のそばには白猫がいた。おまえの猫だな」


「この砦にいたころならほかにいないから、そうなるね」


「彼女に会ったか?」


 ナキはどうこたえるか迷った。


「会ったというか、その窓から少しだけ。ミリーと同じ赤毛だったから気になって。彼女は元気?」


「……どうして、そう思う」


「え? だって、遠いところに行くことになるって言ってたから。どこかに移送されるのかなって。修道院とかじゃなくて、療養地だといいねなんて言って……」


 ナキはつらつらと嘘をつける自分がちょっと嫌になってくる。どう考えてもあの時点のミリアがそんな大人しいこと考えていたわけがない。

 彼女は黙って静かに、怒り狂っていたのだから。


 人生の半分以上を費やしたものを一瞬ですべてダメにされてすぐに許せるわけがない。そうするのが賢いと知っていても感情が納得しない。だから、そこも先に解決しておかねばならなかった。


 今となってはすべて遅い。


 ディートリヒはしばし黙り、室内を見回した。まるで、彼女の痕跡を探すように。


「今は静かにお過ごしになっている。誰にも邪魔をされずに。もう、忘れろ」


「わかった。で、用事はそれだけ? それだけのために、こんなことしたわけ?」


 彼女がだれで、どうしてここにいたのかということを知っていれば、外で聞ける類でもないことはわかる。

 ただ、ナキは全然知らないように振舞った。


 ミリアルドは死んだ。この事実はほぼ知られていない。知ったものは口を閉ざすだろう。自国の皇子が令嬢を連れてきた挙句に嫌だと言って死なれたとあっては、醜聞で済む話ではない。相手が他国の王子の婚約者であるという事実も加えれば、闇に葬るしかない。


 つまり、ここでナキが知っていたらさくっとやられる。何の躊躇もなく国家のためと言いわけされて。

 言いわけを用意できなかったディートリヒには不満であろう。しばし疑うような視線を向けられたが、ナキは何も言わないことにした。失言は口を開かなければ出てこない。


「……ミリー殿はどこに」


 ナキの問いには答えなかった。

 ディートリヒの会話する気のなさにナキはイラっとする。聞きたいことしか聞かないしその返事も気に入らなければなかったことにする。

 有能であるという皇子がなんで側に置いているのか不思議なくらいだが、裏表のなさがいいのかもしれない。ある種筒抜けである。

 今もナキに不機嫌そうな顔を隠しはしないのだから。


「しつこい。何度言われても教えられないよ」


「やはり知っていたのではないか」


「真っ当に国を抜けたきゃ知らんぷりしないとこうなると思ったんだ。ま、違わなかったね。人のもの取るのはいけませんって教えられなかった?」


「甘言に惑った話でしかないな。すぐに目が覚める」


「仕方ないぁ。欲しいっていうなら、奪いに来なよ」


「その言葉、忘れるなよ」


「その自信ってどこからくるんだろ。

 ここまでされて、なんで、俺が大人しくしてるかってわかってないよな」


 怪訝そうな表情で見返されて、ナキはやっぱりなと思う。

 彼にとってはナキは石や木のようなもので、対等ではない。その上に、それに感情があるとも思っていない。あったと知っていてもそれだけで、どのように扱ってもいいもの。

 そう思っている。


「冒険者としてのナキは。

 一つ。ギルドの顔を立てて貴族と争うわけにはいかなかった。

 二つ。守るべきものを背にして抗うにはちょっと分が悪い。

 三つ。さすがに国家相手は手に余る。このあたりかな」


 だから、大人しくしていた。それに、目立ってミリアの存在がバレるのは望ましくない。彼女は既に国外にいるし、誰かの手に落ちることを心配することもない。

 ならば、少々の憂さ晴らしくらいはしてもいい。ナキは事なかれ主義も自重と一緒にポイすることにする。


「ナキとしての僕を気に入っていたんだ。だから、可能な限り譲歩した。

 でも、そっちが、その気ならいい」


 ナキは小型のサバイバルナイフの切っ先を向けた。

 突然そこに現れたように見えるだろう。この世界にない合金で作られた購入品。この先のことを考えれば節約したほうがいいが、四の五の言っている場合ではないだろう。

 金で戦力を買う。


「愚かだな」


「それは、お互い様。殺し合うまではしないでやるよ。だって、おまえは彼女の獲物だからね。その程度は、残しておいてあげないと」


 ナキは口元に浮かぶ嘲笑を隠しもしなかった。

 銃など取り出さなかっただけ感謝してほしいくらいだ。



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